転生オートマタ

未羊

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Mission052

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 あれよあれよという間に話は進み、ギルソンをトップとする使節団がマスカード帝国へと出発する。
 国境の街ストライまでは列車で移動し、そこからは一緒に移動させた馬車を降ろして国境を超える。ちなみに王都とストライの間の鉄道の運行開始は、この使節団が戻ってからと決まった。アリスが居ないと話を進められないらしい。
 何気にギルソンとアリス、それとマリカがファルーダン王国から出るのは初めてである。
 ストライ駅を降りた一行は、国境の防壁まで移動する。そこには長く続く巨大な壁がそびえ立っており、その景観に圧倒されてしまう。だが、この大きな壁こそが、王国と帝国の仲の悪さを物語っているのだ。肥沃な農業地帯が広がる帝国と、鉱工業の発達している王国。それがゆえに王国は食糧を帝国に依存していたし、帝国は他国への侵攻を企てていたのだ。
 だが、アリスの登場によって、王国は帝国への食糧依存度が低下した。その事は帝国からの心証をかなり悪くした。実際、鉄道の開業式典に招待したイスヴァンと大臣の機嫌は、最初はものすごく悪かった。しかし、鉄道というものを見て、二人ともかなり態度が軟化したのだ。イスヴァンはなんとしても平和的にこの技術を取り込もうと、父親である皇帝に直訴するような事を言っていた。だが、正直不安な事も多いので、この使節団が組まれたのだ。最悪、イスヴァンが殺されている可能性もあるのだ。
「殿下、ここからはマスカード帝国の領地です。何があるか分かりませんので、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう。できる限りいい成果を父上に報告できるように、頑張ってきます」
 国境の警備兵からの声掛けに、ギルソンは気を引き締めた笑顔で答えていた。

 道中は問題なく、ギルソンたちはマスカード帝国の帝都へとたどり着いた。さすが軍事強国マスカードの帝都である。その都市規模や外観などは、ファルーダンの王都と比べても見劣りするものではなかった。
 ただ、ここに来るまでに通った街の数々は少々農村とも似た雰囲気があったので、地方にはあまり力を入れていないのかも知れない。
 帝都の少し小高くなっている場所に、皇帝の住まう城は鎮座していた。
「あれが、マスカード帝国の皇帝が住む城なのですね」
 ギルソンの表情が険しくなる。
 それも無理はない。マスカード帝国は常に戦争をしたがるような好戦的な国家なのだ。街道の沿線の街はそういった雰囲気はなかったが、皇帝はそれらしい雰囲気を持った人物である可能性が高い。
 ともかくとして、マスカード帝国に対していいイメージのないギルソンたちは、気を引き締めて城へと入っていった。
 城に入る事自体は、先触れを出していた事もあってまったくもってスムーズだった。そして、城に入ったところでギルソンたちを意外な人物が出迎えた。
「やあ、来たのかお前たち」
 イスヴァンだった。
「これはイスヴァン殿下。お久しぶりでございます」
 堂々と挨拶をするギルソン。とりあえず、イスヴァンは無事に過ごしているようだった。
「悪いな、鉄道に関して父上に話をしたのだが、聞く耳を持ってくれなかった。俺はこの通り、城の中に軟禁状態だよ」
 どうやらイスヴァンはファルーダンにほだされたとか思われたらしく、城の外へ出る事を禁止されたようである。とはいえ、こうやって無事な様子を見る事ができたギルソンたちは、つい安心してしまったようだった。
「久しぶりに会ったわけだし、ゆっくり話をしたかったが……。父上に会うのだろう? 俺が案内してやるよ」
 予想外な事に、イスヴァンがギルソンたちファルーダンの使節団を皇帝の元まで案内してくれるらしい。
「警戒するなよな。来年になったらお前たちのところに留学するんだからな。国のためにお前たちのところの技術を学んでいってやるよ」
 イスヴァンはやっぱり生意気そうな口を利いていた。うん、こういう言い方をされるとどこか安心してしまうギルソンやアリスであった。
 そうして、イスヴァンに連れられて歩くマスカード帝国のお城の中。さすが、帝国の象徴と言える建造物の中は、ファルーダンの王城の内部と比べても見劣りしなかった。驚くべきは彫刻の技術レベルだろう。今にも動き出しそうなくらいに精巧で躍動的な彫刻があちこちに置かれていたのである。その迫力たるや、補佐として同行したマリカが怖がってジャスミンに抱きつくくらいである。いきなり抱きつかれたジャスミンだったが、そこはさすがオートマタ、落ち着いてマリカの頭を撫でで落ち着かせていた。
 そういったちょっと微笑ましい光景もあったが、終始緊張したまま、イスヴァンに連れられてギルソンたちはとある部屋にたどり着いた。
「ここが謁見の間だ。父上はここで待っておられる。命が惜しくば、失礼の無いようにな」
 イスヴァンはそう言って、謁見の間の衛兵に話し掛ける。そして、ギルソンたちを確認した衛兵たちの手によって、謁見の間の扉が開かれた。
 この奥にマスカード帝国の皇帝が居る。
 ギルソンたちに言い知れぬ恐怖と緊張が走るのだった。
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