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Mission057
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駅でしばらく街の住民たちに囲まれていたイスヴァンだったが、鉄道の素晴らしさを目を輝かせて説いていた。さすがに皇子の言葉とはいえど、街の人たちはにわかに信じられなかったようで、イスヴァンがちょっと機嫌を損ね始めていた。さすがにこのままではやばそうだった。
それだったらばと、アリスは帝都に用事のある人に、帰りに乗ってもらおうと提案をしていた。実際の乗れば納得するだろうし、どのみちアリスたちがファルーダンに戻る際に、もう一度シドールの街に寄るから送り迎えができるのだ。
とりあえずそのように決定したので、そちらの事はマリカとジャスミンたちに任せておく。アリスとギルソンは、イスヴァンと大臣と一緒に国境まで移動して、兵士の交代を見届ける事にしたのだった。
シドールの街の駅から歩く事20分程度、アリスたちは国境の大きな壁に到着する。アリスたちの歩いてきた場所は、ちょうど鉄道の高架の真下であって、雨にも日の光にも当たる事なく移動できるようになっていた。その代わり、明かり取りとして魔物の魔石を使った照明が連なっていた。魔物の魔石も魔法石ほどではないものの、魔法の力を有している。それを使って街道を照らしているのである。しかし、仕組みはよく分かっていない。だが、ファルーダンではオートマタを扱う技術の応用で実用化の域に到達しているのであった。
実はこれも、アリスの前世である機械技師の知識の応用である。魔物の魔石は蛍光灯や白熱灯のような照明に、電池の役割を果たすのが魔法石である。それを魔力伝導力の高い金属で繋げて、光らせているのである。つまり、この仕組みをしっかり理解できているのはアリスだけで、他のファルーダンの技師たちは、そういうものなんだという認識程度でいるのである。そんな認識で大丈夫か?
数日前にアリスがやって来てこの作業を完了させていったわけなのだが、その際には国境警備の兵士たちも驚いたという。何もないところから一気に地面が盛り上がり、このような建築物ができてしまったのだから。そして、ちゃっちゃと明かりまで付けて一礼をして去っていったのだから、マスカード帝国の国境警備の兵士たちは呆然としたものだった。
そのアリスが、イスヴァンに続いて国境へと再び姿を現した。つい先日の事があったせいで、兵士たちはつい警戒をしてしまう。
「国境の警備、ご苦労だな」
警戒する兵士たちに、イスヴァンは労いの言葉を掛ける。
「はっ、国境、異常なしでございます! ……頭上を除いては」
兵士たちは敬礼をしてイスヴァンに現状を報告する。少し声を小さめにして追加で報告した内容に、この兵士たちの悔しさが滲み出ている。
「うむ、平和なのは実に喜ばしい限りだ」
イスヴァンはそのように声を掛けると、後ろを振り向いて交代で警備にあたる兵士を前に出させた。
「俺たちと一緒に交代の兵士を連れてきた。これから帝都に戻るのは誰だ?」
イスヴァンが厳しい顔で声を掛けると、
「はっ、自分と隣に居るガルでございます」
警備兵の一人が答えた。
「そうか。ではすぐに荷物をまとめて帰れるようにしておけ。今日中には帝都に戻れるからな」
「で、殿下。何を仰りますか。帝都までは馬ですら3日掛かりますぞ」
イスヴァンの言葉に苦言を言う兵士を、イスヴァンと隣に立つ大臣が睨む。すると、その兵士は「ひっ!」と一歩後退った。
「お前は、この俺が嘘を言っているというのか? 第一、俺たちは今朝方帝都を出てきたのだぞ?」
「そ、そんなバカな……」
「お前、殿下が嘘を仰るわけがないだろうが。俺たちが証人だ!」
ショックを受けまくる兵士に、交代でやって来た兵士が怒鳴りつける。イスヴァンと一緒にやって来た兵士たちなのだから、これ以上ない証人である。ここまで言われてしまえば、帝都に帰る兵士はもう黙るしかなかった。
「まあまあ、誰だって最初は信じられるわけがないんです。イスヴァン殿下もそうでしたものね」
「ふっ、確かにそうだな。式典に呼ばれた際に初めて乗って、すごく衝撃を受けた事を未だに鮮明に覚えているよ」
ギルソンもイスヴァンもいい笑顔で話をしている。
「誰も信じないだろうな。マスカードの帝都とファルーダンの王都が半日で移動できるようになるなんてな」
「ええ、まったくですね」
二人は大声で笑っている。その仲がよさそうな様子に、国境の警備にあたる兵士たちはただただ呆然と見守る事しかできなかった。イスヴァンが他国の王族と楽しそうに話しているなんて想像できなかったのである。
「それでは、無事に引き継ぎが終わりましたら、駅に戻りましょう。ジャスミンが居るからとはいっても、マリカ様の事が心配ですからね」
「そうですね。それでは、ボクたちは一足先に戻っていますね」
「ああ、そうしてくれ。すぐに追いかける」
というわけで、イスヴァンは国境警備の兵士の交代を見届けるために、もうしばらくその場に残る事になった。アリスはギルソンと一緒に、シドールの駅まで一足先に戻っていったのだった。
それだったらばと、アリスは帝都に用事のある人に、帰りに乗ってもらおうと提案をしていた。実際の乗れば納得するだろうし、どのみちアリスたちがファルーダンに戻る際に、もう一度シドールの街に寄るから送り迎えができるのだ。
とりあえずそのように決定したので、そちらの事はマリカとジャスミンたちに任せておく。アリスとギルソンは、イスヴァンと大臣と一緒に国境まで移動して、兵士の交代を見届ける事にしたのだった。
シドールの街の駅から歩く事20分程度、アリスたちは国境の大きな壁に到着する。アリスたちの歩いてきた場所は、ちょうど鉄道の高架の真下であって、雨にも日の光にも当たる事なく移動できるようになっていた。その代わり、明かり取りとして魔物の魔石を使った照明が連なっていた。魔物の魔石も魔法石ほどではないものの、魔法の力を有している。それを使って街道を照らしているのである。しかし、仕組みはよく分かっていない。だが、ファルーダンではオートマタを扱う技術の応用で実用化の域に到達しているのであった。
実はこれも、アリスの前世である機械技師の知識の応用である。魔物の魔石は蛍光灯や白熱灯のような照明に、電池の役割を果たすのが魔法石である。それを魔力伝導力の高い金属で繋げて、光らせているのである。つまり、この仕組みをしっかり理解できているのはアリスだけで、他のファルーダンの技師たちは、そういうものなんだという認識程度でいるのである。そんな認識で大丈夫か?
数日前にアリスがやって来てこの作業を完了させていったわけなのだが、その際には国境警備の兵士たちも驚いたという。何もないところから一気に地面が盛り上がり、このような建築物ができてしまったのだから。そして、ちゃっちゃと明かりまで付けて一礼をして去っていったのだから、マスカード帝国の国境警備の兵士たちは呆然としたものだった。
そのアリスが、イスヴァンに続いて国境へと再び姿を現した。つい先日の事があったせいで、兵士たちはつい警戒をしてしまう。
「国境の警備、ご苦労だな」
警戒する兵士たちに、イスヴァンは労いの言葉を掛ける。
「はっ、国境、異常なしでございます! ……頭上を除いては」
兵士たちは敬礼をしてイスヴァンに現状を報告する。少し声を小さめにして追加で報告した内容に、この兵士たちの悔しさが滲み出ている。
「うむ、平和なのは実に喜ばしい限りだ」
イスヴァンはそのように声を掛けると、後ろを振り向いて交代で警備にあたる兵士を前に出させた。
「俺たちと一緒に交代の兵士を連れてきた。これから帝都に戻るのは誰だ?」
イスヴァンが厳しい顔で声を掛けると、
「はっ、自分と隣に居るガルでございます」
警備兵の一人が答えた。
「そうか。ではすぐに荷物をまとめて帰れるようにしておけ。今日中には帝都に戻れるからな」
「で、殿下。何を仰りますか。帝都までは馬ですら3日掛かりますぞ」
イスヴァンの言葉に苦言を言う兵士を、イスヴァンと隣に立つ大臣が睨む。すると、その兵士は「ひっ!」と一歩後退った。
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「そ、そんなバカな……」
「お前、殿下が嘘を仰るわけがないだろうが。俺たちが証人だ!」
ショックを受けまくる兵士に、交代でやって来た兵士が怒鳴りつける。イスヴァンと一緒にやって来た兵士たちなのだから、これ以上ない証人である。ここまで言われてしまえば、帝都に帰る兵士はもう黙るしかなかった。
「まあまあ、誰だって最初は信じられるわけがないんです。イスヴァン殿下もそうでしたものね」
「ふっ、確かにそうだな。式典に呼ばれた際に初めて乗って、すごく衝撃を受けた事を未だに鮮明に覚えているよ」
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「誰も信じないだろうな。マスカードの帝都とファルーダンの王都が半日で移動できるようになるなんてな」
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二人は大声で笑っている。その仲がよさそうな様子に、国境の警備にあたる兵士たちはただただ呆然と見守る事しかできなかった。イスヴァンが他国の王族と楽しそうに話しているなんて想像できなかったのである。
「それでは、無事に引き継ぎが終わりましたら、駅に戻りましょう。ジャスミンが居るからとはいっても、マリカ様の事が心配ですからね」
「そうですね。それでは、ボクたちは一足先に戻っていますね」
「ああ、そうしてくれ。すぐに追いかける」
というわけで、イスヴァンは国境警備の兵士の交代を見届けるために、もうしばらくその場に残る事になった。アリスはギルソンと一緒に、シドールの駅まで一足先に戻っていったのだった。
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