転生オートマタ

未羊

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Mission041

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 ツヴァイスの駅を出発してしばらくすると、ギルソンたちの個室の扉がノックされた。
「失礼致します。マスターマリカとジャスミンでございます。お食事をお持ちしました」
 どうやらジャスミンのようである。
 貴族用の客車では、食堂で食べる事もできるが、こうやってワゴンを借りれば個室で食べる事もできる。個室にはテーブルもちゃんと備え付けられているからだ。列車の中で作業する事もあるだろうし、当然といえば当然の設備である。ちなみにベッドだってある。そのせいで、貴族用の客車には個室が2~3個しか備え付けられなかった。使用人たちの事もあるし、貴族は注文がうるさいから仕方がない。内装にもだいぶこだわった貴族用の客車は試乗会の時でもそれは好評だった。
 さて、ジャスミンが持ってきた食事は食堂車で貴族用に販売されている値段の高い方の料理だ。コース料理とまではさすがにいかなかったが、普段の食事に負けないくらいの内容の食事となっている。材料にも調理法にもこだわったのでそれは豪華である。
 イスヴァンと大臣にとっては、驚きの連続である。
 巨大な建造物がものすごい速度で移動していて、なおかつその移動している最中に食事が取れる。しかも、振動がほとんどないので移動している事も、外を見ない限り分からない。それでいてまるで家の中のような居住性と、鉄道というものに頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けていた。
 そして、出てきた食事にも文句をつけられずに、イスヴァンは沈黙していた。ただただおいしいし、味わった事のない味付けに衝撃を受けていた。衝撃のあまりに言葉が出なくなっていた。これは大臣も同じである。
 貧困の弱小国家と思っていたファルーダン王国だったが、これでは認識を改めざるを得ない。
(ふふっ、こちらの思うように驚いてらっしゃいますね。この分なら、マスカード帝国へ鉄路を延ばす事ができるでしょう。国境での対策をどうするかの詰めは要るでしょうけれどね」
 アリスは謎の自信を覗かせていた。イスヴァンと大臣の二人は確実に落とせたはずだ。こうなると問題はイスヴァンの父親、マスカード帝国の皇帝だけだろう。様子を見るに、イスヴァンと大臣の二人はすでに落とせているようだから。
「イスヴァン様、失礼致します」
「なんだ」
 アリスはイスヴァンに声を掛ける。
「この後、6番目の停車駅であるズィーベからは夜間の運行になります。翌朝にはツェンに到着致しますので、おやすみになられる事を推奨致します」
「なんと。夜の間も移動できるのか!?」
 アリスの提案に、イスヴァンは驚きを示している。夜間の移動など通常は暗くてできないものだからだ。
「この鉄道はレールの上に沿って走っております。速度もありますし、ほとんどが盛土という他の場所より高い場所を走っていますので、外敵に襲われにくいのであります。そして何より、私どもオートマタが列車を操っております。帝国ではどの程度オートマタの事が伝わっているのかは存じ上げませんが、私どもは休息も食事も必要と致しません。ですので、夜間の運行も可能になるというわけです」
「ほお、それは素晴らしいな!」
 アリスの説明を聞いて、イスヴァンが目を輝かせている。すっかり鉄道の虜のようである。
「ギルソン、俺はお前が羨ましいぞ。このような優秀な部下が居てな!」
「ええ、アリスはボクの自慢のオートマタですよ」
 イスヴァンがどういうわけか両手を腰に当てながら、仰け反りながらギルソンに声を掛ける。だが、ギルソンはそれに対して実に冷静に言葉を返していた。すっかり、落ち着いて大人びてきている。まだ11歳だというのがちょっと信じられないくらいである。横で立つマリカも、ちょっと顔を赤くしながらギルソンを見ていた。おやおやおや……。
 小説ではシュヴァリエに惹かれていたマリカだが、アリスの暴走によって、どうやらギルソンに惹かれているようである。ずいぶんと話が変わってしまったようだ。そりゃ、王国の内情もめちゃくちゃ小説とは違っているので当たり前な話である。そこまでめちゃくちゃにしておきながら、いまいち自覚の薄いアリスである。
「で、ここで相談があるわけですよ、イスヴァン殿下」
 急に真剣な表情をするギルソン。その急激な雰囲気の変化に、イスヴァンはすっかり飲み込まれてしまっている。
「ボクとアリスは、この鉄道をマスカード帝国にも引きたいと思っているのです。マスカード帝国の帝都までは、こちらの王都からツェンまでの距離よりも近い。休みなく列車を動かせば、ツェンで産出した鉱石などを2日もしないで帝国まで輸送できるようになるはずです。もちろん、一方的に売るだけではありません。帝国からも何かを買わなければ、対等な取引ではありませんので、その交渉もしたいと考えております」
 ギルソンの真剣な表情に、イスヴァンは少し考え込み、隣に座る大臣に声を掛ける。
「おい、お前はどう思う」
「ファルーダンの鉱石は確かに魅力的ですが、さすがに皇帝陛下と相談をせねばならないと思います。しかし、ファルーダンに借りを作るような真似を、皇帝陛下が許可なさるとは考えにくいですな……」
 大臣からはこう返答があった。
(やっぱり、帝国は一筋縄ではいかないようですね)
 しかし、ここまではアリスにとっては予想の範疇である。さて、ここからどうやって切り崩すか、それをアリスは考えていた。
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