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Mission040
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無事にファルーダン鉄道の開業式が始まった。
ファルーダン国王の挨拶、来賓であるマスカード帝国の大臣とイスヴァンの挨拶と順番に行われていく。その挨拶の締めを飾るのが、ギルソンだった。
「この王国の未来を切り開く新しい技術、必ずやこの鉄道が明るく照らし出してくれるでしょう」
そんな特徴的な挨拶をして、開業式の挨拶が終わった。そして、いよいよ一番列車がツェンへと向けて出発する事になった。
馬車よりも格段に早く移動できる鉄道の運賃は、馬車の運賃よりはるかに高い。しかし、今日は式典に来た人たちに往復の一度きりの無料パスを配っていたので、一番列車の乗車率はすごかった。さすがに溢れそうになっていたので、駅員であるオートマタが乗車制限を掛けた。
「これ以上のると扉が締められません。全部で1日に全部で4便出ております。無料パスは一度のみ有効ですが、期限はありません。どうか次の便をご利用下さい」
オートマタに言われては渋々人々は従っていた。なにせ魔法があるので、太刀打ちできないのだ。魔法石を傷つけられればそれだけで弱体化できるものの、駅で働くオートマタは王家の所属である。歯向かったら国家反逆罪で捕まってしまうので、おとなしく従うしかなかったのだ。
そういえば鉄道の切符はどうしているのか。切符券面には乗車駅と下車駅が、オートマタの魔法によって刻み込まれるようになっている。それには乗った日付や時間も記録されるので、オートマタには不正乗車も見抜かれてしまうようになっていた。ちなみに不正乗車の際は王都からツェンまでの料金の三倍を加算した罰金を払うか、王城の牢屋に入るかの選択肢が与えられる。前者ならその場で解放だが、後者ならしばらく牢屋暮らしな上に、数年間はまともな職に就く事も厳しくなる。酷い選択肢だ。ついでに言うと、就ける職業は鉱山労働か、乗合馬車の御者くらいになってしまうらしい。いやーきつい。
それはそうと、イスヴァンと大臣はギルソンやアリスと一緒に貴族客車の一室に乗り込んだ。いわゆる接待である。
「ふん、こんなばかでかい物が動くというのか。信じられんな」
「ええ、それはすぐに分かりますよ。まもなく一番列車の出発ですから」
ギルソンは窓から外を見て、アリスが作り出した時計を見ている。一日の中でタイミングの変わらない、日の光が一番高くなる瞬間から次の瞬間までを測り、それを24等分した時間の長さを示した円盤である。その円盤を動く針の位置で今の時間を知るのだ。ちなみにこの時計はすべての駅に設置されている。賛同を得られなかった2か所にも設置済みだ。
この時計の作製には、アリスの前世であるありすの機械技師としての技術が詰め込まれている。これもこれで十分に国家機密レベルである。そんな機密の塊が、こうした公共の場に堂々と飾られているなど、一体誰が思うだろうか。だが、あえてこれはイスヴァンたちには教えなかった。現時点では教える必要はないと判断したからである。今回のメインはあくまでも鉄道だ。これがマスカード帝国にも広がれば、時計は自然とマスカード帝国にも出ていくのだから言う必要はないというわけである。
しばらくすると、突然ラッパの音が響き渡る。
「な、なんだ今のは」
「今のは出発の合図ですね。発車時刻になると、ああやって駅員のオートマタがラッパを吹くんです」
「そうなのか」
「はい、合図がありませんと、動き出す列車に乗り込もうとする人が確実に出ますのでね。安全対策のために行っております」
イスヴァンの質問に、ギルソンとアリスが次々と答える。イスヴァンがその回答に感心していると、ガタンと一瞬列車が揺れた。
「あっ、動き出しましたね。最初の停車駅ツヴァイスまでは二時間ほどで着きますので、しばらくは外の景色をお楽しみ下さい」
「二時間? そんなに近いのか?」
ギルソンの言葉にイスヴァンは疑問を持った。
「いえ、王都からツヴァイスまでは馬車で2日間の距離でございます。この列車はその距離をたったの二時間で移動できるのです」
「はっ、何をそんなバカな!」
信じられるかといった表情のイスヴァンだったが、外の景色を見て驚いていた。ものすごい速度で周りの景色が過ぎ去っていくのだ。これにはさすがのイスヴァンも目を見開いて黙るしかなかった。自分の見ているものが信じられないのだから。
「な、なんという事だ。これは、馬よりも速いではないか……」
さっきまでの偉そうな態度が崩れていくイスヴァン。ばかにしていた隣国でまさかこんな技術が爆誕していようとは、夢にも思わなかったからだ。
驚くイスヴァンは同行している大臣と相談を始める。この光景に、ギルソンとアリスはほっとした様子である。どうやら思惑通りに進みそうなのだから。
こうしているうちに、一番列車は無事にツヴァイスの街に到着したのであった。
「これだけの速さでありながら、こんなに静かに止まれるものなのか……」
「はい、オートマタの魔法制御あってこその技術でございます」
驚きっぱなしのイスヴァンの言葉に、アリスは静かにそう答えた。
「駅で止まるごとに30分間の休憩を挟みながらツェンまで向かいます。この後も列車の旅をご堪能下さいませ」
アリスはこう言うと、隣の個室乗り込んでいるジャスミンに連絡を入れるのだった。
ファルーダン国王の挨拶、来賓であるマスカード帝国の大臣とイスヴァンの挨拶と順番に行われていく。その挨拶の締めを飾るのが、ギルソンだった。
「この王国の未来を切り開く新しい技術、必ずやこの鉄道が明るく照らし出してくれるでしょう」
そんな特徴的な挨拶をして、開業式の挨拶が終わった。そして、いよいよ一番列車がツェンへと向けて出発する事になった。
馬車よりも格段に早く移動できる鉄道の運賃は、馬車の運賃よりはるかに高い。しかし、今日は式典に来た人たちに往復の一度きりの無料パスを配っていたので、一番列車の乗車率はすごかった。さすがに溢れそうになっていたので、駅員であるオートマタが乗車制限を掛けた。
「これ以上のると扉が締められません。全部で1日に全部で4便出ております。無料パスは一度のみ有効ですが、期限はありません。どうか次の便をご利用下さい」
オートマタに言われては渋々人々は従っていた。なにせ魔法があるので、太刀打ちできないのだ。魔法石を傷つけられればそれだけで弱体化できるものの、駅で働くオートマタは王家の所属である。歯向かったら国家反逆罪で捕まってしまうので、おとなしく従うしかなかったのだ。
そういえば鉄道の切符はどうしているのか。切符券面には乗車駅と下車駅が、オートマタの魔法によって刻み込まれるようになっている。それには乗った日付や時間も記録されるので、オートマタには不正乗車も見抜かれてしまうようになっていた。ちなみに不正乗車の際は王都からツェンまでの料金の三倍を加算した罰金を払うか、王城の牢屋に入るかの選択肢が与えられる。前者ならその場で解放だが、後者ならしばらく牢屋暮らしな上に、数年間はまともな職に就く事も厳しくなる。酷い選択肢だ。ついでに言うと、就ける職業は鉱山労働か、乗合馬車の御者くらいになってしまうらしい。いやーきつい。
それはそうと、イスヴァンと大臣はギルソンやアリスと一緒に貴族客車の一室に乗り込んだ。いわゆる接待である。
「ふん、こんなばかでかい物が動くというのか。信じられんな」
「ええ、それはすぐに分かりますよ。まもなく一番列車の出発ですから」
ギルソンは窓から外を見て、アリスが作り出した時計を見ている。一日の中でタイミングの変わらない、日の光が一番高くなる瞬間から次の瞬間までを測り、それを24等分した時間の長さを示した円盤である。その円盤を動く針の位置で今の時間を知るのだ。ちなみにこの時計はすべての駅に設置されている。賛同を得られなかった2か所にも設置済みだ。
この時計の作製には、アリスの前世であるありすの機械技師としての技術が詰め込まれている。これもこれで十分に国家機密レベルである。そんな機密の塊が、こうした公共の場に堂々と飾られているなど、一体誰が思うだろうか。だが、あえてこれはイスヴァンたちには教えなかった。現時点では教える必要はないと判断したからである。今回のメインはあくまでも鉄道だ。これがマスカード帝国にも広がれば、時計は自然とマスカード帝国にも出ていくのだから言う必要はないというわけである。
しばらくすると、突然ラッパの音が響き渡る。
「な、なんだ今のは」
「今のは出発の合図ですね。発車時刻になると、ああやって駅員のオートマタがラッパを吹くんです」
「そうなのか」
「はい、合図がありませんと、動き出す列車に乗り込もうとする人が確実に出ますのでね。安全対策のために行っております」
イスヴァンの質問に、ギルソンとアリスが次々と答える。イスヴァンがその回答に感心していると、ガタンと一瞬列車が揺れた。
「あっ、動き出しましたね。最初の停車駅ツヴァイスまでは二時間ほどで着きますので、しばらくは外の景色をお楽しみ下さい」
「二時間? そんなに近いのか?」
ギルソンの言葉にイスヴァンは疑問を持った。
「いえ、王都からツヴァイスまでは馬車で2日間の距離でございます。この列車はその距離をたったの二時間で移動できるのです」
「はっ、何をそんなバカな!」
信じられるかといった表情のイスヴァンだったが、外の景色を見て驚いていた。ものすごい速度で周りの景色が過ぎ去っていくのだ。これにはさすがのイスヴァンも目を見開いて黙るしかなかった。自分の見ているものが信じられないのだから。
「な、なんという事だ。これは、馬よりも速いではないか……」
さっきまでの偉そうな態度が崩れていくイスヴァン。ばかにしていた隣国でまさかこんな技術が爆誕していようとは、夢にも思わなかったからだ。
驚くイスヴァンは同行している大臣と相談を始める。この光景に、ギルソンとアリスはほっとした様子である。どうやら思惑通りに進みそうなのだから。
こうしているうちに、一番列車は無事にツヴァイスの街に到着したのであった。
「これだけの速さでありながら、こんなに静かに止まれるものなのか……」
「はい、オートマタの魔法制御あってこその技術でございます」
驚きっぱなしのイスヴァンの言葉に、アリスは静かにそう答えた。
「駅で止まるごとに30分間の休憩を挟みながらツェンまで向かいます。この後も列車の旅をご堪能下さいませ」
アリスはこう言うと、隣の個室乗り込んでいるジャスミンに連絡を入れるのだった。
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