43 / 189
Mission042
しおりを挟む
借りを作りたくない。
マスカード帝国を切り崩す最大のキーワードである。つまり、恩を売る以上に恩を売らせればいいわけである。
列車は夜通し走っており、明朝にはツェンに到着予定である。そうしたら、以前のように鉱山などの案内をする事になっている。どういったものが採れるのかというのは、重要な売り込みポイントだからだ。それを含めて、アリスは夜の間もずっと帝国を切り崩す作戦を考えていた。
ここで大事なるポイントは、マスカード帝国は肥沃な大地にある農業国である。周辺諸国に対しても、圧倒的な少量を持つがゆえに力関係で強く出られるのだ。マスカード帝国には、意外とこういった農業に関するノウハウが蓄積しているのである。その豊富な食糧があるからこそ、マスカード帝国の兵力も強大に保ち続けられるというわけだ。
そうとなれば、やはり切り崩すポイントはこの食糧事情からだろう。となると、マスカード帝国の生産している農産物を正確に把握する必要があると結論付けられた。というわけで、アリスは自分に使われている魔法石にアクセスして、マスカード帝国の情報を引き出そうとしていた。ただ、アリスの魔法石はすでに6年間自分の動力として使われており、そこに眠る情報が今現在の情報かどうかは分からない。だが、アリスはそれでも構わないと、魔法石から情報を引き出そうとしている。
しばらく検索を続けた結果、マスカード帝国の生産物に面白いものを見つけた。これはとても欲しいと思った一品である。アリスはそれをどう交渉に生かすつもりなのだろうか。
翌朝、列車は無事にツェンの街に到着する。意外と多くの人物が終点まで乗っていたらしく、列車から人がぞろぞろと降りていく様子が見えた。それにしても、平民用客車の寝台もよく無事に使ってもらえたものだ。一応説明はしておいたものの、そこは少々不安だったのだ。
「おはようございます、マイマスター」
アリスはギルソンを起こす。
「おはよう、アリス。ツェンの街に着いたのかい?」
「はい、無事に到着しております。食堂車に移動して朝食を頂きましょうか。この列車の王都行の発車までは、6時間ほどございますから」
「そうか、ならばそうしましょうか。イスヴァン殿下たちはボクが起こしますので、アリスはマリカたちに確認をした上で、食堂車に連絡をしてきて下さい」
「畏まりました。では、早速伝えて参ります」
アリスは部屋を出ていく。食堂車はツェン方向に1両挟んだ先にある。間に挟まれた車両には、マリカとジャスミンが居るので、そこへ一度アリスは寄った。
「おはようございます、マリカさん、ジャスミン。食堂車に手朝食を頂きますので、支度をしていて下さい」
「畏まりました。ささっ、マリカ様、顔を洗って準備しましょう」
アリスに声を掛けられたジャスミンは、まだ夢心地のマリカを揺すって起こしていた。騎士を目指す少女とはいえ、さすがに11歳なのだからまだ寝ていたいようである。だけれども、そこは心を鬼にして、ジャスミンはマリカを叩き起こしていた。その様子に笑いながら、アリスは食堂車へと移動していった。
朝食を終えたアリスたち王族一行は、列車から降りてツェンの街へと出ていく。
ファルーダン王国の王都から10日以上離れた場所な上に結構な山腹にある鉱山都市ツェン。そこまでたったの14時間で到着してしまった。しかし、列車を降りたのは到着からさらに6時間経った時だった。食事中に駅に詰めていたオートマタの一人に、念話でツェンの町長に話を伝えておくようにしておいたので、今回は急な訪問にはならなかった。だが、ファルーダンの末子とはいえ王子であるギルソンに加えて、隣のマスカード帝国の皇族であるイスヴァンまでやって来たとなると、ツェンの町長は腰を抜かしていた。まぁ、王族や皇族は雲の上の存在だから仕方ないだろうか。とにかく町長を落ち着かせて、それからイスヴァンと大臣に鉱山都市を案内してあげていた。
そこで産出される鉱石類を見て、イスヴァンは目を輝かせていた。鉱石が好きなのだろうか。
「大臣、見ろ。ものすごく質がいいぞ、この鉱石どもは」
「さ、左様でございますか。私にはよく分かりませぬ」
テンションの高すぎるイスヴァンに、大臣はついていけていないようだった。
「これだけの鉱石であるのなら、実に質のいい物を作る事ができるぞ。我が国の鉱山で採れる石はいまいち粗悪だからな。これほどの石が早く手に入れられるのなら、鉄道を敷く事に俺は反対しないぞ」
おっと、これは実に意外な収穫だ。イスヴァンは鉱石マニアのようである。
「それでしたら、その粗悪な鉱石をこちらで引き取りましょうか。オートマタの魔法を使えば、きっといい質に作り替えられると思いますから」
ギルソンがそれに乗っかっている。
「うむ、それも悪くないな。これだけのものを動かせるような連中だ。製錬もお手の物なのだろうな」
イスヴァンはなかなかに上機嫌である。
「ですが、殿下。さすがにこれだけでは取引としてはうちが大損ですぞ。できれば、金額的には物々交換レベルにまで抑えたいものですぞ」
大臣は慎重だった。やっぱり金銭的な話のようである。
「それでしたら、私の方から提案がございます」
アリスは夜中のうちに検索して調べていた内容を、イスヴァンたちにぶつける事にした。さて、これが一体どういう風に転ぶのか、実に楽しみなものであった。
マスカード帝国を切り崩す最大のキーワードである。つまり、恩を売る以上に恩を売らせればいいわけである。
列車は夜通し走っており、明朝にはツェンに到着予定である。そうしたら、以前のように鉱山などの案内をする事になっている。どういったものが採れるのかというのは、重要な売り込みポイントだからだ。それを含めて、アリスは夜の間もずっと帝国を切り崩す作戦を考えていた。
ここで大事なるポイントは、マスカード帝国は肥沃な大地にある農業国である。周辺諸国に対しても、圧倒的な少量を持つがゆえに力関係で強く出られるのだ。マスカード帝国には、意外とこういった農業に関するノウハウが蓄積しているのである。その豊富な食糧があるからこそ、マスカード帝国の兵力も強大に保ち続けられるというわけだ。
そうとなれば、やはり切り崩すポイントはこの食糧事情からだろう。となると、マスカード帝国の生産している農産物を正確に把握する必要があると結論付けられた。というわけで、アリスは自分に使われている魔法石にアクセスして、マスカード帝国の情報を引き出そうとしていた。ただ、アリスの魔法石はすでに6年間自分の動力として使われており、そこに眠る情報が今現在の情報かどうかは分からない。だが、アリスはそれでも構わないと、魔法石から情報を引き出そうとしている。
しばらく検索を続けた結果、マスカード帝国の生産物に面白いものを見つけた。これはとても欲しいと思った一品である。アリスはそれをどう交渉に生かすつもりなのだろうか。
翌朝、列車は無事にツェンの街に到着する。意外と多くの人物が終点まで乗っていたらしく、列車から人がぞろぞろと降りていく様子が見えた。それにしても、平民用客車の寝台もよく無事に使ってもらえたものだ。一応説明はしておいたものの、そこは少々不安だったのだ。
「おはようございます、マイマスター」
アリスはギルソンを起こす。
「おはよう、アリス。ツェンの街に着いたのかい?」
「はい、無事に到着しております。食堂車に移動して朝食を頂きましょうか。この列車の王都行の発車までは、6時間ほどございますから」
「そうか、ならばそうしましょうか。イスヴァン殿下たちはボクが起こしますので、アリスはマリカたちに確認をした上で、食堂車に連絡をしてきて下さい」
「畏まりました。では、早速伝えて参ります」
アリスは部屋を出ていく。食堂車はツェン方向に1両挟んだ先にある。間に挟まれた車両には、マリカとジャスミンが居るので、そこへ一度アリスは寄った。
「おはようございます、マリカさん、ジャスミン。食堂車に手朝食を頂きますので、支度をしていて下さい」
「畏まりました。ささっ、マリカ様、顔を洗って準備しましょう」
アリスに声を掛けられたジャスミンは、まだ夢心地のマリカを揺すって起こしていた。騎士を目指す少女とはいえ、さすがに11歳なのだからまだ寝ていたいようである。だけれども、そこは心を鬼にして、ジャスミンはマリカを叩き起こしていた。その様子に笑いながら、アリスは食堂車へと移動していった。
朝食を終えたアリスたち王族一行は、列車から降りてツェンの街へと出ていく。
ファルーダン王国の王都から10日以上離れた場所な上に結構な山腹にある鉱山都市ツェン。そこまでたったの14時間で到着してしまった。しかし、列車を降りたのは到着からさらに6時間経った時だった。食事中に駅に詰めていたオートマタの一人に、念話でツェンの町長に話を伝えておくようにしておいたので、今回は急な訪問にはならなかった。だが、ファルーダンの末子とはいえ王子であるギルソンに加えて、隣のマスカード帝国の皇族であるイスヴァンまでやって来たとなると、ツェンの町長は腰を抜かしていた。まぁ、王族や皇族は雲の上の存在だから仕方ないだろうか。とにかく町長を落ち着かせて、それからイスヴァンと大臣に鉱山都市を案内してあげていた。
そこで産出される鉱石類を見て、イスヴァンは目を輝かせていた。鉱石が好きなのだろうか。
「大臣、見ろ。ものすごく質がいいぞ、この鉱石どもは」
「さ、左様でございますか。私にはよく分かりませぬ」
テンションの高すぎるイスヴァンに、大臣はついていけていないようだった。
「これだけの鉱石であるのなら、実に質のいい物を作る事ができるぞ。我が国の鉱山で採れる石はいまいち粗悪だからな。これほどの石が早く手に入れられるのなら、鉄道を敷く事に俺は反対しないぞ」
おっと、これは実に意外な収穫だ。イスヴァンは鉱石マニアのようである。
「それでしたら、その粗悪な鉱石をこちらで引き取りましょうか。オートマタの魔法を使えば、きっといい質に作り替えられると思いますから」
ギルソンがそれに乗っかっている。
「うむ、それも悪くないな。これだけのものを動かせるような連中だ。製錬もお手の物なのだろうな」
イスヴァンはなかなかに上機嫌である。
「ですが、殿下。さすがにこれだけでは取引としてはうちが大損ですぞ。できれば、金額的には物々交換レベルにまで抑えたいものですぞ」
大臣は慎重だった。やっぱり金銭的な話のようである。
「それでしたら、私の方から提案がございます」
アリスは夜中のうちに検索して調べていた内容を、イスヴァンたちにぶつける事にした。さて、これが一体どういう風に転ぶのか、実に楽しみなものであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる