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Mission053
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謁見の間に入り、目の前の玉座に座するは、マスカード帝国皇帝クリム・ゾ・マスカードその人だ。イスヴァンの父親にして、広大な国土を支配する激情の皇帝である。座る姿それだけで、威圧感が半端ではなかった。
年齢として40過ぎたところだろう。ただ、頭髪にかなりの白髪が混ざっているあたり、相当な苦労人である事が窺えた。
「よく遠いところをやって来たな、余がクリム・ゾ・マスカードだ」
一応労ってくるあたり、それほどまでには嫌われていないようである。にしても、言葉に圧があり過ぎて、マリカが涙目になっている。さすがに11歳の少女には厳し過ぎただろうか。
ところが、ギルソンの方はしっかりと前を見ていた。末弟となる五男とはいえど、王族に名を連ねる以上、堂々とせざるを得ないのである。
「お初にお目に掛かります。ボクはファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します」
マスカード帝国の皇帝の威圧にも負けず、ギルソンは自己紹介をする。
「こちらはボクのオートマタであるアリス。こちらの少女は今回の使節団の補佐を務めるマリカ・オリハーン騎士爵令嬢で、その隣はそのオートマタのジャスミンでございます」
続けて、ギルソンはアリスたちの紹介も行う。よく見れば今回の面々は子どもばかりであり、大人が居るかと思えばオートマタであった。その状況を見たクリムは顔を顰めていた。
「はっ、ガキどもを使いに寄こすとは、ファルーダンは余たちを甘く見ているのか?」
クリムは一気に不機嫌になり、ギルソンを強く睨んだ。横ではマリカがもの凄く震えており、ジャスミンがそれを支えていた。
「いえ、そうではございません。今回お伝えする内容を鑑みるに、ボクたちが適任であると判断されただけでございます。決して、皇帝陛下の事を軽んじているわけではございません」
ギルソンは冷静にクリムの反応に言葉を切り返していた。これは11歳とは思えないくらいの堂々とした見事な対応である。
「実は、このマスカード帝国の帝都まで、鉄道を敷く許可を頂きたいのです。ファルーダン王国内はすでに国境まで敷設済みですので、マスカード帝国内の許可さえ下りれば、あっという間に繋げられるようになっています」
「それに、余たちはどのような利点があるというのだ?」
間髪入れずにクリムの声が重く響き渡る。だが、ギルソンはこの質問は想定内だ。すぐに次の言葉を繰り出す。
「まず、ファルーダン王国随一の鉱山であるツェンからほぼ丸一日で鉱石を仕入れる事が可能です。運ぶための列車を運転するのはオートマタですから、休みなく動く事が可能ですからね」
「ほぉ……」
ギルソンの提示した一つ目の利点に、クリムは一言だけ反応する。
「二つ目に、帝国内で生産される食品類をオートマタの魔法を併用する事によって、素早くファルーダンへと輸出する事が可能でございます。今までは腐りにくい物しか取引できませんでしたが、これにより生肉などの腐りやすい物も取引できるようになります。鉄道が開業すれば、帝都と王都の間が半日も掛からずに移動可能になりますからね」
「……そんな事が可能なのか?」
ギルソンの説明に、クリムは興味ありげに口数少なく反応した。
「親父、俺が実際にその鉄道とやらに乗ってきて体験してきたからな。馬車で10日も掛かる道のりが半日程度だったんだぞ。来年には俺はファルーダンの学園に行く事になるが、鉄道ができれば気軽に帰ってこれるんだ。悪くない話だと思うぞ!」
興奮気味に話すイスヴァンである。まあ、実際に乗って経験しているというのは大きなものだ。イスヴァンの性格を考えると、ここまで興奮気味に話すという事はまずありえない事なので、これは事実だという風に考えられるのだった。
普段ならくだらないと突っぱねる事の多いクリムだったが、さすがに息子であるイスヴァンの態度は軽視できるものではなかった。
しばらく考えたクリムだったが、取引の幅が拡大できるというのであれば、ファルーダンの内部に再び自国の影響を与えられる事になる。野心家であるクリムは、最終的に受け入れない理由はないと判断した。
「よかろう。そこまで言うのであれば、その鉄道とやらを国境からこの帝都まで敷くがよい。ただし、最短距離で結べ」
クリムはギルソンたちにそう言い渡した。
「はっ、ありがたく存じます。こちらから出向いてきた以上、皇帝陛下の満足のいくような結果を出させて頂きます」
ギルソンはへりくだっている。数年前まではファルーダンなど、簡単に消し飛ぶような国だったわけだし、今回は鉄道の敷設の許可を貰いに来ているのだからこの態度は当然なのである。
こんな感じで、思ったよりもあっさり建設許可が出たので、ギルソンはアリスに建設を任せる事にした。その前に、マスカード帝国のその辺りの関係者と話をしておく必要があるので、クリムが退席した後は会議室へと移動となった。
さて、これでいよいよファルーダン王国の王都とマスカード帝国の帝都が鉄道で結ばれる事になる。この後の両国の関係性を決定づける一大イベントだ。アリスにますます気合いが入るのであった。
年齢として40過ぎたところだろう。ただ、頭髪にかなりの白髪が混ざっているあたり、相当な苦労人である事が窺えた。
「よく遠いところをやって来たな、余がクリム・ゾ・マスカードだ」
一応労ってくるあたり、それほどまでには嫌われていないようである。にしても、言葉に圧があり過ぎて、マリカが涙目になっている。さすがに11歳の少女には厳し過ぎただろうか。
ところが、ギルソンの方はしっかりと前を見ていた。末弟となる五男とはいえど、王族に名を連ねる以上、堂々とせざるを得ないのである。
「お初にお目に掛かります。ボクはファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します」
マスカード帝国の皇帝の威圧にも負けず、ギルソンは自己紹介をする。
「こちらはボクのオートマタであるアリス。こちらの少女は今回の使節団の補佐を務めるマリカ・オリハーン騎士爵令嬢で、その隣はそのオートマタのジャスミンでございます」
続けて、ギルソンはアリスたちの紹介も行う。よく見れば今回の面々は子どもばかりであり、大人が居るかと思えばオートマタであった。その状況を見たクリムは顔を顰めていた。
「はっ、ガキどもを使いに寄こすとは、ファルーダンは余たちを甘く見ているのか?」
クリムは一気に不機嫌になり、ギルソンを強く睨んだ。横ではマリカがもの凄く震えており、ジャスミンがそれを支えていた。
「いえ、そうではございません。今回お伝えする内容を鑑みるに、ボクたちが適任であると判断されただけでございます。決して、皇帝陛下の事を軽んじているわけではございません」
ギルソンは冷静にクリムの反応に言葉を切り返していた。これは11歳とは思えないくらいの堂々とした見事な対応である。
「実は、このマスカード帝国の帝都まで、鉄道を敷く許可を頂きたいのです。ファルーダン王国内はすでに国境まで敷設済みですので、マスカード帝国内の許可さえ下りれば、あっという間に繋げられるようになっています」
「それに、余たちはどのような利点があるというのだ?」
間髪入れずにクリムの声が重く響き渡る。だが、ギルソンはこの質問は想定内だ。すぐに次の言葉を繰り出す。
「まず、ファルーダン王国随一の鉱山であるツェンからほぼ丸一日で鉱石を仕入れる事が可能です。運ぶための列車を運転するのはオートマタですから、休みなく動く事が可能ですからね」
「ほぉ……」
ギルソンの提示した一つ目の利点に、クリムは一言だけ反応する。
「二つ目に、帝国内で生産される食品類をオートマタの魔法を併用する事によって、素早くファルーダンへと輸出する事が可能でございます。今までは腐りにくい物しか取引できませんでしたが、これにより生肉などの腐りやすい物も取引できるようになります。鉄道が開業すれば、帝都と王都の間が半日も掛からずに移動可能になりますからね」
「……そんな事が可能なのか?」
ギルソンの説明に、クリムは興味ありげに口数少なく反応した。
「親父、俺が実際にその鉄道とやらに乗ってきて体験してきたからな。馬車で10日も掛かる道のりが半日程度だったんだぞ。来年には俺はファルーダンの学園に行く事になるが、鉄道ができれば気軽に帰ってこれるんだ。悪くない話だと思うぞ!」
興奮気味に話すイスヴァンである。まあ、実際に乗って経験しているというのは大きなものだ。イスヴァンの性格を考えると、ここまで興奮気味に話すという事はまずありえない事なので、これは事実だという風に考えられるのだった。
普段ならくだらないと突っぱねる事の多いクリムだったが、さすがに息子であるイスヴァンの態度は軽視できるものではなかった。
しばらく考えたクリムだったが、取引の幅が拡大できるというのであれば、ファルーダンの内部に再び自国の影響を与えられる事になる。野心家であるクリムは、最終的に受け入れない理由はないと判断した。
「よかろう。そこまで言うのであれば、その鉄道とやらを国境からこの帝都まで敷くがよい。ただし、最短距離で結べ」
クリムはギルソンたちにそう言い渡した。
「はっ、ありがたく存じます。こちらから出向いてきた以上、皇帝陛下の満足のいくような結果を出させて頂きます」
ギルソンはへりくだっている。数年前まではファルーダンなど、簡単に消し飛ぶような国だったわけだし、今回は鉄道の敷設の許可を貰いに来ているのだからこの態度は当然なのである。
こんな感じで、思ったよりもあっさり建設許可が出たので、ギルソンはアリスに建設を任せる事にした。その前に、マスカード帝国のその辺りの関係者と話をしておく必要があるので、クリムが退席した後は会議室へと移動となった。
さて、これでいよいよファルーダン王国の王都とマスカード帝国の帝都が鉄道で結ばれる事になる。この後の両国の関係性を決定づける一大イベントだ。アリスにますます気合いが入るのであった。
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