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Mission069
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会談を終えたギルソンは、国王たちと共に列車に乗り込んで、ファルーダン王国への帰路に就いた。マスカード帝国内を最短距離で突き進む列車は、数時間で国境を越え、半日もしないうちに王都まで戻ってきた。
「この鉄道というものは素晴らしいものだな。まさかマスカードの帝都までがこの程度の時間で行き来できようとはな」
緊張の解けた国王は、饒舌に喋るようになっていた。本当に、さっきまでガチガチだった男とは思えないくらい、実にのびのびとしていた。
「父上、とにかく約束ですから、兄上たちの事を気に掛けてあげて下さい」
「心配性よな、ギルソンよ」
国王はそう言って、ギルソンの頭に手を置く。
「だが、お前の懸念は分からなくもない。少し話をしてみる事にするぞ」
にこりと微笑みながら、国王はギルソンと約束したのだった。
「少しじゃありません。じっくりとして下さい。嫌な予感しかしませんので!」
だが、ギルソンからダメ出しをされた上で念押しまでされてしまう国王なのだった。これではもはや国王の立場がなく、列車の中で大臣に慰められているのだった。
「リリアン姉様、大丈夫でしょうか?」
父親である国王にはっきりと言い切ったギルソンは、姉であるリリアンに事も気に掛けていた。その声に隣に座るマリカと話をしていたリリアンはふと顔を上げた。
「ええ、大丈夫よギルソン。イスヴァン殿下とのお話は正直驚きましたけれど、安心してちょうだい」
リリアンはそう言いながら、どこか憂いがあるような微笑みを浮かべていた。それはどこか覚悟を決めたようにも見える笑顔だった。
その表情を、ギルソンとアリスはただ黙って見つめていた。リリアンがそう決めたのであるのなら、他人がとやかく言う問題ではないのである。
「しかし、そうなると、来年イスヴァン皇子を迎え入れるだけの準備はちゃんと整えておかねばな。何かあったとなったら正直私の心臓が止まりかねんからな」
国王の表情が微妙に青ざめている。なんで会うだけでマスカード帝国の皇帝クリムにトラウマ級の傷跡を負わされているのか分からない。よくこれで国王が務まるものである。正直言葉にならないところではあるが、内政に関してはこの国王が一番向いているので、彼に任せるしかないのである。外交はダメだけれども。
ギルソンのオートマタであるアリス、リリアンのオートマタであるユーリ、マリカのオートマタであるジャスミン。この三人は国王の事を呆れた表情で眺めていた。本当にオートマタなのに感情豊かである。
そんな感じで過ごしていると、列車は無事にファルーダン王国の王都の駅に到着したのであった。
王都に戻った国王たちは、早速城へ戻って各部署に今回の会談の内容を伝える。それと同時にイスヴァンの留学に備えて部屋の準備や警備体制の確認などを指示する。本当に国内の事になると有能な国王である。
ギルソンはマリカを家まで送り届けてから城へと戻る事になる。それにはリリアンも同行していた。さすがのマリカも、王族の相手が二人に減ったとはいっても、その緊張が解ける事はなかった。ギルソンにはそこそこ慣れてきたとはいっても、王族とほとんど平民に近しい騎士爵令嬢なのだから、こればかりは仕方のない事だろう。
「では、マリカ。本当にお疲れ様だったね」
「あ、いえ。こんな大事な席に、ご、ご同席させて頂き、本当に貴重な体験でしゅた」
思い切り噛むマリカ。思わずギルソンとリリアンが笑う。それに対して、マリカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あの……、私、お役に立てていたのでしょうか」
マリカが恥ずかし気に問い掛ける。
「うん、かなり役に立っていたよ。確かに会談ではまったく発言はなかったけれど、進める上で重要なオートマタを、君はたくさん作ってくれたからね」
ギルソンにこう言われると、マリカはぱあっと顔を明るくしていた。その姿を見て、リリアンはにんまりと笑っていた。何かを察したようである。しかし、その表情はあまりにも王女としてはどうかというようなものだった。
「リリアン姉様、一体どうされたのですか?」
「なーんにも、うふふふ」
ギルソンの質問にもはぐらかすリリアンであった。
とりあえず無事にマリカを家まで送り届けたギルソンたちは、城に戻るために駅から乗ってきた馬車にもう一度乗り込んだ。
「ふぅ、さすがに疲れましたね。数日間はゆっくりしたいですが、イスヴァン皇子の迎え入れのために、もうしばらくは忙しそうです……」
ギルソンは首を左右に傾けている。まだ11歳だというのに、相当の疲れが溜まっているようで首がもの凄い音を立てていた。
「本当にお疲れ様、ギルソン。大丈夫よ、その辺りはお父様の仕事だから、しばらくゆっくりしているといいわ」
「そうですか。でしたらそうさせて頂きましょうかね。お気遣いありがとうございます、リリアン姉様」
そして、ギルソンとリリアンは笑顔を浮かべて笑っていた。
バタバタと忙しかった日々もようやく一息つけそうで、アリスも少し肩の荷が下りたような気がしたのだった。
だが、忘れてはいけなかった。この時点ではまだ小説のお話自体が始まっていないという事を……。
「この鉄道というものは素晴らしいものだな。まさかマスカードの帝都までがこの程度の時間で行き来できようとはな」
緊張の解けた国王は、饒舌に喋るようになっていた。本当に、さっきまでガチガチだった男とは思えないくらい、実にのびのびとしていた。
「父上、とにかく約束ですから、兄上たちの事を気に掛けてあげて下さい」
「心配性よな、ギルソンよ」
国王はそう言って、ギルソンの頭に手を置く。
「だが、お前の懸念は分からなくもない。少し話をしてみる事にするぞ」
にこりと微笑みながら、国王はギルソンと約束したのだった。
「少しじゃありません。じっくりとして下さい。嫌な予感しかしませんので!」
だが、ギルソンからダメ出しをされた上で念押しまでされてしまう国王なのだった。これではもはや国王の立場がなく、列車の中で大臣に慰められているのだった。
「リリアン姉様、大丈夫でしょうか?」
父親である国王にはっきりと言い切ったギルソンは、姉であるリリアンに事も気に掛けていた。その声に隣に座るマリカと話をしていたリリアンはふと顔を上げた。
「ええ、大丈夫よギルソン。イスヴァン殿下とのお話は正直驚きましたけれど、安心してちょうだい」
リリアンはそう言いながら、どこか憂いがあるような微笑みを浮かべていた。それはどこか覚悟を決めたようにも見える笑顔だった。
その表情を、ギルソンとアリスはただ黙って見つめていた。リリアンがそう決めたのであるのなら、他人がとやかく言う問題ではないのである。
「しかし、そうなると、来年イスヴァン皇子を迎え入れるだけの準備はちゃんと整えておかねばな。何かあったとなったら正直私の心臓が止まりかねんからな」
国王の表情が微妙に青ざめている。なんで会うだけでマスカード帝国の皇帝クリムにトラウマ級の傷跡を負わされているのか分からない。よくこれで国王が務まるものである。正直言葉にならないところではあるが、内政に関してはこの国王が一番向いているので、彼に任せるしかないのである。外交はダメだけれども。
ギルソンのオートマタであるアリス、リリアンのオートマタであるユーリ、マリカのオートマタであるジャスミン。この三人は国王の事を呆れた表情で眺めていた。本当にオートマタなのに感情豊かである。
そんな感じで過ごしていると、列車は無事にファルーダン王国の王都の駅に到着したのであった。
王都に戻った国王たちは、早速城へ戻って各部署に今回の会談の内容を伝える。それと同時にイスヴァンの留学に備えて部屋の準備や警備体制の確認などを指示する。本当に国内の事になると有能な国王である。
ギルソンはマリカを家まで送り届けてから城へと戻る事になる。それにはリリアンも同行していた。さすがのマリカも、王族の相手が二人に減ったとはいっても、その緊張が解ける事はなかった。ギルソンにはそこそこ慣れてきたとはいっても、王族とほとんど平民に近しい騎士爵令嬢なのだから、こればかりは仕方のない事だろう。
「では、マリカ。本当にお疲れ様だったね」
「あ、いえ。こんな大事な席に、ご、ご同席させて頂き、本当に貴重な体験でしゅた」
思い切り噛むマリカ。思わずギルソンとリリアンが笑う。それに対して、マリカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あの……、私、お役に立てていたのでしょうか」
マリカが恥ずかし気に問い掛ける。
「うん、かなり役に立っていたよ。確かに会談ではまったく発言はなかったけれど、進める上で重要なオートマタを、君はたくさん作ってくれたからね」
ギルソンにこう言われると、マリカはぱあっと顔を明るくしていた。その姿を見て、リリアンはにんまりと笑っていた。何かを察したようである。しかし、その表情はあまりにも王女としてはどうかというようなものだった。
「リリアン姉様、一体どうされたのですか?」
「なーんにも、うふふふ」
ギルソンの質問にもはぐらかすリリアンであった。
とりあえず無事にマリカを家まで送り届けたギルソンたちは、城に戻るために駅から乗ってきた馬車にもう一度乗り込んだ。
「ふぅ、さすがに疲れましたね。数日間はゆっくりしたいですが、イスヴァン皇子の迎え入れのために、もうしばらくは忙しそうです……」
ギルソンは首を左右に傾けている。まだ11歳だというのに、相当の疲れが溜まっているようで首がもの凄い音を立てていた。
「本当にお疲れ様、ギルソン。大丈夫よ、その辺りはお父様の仕事だから、しばらくゆっくりしているといいわ」
「そうですか。でしたらそうさせて頂きましょうかね。お気遣いありがとうございます、リリアン姉様」
そして、ギルソンとリリアンは笑顔を浮かべて笑っていた。
バタバタと忙しかった日々もようやく一息つけそうで、アリスも少し肩の荷が下りたような気がしたのだった。
だが、忘れてはいけなかった。この時点ではまだ小説のお話自体が始まっていないという事を……。
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