転生オートマタ

未羊

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Mission073

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 実にギルソンとイスヴァンの仲は悪くなかった。アワードも交えての学園の話は、とても盛り上がっていた。
 そもそも小説の中ではこの二人に接点はなかった。
 それというのも、小説の中の時間軸であるならばイスヴァンは王国に留学していないし、イスヴァンが出てくる帝国の話の頃には、ギルソンは既に退場していた。この二人がこうやって仲良く話をしているだけで、アリスは感慨深いというものである。これも全部、アリスが王国内を引っ掻き回した事が原因で起きた事である。
 アリスがギルソンに肩入れした事でギルソンの王国内での立場は強いものになったわけで、これが無ければおそらくギルソンの立場は厳しいままだったはずである。
 なによりギルソンの頑張る姿に一番影響されたのは、ギルソンが闇落ちする原因となった長男アインダードである。彼は王位継承権を捨てて、今は王国騎士団の一員として汗を流している。ぶっちゃけ戦う事しか能のない自分では、国政に不向きだと判断したのだろう。その原因がギルソンの奔走する姿である事は、まことしやかに王城内では囁かれている。ちなみにこの件はアリスも把握済みである。
 小説の中の四男アワードは最後まで無関心で、劇中でギルソンが死んだ時も気に留めないようなキャラになっていた。それがこの世界では、年が近いという事もあってか今はかなり懐いている。

 さて、年末の城の中では、年越しパーティーの準備が進められていた。気が付いたら定番化していたファルーダン王国の新しい習慣である。
 無事に1年を終えて新たな年を始められるという事で、1年間労いと新年の決意をするという王家主催のパーティーである。
 今年は鉄道が開業したという事もあって、山間部のツェンや川向こうのストライからも町長が参加するという事態になっており、じわじわと王都の中が賑やかになってきていた。
「鉄道が無事に開業して、ずいぶんと交流や物流が変わりましたね」
 城の中を歩くギルソンが、アリスに向けて話し掛けている。
「はい、左様でございますね。これもマイマスターが尽力して下さったおかげです。おかげで私もスムーズに動く事ができました」
 アリスは無表情にギルソンへ言葉を返している。オートマタである以上、感情を表に出す事は極力避けなければならないのだ。アリスはその点にはとても気を付けてはいるが、ついついそれを忘れてはしゃぎそうになってしまう。
(私はオートマタ。魔法で動く人形なんだから、我慢我慢……)
 とにかく、アリスは必死に自分の感情を抑えていた。
 はしゃぎたくなるのを我慢する一方、アリスは一つ気にしていた事があった。
(そういえば、イスヴァン殿下に贈られるオートマタの製作ってどうなっているのかしら)
 そう、留学に際して友好の証にと贈られるイスヴァン殿下用のオートマタの件であった。一応以前の会談の際に性別などの希望は聞いておいたので、いくら製作が立て込んでいるとしても、そろそろ完成しているはずである。他国とはいえど、皇族の要望を後回しにするような度胸はさすがにないのだ。しかし、初めて国外にオートマタを出す事になりうるがために、この件に関してはそれなりに揉めたようである。それでも了承までに至ったのは、リリアン第二王女がイスヴァンの元に嫁ぐ事になったからだった。
 ちなみに、そのイスヴァン殿下のオートマタの希望は青年風の男性型、つまりは執事を希望したようである。男女である事への抵抗というよりも、どちらかといえばリリアンに気を遣った節があるようだ。この皇子、べた惚れのようである。
 そうこうしているうちに、年末も目前に迫っていた。
 そんな折、城へと一報が入る。
「なに、ようやく完成したか!」
 どうやら、イスヴァン殿下に贈られるオートマタが完成したようである。早速国王はイスヴァンに加えて、ギルソンとリリアンを呼び出した。
「どのようなご用件でございましょうか、父上」
 代表してギルソンが父親に尋ねる。11歳とは思えない、実に堂々とした態度である。
「うむ、イスヴァン皇子に贈られるオートマタが完成したそうだ。製作にはマリカ・オリハーンが関わっているのだが、初めての男性型だったために手間取ってしまっていたそうだ」
 国王からそのような事実が伝えられた。
(11歳とはいえども女性ですからね。男性型の製作が初めてであるのなら、確かにいろいろと緊張してしまいますね。体つきとかも全然違いますし)
 同じ女性として事情を察してしまうアリスである。そう、マリカが今まで製作してきたオートマタは、実はすべて女性型だったのである。だからこその戸惑いがあったと推測されたのだった。
 それはともかくとして、オートマタが完成したと聞いたイスヴァンは居ても立っても居られなかったようで、同行するギルソンとリリアンを急かしていた。その後ろをアリスとユーリもついて行っていた。
「はしゃぎすぎですね、イスヴァン殿下」
「ええ、男の子なんてそんなものですよ」
 ユーリの淡々とした感想に、アリスは前世の息子の事を思い出しながら微笑ましく笑っていた。だけども、普通のオートマタであるユーリには、アリスのその感情は理解できなかった。
 街の工房に到着したイスヴァンは、逸る気持ちが抑えられずに工房の中へと突撃する。
「俺の、俺のオートマタはどこだ?」
 入るなり辺りをきょろきょろと見回しながら叫んでいる。
「イスヴァン殿下、落ち着いて下さい。今私が確認してきます」
 アリスがイスヴァンを落ち着かせると、そのまま声に気付いて慌てて出てきた工房の主のところへと歩いていく。
「イスヴァン殿下、こちらのようです」
「おお、そうか。早く、早く会わせてくれ!」
 イスヴァンはすっかり落ち着きをなくしていた。
 連れてこられた部屋には、壁に1体のオートマタが立たされていた。執事服に身を包んだ短髪のオートマタ、それがイスヴァンに用意されたオートマタである。
「どうやれば動くんだ?」
「魔法石を額か胸に埋め込む事で動くようになります。イスヴァン殿下、少々失礼致します」
 イスヴァンの質問にアリスは答えると、そのままイスヴァンの額に手を触れた。そして、魔法石が閉まってある棚へと移動していくと、すっと手をかざす。
(そうですか。運命の石はこれですね)
 次の瞬間、アリスは一つの魔法石を持ってイスヴァンの元へと戻ってきた。
「この石をイスヴァン殿下の手で埋め込んで下さい。そうすれば、オートマタが起動致します」
「そうか、分かった」
 いつの間にか用意された踏み台に昇り、イスヴァンは額へとその魔法石をそっと当てる。すると、魔法石はみるみるうちにオートマタへとめり込んでいき、額できらりと光る。
「お前がマスターか……」
 目をゆっくりと開けたオートマタが、イスヴァンを見て問い掛ける。
「そうだ。お前の主人であるイスヴァン・マスカードだ。よろしく頼むぞ」
 生意気そうなオートマタを目の前に、満面の笑みを浮かべて答えるイスヴァンなのだった。
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