転生オートマタ

未羊

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Mission072

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 リリアンといい雰囲気のイスヴァンは、好意的に受け入れられたようだ。怪しい動きを見せるシュヴァリエやスーリガンもどちらかといえば歓迎の方向のようである。他国に嫁ぐのであれば、王位継承争いから脱落するからかもしれない。思惑はどうあれ、反対意見がない事に国王はひと安心していたようだった。
 この状況はギルソンにとっても意外だった。それというのも、ギルソンはその身にシュヴァリエとスーリガンからの冷たい視線を感じていたからだ。マスカード帝国とうまくいっているのは実はギルソンの手柄であり、それに関連しての縁談なのだから、あの二人なら文句の一つは言ってくると考えていたのだ。だからこそ、何も言ってこないどころか歓迎している様子には、正直驚きを隠せないのだった。
(シュヴァリエ殿下とスーリガン殿下は、今のところおとなしいようですね。マイマスターの感じられている通り、あの二人からは不穏な空気しか感じません)
 アリスもまた、二人の王子からは目が離せなくなっていた。なにせこの二人は、小説の通りに事が進んでいた場合は救国の王子となっていたのだから。それが、自分が本来の主人公としていたギルソンに肩入れし過ぎた事で、主人公と悪役が逆転したような状態になってしまっていた。このまま放っておくと、最悪内乱が起こる可能性があった。
 ……そう、小説の中で学生時代にギルソンが起こしたような最悪の出来事である。

 小説の中でギルソンが起こした内乱というのはどういうものだったか。
 それは、ギルソンとそのオートマタであるアリスの二人だけで引き起こされたものである。長男であるアインダードから散々八つ当たりの対象にされ、その影響を受けたアワードや姉たちにも腫れ物扱いされていた。
 しかし、そんなギルソンは頭がよく、学園での成績は優秀だった。だが、それにもかかわらず王家の中での扱いは変わらずじまい。それがゆえに不満が大爆発して起きたのが、ギルソンによる内乱なのである。頭がよくまじめだった彼は、そんな圧倒的に不利な状況下でも内乱を順調に進めていく。
 学園の中にはギルソンを慕うものも少なからず居たので、彼らの支援を受けながらアリスの魔法を使ってかく乱しながら、ギルソンは着実に相手を潰していったのである。まあ、主人公にありそうなチート状態である。そんな状態の中、そのまま両親や兄弟姉妹すらも手に掛けるくらいだったのだから、ギルソンがどれだけ精神的に追い詰められていたのかがよく分かるというものである。
 王家は長男であるアインダードは性格が破綻していて役に立たないし、先述の通りに王家は既に壊滅状態。その上、アリスが強力すぎて、並のオートマタでは太刀打ちができなかったのだ。そのギルソンの勢いは、普段から王家に不満のあった貴族たちを次々と取り込んでいき、国を真っ二つにした内戦へと発展した。
 そんな国の混乱を救ったのが、次男シュヴァリエとギルソンの同級生だったマリカの二人である。特にマリカにはオートマタに関する才能が眠っていて、それがこの内戦によって覚醒。次々とオートマタを生み出してアリスに対抗していったのである。その最終的な結果がアリスの破壊とギルソンの敗北なのである。

 アリスは自分の書いた小説を思い出しながら、このままいくとシュヴァリエとスーリガンが、その小説の中のギルソンの立ち位置になりかねないと危惧を抱いていた。だが、この二人にはそれほどの人望が現時点ではあるとは思えないし、正直いって内乱を起こしたところでこの二人にはまったくうまみがないのである。はっきり言って起こすだけ無駄で、いたずらに混乱だけをもたらす行為なのである。
 それを避けようと思うのならば、アリスたちにできる事はこの二人から不満を取り除く事だった。
(正直、小説の時と比べてもお二人の性格はずいぶんと変わっていらっしゃるようですしね。私の知る限りの対処法では効果はないでしょう。となると、これだけの実績のあるマイマスターを王位継承候補から外すのが一番かも知れませんね)
 アリスの考えた方法は、王位継承をどちらかに持たせる事だった。
 ギルソンは十分な実績があるし、機転の利く頭を持っている。となれば外交面に重きを持たせた地位につけさせればいい。そうやって自分たちが王位を継げると分かれば、今の不平不満の塊のような態度は改まる、アリスはそう考えたのである。
(はたして、そううまくいくでしょうかね……)
 正直なところ、不安な事だらけである。だが、アリスは思い切ってギルソンにその事を相談してみる事にしたのだった。
 アリスがお茶を持ってギルソンの部屋に戻ると、そこにはイスヴァンが訪ねてきていた。
「イスヴァン殿下、おいで下さっていたのですか」
「おう、アリスか。悪いな、年の近い友人というのが周りに居なくてな。それで知り合いであるギルソンの部屋を訪ねてきたというわけだ」
 ものすごく明るくそんな事を言っているが、それはつまり”ぼっち”という事ではないのだろうか。いや、思いはしたがあえて突っ込まないアリスである。
「それでしたら、アワード殿下もお呼び致しましょうか? マイマスターの2つ上ですので、学園の話もお聞きできるでしょうから」
「おお、それはいいな。早速連れてきてくれ」
「畏まりました。マイマスターもよろしいでしょうか」
「そうだね。ボクも学園の話をもう少し聞いてみたいから」
 意見がそろったところで、アリスは部屋を出てアワードを呼びに行ったのだった。こんな状況ではとても切り出せそうにないために、アリスは考えた事を今しばらく胸の内に秘めておく事にしたのだった。
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