64 / 189
Mission063
しおりを挟む
マスカード帝国の城の会議室へと入っていく国王たち。その目の前には、ずらりと皇帝クリム以下帝国の重鎮たちが顔を揃えていた。最初からその空気に飲まれてしまう国王。この会談に今から臨むにあたって、もはや冗談抜きに負け戦の様相を呈してしまっていた。国のトップがそんな引け腰でどうするのだろうか。アリスは頭が痛い。
だが、そんな事を思いつつも今の自分はギルソンのオートマタだ。無駄に発言ができる状態ではないので、ギルソンの後ろに立って控えている。
「よく来てくれたな、ファルーダンの者たちよ」
王国から来た面々が全員席に着いたのを確認すると、クリムが静かに口を開いた。いよいよファルーダンによっては重要な局面となる、国家元首同士の会談が始まったのである。
「気遣いのお言葉、本当に心に染み入ります」
クリムの言葉に反応したのは、なんとギルソンだった。
小説で描いたギルソンの11歳の頃は、家族からの度重なる虐待が行われており、徐々にその性格を卑屈に歪ませていた時期だった。
それがどうだろうか。
大国であるマスカード帝国の、それも皇帝相手にまったく怯む事なく、ギルソンは普通に挨拶を交わしているのだ。この様子に国王とリリアンが目を丸くし驚いている。本当にギルソンの成長は目を見張るものがある。
マスカードの皇帝クリムも、そのギルソンの振る舞いには感心している。
「さて、会談を始める前に確認するが、こちらの話は受け入れてもらえたかな?」
クリムはそう言いながら、息子のイスヴァンへと視線を向けた。
それと同時に、ファルーダン側もギルソンが父親である国王に視線を向けて、同時にリリアンへと視線を移した。
「はい、上の姉様であるフランソワ姉様はすでに婚約が決まっておりますが、こちらにご同席されているリリアン姉様は、現在婚約者探しの最中でございます」
「ほほぉ、それはまた大変だな」
ギルソンの説明に、クリムは顎を触りながら食い入るようにリリアンを見ている。まるで品定めをするような視線だ。さすがに強面のクリムにじっくり見られては、覚悟を決めたはずのリリアンもびびってしまう。無理もない、圧が強すぎるのだから。
「リリアン姉様にも確認をしてみましたが、イスヴァン殿下と一度お話をされたいと申されましたので、今回この会談に同席されたのです」
ギルソンの説明を聞いて、クリムも納得したようである。
「まあそうだな。知りもしない奴のところに嫁ぐのはいろいろ不安なのは間違いない。どうせ来年からはそっちに留学する予定だが、この後一緒に話をするといいだろう」
クリムはそう言って、イスヴァンとリリアンが話をする場を設ける事を約束してくれた。その後は来年からの留学の間にでも関係を築いてくれればいいだろうという感じである。半ば政略結婚のようになるのだが、それくらいの気遣いはしてくれるようだった。
一応イスヴァンとリリアンの話は片が付いたので、クリムは本題へと入っていく。
「そちらの求める鉄道とやらは、そちらの王都からこちらの帝都までつながった。お前たちはこれを使って何を求め、何を与えてくれるというのだ?」
クリムからさっきにも似た威圧感を伴ったオーラが放たれる。すると一気に場の空気は重く沈み込んでしまう。その威圧感を前にしては、ファルーダンの国王も赤子同然の状態だった。
「そうですね。オートマタを除く鉱工業面に関しては、技術供与はできます」
そんな情けない国王に代わって、ギルソンが話し始めた。
「オートマタは無理だというのか?」
ギルソンの言葉に引っ掛かりを覚えたクリムは、そこへと疑問をぶつける。
「はい、こればかりは無理でございます」
ギルソンははっきり答えた。
「どうしても無理だというのか?」
クリムが再度、強い口調でギルソンに問い掛ける。
「はい、オートマタを作るには、環境というものが大切でございます。動力となる魔法石が、マスカード帝国の空気に馴染むとかどうかという問題がございますゆえ、安易に外部へと伝える事はできないのです」
「……そうか。それならば仕方がない。だが、そちらで作ったものを買い取ってこちらに持ってくる事は問題ないであろう?」
「そうですね。アリスたちの様子を見ている限り、問題はないと思われます」
ギルソンの回答に、クリムはしばらく沈黙して考え込んでいた。
「そうだな。オートマタの技術を我が国に入れるのは諦めよう」
クリムのこの言葉に、ギルソンたちはほっと安心をした。ところが、
「来年からそちらに滞在する事になる我が息子イスヴァンのために、オートマタを1体作ってやってくれ。それで手を打とう」
完全に諦めたわけではなかった。だが、将来的にはリリアンと夫婦になるかも知れない相手である。それだったらご祝儀のような意味合いで贈るのも悪くはないかと、ギルソンはそれを了承したのだった。
ここまでファルーダンの国王は空気である。こんな王様で大丈夫なのだろうか。
ファルーダン王国とマスカード帝国の会談は、まだ始まったばかりなのである。
だが、そんな事を思いつつも今の自分はギルソンのオートマタだ。無駄に発言ができる状態ではないので、ギルソンの後ろに立って控えている。
「よく来てくれたな、ファルーダンの者たちよ」
王国から来た面々が全員席に着いたのを確認すると、クリムが静かに口を開いた。いよいよファルーダンによっては重要な局面となる、国家元首同士の会談が始まったのである。
「気遣いのお言葉、本当に心に染み入ります」
クリムの言葉に反応したのは、なんとギルソンだった。
小説で描いたギルソンの11歳の頃は、家族からの度重なる虐待が行われており、徐々にその性格を卑屈に歪ませていた時期だった。
それがどうだろうか。
大国であるマスカード帝国の、それも皇帝相手にまったく怯む事なく、ギルソンは普通に挨拶を交わしているのだ。この様子に国王とリリアンが目を丸くし驚いている。本当にギルソンの成長は目を見張るものがある。
マスカードの皇帝クリムも、そのギルソンの振る舞いには感心している。
「さて、会談を始める前に確認するが、こちらの話は受け入れてもらえたかな?」
クリムはそう言いながら、息子のイスヴァンへと視線を向けた。
それと同時に、ファルーダン側もギルソンが父親である国王に視線を向けて、同時にリリアンへと視線を移した。
「はい、上の姉様であるフランソワ姉様はすでに婚約が決まっておりますが、こちらにご同席されているリリアン姉様は、現在婚約者探しの最中でございます」
「ほほぉ、それはまた大変だな」
ギルソンの説明に、クリムは顎を触りながら食い入るようにリリアンを見ている。まるで品定めをするような視線だ。さすがに強面のクリムにじっくり見られては、覚悟を決めたはずのリリアンもびびってしまう。無理もない、圧が強すぎるのだから。
「リリアン姉様にも確認をしてみましたが、イスヴァン殿下と一度お話をされたいと申されましたので、今回この会談に同席されたのです」
ギルソンの説明を聞いて、クリムも納得したようである。
「まあそうだな。知りもしない奴のところに嫁ぐのはいろいろ不安なのは間違いない。どうせ来年からはそっちに留学する予定だが、この後一緒に話をするといいだろう」
クリムはそう言って、イスヴァンとリリアンが話をする場を設ける事を約束してくれた。その後は来年からの留学の間にでも関係を築いてくれればいいだろうという感じである。半ば政略結婚のようになるのだが、それくらいの気遣いはしてくれるようだった。
一応イスヴァンとリリアンの話は片が付いたので、クリムは本題へと入っていく。
「そちらの求める鉄道とやらは、そちらの王都からこちらの帝都までつながった。お前たちはこれを使って何を求め、何を与えてくれるというのだ?」
クリムからさっきにも似た威圧感を伴ったオーラが放たれる。すると一気に場の空気は重く沈み込んでしまう。その威圧感を前にしては、ファルーダンの国王も赤子同然の状態だった。
「そうですね。オートマタを除く鉱工業面に関しては、技術供与はできます」
そんな情けない国王に代わって、ギルソンが話し始めた。
「オートマタは無理だというのか?」
ギルソンの言葉に引っ掛かりを覚えたクリムは、そこへと疑問をぶつける。
「はい、こればかりは無理でございます」
ギルソンははっきり答えた。
「どうしても無理だというのか?」
クリムが再度、強い口調でギルソンに問い掛ける。
「はい、オートマタを作るには、環境というものが大切でございます。動力となる魔法石が、マスカード帝国の空気に馴染むとかどうかという問題がございますゆえ、安易に外部へと伝える事はできないのです」
「……そうか。それならば仕方がない。だが、そちらで作ったものを買い取ってこちらに持ってくる事は問題ないであろう?」
「そうですね。アリスたちの様子を見ている限り、問題はないと思われます」
ギルソンの回答に、クリムはしばらく沈黙して考え込んでいた。
「そうだな。オートマタの技術を我が国に入れるのは諦めよう」
クリムのこの言葉に、ギルソンたちはほっと安心をした。ところが、
「来年からそちらに滞在する事になる我が息子イスヴァンのために、オートマタを1体作ってやってくれ。それで手を打とう」
完全に諦めたわけではなかった。だが、将来的にはリリアンと夫婦になるかも知れない相手である。それだったらご祝儀のような意味合いで贈るのも悪くはないかと、ギルソンはそれを了承したのだった。
ここまでファルーダンの国王は空気である。こんな王様で大丈夫なのだろうか。
ファルーダン王国とマスカード帝国の会談は、まだ始まったばかりなのである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる