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Mission067
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ファルーダン王国のリリアン王女とマスカード帝国のイスヴァン皇子の婚約が決まった事で、とりあえずは会談の場は和やかに進みそうだった。……ただ一名を除いて。
言わずと知れたファルーダン国王その人である。部屋に帰るなりめそめそと泣いていた。国王がこんな調子で大丈夫なのだろうか。アリスはものすごく複雑な心境で国王を眺めていた。
まあ、アリスが国王の気持ちが分かるのも当然といえば当然かも知れない。親の立場である自分たちに男性と女性という違いはあれど、娘を嫁がせた経験を持つからだ。その時の夫や息子たちの姿を見たら、やっぱりこんな風になっていたなとしみじみと思い出しているのである。娘を持つ父親というものは、どこの世界でも変わらないのだ。
「恐れ入りますが、国王陛下。お気持ちは分かりますが、ご本人たちの気持ちも尊重して下さいませ」
「そ、そうは言ってもだな……」
アリスが声を掛けると、国王はやっぱりしょげ返っていた。本当にこんな調子で大丈夫なのだろうか。
「それでしたら父上。イスヴァン殿下は来年からこちらの学園に通われるのです。それを通じて任せられるかどうか見極めたらよろしいのでは?」
ギルソンが提案すると、国王はようやく泣くのをやめた。
「そ、そうだな。あの皇子がリリアンにふさわしい男か、私が見極めてやろう」
国王が踏ん反りがえって宣言しているが、どこからどう見てもやせ我慢をしている。あの時のリリアンの様子を見て相当にショックを受けたようである。そのから元気で振る舞う国王の姿に、アリスももう言葉を失ってしまったのだった。
さて、一応会談ではいろいろと決まった。
ファルーダン鉄道を通じて、ツェンの鉱山から産出される鉱石を輸出する事や、それを加工する技術などをマスカード帝国に提供する事。
一方のマスカード帝国は、そのファルーダン鉄道を通じて今まで輸出できなかった生鮮品などを、ファルーダン王国へと輸出する事になった。鮮度が命とはいえど、帝都から王都まで半日も掛からないのだ。これはマスカード帝国にとっても大きな商機なのである。
それに加えて、ファルーダン王国第二王女リリアンとマスカード帝国イスヴァン皇子の婚約も正式に決定。この事によって、両国の関係はより良くなっていくと思われるのである。
油断できないと言えば、ファルーダン王国の国王が情けない状態に陥っている一方で、マスカード帝国の皇帝クリムはまだまだ更なる野望を抱いている可能性がある事だろう。その腹の内はまだよく分からないのである。
「オートマタを寄こせと言っているあたり、これ以上王国の弱みを見せるわけにはいきませんね」
ギルソンは冷静に状況を分析している。
「そうでございますね。今回の国王陛下のような態度を見せていては、ますます搾り取られる事も覚悟しなければならないでしょうね」
アリスも警戒をしていた。国王の失態はとにかく責めておかねばならないのだ。
「そうですよ、父上。ボクたちが居なかったら、一体どうなっていたとお思いですか。一国の王として、もっとしっかりして頂かないと困ります」
「ううむ……、確かにその通りだ。今回は取り乱し過ぎた」
ギルソンが責めを強めれば、国王はちょんちょんと指を突き合わせながら反省をしているようだった。しかし、その姿のせいでとても反省してるようには受け取れない。ギルソンもアリスもため息が出てしまう。
「今回は何とか乗り切りましたが、皇帝陛下がイスヴァン殿下にどのような指示を出しているのか気になってしまいますね」
「そうですね。マスカードの皇帝は野心が強い。今は友好的に見えても、虎視眈々とファルーダンの土地を狙っている可能性がありますね」
国王をよそに、ギルソンとアリスはこそこそと話し合っている。
「父上」
「なんだ、ギルソン」
突然ギルソンが国王に対して声を掛ける。
「外交はボクがどうにかしますので、父上はとにかく内政に尽力して下さい」
「そ、それはどういう?」
「兄上たちの事ですよ。フランソワ姉様は嫁がれましたし、リリアン姉様も今回婚約が決まりました。問題はお相手が居ない兄上たちです。きっと放っておけば危険になるかも知れません。うまくやり過ごして頂きたいのです」
「う、ううむ……。確かにそうだな」
そう、ギルソンには四人の兄が居る。だが、結婚したのは長兄のアインダードだけなのだ。次兄のシュヴァリエ、三男スーリガンにいたっては婚約者すら居ない。四男アワードは今は13歳で婚約者はこれからという時期である。なにかと不安定な家庭内の状況があるのでは、安心して国家運営もできないだろう。ギルソンはその懸念をしているのである。兄たちの心情も掴んでいるあたり、ギルソンは病まなければ素晴らしい能力の持ち主だったのである。
「分かった。早急に婚約者を探すなど、対応をしよう」
さっきまで拗ねていたとは思えないくらい真面目な顔になった国王。
アリスの書いた小説とは完全に話が変わってしまっているが、国内の不安定な情勢は変わらないようだった。はてさて、ここからどう持ち直していくのだろうか。ギルソンたちの手腕が問われるのだった。
言わずと知れたファルーダン国王その人である。部屋に帰るなりめそめそと泣いていた。国王がこんな調子で大丈夫なのだろうか。アリスはものすごく複雑な心境で国王を眺めていた。
まあ、アリスが国王の気持ちが分かるのも当然といえば当然かも知れない。親の立場である自分たちに男性と女性という違いはあれど、娘を嫁がせた経験を持つからだ。その時の夫や息子たちの姿を見たら、やっぱりこんな風になっていたなとしみじみと思い出しているのである。娘を持つ父親というものは、どこの世界でも変わらないのだ。
「恐れ入りますが、国王陛下。お気持ちは分かりますが、ご本人たちの気持ちも尊重して下さいませ」
「そ、そうは言ってもだな……」
アリスが声を掛けると、国王はやっぱりしょげ返っていた。本当にこんな調子で大丈夫なのだろうか。
「それでしたら父上。イスヴァン殿下は来年からこちらの学園に通われるのです。それを通じて任せられるかどうか見極めたらよろしいのでは?」
ギルソンが提案すると、国王はようやく泣くのをやめた。
「そ、そうだな。あの皇子がリリアンにふさわしい男か、私が見極めてやろう」
国王が踏ん反りがえって宣言しているが、どこからどう見てもやせ我慢をしている。あの時のリリアンの様子を見て相当にショックを受けたようである。そのから元気で振る舞う国王の姿に、アリスももう言葉を失ってしまったのだった。
さて、一応会談ではいろいろと決まった。
ファルーダン鉄道を通じて、ツェンの鉱山から産出される鉱石を輸出する事や、それを加工する技術などをマスカード帝国に提供する事。
一方のマスカード帝国は、そのファルーダン鉄道を通じて今まで輸出できなかった生鮮品などを、ファルーダン王国へと輸出する事になった。鮮度が命とはいえど、帝都から王都まで半日も掛からないのだ。これはマスカード帝国にとっても大きな商機なのである。
それに加えて、ファルーダン王国第二王女リリアンとマスカード帝国イスヴァン皇子の婚約も正式に決定。この事によって、両国の関係はより良くなっていくと思われるのである。
油断できないと言えば、ファルーダン王国の国王が情けない状態に陥っている一方で、マスカード帝国の皇帝クリムはまだまだ更なる野望を抱いている可能性がある事だろう。その腹の内はまだよく分からないのである。
「オートマタを寄こせと言っているあたり、これ以上王国の弱みを見せるわけにはいきませんね」
ギルソンは冷静に状況を分析している。
「そうでございますね。今回の国王陛下のような態度を見せていては、ますます搾り取られる事も覚悟しなければならないでしょうね」
アリスも警戒をしていた。国王の失態はとにかく責めておかねばならないのだ。
「そうですよ、父上。ボクたちが居なかったら、一体どうなっていたとお思いですか。一国の王として、もっとしっかりして頂かないと困ります」
「ううむ……、確かにその通りだ。今回は取り乱し過ぎた」
ギルソンが責めを強めれば、国王はちょんちょんと指を突き合わせながら反省をしているようだった。しかし、その姿のせいでとても反省してるようには受け取れない。ギルソンもアリスもため息が出てしまう。
「今回は何とか乗り切りましたが、皇帝陛下がイスヴァン殿下にどのような指示を出しているのか気になってしまいますね」
「そうですね。マスカードの皇帝は野心が強い。今は友好的に見えても、虎視眈々とファルーダンの土地を狙っている可能性がありますね」
国王をよそに、ギルソンとアリスはこそこそと話し合っている。
「父上」
「なんだ、ギルソン」
突然ギルソンが国王に対して声を掛ける。
「外交はボクがどうにかしますので、父上はとにかく内政に尽力して下さい」
「そ、それはどういう?」
「兄上たちの事ですよ。フランソワ姉様は嫁がれましたし、リリアン姉様も今回婚約が決まりました。問題はお相手が居ない兄上たちです。きっと放っておけば危険になるかも知れません。うまくやり過ごして頂きたいのです」
「う、ううむ……。確かにそうだな」
そう、ギルソンには四人の兄が居る。だが、結婚したのは長兄のアインダードだけなのだ。次兄のシュヴァリエ、三男スーリガンにいたっては婚約者すら居ない。四男アワードは今は13歳で婚約者はこれからという時期である。なにかと不安定な家庭内の状況があるのでは、安心して国家運営もできないだろう。ギルソンはその懸念をしているのである。兄たちの心情も掴んでいるあたり、ギルソンは病まなければ素晴らしい能力の持ち主だったのである。
「分かった。早急に婚約者を探すなど、対応をしよう」
さっきまで拗ねていたとは思えないくらい真面目な顔になった国王。
アリスの書いた小説とは完全に話が変わってしまっているが、国内の不安定な情勢は変わらないようだった。はてさて、ここからどう持ち直していくのだろうか。ギルソンたちの手腕が問われるのだった。
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