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Mission064
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初日の会談を終えて、客室へと通されるギルソンたち。その中で、どういうわけかマリカはリリアンと同じ部屋をあてがわれてしまった。王族とほぼ平民といってもいい騎士爵の娘である。さすがに同室はどうかと思うのだが、女性が少ないというのが同室にされた理由のようである。城が広いとはいっても客室は限られているのだから、仕方のない対処だろう。マリカは王女と一緒の部屋に割り当てられて、部屋の中でガッチガチに緊張して座っていた。
「そんなに緊張しなくてもいいのではないのですか、マリカさん」
まるで置物のように硬い表情で座っているマリカに、リリアンはつい心配になって声を掛けてしまう。ところが、緊張と恐れ多さで完全に固まってしまっているマリカは、問い掛けに返事する事ができなかった。
「まったく、あれだけギルソンと一緒に居るといいますのに、私には慣れてくれませんのね」
マリカの様子を見たリリアンは、頬に手を当てながら困ったような顔をしている。そのくらいにマリカは固まってしまっているのだ。やはりマリカにとっては、王族というのは雲の上の存在なのである。
「申し訳ございません、リリアン王女殿下。マスターに代わって謝罪致します」
様子を見かねたジャスミンがリリアンに謝罪する。さすがはオートマタ、王族相手でも堂々と振る舞っている。
「これだから、平民と一緒は困るのです。リリアン様、あまり関わらない事をお勧めします」
「ユーリ、マスターは平民ではなく騎士爵令嬢です。間違えないで頂きたいですね」
ユーリの言い分にカチンときたジャスミンは、怒ったように言葉を突きつける。だが、ユーリはそんな言葉にはまったく動じない。かなりプライドの高い性格のオートマタのようである。見た目は完璧淑女でも、性格まではそうではなかったようだ。
「それに、マスターはオートマタの技術者でもあるのです。私を作ったのも、マスターなのですからね」
ジャスミンが言い放つと、ユーリは言葉に詰まったかのように一歩引いていた。さすがにオートマタの技術者となれば、オートマタからすればバカにはできない存在だからだ。
「それは……失礼しました」
さすがに気まずくなったのか、ユーリはマリカとジャスミンに謝罪をしていた。こういうところを見ると、オートマタは立ち振る舞いなどはほとんど人間と変わらないのである。
「それにしても、困りましたわね」
リリアンはそっと頬に手を当てて首を傾ける。さっきからマリカが固まってまま動かないのだ。話をしようとして声を掛けても反応しないときては、正直お手上げなのである。
「王女殿下、本当に申し訳ございません」
「いえ、気にしていませんから。……ギルソンとは少し打ち解けているように見えたから、私も大丈夫かなと思ったのですが……」
リリアンはちょっと残念そうな顔をしている。
「ふふっ、身分差っていうのは本当につらいものですね。妹みたいに思ってましたのに、ちょっと現実に引き戻されたみたいで、……悲しいですわ」
こう言われてしまうと、ジャスミンとしてもつらい気持ちになってしまう。そう思ってしまうあたり、オートマタは本当に人間っぽいところがあるのだ。
「ですがっ!」
急に大声を出すリリアンに、ジャスミンは体をびくっとさせる。本当に人間のような反応である。
「この会談は、私たち二人の頑張りにかかっていると思っているのです」
リリアンはものすごく自信満々に喋っている。
しかし、このリリアンの言い分に、ユーリもジャスミンも考え込むような仕草を見せている。
「二人とも?」
ユーリとジャスミンが同時に考え込み始めたものだから、リリアンは戸惑って声を掛けている。
「これは失礼致しました、リリアン様」
「確かに、王女殿下の仰る通りです。失礼を承知で申しますが、国王陛下は完全に相手に飲まれてしまっております。ギルソン殿下一人では限界もございますし、そうなると、イスヴァン殿下と婚約予定であるリリアン様とオートマタの技術者であるマスターに頑張って頂く他ございませんね」
ユーリとジャスミンは揃って同じ結論に達したようである。さすがはオートマタというか何というか。性格の違った個体でも、導く結論が同じになるというのは、実に面白い結果である。
「ですが、あの皇帝陛下は野心のかなり強いお方です。うまく立ち回らなければ、こちらに不利な約束事を仕掛けてくる可能性がございます」
「そうでございますね。となれば、やはりカギになるのはギルソン様とイスヴァン殿下でしょうね」
さっきけんかをしていたとは思えない程に、二人のオートマタは一生懸命考え始めた。
「リリアン王女殿下」
「は、はい」
ジャスミンがリリアンに声を掛ける。そして、ユーリと顔を合わせると、軽くお互いに頷き合った。
「やはり、イスヴァン殿下と婚約してしまいましょう」
「えっ、ええ?!」
オートマタたちが出した結論に、リリアンはつい大声で叫び声を上げてしまうのだった。
はてさて、オートマタたちはどのような作戦を思いついたのだろうか。
「そんなに緊張しなくてもいいのではないのですか、マリカさん」
まるで置物のように硬い表情で座っているマリカに、リリアンはつい心配になって声を掛けてしまう。ところが、緊張と恐れ多さで完全に固まってしまっているマリカは、問い掛けに返事する事ができなかった。
「まったく、あれだけギルソンと一緒に居るといいますのに、私には慣れてくれませんのね」
マリカの様子を見たリリアンは、頬に手を当てながら困ったような顔をしている。そのくらいにマリカは固まってしまっているのだ。やはりマリカにとっては、王族というのは雲の上の存在なのである。
「申し訳ございません、リリアン王女殿下。マスターに代わって謝罪致します」
様子を見かねたジャスミンがリリアンに謝罪する。さすがはオートマタ、王族相手でも堂々と振る舞っている。
「これだから、平民と一緒は困るのです。リリアン様、あまり関わらない事をお勧めします」
「ユーリ、マスターは平民ではなく騎士爵令嬢です。間違えないで頂きたいですね」
ユーリの言い分にカチンときたジャスミンは、怒ったように言葉を突きつける。だが、ユーリはそんな言葉にはまったく動じない。かなりプライドの高い性格のオートマタのようである。見た目は完璧淑女でも、性格まではそうではなかったようだ。
「それに、マスターはオートマタの技術者でもあるのです。私を作ったのも、マスターなのですからね」
ジャスミンが言い放つと、ユーリは言葉に詰まったかのように一歩引いていた。さすがにオートマタの技術者となれば、オートマタからすればバカにはできない存在だからだ。
「それは……失礼しました」
さすがに気まずくなったのか、ユーリはマリカとジャスミンに謝罪をしていた。こういうところを見ると、オートマタは立ち振る舞いなどはほとんど人間と変わらないのである。
「それにしても、困りましたわね」
リリアンはそっと頬に手を当てて首を傾ける。さっきからマリカが固まってまま動かないのだ。話をしようとして声を掛けても反応しないときては、正直お手上げなのである。
「王女殿下、本当に申し訳ございません」
「いえ、気にしていませんから。……ギルソンとは少し打ち解けているように見えたから、私も大丈夫かなと思ったのですが……」
リリアンはちょっと残念そうな顔をしている。
「ふふっ、身分差っていうのは本当につらいものですね。妹みたいに思ってましたのに、ちょっと現実に引き戻されたみたいで、……悲しいですわ」
こう言われてしまうと、ジャスミンとしてもつらい気持ちになってしまう。そう思ってしまうあたり、オートマタは本当に人間っぽいところがあるのだ。
「ですがっ!」
急に大声を出すリリアンに、ジャスミンは体をびくっとさせる。本当に人間のような反応である。
「この会談は、私たち二人の頑張りにかかっていると思っているのです」
リリアンはものすごく自信満々に喋っている。
しかし、このリリアンの言い分に、ユーリもジャスミンも考え込むような仕草を見せている。
「二人とも?」
ユーリとジャスミンが同時に考え込み始めたものだから、リリアンは戸惑って声を掛けている。
「これは失礼致しました、リリアン様」
「確かに、王女殿下の仰る通りです。失礼を承知で申しますが、国王陛下は完全に相手に飲まれてしまっております。ギルソン殿下一人では限界もございますし、そうなると、イスヴァン殿下と婚約予定であるリリアン様とオートマタの技術者であるマスターに頑張って頂く他ございませんね」
ユーリとジャスミンは揃って同じ結論に達したようである。さすがはオートマタというか何というか。性格の違った個体でも、導く結論が同じになるというのは、実に面白い結果である。
「ですが、あの皇帝陛下は野心のかなり強いお方です。うまく立ち回らなければ、こちらに不利な約束事を仕掛けてくる可能性がございます」
「そうでございますね。となれば、やはりカギになるのはギルソン様とイスヴァン殿下でしょうね」
さっきけんかをしていたとは思えない程に、二人のオートマタは一生懸命考え始めた。
「リリアン王女殿下」
「は、はい」
ジャスミンがリリアンに声を掛ける。そして、ユーリと顔を合わせると、軽くお互いに頷き合った。
「やはり、イスヴァン殿下と婚約してしまいましょう」
「えっ、ええ?!」
オートマタたちが出した結論に、リリアンはつい大声で叫び声を上げてしまうのだった。
はてさて、オートマタたちはどのような作戦を思いついたのだろうか。
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