転生オートマタ

未羊

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Mission058

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 アリスたちが駅に戻ると、マリカがジャスミンと一緒に住民たちにもみくちゃにされていた。どうやら鉄道の事で住民たちから説明を求められていたらしい。しがない11歳の少女が目を回しているが、ジャスミンが丁寧に対応していてそれほど問題は起きていなかった。まあ、他の使節団の面々も居たのは幸いだ。
「お、お帰りなさいませ、ギルソン殿下」
 ギルソンを見つけたマリカは、助けを求めるようにギルソンに声を掛けてきた。無理もない話だ。
「マリカ、ご苦労だったね。イスヴァン殿下もしばらくすると戻ってくる。それにしても、ずいぶんと街の人に囲まれていたようだけど、問題はなかったかい?」
「は、はい。鉄道に関していろいろと聞かれましたが、私の分かる範囲で説明をしておりました」
 ギルソンから状況を確認されたマリカは、必死に落ち着きながら事情を説明している。その間は、ジャスミンと同行していた使節団の面々で住民に対応している。住民たちは突如として現れた巨大な鉄の塊に興味津々なのである。
 そこへ、話を終えたギルソンとアリスがやって来る。
「これはこれは、シドールの街の皆さん。ボクは隣国ファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。この度は、マスカード帝国との友好の証である鉄道を見にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
 11歳ながらに堂々と振る舞うギルソン。目の前の少年が、まさかファルーダンの王子だなんて思っていなかった住民たちは、驚いて騒ぎ出している。ファルーダンをよく思わない一部の住民は、ここでギルソンを襲いたいと思っているが、オートマタが少なくとも四体居る上に、自国の皇子であるイスヴァンまで来ている状況では迂闊に手出しはできなかった。なにせ、イスヴァンとギルソンは仲がよさそうに話していたからだ。下手な事をしてイスヴァンの不興を買う方が、自分たちにとってマイナスなのである。しがない平民たちとはいっても、そういう考えに至るくらいには頭は回るようだった。
「この鉄道を使えば、ここからマスカードの帝都まで4時間、ファルーダンの王都までは6時間で着くんですよ。すごいと思いませんか?」
 ギルソンがこんな事を言うものだから、どよどよと集まった住民たちが騒ぎ出した。そりゃ簡単に信じられるわけがないのである。
 だが、そうやって住民が騒げたのも束の間。すぐに黙り込む事態となった。それというのも、
「どうしたんだ。一体何を騒いでいる」
 イスヴァンが大臣とともに、交代した兵士を引き連れて戻ってきたのである。イスヴァンが現れると同時に、住民たちはぴたりと騒ぎ声が収まる。すごい反応速度だ。
「今しがたギルソンが話した事は事実だぞ。まあ、途中での停車時間を削ったから、実質的には4時間よりも早くここにたどり着いたのだがな。これがあれば、来年からファルーダンの学園に通ってもすぐさま国に戻ってこれる。父上はあまり信用していないようだが、実際にこれに乗った事がある俺はこの事業を推進しようと思っている。今まで対外的に輸出できなかった物も、オートマタどもの持つ魔法と組み合わせれば輸出できるようになるだろう」
 イスヴァンがちょっと長めに語った内容に、驚きによるどよめきが起きている。今までは出入国にあたって審査も含めて5日以上も掛かっていたのが、半日程度しか掛からなくなるのだ。そうなれば、いろいろと夢を見たくなるものである。住民たちの目の色が変わり始める。
「正直言って、出入国の検査方法とかいろいろ問題点はあるだろうが、できる限り早く開業をしたいと思う。なあ、ギルソン?」
 住民に向けて演説をしていたかと思うと、イスヴァンが唐突にギルソンに話を振ってきた。これには面食らったギルソンだったが、それに対してにこりと微笑みを浮かべて無言で答えていた。
 それにしても、シドールの街の住民たちは、目の前の光景が実に信じられなかった。敵対しているという噂があるマスカードの皇子とファルーダンの王子がこうやって笑顔で話をし合っているのだから。
 しかし、その一方で安心しているのも事実である。なにせシドールの街はファルーダンと国境を接している。何かあれば真っ先に戦渦に巻き込まれてしまうのだから、両国間に穏やかな空気が流れている事に胸を撫で下ろさずにはいられないのだ。そして、この様子を見ていた住民たちは、その平和な状況を築いてくれた鉄道というものを、あっさりと受け入れる事態になったのである。
 こうして、思いの外スムーズに事が運んだ鉄道建設のための交渉。ここからさらにどれだけの両国間の和平へ向けた動きを見せられるのだろうか。新たな取引品目を決めるための交渉など、まだまだやる事は盛りだくさんなのである。
 シドールの街で国境警備の兵士の業務引継ぎをした後は、一度国境を越えてストライの街まで行った後、来た道を引き返してマスカード帝国の帝都まで戻っていったのだった。その途中で見た湖は、夕日を反射してキラキラと光り輝いており、ギルソンとイスヴァンはそのあまりに美しい光景に見惚れていたのだった。
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