転生オートマタ

未羊

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Mission061

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 ギルソンたちから話を聞いたリリアンは、驚いてはいたものの、実に落ち着いた様子だった。
「そうですね。政略結婚だとしても、その選択肢も考えられるでしょうね。なにせまだ私には婚約者の話すらありませんから」
 どうやら、マスカード帝国のイスヴァンの元に嫁ぐ事も、リリアンの中には選択肢としてあるようである。その表情には、真剣さが浮かび上がっている。
 よくも思えばリリアンもいい年齢なのだ。そういった話の一つや二つ、手元に舞い込んでいてもおかしくないところなのだ。それだというのに、肝心のリリアンの元にはそういう話がまったくないようで、どこか焦りのようなものがあったようだった。
「ギルソン、その会合に私も参加致します。隣国として気にならないわけがありません。そのイスヴァン殿下とは一度しっかりとお話しをしてみたいものです」
 リリアンは決意を固めた。
「分かりました、リリアン姉様。そこは父上と相談して決めましょう。使節団として出向いたとはいえども、国家間の最終的な決定権は父上にありますから」
「分かりましたわ。頼みますわよ、ギルソン」
「はい、リリアン姉様」
 話を終えると、ギルソンたちはリリアンの部屋から退出していった。部屋の中に残ったリリアンは、不安なのか手に持ったカップを置くと、静かにため息を吐いたのだった。

 国王の元に戻ったギルソンたち。
「父上」
「おお、ギルソンか。どうしたんだ?」
 国王がギルソンの方を向いて反応する。すると、その隣には思いがけない人物が座っていた。
「あら、ギルソン。戻ってましたのね」
「母上!」
 そう、王妃である。
「そこまで驚かれるのは心外ですね。そうそう、マスカード帝国でのお話、陛下から聞きましたわよ。ご苦労でしたね」
 王妃はギルソンたちを労う。父親が騎士爵という事もあって、ほぼ平民であるマリカは恐れ多さにがくがくと震えながら跪いている。
「あらあら、マリカさん。あなたの活躍もお聞きしましたよ。そこまで震えられるとこちらも困ってしまいましてよ?」
 王妃はマリカに優しく声を掛けるが、マリカは下を向いたまま震え続けていた。
「申し訳ございません、王妃殿下。マスターにはまだ負担が大きすぎたようです。大変失礼とは存じますが、これにて家に戻らせて頂いてよろしいでしょうか」
 震えて話にならないマリカに代わり、オートマタのジャスミンが王妃の言葉に反応する。ジャスミンのその言葉に王妃は仕方ないというような困り顔をしていた。
「そうですね。では、兵士に家まで送り届けさせましょう」
「はっ、ありがたく存じます。さあ、マスター。立てますでしょうか?」
 ジャスミンの声で、どうにか無事に立ち上がったマリカ。そして、震える体でどうにかカーテシーをすると、ジャスミンと付き添いの兵士と共に部屋を出て行ったのだった。
「あの子のオートマタの作製技術は目を見張るものがあります。何としても抱え込みませんとね」
 王妃はマリカが出て行くのを確認すると、周りに聞こえるように呟いていた。
「確かに、11歳という年齢を考えると、天職ではないかと思えるほどの技術を持っておるからな。ギルソン、どうだ。あの子を婚約者にするつもりはないか?」
 王妃に同調するように、国王がとんでもない事を言い始めた。しかし、ギルソンはものすごく落ち着いている。
「ははっ、それもいいかとは思いますが、マリカの気持ちを尊重してあげて下さい」
 ギルソンは柔らかい笑みを浮かべて、国王に言い切った。そのギルソンの態度と物言いに、国王と王妃はほぉ……っと唸ったのだった。
「それよりも、父上。ご報告を致します」
「なんだ、言ってみい」
 ギルソンが話を切り替えると、国王もすぐに態度を切り替えた。素早い。
「リリアン姉様より、この度の国家間の会合について同席される旨を承りました」
「そうか……」
 ギルソンが報告すると、国王は両肘をついて頭を抱え込む。
「リリアンは、マスカードに嫁ぐ覚悟ができたという事なんだな?」
 国王はその状態から視線だけをギルソンへと向ける。
「はい、そういう事だと思います。会合に参加するとは申されておりませんでしたが、イスヴァン殿下に興味を持たれておりました」
「そうか……」
 ギルソンの答えに、国王はさらに深いため息を吐いた。
「リリアンが覚悟を決めたのならば、私も腹を括らねばなるまい。すぐに会合に向かう人選を行おう」
 国王は急にがばっと頭を上げ、宰相を呼んですぐさま作戦会議を始める支度を進める。
「それでは、私はささやかな贈り物でも準備致しましょうか」
 その国王を見ていた王妃もまた、会合に向けて動き始めた。そして、それに伴って、一気に城の中が慌ただしくなったのである。

 こうして二国間どころか、近隣諸国をも巻き込んだ歴史的な大事件になるかも知れない、ファルーダン王国とマスカード帝国の会合の開催が今ここに決まったのである。そして、刻一刻と迫るその時に向けて、ファルーダン王国の準備が始まったのである。
 小説の中では大規模な戦争となってしまったファルーダン王国とマスカード帝国。今回の世界線では一体どのような道をたどるのだろうか。
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