転生オートマタ

未羊

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Mission042

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 借りを作りたくない。
 マスカード帝国を切り崩す最大のキーワードである。つまり、恩を売る以上に恩を売らせればいいわけである。
 列車は夜通し走っており、明朝にはツェンに到着予定である。そうしたら、以前のように鉱山などの案内をする事になっている。どういったものが採れるのかというのは、重要な売り込みポイントだからだ。それを含めて、アリスは夜の間もずっと帝国を切り崩す作戦を考えていた。
 ここで大事なるポイントは、マスカード帝国は肥沃な大地にある農業国である。周辺諸国に対しても、圧倒的な少量を持つがゆえに力関係で強く出られるのだ。マスカード帝国には、意外とこういった農業に関するノウハウが蓄積しているのである。その豊富な食糧があるからこそ、マスカード帝国の兵力も強大に保ち続けられるというわけだ。
 そうとなれば、やはり切り崩すポイントはこの食糧事情からだろう。となると、マスカード帝国の生産している農産物を正確に把握する必要があると結論付けられた。というわけで、アリスは自分に使われている魔法石にアクセスして、マスカード帝国の情報を引き出そうとしていた。ただ、アリスの魔法石はすでに6年間自分の動力として使われており、そこに眠る情報が今現在の情報かどうかは分からない。だが、アリスはそれでも構わないと、魔法石から情報を引き出そうとしている。
 しばらく検索を続けた結果、マスカード帝国の生産物に面白いものを見つけた。これはとても欲しいと思った一品である。アリスはそれをどう交渉に生かすつもりなのだろうか。

 翌朝、列車は無事にツェンの街に到着する。意外と多くの人物が終点まで乗っていたらしく、列車から人がぞろぞろと降りていく様子が見えた。それにしても、平民用客車の寝台もよく無事に使ってもらえたものだ。一応説明はしておいたものの、そこは少々不安だったのだ。
「おはようございます、マイマスター」
 アリスはギルソンを起こす。
「おはよう、アリス。ツェンの街に着いたのかい?」
「はい、無事に到着しております。食堂車に移動して朝食を頂きましょうか。この列車の王都行の発車までは、6時間ほどございますから」
「そうか、ならばそうしましょうか。イスヴァン殿下たちはボクが起こしますので、アリスはマリカたちに確認をした上で、食堂車に連絡をしてきて下さい」
「畏まりました。では、早速伝えて参ります」
 アリスは部屋を出ていく。食堂車はツェン方向に1両挟んだ先にある。間に挟まれた車両には、マリカとジャスミンが居るので、そこへ一度アリスは寄った。
「おはようございます、マリカさん、ジャスミン。食堂車に手朝食を頂きますので、支度をしていて下さい」
「畏まりました。ささっ、マリカ様、顔を洗って準備しましょう」
 アリスに声を掛けられたジャスミンは、まだ夢心地のマリカを揺すって起こしていた。騎士を目指す少女とはいえ、さすがに11歳なのだからまだ寝ていたいようである。だけれども、そこは心を鬼にして、ジャスミンはマリカを叩き起こしていた。その様子に笑いながら、アリスは食堂車へと移動していった。
 朝食を終えたアリスたち王族一行は、列車から降りてツェンの街へと出ていく。
 ファルーダン王国の王都から10日以上離れた場所な上に結構な山腹にある鉱山都市ツェン。そこまでたったの14時間で到着してしまった。しかし、列車を降りたのは到着からさらに6時間経った時だった。食事中に駅に詰めていたオートマタの一人に、念話でツェンの町長に話を伝えておくようにしておいたので、今回は急な訪問にはならなかった。だが、ファルーダンの末子とはいえ王子であるギルソンに加えて、隣のマスカード帝国の皇族であるイスヴァンまでやって来たとなると、ツェンの町長は腰を抜かしていた。まぁ、王族や皇族は雲の上の存在だから仕方ないだろうか。とにかく町長を落ち着かせて、それからイスヴァンと大臣に鉱山都市を案内してあげていた。
 そこで産出される鉱石類を見て、イスヴァンは目を輝かせていた。鉱石が好きなのだろうか。
「大臣、見ろ。ものすごく質がいいぞ、この鉱石どもは」
「さ、左様でございますか。私にはよく分かりませぬ」
 テンションの高すぎるイスヴァンに、大臣はついていけていないようだった。
「これだけの鉱石であるのなら、実に質のいい物を作る事ができるぞ。我が国の鉱山で採れる石はいまいち粗悪だからな。これほどの石が早く手に入れられるのなら、鉄道を敷く事に俺は反対しないぞ」
 おっと、これは実に意外な収穫だ。イスヴァンは鉱石マニアのようである。
「それでしたら、その粗悪な鉱石をこちらで引き取りましょうか。オートマタの魔法を使えば、きっといい質に作り替えられると思いますから」
 ギルソンがそれに乗っかっている。
「うむ、それも悪くないな。これだけのものを動かせるような連中だ。製錬もお手の物なのだろうな」
 イスヴァンはなかなかに上機嫌である。
「ですが、殿下。さすがにこれだけでは取引としてはうちが大損ですぞ。できれば、金額的には物々交換レベルにまで抑えたいものですぞ」
 大臣は慎重だった。やっぱり金銭的な話のようである。
「それでしたら、私の方から提案がございます」
 アリスは夜中のうちに検索して調べていた内容を、イスヴァンたちにぶつける事にした。さて、これが一体どういう風に転ぶのか、実に楽しみなものであった。
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