44 / 193
Mission043
しおりを挟む
アリスが夜中のうちに検索して見つけた内容、それは大豆と小豆だった。マスカード帝国にはそれに似たような植物がある事が分かったのである。大豆があれば味噌や醤油が作れるし、小豆はあんこを作る事ができる。それぞれの加工は面倒ではあるものの、アリスには魔法というチートがある。どうにかして再現する事は可能なはずである。大豆は醤油や味噌にしなくても、水でよく煮たり煎ったりすれば食べようと思えば食べられる。アリスはこれらの豆類を帝国に要求しようというのだ。
「そうですね。帝国で採れる豆類を仕入れたいと思います」
アリスが要求を出すと、イスヴァンと大臣は驚いていた。
「それは驚いたな。豆を使って何をするというのだ?」
マスカード帝国内でも豆はあまり食す傾向はない。かといって家畜の餌というわけでもない。ただ煮込み料理に添えられるだけの植物でしかなかった。
「鉄道の事を見ても分かるとは思いますが、私の魔法石には少々特殊な知識も宿っているようでして、その中には豆の活用方法もあるようなのです。ですので、マスカード帝国で採れる豆類を要求したく存じます。あと、砂糖もあると助かりますね」
アリスが淡々と述べる事に、イスヴァンたちはおろか、ギルソンたちも目が点となっていた。
「そうだな。俺の方から父上に進言しておこう。この鉄道とやらがあれば、帝都と王都を1日で移動できるようになるのだろう?」
「そうでございますね。距離的にはそのようになるかと」
「ふむ。確かにそちらから我が帝国が受ける恩恵は限りなく大きい。そちらに大きな借りを作る事にはなるが、おそらく長い目で見ればこれを蹴るのは望ましくないだろう。どういうわけだろうかな、貴様を見ていると俺も期待を持たざるを得ないといったところだ。理由は分からないが気持ちが高揚してくるのだ」
まだ幼いながらも、イスヴァンは将来を見据えた発言を行っている。まあ、その後に言ったわくわく感の方が強いのだろうが。この態度を見る限り、来年からの留学には期待できそうな感じである。
「ところでだ。今からならば帝都までの鉄道はどのくらいで敷設できるかな?」
「そうですね。こちらの分は準備を含めて半年少々掛かっております。現在も車両の新造を行っていますので、もう少し短縮できるかと思います」
「そうか。半年掛かっても大丈夫だ。まだ俺の留学までにはそれ以上の期間があるからな。国境からの事は父上に相談してからになるが、国境付近まで急ぎ敷設してもらってくれないか?」
これは予想外だった。イスヴァンは鉄道にとても興味を示し、積極的に導入しようとしている。アリスはギルソンを見る。
「ボクもその方がいいと思いますね。マスカード帝国との国境に最も近いのはストライの街ですね。こちらも父上に相談して、すぐさま敷設できるように手配しましょう」
ギルソンの方も乗り気だった。
確かに、ファルーダン王国の王都とマスカード帝国の帝都を結ぶ街道上にあり、マスカード帝国の地に最も近いのはストライという街だった。ただ、新たに線路を敷設するとして、王都からの方向を見る限り、既存の線路から分岐させた方がよさそうなのである。つまりは王都の駅からスイッチバックするという事である。アリスはその構造を頭の中で展開していた。
そんなこんなで、マスカード帝国のイスヴァン皇子との間で、いろいろと交渉が取りまとめられた。この判断力は正直予想外である。大臣も同じような事を思っているらしいので、なおの事交渉はスムーズだった。
ちなみにツェンの町長もホクホクである。マスカード帝国との間で鉄道が開通すれば、帝国との取引量が増える事が決まったのだから。そうなると鉱員の増員が必要になるのだが、帝国からも人員を出してくれる事になりそうだった。正式な決定はイスヴァンと大臣が帝国に戻ってからにはなるが、これはこれでいい方向に転がりそうである。
その日の夜の発車便で、アリスたちは王都に戻る事になった。
その帰りの車中にて、
「俺が帝国に戻った後、さらに人員を派遣して見学させるつもりだ。それに父上も絶対に説得してみせる。あと正直、この見返りとして豆と砂糖だけというのは釣り合わないとは思うが、豆自体は帝国では余らせているからな。存分に使ってくれ」
イスヴァンはとても良い笑顔で言い放ってくれていた。これは年齢関係なく頼もしく見える顔である。
「分かった。ボクの方でも父上を説得して、帝国といい関係を築けるように努力させてもらいます」
「ああ、そうなるといいな」
そう言って、ギルソンとイスヴァンはがっちりと握手をしたのだった。
こうして、たったの1日半という強行軍で行われた帝国のイスヴァン皇子への接待は幕を閉じた。そして、帝都へと戻るイスヴァンは、馬車から顔を出してしばらく手を振り続けていた。
短い時間ではあったものの、これで2国間の関係が良好な方向へと進んでいくと、アリスの中にはちょっと確信めいた気持ちが浮かんできたのであった。
「そうですね。帝国で採れる豆類を仕入れたいと思います」
アリスが要求を出すと、イスヴァンと大臣は驚いていた。
「それは驚いたな。豆を使って何をするというのだ?」
マスカード帝国内でも豆はあまり食す傾向はない。かといって家畜の餌というわけでもない。ただ煮込み料理に添えられるだけの植物でしかなかった。
「鉄道の事を見ても分かるとは思いますが、私の魔法石には少々特殊な知識も宿っているようでして、その中には豆の活用方法もあるようなのです。ですので、マスカード帝国で採れる豆類を要求したく存じます。あと、砂糖もあると助かりますね」
アリスが淡々と述べる事に、イスヴァンたちはおろか、ギルソンたちも目が点となっていた。
「そうだな。俺の方から父上に進言しておこう。この鉄道とやらがあれば、帝都と王都を1日で移動できるようになるのだろう?」
「そうでございますね。距離的にはそのようになるかと」
「ふむ。確かにそちらから我が帝国が受ける恩恵は限りなく大きい。そちらに大きな借りを作る事にはなるが、おそらく長い目で見ればこれを蹴るのは望ましくないだろう。どういうわけだろうかな、貴様を見ていると俺も期待を持たざるを得ないといったところだ。理由は分からないが気持ちが高揚してくるのだ」
まだ幼いながらも、イスヴァンは将来を見据えた発言を行っている。まあ、その後に言ったわくわく感の方が強いのだろうが。この態度を見る限り、来年からの留学には期待できそうな感じである。
「ところでだ。今からならば帝都までの鉄道はどのくらいで敷設できるかな?」
「そうですね。こちらの分は準備を含めて半年少々掛かっております。現在も車両の新造を行っていますので、もう少し短縮できるかと思います」
「そうか。半年掛かっても大丈夫だ。まだ俺の留学までにはそれ以上の期間があるからな。国境からの事は父上に相談してからになるが、国境付近まで急ぎ敷設してもらってくれないか?」
これは予想外だった。イスヴァンは鉄道にとても興味を示し、積極的に導入しようとしている。アリスはギルソンを見る。
「ボクもその方がいいと思いますね。マスカード帝国との国境に最も近いのはストライの街ですね。こちらも父上に相談して、すぐさま敷設できるように手配しましょう」
ギルソンの方も乗り気だった。
確かに、ファルーダン王国の王都とマスカード帝国の帝都を結ぶ街道上にあり、マスカード帝国の地に最も近いのはストライという街だった。ただ、新たに線路を敷設するとして、王都からの方向を見る限り、既存の線路から分岐させた方がよさそうなのである。つまりは王都の駅からスイッチバックするという事である。アリスはその構造を頭の中で展開していた。
そんなこんなで、マスカード帝国のイスヴァン皇子との間で、いろいろと交渉が取りまとめられた。この判断力は正直予想外である。大臣も同じような事を思っているらしいので、なおの事交渉はスムーズだった。
ちなみにツェンの町長もホクホクである。マスカード帝国との間で鉄道が開通すれば、帝国との取引量が増える事が決まったのだから。そうなると鉱員の増員が必要になるのだが、帝国からも人員を出してくれる事になりそうだった。正式な決定はイスヴァンと大臣が帝国に戻ってからにはなるが、これはこれでいい方向に転がりそうである。
その日の夜の発車便で、アリスたちは王都に戻る事になった。
その帰りの車中にて、
「俺が帝国に戻った後、さらに人員を派遣して見学させるつもりだ。それに父上も絶対に説得してみせる。あと正直、この見返りとして豆と砂糖だけというのは釣り合わないとは思うが、豆自体は帝国では余らせているからな。存分に使ってくれ」
イスヴァンはとても良い笑顔で言い放ってくれていた。これは年齢関係なく頼もしく見える顔である。
「分かった。ボクの方でも父上を説得して、帝国といい関係を築けるように努力させてもらいます」
「ああ、そうなるといいな」
そう言って、ギルソンとイスヴァンはがっちりと握手をしたのだった。
こうして、たったの1日半という強行軍で行われた帝国のイスヴァン皇子への接待は幕を閉じた。そして、帝都へと戻るイスヴァンは、馬車から顔を出してしばらく手を振り続けていた。
短い時間ではあったものの、これで2国間の関係が良好な方向へと進んでいくと、アリスの中にはちょっと確信めいた気持ちが浮かんできたのであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる