転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
50 / 193

Mission049

しおりを挟む
 さっくりと鉱山都市ツェンまで往復して王都に戻ってきたアリスたち一行。それが終わると、ギルソンは鉄道の報告をするために城に戻る事になった。それと同時に、ボーデンとシャートルも鉄道に対する意見の聴取のために城に呼ばれた。しがない町長である二人だが、川と国境という要所を預かる者なのだ。呼ばれて当然なのだった。
「呼び出しに応じてくれてご苦労だな。久しぶりだな、ボーデン、シャートル」
「お久しゅうございます、国王陛下」
 下を向いてがちがちに固まって震え上がるボーデンとシャートル。さすがに国王に逆らうような気概なんて持ち合わせていない。
「お前たちから見て、鉄道というのはどうだったかな?」
 国王から飛んできた質問はそれだけだった。
「はあ、何と言いますか、1日も掛からずに王都に来れてしまった事がとても信じられませんね」
「私もです。あの鉄や木の塊が高速で動くなんて信じられませんよ」
 まぁ当然というべきだろうか。二人の町長共に驚きの声を上げている。国王も当然の反応として冷静にその様子を見ている。
「まあ初めて見た者は皆そう言うだろうな。私もそうだったのだからな」
 国王も同じ事を言ってた。この世界に無いものなのだから、それはそういう反応になってしまうのだろう。
 国王は、それを踏まえた上で話を進めていく。
「実はだな、隣国マスカード帝国の帝都まであの鉄道を建設する事になったのだ。アリスが居ればそれほど日数を要さずに建設は可能だろうが、お前たちはその事についてどう考える?」
 ボーデンとシャートルに質問を投げかける国王。唐突な話に、二人揃って言葉を失ってしまう。あの謎技術を隣国まで広げてしまう事よりも、そのような話になっている事が信じられなかったのだ。
「お前たちの街まで鉄道を建設したのも、それに関連した話なのだ。なにせ、マスカード帝国までの最短ルートなのだからな」
 国王にこう言われた二人は、はっとした。確かに、自分たちの街はマスカード帝国との間のメインとなる街道なのだ。ようやく納得のできた二人だが、それでも懸念点を払拭する事はできなかった。
「お言葉ではございますが、陛下。マスカード帝国との間に鉄道を敷いて、その後はどうなさるおつもりですか? 奴らが乗っ取って攻め込んでこないとも限らないのですよ?」
 そう、懸念点とは乗っ取りである。二人が見せてもらった限り、列車に乗務するオートマタは二体なのだ。そこへ大勢の兵士が攻めてきて、オートマタが制圧されないとは言い切れない。いくら魔法の力を持つオートマタとはいえど、数で押し切られる心配があるのだ。
「それならば心配はない。動力はオートマタの使う魔法なのだからな。オートマタを破壊すれば、鉄道はただの鉄の塊になる。馬で牽くにも一体何頭の馬が必要になるのやらな。それに、あの鉄道には重装備な防御魔法が掛けられている。それを悪意を持って打ち破れるとは思えんな。それにだ、列車の中で人質を取ったとしても、成功はせんだろう」
 大した自信で話す国王。どれだけの信用を寄せているというのだろうか。
「陛下は、ずいぶんとそのオートマタたちを信用しておられるのですね」
「まあな。ギルソンのために買ってきたオートマタだったのだが、ずいぶんとあれのおかげで国内が持ち直したのだからな。そのオートマタの配下であるオートマタだ。十分に信用ができる」
 シャートルが言うと、国王からそんな答えが返ってきた。その内容には驚かされてしまう。たかがオートマタがそこまでの信用を勝ち取るなんて、二人の町長の常識からはとても考えられない事だったのだ。
「それで改めて問うが、お前たちはマスカード帝国までの鉄道を建設する事に賛成か、反対か?」
 静かに国王はボーデンとシャートルに問い掛ける。国王から発せられる圧力に、二人はすぐに答える事はできなかった。
 それも無理もないという話だ。二人は町長なのだ。経済効果以外にも治安だとかいろいろと考える事があるのである。それがゆえに、おいそれと急いで結論が出せないのだ。それを察しているため、国王もそれ以上は回答を迫らなかった。
「お前たちがどう言おうとも、多分建設する事になるだろうな。現状はイスヴァン皇子が乗り気なだけだ。皇帝を説得できるかどうかというのは別問題だろう」
 国王は立ち上がって二人の町長に近付く。
「向こうが了承すれば、お前たち二人の意志に関係なく建設が始まるだろう。だが、どちらの立場を取ったとしても、お前たちに悪いようにせん。それだけは約束しよう」
 二人に耳打ちするような感じで、国王は宣言していた。
 正直、不信感しか湧かない言われ方をしているのだが、ここまではっきり言った事で国王を改めて信じる事にした二人。
「我慢してもらう見返りに、何か要望はあるかな?」
 立ち上がった国王が二人に問う。
「それでしたら、川に馬車用の橋を架けて頂きたい所存です。鉄道用の橋を架けられたのであれば、可能だと思われるのですが……」
 シャートルが申し出る。
 確かに、今は船でしか渡れない川を馬車で安全に渡れるようになれば、交流が活発になるだろう。
「あい分かった。その望みは叶えよう。通行料を取る事も許す」
 国王からはあっさり許可が下りる。これには遠く離れたボーデンも密かに喜んだ。
 こうして、話を終えた町長二人はアリスと共に列車に乗って、それぞれの街へと戻っていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

処理中です...