転生オートマタ

未羊

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Mission039

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 帝国からの客人が王都にやって来た。
「ふん、弱小な王国ごときが我らを招くなど、いい身分になったものよな」
「まったくでございます」
 何とも尊大な態度を取っているのは、ファルーダン鉄道の開業の式典に招かれた隣国の帝国の大臣と皇子だった。
 イスヴァン・マスカード。隣国マスカード帝国の皇子で、来年から留学生としてやって来る事になっている。帝国には学業施設がないためにこういう事がなされるようだ。数年前までは農産物の輸出で優位に立っていただけに、マスカード帝国はずいぶんとファルーダン王国に対して威張り散らしていた。留学生の立場とはいえど、マスカード帝国出身者による行為は目に余るものだったそうだ。
 そういった経緯もあってか、最近の王国の成長ぶりにイスヴァンの機嫌はあまりよろしくない。マスカード帝国からしたら、ファルーダン王国など取るに足りない存在だったのだ。
「しかし、この鉄道というものは一体何なのだ。初めて聞く言葉だし、まったく想像がつかんぞ」
「そうでございますね。さすがの私も何の事かまったく分かりませんぞ」
「まあいい。どうせ明日になればその鉄道とやらを拝めるのだ。素晴らしいものであるなら、少しくらい褒めてやってもいいだろう」
 イスヴァンはそう偉そうな口を叩きながら、王宮の中を歩いていた。その姿を見かけた城の使用人たちは、一応にものすごく嫌な顔をしていた。しかし、イスヴァンたちに付き添う護衛や使用人たちに睨まれると、すごすごと自分の持ち場へ戻っていった。
 一応彼らは客人である以上、歓迎の晩餐会は豪華に執り行われた。アリスの努力によって豊かになったその食卓は、イスヴァンたちを驚かせるには十分だった。
 特に初めて見るお米なるものの食事は驚かされていたようである。なにせ帝国でもお米は家畜の飼料にされているのだから、それがこれほどまでのものになるとは想像すらしていなかったようである。
 だが、イスヴァンは強気の態度を崩す事はなかった。弱小だと思っている国に弱みを見せるわけにはいかないからだ。強者としての矜持が彼の支えなのである。
 そんな彼らを、ギルソンとアリス、それとマリカとジャスミンも遠目から見ていた。鉄道の責任者としては出席しないわけにはいかなかったので、顔合わせはしないという条件を提示した上で了承したのだ。そのために、遠目からの確認なのである。
 それというのも、鉄道の職員であるオートマタが捕まえた不審人物が、マスカード帝国の人間だったからだった。なので、警戒のあまりに近付きたくなかったというわけである。
(なるほど、見るからに傲慢そうな人物ですね。こうなったら、明日の式典でその鼻っ面をへし折って差し上げましょう)
 アリスはそのイスヴァンのにやつく顔を見て、そう思ってしまったのであった。

 さて、無事に翌日を迎える。天気は快晴である。
 一番列車からしてツェンまでの列車であり、途中停車時間を含めて16時間ほどの旅となる。実に馬車なら10日は掛かる道のりが、たったのそれだけで済むのだ。同じ場所を馬車で進むなら、実に半日近い距離が1時間程度である。値段もかなり割高ではあるが、本日開催される式典の参加者には往復が無料で乗れるチケットが渡される事になっている。それだけに、式典には多くの人が詰めかけていた。
 王都の駅にはすでに列車が待機しており、大勢の観客が列車を物珍しそうに眺めていた。
「な、なんだあれはっ!」
 イスヴァンも列車を見て思わず声を上げていた。
「あれが列車というものでしょう。なるほど、なんとも見た事ない不思議な形をしておりますな」
 大臣も内心では驚いてはいるものの、冷静に感想を述べていた。
 そこへ、ギルソンとアリスが近付いていく。
「ようこそ、ファルーダン鉄道へ。歓迎致します、イスヴァン・マスカード殿下」
 ギルソンが挨拶をすると、イスヴァンはくるりと振り返った。鋭いつり目がギルソンへと向けられる。
「貴様は誰だ。このイスヴァン・マスカードに気軽に声を掛けてくれるなよ」
 イスヴァンは鋭い視線ときつい声をギルソンに浴びせる。しかし、ギルソンもこの程度では怯みはしなかった。
「これは失礼致しました。ボクはファルーダン王国第五王子のギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。そして、このファルーダン鉄道の責任者でもあります。以後、お見知りおきを」
 ギルソンは、すっとマスカード帝国式の挨拶のポーズを取る。自国の中ではあるが、相手を立てるための行為である。これにはイスヴァンは気を良くした。
「そうかそうか、それは失礼したな。貴様が責任者というこの鉄道とやらを、じっくり見させてもらうぞ」
「はい、それはじっくりご堪能頂く所存でございます。式典の後の一番列車をお楽しみ下さい」
「時に、そちらの女性は誰だ?」
 挨拶を終えて去ろうとしたギルソンとアリスだったが、不意にイスヴァンに声を掛けられて足を止める。
「こちらはボクのオートマタであるアリスです。この鉄道の発案者であり、一番の功績者なんですよ」
「アリスと申します。イスヴァン・マスカード殿下、ようこそファルーダン鉄道の開業式典にお越し下さいました。光栄の極みでございます」
「ほぉ、これがオートマタというやつか。人と変わりないではないか」
 イスヴァンがアリスをじろじろと見ている。
「イスヴァン殿、あまりオートマタを不機嫌にさせない事をお勧めします。魔法という特殊な力がございますので、万一の事があってはいけませんから」
「ふん、そうだったな。まあ、式典の邪魔をするつもりはないから、挨拶はこのくらいにしておこうか」
 ギルソンが間に割って入ると、イスヴァンは尊大な態度を取りながらくるりと背中を向けた。
 まったくもって第一印象が最悪なイスヴァン皇子。しかし、彼は来年に留学生として王国にやって来るのだ。なんとも先が思いやられる出会いなのであった。
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