59 / 170
Mission058
しおりを挟む
アリスたちが駅に戻ると、マリカがジャスミンと一緒に住民たちにもみくちゃにされていた。どうやら鉄道の事で住民たちから説明を求められていたらしい。しがない11歳の少女が目を回しているが、ジャスミンが丁寧に対応していてそれほど問題は起きていなかった。まあ、他の使節団の面々も居たのは幸いだ。
「お、お帰りなさいませ、ギルソン殿下」
ギルソンを見つけたマリカは、助けを求めるようにギルソンに声を掛けてきた。無理もない話だ。
「マリカ、ご苦労だったね。イスヴァン殿下もしばらくすると戻ってくる。それにしても、ずいぶんと街の人に囲まれていたようだけど、問題はなかったかい?」
「は、はい。鉄道に関していろいろと聞かれましたが、私の分かる範囲で説明をしておりました」
ギルソンから状況を確認されたマリカは、必死に落ち着きながら事情を説明している。その間は、ジャスミンと同行していた使節団の面々で住民に対応している。住民たちは突如として現れた巨大な鉄の塊に興味津々なのである。
そこへ、話を終えたギルソンとアリスがやって来る。
「これはこれは、シドールの街の皆さん。ボクは隣国ファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。この度は、マスカード帝国との友好の証である鉄道を見にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
11歳ながらに堂々と振る舞うギルソン。目の前の少年が、まさかファルーダンの王子だなんて思っていなかった住民たちは、驚いて騒ぎ出している。ファルーダンをよく思わない一部の住民は、ここでギルソンを襲いたいと思っているが、オートマタが少なくとも四体居る上に、自国の皇子であるイスヴァンまで来ている状況では迂闊に手出しはできなかった。なにせ、イスヴァンとギルソンは仲がよさそうに話していたからだ。下手な事をしてイスヴァンの不興を買う方が、自分たちにとってマイナスなのである。しがない平民たちとはいっても、そういう考えに至るくらいには頭は回るようだった。
「この鉄道を使えば、ここからマスカードの帝都まで4時間、ファルーダンの王都までは6時間で着くんですよ。すごいと思いませんか?」
ギルソンがこんな事を言うものだから、どよどよと集まった住民たちが騒ぎ出した。そりゃ簡単に信じられるわけがないのである。
だが、そうやって住民が騒げたのも束の間。すぐに黙り込む事態となった。それというのも、
「どうしたんだ。一体何を騒いでいる」
イスヴァンが大臣とともに、交代した兵士を引き連れて戻ってきたのである。イスヴァンが現れると同時に、住民たちはぴたりと騒ぎ声が収まる。すごい反応速度だ。
「今しがたギルソンが話した事は事実だぞ。まあ、途中での停車時間を削ったから、実質的には4時間よりも早くここにたどり着いたのだがな。これがあれば、来年からファルーダンの学園に通ってもすぐさま国に戻ってこれる。父上はあまり信用していないようだが、実際にこれに乗った事がある俺はこの事業を推進しようと思っている。今まで対外的に輸出できなかった物も、オートマタどもの持つ魔法と組み合わせれば輸出できるようになるだろう」
イスヴァンがちょっと長めに語った内容に、驚きによるどよめきが起きている。今までは出入国にあたって審査も含めて5日以上も掛かっていたのが、半日程度しか掛からなくなるのだ。そうなれば、いろいろと夢を見たくなるものである。住民たちの目の色が変わり始める。
「正直言って、出入国の検査方法とかいろいろ問題点はあるだろうが、できる限り早く開業をしたいと思う。なあ、ギルソン?」
住民に向けて演説をしていたかと思うと、イスヴァンが唐突にギルソンに話を振ってきた。これには面食らったギルソンだったが、それに対してにこりと微笑みを浮かべて無言で答えていた。
それにしても、シドールの街の住民たちは、目の前の光景が実に信じられなかった。敵対しているという噂があるマスカードの皇子とファルーダンの王子がこうやって笑顔で話をし合っているのだから。
しかし、その一方で安心しているのも事実である。なにせシドールの街はファルーダンと国境を接している。何かあれば真っ先に戦渦に巻き込まれてしまうのだから、両国間に穏やかな空気が流れている事に胸を撫で下ろさずにはいられないのだ。そして、この様子を見ていた住民たちは、その平和な状況を築いてくれた鉄道というものを、あっさりと受け入れる事態になったのである。
こうして、思いの外スムーズに事が運んだ鉄道建設のための交渉。ここからさらにどれだけの両国間の和平へ向けた動きを見せられるのだろうか。新たな取引品目を決めるための交渉など、まだまだやる事は盛りだくさんなのである。
シドールの街で国境警備の兵士の業務引継ぎをした後は、一度国境を越えてストライの街まで行った後、来た道を引き返してマスカード帝国の帝都まで戻っていったのだった。その途中で見た湖は、夕日を反射してキラキラと光り輝いており、ギルソンとイスヴァンはそのあまりに美しい光景に見惚れていたのだった。
「お、お帰りなさいませ、ギルソン殿下」
ギルソンを見つけたマリカは、助けを求めるようにギルソンに声を掛けてきた。無理もない話だ。
「マリカ、ご苦労だったね。イスヴァン殿下もしばらくすると戻ってくる。それにしても、ずいぶんと街の人に囲まれていたようだけど、問題はなかったかい?」
「は、はい。鉄道に関していろいろと聞かれましたが、私の分かる範囲で説明をしておりました」
ギルソンから状況を確認されたマリカは、必死に落ち着きながら事情を説明している。その間は、ジャスミンと同行していた使節団の面々で住民に対応している。住民たちは突如として現れた巨大な鉄の塊に興味津々なのである。
そこへ、話を終えたギルソンとアリスがやって来る。
「これはこれは、シドールの街の皆さん。ボクは隣国ファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。この度は、マスカード帝国との友好の証である鉄道を見にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
11歳ながらに堂々と振る舞うギルソン。目の前の少年が、まさかファルーダンの王子だなんて思っていなかった住民たちは、驚いて騒ぎ出している。ファルーダンをよく思わない一部の住民は、ここでギルソンを襲いたいと思っているが、オートマタが少なくとも四体居る上に、自国の皇子であるイスヴァンまで来ている状況では迂闊に手出しはできなかった。なにせ、イスヴァンとギルソンは仲がよさそうに話していたからだ。下手な事をしてイスヴァンの不興を買う方が、自分たちにとってマイナスなのである。しがない平民たちとはいっても、そういう考えに至るくらいには頭は回るようだった。
「この鉄道を使えば、ここからマスカードの帝都まで4時間、ファルーダンの王都までは6時間で着くんですよ。すごいと思いませんか?」
ギルソンがこんな事を言うものだから、どよどよと集まった住民たちが騒ぎ出した。そりゃ簡単に信じられるわけがないのである。
だが、そうやって住民が騒げたのも束の間。すぐに黙り込む事態となった。それというのも、
「どうしたんだ。一体何を騒いでいる」
イスヴァンが大臣とともに、交代した兵士を引き連れて戻ってきたのである。イスヴァンが現れると同時に、住民たちはぴたりと騒ぎ声が収まる。すごい反応速度だ。
「今しがたギルソンが話した事は事実だぞ。まあ、途中での停車時間を削ったから、実質的には4時間よりも早くここにたどり着いたのだがな。これがあれば、来年からファルーダンの学園に通ってもすぐさま国に戻ってこれる。父上はあまり信用していないようだが、実際にこれに乗った事がある俺はこの事業を推進しようと思っている。今まで対外的に輸出できなかった物も、オートマタどもの持つ魔法と組み合わせれば輸出できるようになるだろう」
イスヴァンがちょっと長めに語った内容に、驚きによるどよめきが起きている。今までは出入国にあたって審査も含めて5日以上も掛かっていたのが、半日程度しか掛からなくなるのだ。そうなれば、いろいろと夢を見たくなるものである。住民たちの目の色が変わり始める。
「正直言って、出入国の検査方法とかいろいろ問題点はあるだろうが、できる限り早く開業をしたいと思う。なあ、ギルソン?」
住民に向けて演説をしていたかと思うと、イスヴァンが唐突にギルソンに話を振ってきた。これには面食らったギルソンだったが、それに対してにこりと微笑みを浮かべて無言で答えていた。
それにしても、シドールの街の住民たちは、目の前の光景が実に信じられなかった。敵対しているという噂があるマスカードの皇子とファルーダンの王子がこうやって笑顔で話をし合っているのだから。
しかし、その一方で安心しているのも事実である。なにせシドールの街はファルーダンと国境を接している。何かあれば真っ先に戦渦に巻き込まれてしまうのだから、両国間に穏やかな空気が流れている事に胸を撫で下ろさずにはいられないのだ。そして、この様子を見ていた住民たちは、その平和な状況を築いてくれた鉄道というものを、あっさりと受け入れる事態になったのである。
こうして、思いの外スムーズに事が運んだ鉄道建設のための交渉。ここからさらにどれだけの両国間の和平へ向けた動きを見せられるのだろうか。新たな取引品目を決めるための交渉など、まだまだやる事は盛りだくさんなのである。
シドールの街で国境警備の兵士の業務引継ぎをした後は、一度国境を越えてストライの街まで行った後、来た道を引き返してマスカード帝国の帝都まで戻っていったのだった。その途中で見た湖は、夕日を反射してキラキラと光り輝いており、ギルソンとイスヴァンはそのあまりに美しい光景に見惚れていたのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~
豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった!
食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪
※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。
※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。
※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。
※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる