転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
45 / 189

Mission044

しおりを挟む
 さて、イスヴァン皇子がマスカード帝国へと戻っていったのだが、この間にアリスとギルソンは国王に対して鉄道の新規敷設の申請を申し出ていた。そして、国王から即決でストライまでの敷設が決定したのである。判断が早い。
 こうなるとアリスによる行動も早かった。魔法石に記憶された王都からストライまでの地形を思い出しながら、鉄道を敷設する経路をすぐさま導き出した。
 王都からストライ方向へは、途中に川を渡る事になる。ツェン方向へはこの川に沿うような形の場所もあったので、大した川はなかった。しかし、ストライ方向ではどうしても大規模な橋を架けねばならず、そこで苦戦を強いられそうだった。
 王都からストライの距離は、馬車でほぼ4日間という距離になる。しかも、途中ではその川を渡るという状況もあって、距離は思ったよりも短かったのだ。
 許可が下りてからのアリスの行動はとにかく早い。経路を決定するとすぐさまストライまで少しずつ線路を敷設していく。ツェン方向とストライ方向との分岐点だが、王都を出たところに作る事にした。それというのも、王都内にはもう余計な土地が残っていなかったのだ。そして、その分岐点だが、ストライから王都に向かう方の線路を立体交差で接続させる事にした。
 それを決定すると、王都内にある駅を増強させる。駅のホームを櫛型の3面2線から3面4線に変更した。客扱いをする線路を2本増やす事で、ツェン方面とストライ方面を同時に取り扱えるようにしたのである。
 さて、ストライ方向からの線路の接続部分については後回しにして、アリスはさっさとストライ方向へ向けて線路を延ばしていく。例の川にぶつかるのは、王都から馬車で1日進んだ場所にある街である。ここは川の両岸に街ができており、この川を渡るのに1日を費やすのである。天候が荒れるなどすると、ここで足止めになる事はよくある話なのだが、イスヴァンはそういった事にぶつからなかったようである。偉そうではあったが、日頃の行いは悪くなかったようだ。
 ここリーヴェンの街では、珍しく川の両岸に駅を構える事にした。鉄道の建設にあたっては、一応町長に話をつけておいた。さすがに国王直々の書面があっては、町長は逆らう事ができなかった。
 正直言って、町長は反対をしたかった。この街は間に川が流れているという地形条件もあるので、そこがすんなり渡れるようになればぶっちゃけうまみがないのだ。川が荒れる事で足止めが発生すれば、それだけ街の宿には延泊は発生するのである。鉄道ができてすんなり渡れるようになるという事は、その延泊が発生しなくなってしまうという事なのだ。町長が反対をしたかった理由はそこなのである。
 だが、その抵抗もあっさりと国王の書状によって砕かれてしまった。町長は橋の建設を見学する事にしたのだが、驚くべき事にその工事は一瞬で終わってしまった。
 ドーン。
 オートマタが土を生み出せば、それが両岸の高台から橋げたが伸びてあっという間につながってしまったのである。この光景には町長は言葉を失った。街を両岸に隔てていた川の間に、いとも簡単に橋を架けてしまったのだから。
 ただ、このリーヴェンの街の駅は、川から最も遠い街の入口に作らざるを得なかった。というのも、貨物の取り扱いがあるために、地上に線路を敷設しなければならなかったからである。高架上で取り扱うにはちょっとばかり不便だし問題があるから仕方がない。ちなみにこの鉄道用の橋だが、馬車が勝手に入って渡らないように、地上から高くなる部分に進入禁止の壁を作っておいた。
 この最大の難関であるリーヴェンの敷設もあっさり終わり、アリスは国境の街であるストライまで、ものの2日間で敷設を完了させてしまった。ストライの街の駅は、暫定ターミナル駅という事で少々大きめに作っておく。ここでの折り返しも想定して、2面4線という大きめの構造である。ちなみにこの先はマスカード帝国に入るがために、この駅で検問も行われる予定である。
 まあなんにせよ、アリスは一度建設したノウハウでもって、大仕事をいとも簡単にやり遂げてしまったのであった。
 王都に戻ったアリスは、列車の通らない合間を縫って、ツェン方面とストライ方面との分岐部分の工事を終わらせる。レールの切り替わりもちゃんと確認して、これにてファルーダン国内の線路の敷設が完了したのであった。この間、たったの5日間である。本当に仕事が早すぎる。
「ただいま戻りました、マイマスター」
「お帰り、アリス。もう建設は終わったのですね」
「はい、一度行った事ですので、二度目ともなれば苦労は致しません。問題だったのはリーヴェンの街の橋くらいなものです」
「ああ、あそこの川は幅が広いから、仕方がないですね」
「近いうちに新しい編成を使って試運転を行いたいと思いますので、明日にでも例の工房へと向かおうかと存じます」
「分かった。ボクも一緒に向かわせてもらうよ」
 戻ったアリスは、ギルソンとそのような会話を交わし、マリカが通い詰めとなっているオートマタの工房や鉄道車両を造っている工房へと向かう事となったのだった。
 今またここに、新たな歴史の1ページが刻み込まれようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...