転生オートマタ

未羊

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Mission070

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 さて、この会談から2週間の後、ファルーダン王国とマスカード帝国を結ぶ鉄道路線が無事に開業した。ファルーダン王国からはツェンで採れた鉱石類、マスカード帝国からは今まで輸出できなかった傷みやすい食材を扱った貿易が始まったのである。マスカード帝国で採れる野菜や果物は瞬く間にファルーダン王国で人気となっていき、料理人たちもその腕によりをかけて、新しい料理の創作にも取り掛かったのだった。
 それにしても、これだけ人気になっているにも関わらず、アリスは正直不満があった。
 それは、オートマタには食事が不要だという事だ。これまでもいろいろ食事を作ってきた事があるアリスだが、この食事が要らないというオートマタの仕様に何度も泣かされてきたのである。だから、小豆や大豆が手に入って前世の味を再現したところで、自分は一切食べる事ができないというジレンマを抱える事になってしまっていたのだった。本気で頭を抱える始末である。
 ギルソンが5歳の時にオートマタとして転生してから早6年。実際にここまで一切の食事をしてこなかったアリスである。ただ、魔法があるので味付けの成否を判定するくらいはできたので、食べられない事での問題はなかった。それでも、自分のマスターであるギルソンと一緒に食事を取れないもどかしさというものはあったのだ。小説の中では本来の主人公である、自分の推しなのだからそれはかなり悔しかっただろう。
 だが、それがオートマタという存在なのである。仕えるべき主に寝食を捨てて常に寄り添い守る。そういった魔法で動く人形なのである。それなりに感情は存在しているけれども、動力となる魔法石による副産物にしか過ぎないのだ。
 ところが、アリスは異世界からの魂が宿った異例の存在だ。それがゆえに、この状況を受け入れつつも、どこか割り切れないのである。だからこそ、アリスは夜中にこっそりため息を漏らすのだ。
(オートマタとなった事は受け入れたつもりですが、……やはりまだどこか割り切れていませんね)
 元が人間である以上、やはり寝食が不要となると、その生活に慣れたとはいっても違和感が拭いきれなかった。元人間がゆえの違和感なのだ。それでもアリスは、主人公であるギルソンと一緒に居られるわけなので、もどかしいところがあるにしても、現状はそこそこ満足しているのだった。
 今回の鉄道の件で、隣国マスカード帝国との関係はかなり改善された。皇帝であるクリムは相変わらず気難しい人間ではあるものの、思ったより譲歩を引き出せたのは大きな成果だった。それがゆえに、その交渉を成功させたギルソンの株は上がっていっていた。なにせ、イスヴァンとリリアンの婚約まで取り付けたのだから、その成果は大きいのである。
 だが、それが面白くないと思っている人物は少なからず存在していた。次男のシュヴァリエと三男のスーリガンである。
 ギルソンはその動きは既に察知していたものの、具体的に動けるまでになかった。実績があるとはいえまだ11歳のギルソンだ。さすがに動かせる人員というものには限界があったのだ。
 そして、城の中には5人に居る王子それぞれの派閥というものがある。ここ最近の目覚ましい活躍もあってギルソンの派閥はそれなりに人数を増やしてきたものの、オートマタ頼りなところも多いし、年齢的な事もあってまだ最大勢力とはいかなかった。ちなみにギルソンを除く4人の王子の派閥は、やはり次男シュヴァリエと三男スーリガンにそこそこ人数が集まっていた。四男アワードは13歳で学生とあってか支持は薄い。長男アインダードは騎士団長としての姿がすっかり馴染んできてしまったので、王位に推す勢力は徐々に弱まりつつあった。つまり、現状では次男シュヴァリエ、三男スーリガン、五男ギルソンの三つ巴と言える状況なのである。
 この中でもギルソンはあまり気にしていないのかマイペースなのだが、シュヴァリエとスーリガンは明らかに焦りを覚えていた。ギルソンは父親に頼んで兄弟全員の様子を見てもらっているのだが、果たしてどこまで効果があるかは分からない。子には甘い国王なのである。
 さて、貿易が始まった1週間後、ついに旅客運行も始まったファルーダン・マスカード間の鉄道。国境における手荷物検査は、列車内の車掌を務めるオートマタの魔法によって、あっさりと済んでしまう。それだけ高い金を払って鉄道に乗ってもらっているのだから、ストレスは極力ないのに越した事はないのである。今まで長ければ4時間5時間は待たされる事もあった越境手続きが、まさかノンストップで終わるだなんて思ってもみなかったのである。
 旅客運行が始まるのが遅れたのは、実はこの魔法の構築が原因だった。危険物や犯罪者などを一瞬で判別する魔法の構築は難航を極めた。だが、そういう面倒な事でもどうにかしてしまうのがオートマタなのであった。神秘的で摩訶不思議な存在、それがオートマタなのだ。
 とにかく、こうやってファルーダン王国とマスカード帝国との間の新たな関係が始まった。その一方で、国内では小さくも危険な不安の火種がくすぶり始めていたのだった。
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