転生オートマタ

未羊

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Mission048

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 なんだかんだと話をした結果。ボーデンとシャートルは、ツェンの街まで出る事に決定してしまった。
 どうしてこうなったかと言うと、やっぱり実際に自分の目で確かめてみないと気がすまないという話になったからである。まあ、アリスたちとしてもそれはそれで問題はないのだが、問題はむしろそれぞれの街の方だ。町長不在で何日間まともに運営ができるかという話である。
 とはいえども、ストライの街からツェンの街までは丸一日で着いてしまう。王都で乗り継ぎの手間があるものの、大した問題ではないだろう。時間が合わなければ王都の駅の案内をすればいいだけだからだ。とりあえず、明日はまずは列車の見物をしてもらい、その後で王都に向けて試運転をするだけである。
 今回の試運転は、営業用の編成で行っている。機関車が前後に1両ずつ、一般客車が2両、貴族用客車が4両、食堂車が2両、普段の需要と想定している貨物車が10両連結されたものである。午前中はこれらの車両の説明をしてから、王都へと戻る予定である。結局、出発から丸一日掛かってしまう事になってしまった。まあ、想定はしていたのだが、下手をすると国王たちギルソンの家族が心配するくらいかなといったところだ。それは戻ってから説明する事にしたアリスは、寝静まるギルソンとマリカに防護の魔法を掛けてから、列車の様子を見に行った。
「どうですか、様子に変わりはありませんか?」
 列車までやって来たアリスは、配下のオートマタたちに話し掛ける。オートマタには男女それぞれの見た目の性別があるが、これといった名前は付けていない。単純にアリスが面倒くさがったというところがある。そのうちちゃんと名前を考えたいとは思ってはいるものの、今は鉄道の事で頭がいっぱいなのである。
「はい、不審者特におりません。どこも外からは容易に乗り込めないようになっていますし、連結部にも私どもの魔法が掛けられています。これでも入ってこようものなら大したものです」
 アリスの尋ねられた運転士のオートマタは、淡々とではなく、もの凄く気さくに答えていた。なんでこんなに感情があるような話し方をしてくるのだろうか。
「うん、さすがは私の選定した魔法石を使ったオートマタたちですね。実に安心して任せられます」
 アリスもすごく自信たっぷりに頷いている。
「不審者を見つけたら、殺さずに必ず拘束するようにして下さいね。どうするかは私やマイマスターに任せるようにして下さい」
「承知致しました」
「では、私は町長の屋敷に戻りますので、鉄道設備の警備、よろしく頼みましたよ」
 アリスは確認をし終えると、駅を後にして領主の屋敷へと戻っていった。

 翌日、朝食を済ませたアリスたちは、ストライ駅までやって来ていた。
 列車を改めてじっくり見るボーデンとシャートル。その規模や車体に言葉を失うばかりだった。
 列車に乗り込んで説明をしていくアリスやギルソン、そしてマリカ。機関車のすぐ後ろには庶民向けの客車があり、ボックス席は夜には寝台に変化させられる事も説明していた。座席をベッドに変化させるその様子に、二人の町長はとても驚いていた。
 平民用の客車を抜けると、そこは食堂車。平民用と貴族用で1両ずつで、ともにテーブル席が備え付けられている。平民用の食堂車に食糧庫があるために、平民用のテーブル席はかなり少ないようだ。
 それを抜けると貴族車両で、1両には3部屋ほどがあり、男性、女性、使用人や騎士で部屋を分け合う。そのせいか、ひと部屋だけやたらと狭いし、ベッドは三段である。ちなみにトイレやお風呂は各部屋に備え付けである。4両しかないので、ほぼ確実に4家族で埋まる計算となっている。
 そのさらに後ろは貨物車で、追加料金を払えば馬車も載せられる。御者や馬丁も乗り込む事ができるようには設計されているので安心であるが、トイレとお風呂はない。
 とまぁ、こんな感じの編成になっている。
 説明を終えたところで、ボーデンとシャートルは呆然としていた。設備が想像していたよりもすごかったのだ。ひと部屋当たりが狭い事は仕方ないが、それでもかなりの設備だったからだ。それに移動時間を考えれば、馬車旅よりも快適なのは間違いないだろう。それでも、結論はまだ早いと思っている。
 こうして、ボーデンとシャートルの二人を乗せた列車は、王都へ向けて出発した。
 途中、リーヴェンの街の帝国に近い方の駅では、シャートルが部下にもう数日留守にする事を伝えていた。それが済むと、いよいよリーヴェンの街を二つに隔てる川を渡る。地上にある駅を出るとどんどんと盛土へと登っていき、川を渡り始める。この日の川は少し水が濁っていた。上流で大雨が降ったと予測される。
 だが、そんなにごって増水した川などお構いなしに、列車は川を渡って対岸へとたどり着いた。時間にして数十分、本当に早いものだった。
「慣れた船頭でも手こずるというこの川を、いとも簡単に渡ってしまうとは……。いや、この橋の技術だけで恐ろしいものだな……」
 シャートルはアリスを見ながら、震える様子で話していた。それを見たアリスは、柔らかく微笑みを見せていた。
 そんなこんなで、あっという間に列車は王都へと戻ってきてしまったのだった。この試運転は実に問題なく終われたのであった。
「さて、ツェンへ向かわれるのでしたら、列車の乗り換えですよ。あちらはすでに定期運行されている営業路線なのですからね」
 アリスはにこにこと微笑んでいた。
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