60 / 189
Mission059
しおりを挟む
イスヴァンと大臣、それと国境警備の任務を終えた兵士たちを連れて、アリスたちは帝都まで戻ってきた。
「も、もう戻ってきたのか?」
「し、信じられないぜ……。俺たちさっきまでシドールに居たんだよな?」
国境警備にあたっていた兵士たちが、呆然と帝都の明かりを眺めながら呆けながら呟いている。
「さあ、さっさと城に戻ろう。遅くなってしまったがゆえに父上には叱られるだろうが、そればかりは甘んじて受ける事にするさ」
イスヴァンは城に戻るように促してくる。これにはアリスたちも賛成だ。ギルソンやマリカの安全を考えれば、1秒でも早く城に戻るべきである。
しかし、この早さで戻ってくるとは思ってなかったのか、馬車の手配がなされていなかったのだ。しかも、駅と城の位置は結構離れてしまっている。ここから歩いて戻るにも結構時間が掛かってしまうのは確実だった。
ところが、ここは門からそう遠くない場所だった。というわけで、門番に言って馬車を用意してもらうように手配した。待つ事10数分、馬車を連れて兵士たちが戻ってきたのだった。
「お帰りなさいませ、イスヴァン皇子殿下。僭越ながら、我らが国境警備兵が殿下方をお城まで送らせて頂きます」
「うむ、頼んだぞ」
「はっ、お任せ下さいませ」
というわけで、アリスたちは国境警備兵が操る馬車で城まで戻る事ができたのだ。なかなかに慌ただしい一日だったのだが、さすがに時間が時間ゆえに、今日の事をクリムに報告するのは結局翌日となってしまったのだった。
なんとか夕食を取る事はできたものの、その日は簡単にアリスやジャスミンから洗浄の魔法を掛けてもらって、ギルソンとマリカは眠りに就いたのだった。
翌日、皇帝一家の朝食の席に居合わせる事となったギルソンとマリカ。ギルソンは王族として堂々としているものの、マリカの方はガッチガチに固くなっていた。
「イスヴァンよ」
「はい、父上」
食事の席で、クリムから声を掛けられるイスヴァン。
「鉄道とやらはどうだったか?」
どうやらクリムも結果は気になっているようだった。
「はい、国境のシドールまでものの4時間で駆け抜けておりました。途中では通常通る街道とは違う湖の付近を通りましたが、そこも問題なく駆け抜けておりました」
イスヴァンが報告を始める。
「ついでにとは言っては何ですが、路線のチェックと共に国境の警備にあたる兵士の交代も行ってきております。交代人員は昨夜一緒に戻ってきておりますゆえ、実際にシドールまで向かった事は彼らに確認を取って頂ければ事実と分かります」
「ふむ」
報告を聞き終わったクリムは、ただただ静かに何かを考えるように黙り込んでいた。
「改めて問う」
ぽつりとクリムが呟く。
「鉄道によってお前たちは何をこの帝国に何をもたらしてくれる?」
ぎろりと鋭い視線を向けるクリム。マリカはさすがにその視線に震え上がったものの、ギルソンたちはまったく動じなかった。
「そうですね。まずは先日もお話しした通り、我が国の鉱山からの鉱石が他の国より圧倒的に早く手に入ります」
ギルソンは11歳ながらにも、クリムの威圧にまったく怯まずに話をしている。
「二つ目は、貴国の今まで取引できなかった腐りやすい物を、鉄道とオートマタの魔法で素早く我が国へ輸出する事ができるようになります」
「それは確かに聞いたな」
クリムは確認するように言う。
「そして、人員の行き来も楽になります。イスヴァン殿下も仰られていた通り、私どもの国の学園に通われていても、その日のうちに皇帝陛下の元に帰る事ができます。それを考えれば、お互いの国で誇る技術を学んで、すぐさま国に持ちかえる事もできるというわけです」
「……」
ギルソンの説明に、クリムは黙り込んでしまった。確かに、技術を得られるというのは大きいのだ。
「ボクは面白いと思っているんですよ。敵同士だった両国が手を取り合う事で、新しい何が生まれるんじゃないかと思うんです」
ギルソンがこう言い切ると、しばらく場が沈黙する。そして、堰を切ったようにクリムが笑い始めた。
「くははははははっ! 面白い事を言ってくれるな、ファルーダンの末の小童よ」
クリムが顎を触りながら、ギルソンの方をじっといている。
「武力と農作物だけでのし上がってきた国だからなぁ、こっちは」
歯茎が見えるくらいにいい笑顔をしているクリムだが、相変わらずの威圧感がある。
「おう、来年からうちの息子が世話になるついでだ、一度そっちに出向いてやろうじゃねえか。俺だって話のできる男だってのを見せやらあ」
「ち、父上!?」
予想外の展開にイスヴァンが動揺している。それはアリスやギルソンたちも同じだった。
「そっちは王女が二人居んだろう? こちとら、イスヴァンの一人しか子に恵まれなかったからな。そろそろ嫁選びもしてえってもんよ! がっはっはっはっはっ!」
まさかクリムにここまで興味を持たれるとは思ってもみなかった。そして、どんどん思ってもない方向へと話が進んできた。
「一週間だ。一週間後にまたお前たちが出向いて来い。そしたら、そっちに出向いて話をしてやる。イスヴァン、お前もだ」
こうして、クリムによって強引にトップ会談の約束をさせられてしまったアリスたちなのであった。一体、どうなってしまうというのだろうか。予想だにできない展開に、アリスは思わず頭が痛くなってしまうのだった。
「も、もう戻ってきたのか?」
「し、信じられないぜ……。俺たちさっきまでシドールに居たんだよな?」
国境警備にあたっていた兵士たちが、呆然と帝都の明かりを眺めながら呆けながら呟いている。
「さあ、さっさと城に戻ろう。遅くなってしまったがゆえに父上には叱られるだろうが、そればかりは甘んじて受ける事にするさ」
イスヴァンは城に戻るように促してくる。これにはアリスたちも賛成だ。ギルソンやマリカの安全を考えれば、1秒でも早く城に戻るべきである。
しかし、この早さで戻ってくるとは思ってなかったのか、馬車の手配がなされていなかったのだ。しかも、駅と城の位置は結構離れてしまっている。ここから歩いて戻るにも結構時間が掛かってしまうのは確実だった。
ところが、ここは門からそう遠くない場所だった。というわけで、門番に言って馬車を用意してもらうように手配した。待つ事10数分、馬車を連れて兵士たちが戻ってきたのだった。
「お帰りなさいませ、イスヴァン皇子殿下。僭越ながら、我らが国境警備兵が殿下方をお城まで送らせて頂きます」
「うむ、頼んだぞ」
「はっ、お任せ下さいませ」
というわけで、アリスたちは国境警備兵が操る馬車で城まで戻る事ができたのだ。なかなかに慌ただしい一日だったのだが、さすがに時間が時間ゆえに、今日の事をクリムに報告するのは結局翌日となってしまったのだった。
なんとか夕食を取る事はできたものの、その日は簡単にアリスやジャスミンから洗浄の魔法を掛けてもらって、ギルソンとマリカは眠りに就いたのだった。
翌日、皇帝一家の朝食の席に居合わせる事となったギルソンとマリカ。ギルソンは王族として堂々としているものの、マリカの方はガッチガチに固くなっていた。
「イスヴァンよ」
「はい、父上」
食事の席で、クリムから声を掛けられるイスヴァン。
「鉄道とやらはどうだったか?」
どうやらクリムも結果は気になっているようだった。
「はい、国境のシドールまでものの4時間で駆け抜けておりました。途中では通常通る街道とは違う湖の付近を通りましたが、そこも問題なく駆け抜けておりました」
イスヴァンが報告を始める。
「ついでにとは言っては何ですが、路線のチェックと共に国境の警備にあたる兵士の交代も行ってきております。交代人員は昨夜一緒に戻ってきておりますゆえ、実際にシドールまで向かった事は彼らに確認を取って頂ければ事実と分かります」
「ふむ」
報告を聞き終わったクリムは、ただただ静かに何かを考えるように黙り込んでいた。
「改めて問う」
ぽつりとクリムが呟く。
「鉄道によってお前たちは何をこの帝国に何をもたらしてくれる?」
ぎろりと鋭い視線を向けるクリム。マリカはさすがにその視線に震え上がったものの、ギルソンたちはまったく動じなかった。
「そうですね。まずは先日もお話しした通り、我が国の鉱山からの鉱石が他の国より圧倒的に早く手に入ります」
ギルソンは11歳ながらにも、クリムの威圧にまったく怯まずに話をしている。
「二つ目は、貴国の今まで取引できなかった腐りやすい物を、鉄道とオートマタの魔法で素早く我が国へ輸出する事ができるようになります」
「それは確かに聞いたな」
クリムは確認するように言う。
「そして、人員の行き来も楽になります。イスヴァン殿下も仰られていた通り、私どもの国の学園に通われていても、その日のうちに皇帝陛下の元に帰る事ができます。それを考えれば、お互いの国で誇る技術を学んで、すぐさま国に持ちかえる事もできるというわけです」
「……」
ギルソンの説明に、クリムは黙り込んでしまった。確かに、技術を得られるというのは大きいのだ。
「ボクは面白いと思っているんですよ。敵同士だった両国が手を取り合う事で、新しい何が生まれるんじゃないかと思うんです」
ギルソンがこう言い切ると、しばらく場が沈黙する。そして、堰を切ったようにクリムが笑い始めた。
「くははははははっ! 面白い事を言ってくれるな、ファルーダンの末の小童よ」
クリムが顎を触りながら、ギルソンの方をじっといている。
「武力と農作物だけでのし上がってきた国だからなぁ、こっちは」
歯茎が見えるくらいにいい笑顔をしているクリムだが、相変わらずの威圧感がある。
「おう、来年からうちの息子が世話になるついでだ、一度そっちに出向いてやろうじゃねえか。俺だって話のできる男だってのを見せやらあ」
「ち、父上!?」
予想外の展開にイスヴァンが動揺している。それはアリスやギルソンたちも同じだった。
「そっちは王女が二人居んだろう? こちとら、イスヴァンの一人しか子に恵まれなかったからな。そろそろ嫁選びもしてえってもんよ! がっはっはっはっはっ!」
まさかクリムにここまで興味を持たれるとは思ってもみなかった。そして、どんどん思ってもない方向へと話が進んできた。
「一週間だ。一週間後にまたお前たちが出向いて来い。そしたら、そっちに出向いて話をしてやる。イスヴァン、お前もだ」
こうして、クリムによって強引にトップ会談の約束をさせられてしまったアリスたちなのであった。一体、どうなってしまうというのだろうか。予想だにできない展開に、アリスは思わず頭が痛くなってしまうのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる