転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
67 / 170

Mission066

しおりを挟む
 その頃、リリアンとイスヴァンがそんないい雰囲気になっている事を知らないギルソンとアリスは、ものすごく真剣に悩んでいた。どうしたら、マスカード帝国と良好な関係を構築できるのか。これは王国の将来を左右する大事な事なのであるから、思いつめたような表情になるのは仕方なかった。
「なあ、ギルソン。私はどうしたらいいと思う?」
 国王が情けない顔をして、息子に意見を求めてきた。大丈夫なのだろうか、この国王は。
「父上。そんな情けない事でどうするのですか。マスカード帝国との事は、ボクたちがどうにかしますので、父上は兄上たちファルーダンの内情を安定させる事を考えていて下さい」
 さすがにちょっと外交に関して失望しているのか、ギルソンは国王にファルーダン国内の事に集中するように進言したのである。どうやらギルソンは兄たちから不穏な空気を感じ取っていたようである。
(さすがはマイマスター。私の書いた小説の本来の主人公だからか、洞察力に優れているわね)
 ギルソンの発言に、アリスはオートマタらしい無表情をしながら感心していた。
 王家の親子の会話を遠巻きに眺めているマリカとジャスミン。同じ部屋で待機させられているためにここに居るわけなのだが、さすがに王族親子の会話に入っていくだけの度胸はなかった。ギルソンともあまり話をできていないので仕方がないのである。
 それにしてもあれだけ鉄道に関する行動で一緒に居たというのに、ギルソンとマリカの間にはまったくと言っていいほどの進展がなかったのである。ギルソンはやりたい事に真っすぐでマリカにはあまり話し掛けなかったし、マリカはマリカで身分差のせいもあってかほとんど縮こまっているような状態が続いていたのである。それでは進展しないというものだった。
 さて、そうこうしているうちに、ギルソンたちが控える部屋にマスカード帝国の兵士が呼びにやってきた。これからクリムたちマスカード帝国の重鎮たちとの話し合いになるわけである。さすがに国王が情けない状態が続いているので、ギルソンはことさら気合いを入れていた。そして、ギルソンたちは慌ただしく会談の行われる部屋へと向かったのだった。
「よく来てくれたな。それでは、二日目の会談を始めようではないか」
 部屋にたどり着いたギルソンたちに、クリムの鋭い眼光が飛ぶ。これだけで国王は縮こまってしまう。これで大丈夫なのかと、正直心配になるアリスたちである。
 だが、いざ会談を始めようとしたその時、クリムは何かに気が付いたようだ。
「その前に、イスヴァン」
「はい、父上。何でしょうか」
「ずいぶんと嬉しそうな顔をしているが、何があった?」
 クリムからの指摘にハッとするイスヴァン。そう、さっきからずっと顔がにやけていたのである。その指摘をされて、どういうわけかイスヴァンよりもリリアンの方が顔を赤くして俯いてしまった。ギルソンやマリカは分からないようだったが、アリスにはこれがどういう事なのかすぐに分かった。
(ほほぉ……。奥手かと思っていましたけど、ずいぶんとすんなり進展しましたね、この二人……)
 さすがは94歳まで生きたおばあちゃんである。こういう事をすぐに見抜いてしまうあたり、年の功といった感じである。
「あのその、実は……」
 普段は結構はっきり言うイスヴァンがしどろもどろになっている。実に珍しい光景である。ちなみに、どういうわけかリリアンももじもじとして顔を上げられずにいた。みんなが不思議そうに見ているのだが、多分この理由が分かっているのはアリスだけだろう。
「どうしたんだ。はっきり言ったらどうなのだ?」
 クリムからの圧が掛かる。その迫力に、さすがのイスヴァンも完全に押し負けてしまった。
「実は、リリアン王女と将来的な婚約の約束をしました」
「なんと。して返事は?」
「はい、了承を頂けましたので、まずはお付き合いから始めたいと思います」
 ちょっとがっかりしたようにも見えたが、クリムは大口を開けて笑い出した。
「がっはっはっはっ、そういうのには奥手と思っておったが、意外とやってくれるな。だが、婚約ができなかったのは頂けぬ話だな」
「し、仕方ありません、父上。お互いよく知らないのですから、まずは知るところから始めたいと思っただけです」
 ぎろりと睨み付けたクリムに、イスヴァンはちらちらと視線を送りながら必死に口答えをしている。イスヴァンは意外と初心な少年だったようだ。
「まあ、それもそうだな。お前は来年からファルーダンの学園に通う事になっていたな。ならばその間にしっかりと親睦を深めておけ」
「は、はい!」
 クリムの言葉に、元気よく返事をするイスヴァンだった。
「くっくっくっ、そういう事だ。ファルーダンの王よ、お前のところのリリアンは俺の息子イスヴァンの妻となる、いいな?」
 クリムはファルーダンの面々の方を向いて、ものすごく上機嫌に言い放つ。だが、国王は答えずにリリアンに確認を取る。すると、
「……はい、お願い致します」
 少し間があったものの、ものすごく恥ずかしそうにリリアンが答えたのだった。それを聞いたクリムは再び大声で笑っていた。
「いやあ、めでたい事よな。がっはっはっはっ!」
 そして、笑い声が止むと、会談の場はしばらくの沈黙に包まれたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...