転生オートマタ

未羊

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Mission049

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 さっくりと鉱山都市ツェンまで往復して王都に戻ってきたアリスたち一行。それが終わると、ギルソンは鉄道の報告をするために城に戻る事になった。それと同時に、ボーデンとシャートルも鉄道に対する意見の聴取のために城に呼ばれた。しがない町長である二人だが、川と国境という要所を預かる者なのだ。呼ばれて当然なのだった。
「呼び出しに応じてくれてご苦労だな。久しぶりだな、ボーデン、シャートル」
「お久しゅうございます、国王陛下」
 下を向いてがちがちに固まって震え上がるボーデンとシャートル。さすがに国王に逆らうような気概なんて持ち合わせていない。
「お前たちから見て、鉄道というのはどうだったかな?」
 国王から飛んできた質問はそれだけだった。
「はあ、何と言いますか、1日も掛からずに王都に来れてしまった事がとても信じられませんね」
「私もです。あの鉄や木の塊が高速で動くなんて信じられませんよ」
 まぁ当然というべきだろうか。二人の町長共に驚きの声を上げている。国王も当然の反応として冷静にその様子を見ている。
「まあ初めて見た者は皆そう言うだろうな。私もそうだったのだからな」
 国王も同じ事を言ってた。この世界に無いものなのだから、それはそういう反応になってしまうのだろう。
 国王は、それを踏まえた上で話を進めていく。
「実はだな、隣国マスカード帝国の帝都まであの鉄道を建設する事になったのだ。アリスが居ればそれほど日数を要さずに建設は可能だろうが、お前たちはその事についてどう考える?」
 ボーデンとシャートルに質問を投げかける国王。唐突な話に、二人揃って言葉を失ってしまう。あの謎技術を隣国まで広げてしまう事よりも、そのような話になっている事が信じられなかったのだ。
「お前たちの街まで鉄道を建設したのも、それに関連した話なのだ。なにせ、マスカード帝国までの最短ルートなのだからな」
 国王にこう言われた二人は、はっとした。確かに、自分たちの街はマスカード帝国との間のメインとなる街道なのだ。ようやく納得のできた二人だが、それでも懸念点を払拭する事はできなかった。
「お言葉ではございますが、陛下。マスカード帝国との間に鉄道を敷いて、その後はどうなさるおつもりですか? 奴らが乗っ取って攻め込んでこないとも限らないのですよ?」
 そう、懸念点とは乗っ取りである。二人が見せてもらった限り、列車に乗務するオートマタは二体なのだ。そこへ大勢の兵士が攻めてきて、オートマタが制圧されないとは言い切れない。いくら魔法の力を持つオートマタとはいえど、数で押し切られる心配があるのだ。
「それならば心配はない。動力はオートマタの使う魔法なのだからな。オートマタを破壊すれば、鉄道はただの鉄の塊になる。馬で牽くにも一体何頭の馬が必要になるのやらな。それに、あの鉄道には重装備な防御魔法が掛けられている。それを悪意を持って打ち破れるとは思えんな。それにだ、列車の中で人質を取ったとしても、成功はせんだろう」
 大した自信で話す国王。どれだけの信用を寄せているというのだろうか。
「陛下は、ずいぶんとそのオートマタたちを信用しておられるのですね」
「まあな。ギルソンのために買ってきたオートマタだったのだが、ずいぶんとあれのおかげで国内が持ち直したのだからな。そのオートマタの配下であるオートマタだ。十分に信用ができる」
 シャートルが言うと、国王からそんな答えが返ってきた。その内容には驚かされてしまう。たかがオートマタがそこまでの信用を勝ち取るなんて、二人の町長の常識からはとても考えられない事だったのだ。
「それで改めて問うが、お前たちはマスカード帝国までの鉄道を建設する事に賛成か、反対か?」
 静かに国王はボーデンとシャートルに問い掛ける。国王から発せられる圧力に、二人はすぐに答える事はできなかった。
 それも無理もないという話だ。二人は町長なのだ。経済効果以外にも治安だとかいろいろと考える事があるのである。それがゆえに、おいそれと急いで結論が出せないのだ。それを察しているため、国王もそれ以上は回答を迫らなかった。
「お前たちがどう言おうとも、多分建設する事になるだろうな。現状はイスヴァン皇子が乗り気なだけだ。皇帝を説得できるかどうかというのは別問題だろう」
 国王は立ち上がって二人の町長に近付く。
「向こうが了承すれば、お前たち二人の意志に関係なく建設が始まるだろう。だが、どちらの立場を取ったとしても、お前たちに悪いようにせん。それだけは約束しよう」
 二人に耳打ちするような感じで、国王は宣言していた。
 正直、不信感しか湧かない言われ方をしているのだが、ここまではっきり言った事で国王を改めて信じる事にした二人。
「我慢してもらう見返りに、何か要望はあるかな?」
 立ち上がった国王が二人に問う。
「それでしたら、川に馬車用の橋を架けて頂きたい所存です。鉄道用の橋を架けられたのであれば、可能だと思われるのですが……」
 シャートルが申し出る。
 確かに、今は船でしか渡れない川を馬車で安全に渡れるようになれば、交流が活発になるだろう。
「あい分かった。その望みは叶えよう。通行料を取る事も許す」
 国王からはあっさり許可が下りる。これには遠く離れたボーデンも密かに喜んだ。
 こうして、話を終えた町長二人はアリスと共に列車に乗って、それぞれの街へと戻っていったのだった。
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