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Mission060
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ギルソンたちは、列車に乗ってファルーダンへと戻る最中、いろいろと考えを巡らせていた。まさか、国王を連れてマスカード帝国に出向く事態になろうとは思っていなかったのだ。だが、その一方で、確かにこういう事柄については、国のトップ同士で話し合った方がいいという事には納得していた。
こうなると、父親と二人の姉をどうやって説得してマスカード帝国に向かわせるかという事が問題だろう。
「フランソワ姉様はすでに婚約が決まっていますしね。それでしたら、リリアン姉様がよろしいでしょうか」
「そうでございますね。リリアン様は今16歳ですから、嫁ぎ先を決めておかなければいけない時期でございます。イスヴァン殿下がお相手でしたら、12歳と16歳ですから、それほど問題はないかと思われます」
思い悩むギルソンに、アリスはそのように同調しておく。
「ですが、問題はリリアン様のお気持ちでございます。そのためには1週間後のマスカード帝国の皇帝陛下との会談に、リリアン様もご同席頂けるように説得するしかございません」
「うんまあ、そうだね……」
アリスの提案に、ギルソンの顔が険しくなっていた。どうやら気があまり進まないようである。それを心配そうにおろおろと眺めるマリカと、その隣で静かに見守るジャスミン。その場には奇妙な沈黙が漂っていた。
しばらくの間、ギルソンたちの部屋からは会話が消えたのだったが、その間も列車は遠慮なくファルーダン王国の王都へと向けて走り続けたのだった。
マスカード帝国の帝都を発ったその日のうちに、ファルーダン王国の王都に着いてしまう。ノンストップだった事もあって、まだ辺りは明るかった。
「本当に信じられませんね。今日の朝までマスカード帝国に居たというのに、もう自国の王都に居るだなんて……」
目の前に広がる光景に、ギルソンたちは驚きを隠せなかった。今はまだ開業していないマスカード帝国方面のホームとは対照的に、ツェン方面のホームにはそれなりに人があふれかえっていた。人が少ないのは価格設定が少々高めであるので、庶民たちの利用者が少ないからである。主だって商人や貴族が使っているのが現状なのである。各駅で働くオートマタたちから情報を収集して、価格を含めてどうするのか相談する必要はありそうだった。
そういった喧騒をよそに、馬車を手配してもらいファルーダンの王城へとギルソンたちは戻っていった。
城に戻ったギルソンたちは、国王にマスカード帝国での事を報告する。
第一の目標だったマスカード帝国中心部への鉄道の敷設を済ませられた事を国王は喜んでいたのだが……。
「ふむ、マスカード皇帝との会談か……、それはずいぶんと急な事だな」
国王は顎を触りながら困ったように呟いていた。
「しかも、我が娘を嫁に寄こせとまで言っているのか。うーむ、どうしたものか……」
ついには頭を抱え始める始末である。ようやく長女のフランソワの婚約も決まって送り出したばかりだというのに、また無理難題が降り注いできて、正直頭が痛いようである。しかし、考えようによってはリリアンの嫁ぎ先問題が解決するわけで、必ずしも悪い話ではなかった。だが、それがマスカード帝国だからこそ、国王は頭を抱えるのである。
「父上、確かにリリアン姉様の事は心配にはなりますが、うまくまとまればマスカード帝国との戦争は避けられるかと思います。来年からイスヴァン殿下が留学されるにあたって、無用な争いを生むわけには参りません」
ギルソンは国王に意見している。
「会談は一週間後です。鉄道を使えば半日もあればマスカード帝国の帝都にたどり着けますので、考える時間は十分ございます。どうか判断を誤りませんようにご検討下さい」
「う、ううむ……」
真剣な表情で訴えるギルソンに、国王は唸りながら黙り込んでしまった。
ここからは大人たちに任せて、ギルソンとマリカはアリスとジャスミンを伴って謁見の間を後にする。
「ボクたちはリリアン姉様と話をしましょう。隣国に嫁ぐという重要な事案です。姉様の気持ちというのもありますし、直接お聞きしなければ」
ギルソンの言葉に、アリスたちは黙って頷く。そして、リリアンの私室へと急いだ。
「姉様、失礼致します」
部屋をノックしてから許可を取ってリリアンの部屋に入るギルソンたち。そこには、まったりとくつろぐリリアンの姿があった。
「どうしたのかしら、ギルソン」
甘えん坊だったのは昔、今では落ち着いた立派な王女となっていたリリアン。赤みが勝った金髪をゆるふわツインテールにしたリリアンは、紅茶をテーブルに置いてギルソンたちを微笑みながら迎え入れた。
「リリアン王女殿下、実はお話がございます」
そう切り出したのはアリスだった。
「まあ、私にお話しとは、一体どのような事なのでしょうか」
ギルソンとアリスの真剣な表情に何かを感じ取ったリリアンの表情が一気に引き締まる。完全に聞く体勢に入ったリリアンに、ギルソンはマスカード帝国で皇帝から言われた事を包み隠さず話したのだった。
こうなると、父親と二人の姉をどうやって説得してマスカード帝国に向かわせるかという事が問題だろう。
「フランソワ姉様はすでに婚約が決まっていますしね。それでしたら、リリアン姉様がよろしいでしょうか」
「そうでございますね。リリアン様は今16歳ですから、嫁ぎ先を決めておかなければいけない時期でございます。イスヴァン殿下がお相手でしたら、12歳と16歳ですから、それほど問題はないかと思われます」
思い悩むギルソンに、アリスはそのように同調しておく。
「ですが、問題はリリアン様のお気持ちでございます。そのためには1週間後のマスカード帝国の皇帝陛下との会談に、リリアン様もご同席頂けるように説得するしかございません」
「うんまあ、そうだね……」
アリスの提案に、ギルソンの顔が険しくなっていた。どうやら気があまり進まないようである。それを心配そうにおろおろと眺めるマリカと、その隣で静かに見守るジャスミン。その場には奇妙な沈黙が漂っていた。
しばらくの間、ギルソンたちの部屋からは会話が消えたのだったが、その間も列車は遠慮なくファルーダン王国の王都へと向けて走り続けたのだった。
マスカード帝国の帝都を発ったその日のうちに、ファルーダン王国の王都に着いてしまう。ノンストップだった事もあって、まだ辺りは明るかった。
「本当に信じられませんね。今日の朝までマスカード帝国に居たというのに、もう自国の王都に居るだなんて……」
目の前に広がる光景に、ギルソンたちは驚きを隠せなかった。今はまだ開業していないマスカード帝国方面のホームとは対照的に、ツェン方面のホームにはそれなりに人があふれかえっていた。人が少ないのは価格設定が少々高めであるので、庶民たちの利用者が少ないからである。主だって商人や貴族が使っているのが現状なのである。各駅で働くオートマタたちから情報を収集して、価格を含めてどうするのか相談する必要はありそうだった。
そういった喧騒をよそに、馬車を手配してもらいファルーダンの王城へとギルソンたちは戻っていった。
城に戻ったギルソンたちは、国王にマスカード帝国での事を報告する。
第一の目標だったマスカード帝国中心部への鉄道の敷設を済ませられた事を国王は喜んでいたのだが……。
「ふむ、マスカード皇帝との会談か……、それはずいぶんと急な事だな」
国王は顎を触りながら困ったように呟いていた。
「しかも、我が娘を嫁に寄こせとまで言っているのか。うーむ、どうしたものか……」
ついには頭を抱え始める始末である。ようやく長女のフランソワの婚約も決まって送り出したばかりだというのに、また無理難題が降り注いできて、正直頭が痛いようである。しかし、考えようによってはリリアンの嫁ぎ先問題が解決するわけで、必ずしも悪い話ではなかった。だが、それがマスカード帝国だからこそ、国王は頭を抱えるのである。
「父上、確かにリリアン姉様の事は心配にはなりますが、うまくまとまればマスカード帝国との戦争は避けられるかと思います。来年からイスヴァン殿下が留学されるにあたって、無用な争いを生むわけには参りません」
ギルソンは国王に意見している。
「会談は一週間後です。鉄道を使えば半日もあればマスカード帝国の帝都にたどり着けますので、考える時間は十分ございます。どうか判断を誤りませんようにご検討下さい」
「う、ううむ……」
真剣な表情で訴えるギルソンに、国王は唸りながら黙り込んでしまった。
ここからは大人たちに任せて、ギルソンとマリカはアリスとジャスミンを伴って謁見の間を後にする。
「ボクたちはリリアン姉様と話をしましょう。隣国に嫁ぐという重要な事案です。姉様の気持ちというのもありますし、直接お聞きしなければ」
ギルソンの言葉に、アリスたちは黙って頷く。そして、リリアンの私室へと急いだ。
「姉様、失礼致します」
部屋をノックしてから許可を取ってリリアンの部屋に入るギルソンたち。そこには、まったりとくつろぐリリアンの姿があった。
「どうしたのかしら、ギルソン」
甘えん坊だったのは昔、今では落ち着いた立派な王女となっていたリリアン。赤みが勝った金髪をゆるふわツインテールにしたリリアンは、紅茶をテーブルに置いてギルソンたちを微笑みながら迎え入れた。
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そう切り出したのはアリスだった。
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ギルソンとアリスの真剣な表情に何かを感じ取ったリリアンの表情が一気に引き締まる。完全に聞く体勢に入ったリリアンに、ギルソンはマスカード帝国で皇帝から言われた事を包み隠さず話したのだった。
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