転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
70 / 189

Mission069

しおりを挟む
 会談を終えたギルソンは、国王たちと共に列車に乗り込んで、ファルーダン王国への帰路に就いた。マスカード帝国内を最短距離で突き進む列車は、数時間で国境を越え、半日もしないうちに王都まで戻ってきた。
「この鉄道というものは素晴らしいものだな。まさかマスカードの帝都までがこの程度の時間で行き来できようとはな」
 緊張の解けた国王は、饒舌に喋るようになっていた。本当に、さっきまでガチガチだった男とは思えないくらい、実にのびのびとしていた。
「父上、とにかく約束ですから、兄上たちの事を気に掛けてあげて下さい」
「心配性よな、ギルソンよ」
 国王はそう言って、ギルソンの頭に手を置く。
「だが、お前の懸念は分からなくもない。少し話をしてみる事にするぞ」
 にこりと微笑みながら、国王はギルソンと約束したのだった。
「少しじゃありません。じっくりとして下さい。嫌な予感しかしませんので!」
 だが、ギルソンからダメ出しをされた上で念押しまでされてしまう国王なのだった。これではもはや国王の立場がなく、列車の中で大臣に慰められているのだった。
「リリアン姉様、大丈夫でしょうか?」
 父親である国王にはっきりと言い切ったギルソンは、姉であるリリアンに事も気に掛けていた。その声に隣に座るマリカと話をしていたリリアンはふと顔を上げた。
「ええ、大丈夫よギルソン。イスヴァン殿下とのお話は正直驚きましたけれど、安心してちょうだい」
 リリアンはそう言いながら、どこか憂いがあるような微笑みを浮かべていた。それはどこか覚悟を決めたようにも見える笑顔だった。
 その表情を、ギルソンとアリスはただ黙って見つめていた。リリアンがそう決めたのであるのなら、他人がとやかく言う問題ではないのである。
「しかし、そうなると、来年イスヴァン皇子を迎え入れるだけの準備はちゃんと整えておかねばな。何かあったとなったら正直私の心臓が止まりかねんからな」
 国王の表情が微妙に青ざめている。なんで会うだけでマスカード帝国の皇帝クリムにトラウマ級の傷跡を負わされているのか分からない。よくこれで国王が務まるものである。正直言葉にならないところではあるが、内政に関してはこの国王が一番向いているので、彼に任せるしかないのである。外交はダメだけれども。
 ギルソンのオートマタであるアリス、リリアンのオートマタであるユーリ、マリカのオートマタであるジャスミン。この三人は国王の事を呆れた表情で眺めていた。本当にオートマタなのに感情豊かである。
 そんな感じで過ごしていると、列車は無事にファルーダン王国の王都の駅に到着したのであった。

 王都に戻った国王たちは、早速城へ戻って各部署に今回の会談の内容を伝える。それと同時にイスヴァンの留学に備えて部屋の準備や警備体制の確認などを指示する。本当に国内の事になると有能な国王である。
 ギルソンはマリカを家まで送り届けてから城へと戻る事になる。それにはリリアンも同行していた。さすがのマリカも、王族の相手が二人に減ったとはいっても、その緊張が解ける事はなかった。ギルソンにはそこそこ慣れてきたとはいっても、王族とほとんど平民に近しい騎士爵令嬢なのだから、こればかりは仕方のない事だろう。
「では、マリカ。本当にお疲れ様だったね」
「あ、いえ。こんな大事な席に、ご、ご同席させて頂き、本当に貴重な体験でしゅた」
 思い切り噛むマリカ。思わずギルソンとリリアンが笑う。それに対して、マリカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あの……、私、お役に立てていたのでしょうか」
 マリカが恥ずかし気に問い掛ける。
「うん、かなり役に立っていたよ。確かに会談ではまったく発言はなかったけれど、進める上で重要なオートマタを、君はたくさん作ってくれたからね」
 ギルソンにこう言われると、マリカはぱあっと顔を明るくしていた。その姿を見て、リリアンはにんまりと笑っていた。何かを察したようである。しかし、その表情はあまりにも王女としてはどうかというようなものだった。
「リリアン姉様、一体どうされたのですか?」
「なーんにも、うふふふ」
 ギルソンの質問にもはぐらかすリリアンであった。
 とりあえず無事にマリカを家まで送り届けたギルソンたちは、城に戻るために駅から乗ってきた馬車にもう一度乗り込んだ。
「ふぅ、さすがに疲れましたね。数日間はゆっくりしたいですが、イスヴァン皇子の迎え入れのために、もうしばらくは忙しそうです……」
 ギルソンは首を左右に傾けている。まだ11歳だというのに、相当の疲れが溜まっているようで首がもの凄い音を立てていた。
「本当にお疲れ様、ギルソン。大丈夫よ、その辺りはお父様の仕事だから、しばらくゆっくりしているといいわ」
「そうですか。でしたらそうさせて頂きましょうかね。お気遣いありがとうございます、リリアン姉様」
 そして、ギルソンとリリアンは笑顔を浮かべて笑っていた。
 バタバタと忙しかった日々もようやく一息つけそうで、アリスも少し肩の荷が下りたような気がしたのだった。

 だが、忘れてはいけなかった。この時点ではまだ小説のお話自体が始まっていないという事を……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...