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Mission071
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気が付けばあっという間に年末を迎える。その頃、翌年からファルーダンの学園に通う事になるイスヴァンがファルーダンへと列車に乗ってやって来た。その日の昼前に帝都を出たというのに、夕方には王都に着いてしまったために、改めてイスヴァンは驚きと喜びを噛みしめているようだった。
「うん、やはり鉄道はいいな。これほどまでに早く着けるとは、不思議なものだな。はっはっはっ!」
駅で出迎えの馬車を待っているイスヴァン。駅員のオートマタに話せば、オートマタを通じてギルソンのオートマタであるアリスに連絡が行くようになっているので、すぐに出迎えの馬車を手配できるというわけである。王都の駅舎は立派であり、寒い冬の時期であってもその寒さを十分に凌ぐ事ができるのである。
「お待たせ致しました、イスヴァン殿下。お迎えに上がりました」
城からの使者が到着する。
「ああ、お迎えご苦労。やはり早く着くのはいいが、こういうところに対応できないのはつらいな。ここも改善できれば、いいのだがな」
イスヴァンはかなり待たされたにもかかわらず、怒る事もなく、改善点を呟いていた。
現時点ではオートマタ同士での意思疎通の距離はたかが知れている。さすがに無限距離とはいかなかったし、駅に居るオートマタ同士が連絡し合える事を知っている人物も少ない。なので、どうしても駅に着いた後の対応が遅れがちなのである。
イスヴァンは思うところを胸の内に秘めたまま、お迎えの馬車に乗ってファルーダンの王城へと向かったのだった。
「イスヴァン殿下、お待ちしておりました」
「イスヴァン様、ようこそお越し下さいました」
城に着いたイスヴァンを待ち構えていたのは、年齢の近いギルソンとアワード、それと婚約者となったリリアンだった。
「お出迎えご苦労。列車の旅は快適だったが、さすがに駅でしばらく待たされたのは少し考えものだな。列車での移動でも先触れを出せて、待たされる事なく迎えられる仕組みを作るべきだと思う」
「そうでしたか。それでしたら、アリスと相談をして、そのような仕組みができないか検討してみます。駅や列車に居るオートマタは彼女の影響下にありますので、彼女に任せればスムーズに対応できるかと思います」
イスヴァンの言葉に、ギルソンはそのように返答をしていた。
「そうか、それは楽しみにしているぞ」
イスヴァンもふっと笑みを浮かべて、柔らかい表情をしていた。とても偉そうにしていた姿など、もう忘れてしまいそうなくらいである。
こうしてイスヴァンはお付きの者や大臣と一緒に、ギルソンたちの案内で国王の元へと挨拶にやって来た。皇帝クリムの前ではたじたじだった国王も、さすがに皇子の前では堂々としていた。
「マスカード帝国皇子イスヴァンよ、長旅お疲れだったな」
「いいえ、ファルーダンの用意して下さった鉄道のおかげで、思った以上に快適に、そして早くやってくる事ができました。このような設備を用意して下さった事に、誠に感謝致します」
本当に以前の尊大さが抜け、謙虚になったイスヴァンである。これには周りに控える兵士たちが驚くばかりであった。
「それに関しては私の力ではない。我が息子のギルソンとその従者たるオートマタ、アリスののおかげだ」
国王も実に謙遜している。実際ほとんど鉄道に対して何もしていないのだから仕方がない。
「それよりもイスヴァンよ」
「はい」
「学びの場所として、我が王国の学園を選んでくれた事を嬉しく思う。帝国にも教育機関はあるだろうに、どうしてだ?」
国王がイスヴァンに、ファルーダンの学園に通う事に決めた理由を聞いている。
確かにそれは不思議に思うところではある。過去の話から照らし合わせれば、ずいぶん前から決まっていたような感じではある。
「それは……」
イスヴァンが言いどもっている。すると、この様子を見た国王がそれ以上の追及をしなかった。おそらくは父親であるクリム・ゾ・マスカードからの命令だったのだろう。とてもではないが、それを敵国の真っ只中で正直に言えるわけがないのである。国王はそれを察したのだった。
「客室は用意してあるので、学園に通う間はそこを自室のように使ってもらって構わない。ただ、君は隣国マスカード帝国の皇子だ。護衛という名の監視が付く事だけは、悪いが受け入れてもらうぞ」
「……それは重々承知しております。せっかくの他国の地。有意義に学ばせて頂きたく思います」
国王の言葉に、イスヴァンはそのように答えていた。本当にずいぶんとおとなしくなったものである。
そう答えた後、イスヴァンは視線に気が付いてそちらに目を向けると、そこにはリリアンの姿があった。そして、リリアンに向けて優しく微笑むと、リリアンはどういうわけか顔を真っ赤にしていた。本当に微笑ましいカップルである。
どことなくやわらかな雰囲気になったところで、国王との謁見が終わる。すると、イスヴァンは謁見の間を出ていく事なく、リリアンの方へと向かって歩いていく。その姿にリリアンは驚いている。
だが、リリアンの目の前までやって来たイスヴァンは、意外な事にリリアンの前に跪く。
「俺は立派な皇帝になって、君の事を幸せにしてみせるよ。……卒業したら迎えに行くからな」
「……はい」
まさかの謁見の間での堂々たる告白である。リリアンもまんざらでもないために、何ともまあ、初々しくて見てるこっちが恥ずかしくなる光景である。
だが、この状態であるならば、ファルーダンとマスカードの未来は明るいだろう。そう思うギルソンとアリスなのであった。
「うん、やはり鉄道はいいな。これほどまでに早く着けるとは、不思議なものだな。はっはっはっ!」
駅で出迎えの馬車を待っているイスヴァン。駅員のオートマタに話せば、オートマタを通じてギルソンのオートマタであるアリスに連絡が行くようになっているので、すぐに出迎えの馬車を手配できるというわけである。王都の駅舎は立派であり、寒い冬の時期であってもその寒さを十分に凌ぐ事ができるのである。
「お待たせ致しました、イスヴァン殿下。お迎えに上がりました」
城からの使者が到着する。
「ああ、お迎えご苦労。やはり早く着くのはいいが、こういうところに対応できないのはつらいな。ここも改善できれば、いいのだがな」
イスヴァンはかなり待たされたにもかかわらず、怒る事もなく、改善点を呟いていた。
現時点ではオートマタ同士での意思疎通の距離はたかが知れている。さすがに無限距離とはいかなかったし、駅に居るオートマタ同士が連絡し合える事を知っている人物も少ない。なので、どうしても駅に着いた後の対応が遅れがちなのである。
イスヴァンは思うところを胸の内に秘めたまま、お迎えの馬車に乗ってファルーダンの王城へと向かったのだった。
「イスヴァン殿下、お待ちしておりました」
「イスヴァン様、ようこそお越し下さいました」
城に着いたイスヴァンを待ち構えていたのは、年齢の近いギルソンとアワード、それと婚約者となったリリアンだった。
「お出迎えご苦労。列車の旅は快適だったが、さすがに駅でしばらく待たされたのは少し考えものだな。列車での移動でも先触れを出せて、待たされる事なく迎えられる仕組みを作るべきだと思う」
「そうでしたか。それでしたら、アリスと相談をして、そのような仕組みができないか検討してみます。駅や列車に居るオートマタは彼女の影響下にありますので、彼女に任せればスムーズに対応できるかと思います」
イスヴァンの言葉に、ギルソンはそのように返答をしていた。
「そうか、それは楽しみにしているぞ」
イスヴァンもふっと笑みを浮かべて、柔らかい表情をしていた。とても偉そうにしていた姿など、もう忘れてしまいそうなくらいである。
こうしてイスヴァンはお付きの者や大臣と一緒に、ギルソンたちの案内で国王の元へと挨拶にやって来た。皇帝クリムの前ではたじたじだった国王も、さすがに皇子の前では堂々としていた。
「マスカード帝国皇子イスヴァンよ、長旅お疲れだったな」
「いいえ、ファルーダンの用意して下さった鉄道のおかげで、思った以上に快適に、そして早くやってくる事ができました。このような設備を用意して下さった事に、誠に感謝致します」
本当に以前の尊大さが抜け、謙虚になったイスヴァンである。これには周りに控える兵士たちが驚くばかりであった。
「それに関しては私の力ではない。我が息子のギルソンとその従者たるオートマタ、アリスののおかげだ」
国王も実に謙遜している。実際ほとんど鉄道に対して何もしていないのだから仕方がない。
「それよりもイスヴァンよ」
「はい」
「学びの場所として、我が王国の学園を選んでくれた事を嬉しく思う。帝国にも教育機関はあるだろうに、どうしてだ?」
国王がイスヴァンに、ファルーダンの学園に通う事に決めた理由を聞いている。
確かにそれは不思議に思うところではある。過去の話から照らし合わせれば、ずいぶん前から決まっていたような感じではある。
「それは……」
イスヴァンが言いどもっている。すると、この様子を見た国王がそれ以上の追及をしなかった。おそらくは父親であるクリム・ゾ・マスカードからの命令だったのだろう。とてもではないが、それを敵国の真っ只中で正直に言えるわけがないのである。国王はそれを察したのだった。
「客室は用意してあるので、学園に通う間はそこを自室のように使ってもらって構わない。ただ、君は隣国マスカード帝国の皇子だ。護衛という名の監視が付く事だけは、悪いが受け入れてもらうぞ」
「……それは重々承知しております。せっかくの他国の地。有意義に学ばせて頂きたく思います」
国王の言葉に、イスヴァンはそのように答えていた。本当にずいぶんとおとなしくなったものである。
そう答えた後、イスヴァンは視線に気が付いてそちらに目を向けると、そこにはリリアンの姿があった。そして、リリアンに向けて優しく微笑むと、リリアンはどういうわけか顔を真っ赤にしていた。本当に微笑ましいカップルである。
どことなくやわらかな雰囲気になったところで、国王との謁見が終わる。すると、イスヴァンは謁見の間を出ていく事なく、リリアンの方へと向かって歩いていく。その姿にリリアンは驚いている。
だが、リリアンの目の前までやって来たイスヴァンは、意外な事にリリアンの前に跪く。
「俺は立派な皇帝になって、君の事を幸せにしてみせるよ。……卒業したら迎えに行くからな」
「……はい」
まさかの謁見の間での堂々たる告白である。リリアンもまんざらでもないために、何ともまあ、初々しくて見てるこっちが恥ずかしくなる光景である。
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