転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
69 / 189

Mission068

しおりを挟む
 ギルソンたちがマスカード帝国に出向いている頃、ファルーダン王国内では……。
「マスカード帝国と交渉とは……。父上はともかくとして、なぜギルソンが出向いているのだ?」
「まったくだ。兄である俺たちを差し置いて、末っ子のくせに生意気な」
「兄上たち、何をそんなにイラついているのですか」
「お前には関係ない、アワード」
 次男であるシュヴァリエと三男であるスーリガンが荒れていた。長男は騎士団を率いる身となっており、王位を継げていない事にも不満を持っていないようで、この場には居なかった。
 それにしても、小説では主人公にされていたくらいに性格の良かったシュヴァリエなのだが、どういうわけかそれも見る影がないくらいに荒んでいた。ぶっちゃけて言ってしまえば、小説のシュヴァリエとギルソンの性格が入れ替わった可能様な感じである。
 三男のスーリガンも腹黒い性格とされていたが、どういうわけか、その不満を堂々と口にしている。腹黒さはどこに行ったのだろうか。
 四男のアワードはそのしわ寄せを食らっているのだが、彼は良くも悪くもまっすぐ育っていた。
「お前は学園の事もあるだろう。入ったばかりの年は楽しいんだからあっち行ってろ」
「学園はスーリガン兄さんも……」
「いいから行け!」
「ひっ!」
 スーリガンから理不尽に怒鳴られたアワードは、あまりの剣幕で怒鳴られたのでその場から走って立ち去った。
「あいつはまだ幼いし、ギルソンに懐きつつあるからな。俺たちの話に混ぜるわけにはいかんのだよ……」
 スーリガンは、アワードの走り去る姿を蔑むような瞳で見ていた。これが実の弟に向ける視線なのだろうか。
 それにしても、小説の作者であるアリスがいろいろと引っ掻き回したせいで、この世界の状況は小説の世界とは舞台を同じくしながらもまったく似ても似つかぬ状況となっているようだった。
 予想外なのは、長男であるアインダードがギルソンに対して不満を持っていないところだろう。彼は騎士団長として日々邁進しており、荒れ狂っていた性格もずいぶんと鍛え抜かれたようである。
 アワードもギルソンの隣の部屋という事もあり、それなりに交流があった。ギルソンのやる事には興味があるようで、ちょくちょく話をしていたりする。だから、シュヴァリエとスーリガンとは精神的な距離があるのだろう。
 そんなわけで、残った次男と三男がこの荒れ具合というわけである。
 王家というのは、往々にして次期王位を狙う血生臭い争いの現場となる。王座というものに執着するからこそ、この二人が末弟のギルソンの活躍を面白く思っていないのである。
「正直、ギルソンのやる事にはイラつくというものだ。なんだあの鉄道とかいうものは」
「だが、それはギルソンというよりはギルソンのオートマタがやった事だ。あんな粗悪品のどこに、あんな知恵が眠っていたというのだ」
「王国の食糧事情を立て直したというのもでかい」
「それもあのオートマタだ。……そう、オートマタの活躍だというのにあいつがもてはやされているのが、実に面白くないんだ!」
 シュヴァリエが机をどんと殴りつける。相当に痛いはずだが、怒りのあまりあまり痛みを感じていないようだった。
「おい、シュヴァリエ兄さん。大丈夫なのか?」
「ああ!?」
 スーリガンがシュヴァリエを心配すると、もの凄い形相でシュヴァリエは睨み付けてきた。その顔がどれほどかというと、スーリガンがたじろいで後退ったくらいである。
「このままでは、あのギルソンが王位を継ぐかも知れない。あんな未熟な末弟に王位を渡してなるものか……」
 シュヴァリエはギリギリと爪を噛んでいる。その姿は、いくら腹黒いスーリガンですらも怖くなる姿だった。
 一体いつから、シュヴァリエはここまで変わってしまったのだろうか。どす黒いオーラが透けて見えるシュヴァリエの姿に、スーリガンは恐ろしさのあまりに言葉を失ってしまったのだった。
(シュヴァリエ兄さん、一体どうしたというんだろうか。ギルソンを憎むのは相変わらずだけど、日に日にその度合いが強くなっている気がする……)
 立ち尽くすスーリガンに、シュヴァリエは言う。
「これ以上、末弟の好きなようにさせてたまるものか。どんな手を使ってでも、あいつに王位が渡るような事は阻止してやるぞ」
 シュヴァリエの眼光が、ギラリと光る。
「そ、そうか。俺は俺のやり方でやる。……それじゃあな」
 スーリガンが、シュヴァリエの様子に怖気づいたのか、その場から逃げ出そうとする。だが、その肩をがしっと強く握られてしまった。……魔王からは逃げられないのである。
「悪いな、スーリガン。もうここまで関わってしまったのなら、お前の退路は既にないんだ。アワードと一緒に逃げていればよかったのにな……」
「ひっ、ひぃっ!!」
 シュヴァリエのおぞましいまでの形相に、スーリガンは悲鳴を上げてしまった。

 どうやらギルソンが感じていた懸念は、現実のものになりそうだった。はたして国王は、この状況をうまく収める事ができるのだろうか。この時点では誰にも分からないのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

処理中です...