転生オートマタ

未羊

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Mission038

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 あれからまた1か月の時間を要し、ようやくファルーダン王国、いや、小説世界初の鉄道が開業を迎えようとしていた。
 貴族の馬車の件も、5台までなら載せられるように貨車を開発して連結しているに至ったのだ。懸念は取り合えず解消したのである。トンネルもあるにはあるが、鉱山の街ツェンとノーインの間の山間部のみ。あれからというもの、貨車の高さと馬車の高さを念頭に入れて拡張工事もしたので問題ないはずである。
 鉄道ダイヤはとりあえずオートマタの増員と機関車の増産ができたので、日に4本の列車を稼働させられるようになっていた。本当に工房の人たちには感謝するしかない。
 さて、開業日も決まっていたので、実はお隣の帝国にも参加頂くようにと招待状を送っておいた。将来的には帝国との間にも鉄道を敷設する予定なので、必要なコネ作りである。将来的に鉄道が敷設できれば、ファルーダンの王都と帝国の帝都の間も半日程度で結ばれる事になるのだ。これを示せば、油断ならない帝国の皇族たちを納得させられるかも知れない。なにせ、良質なファルーダンの鉱石がものの2日間で帝都に届くようになるのだから。
 招待状を出してから2週間で、帝国からの返事の手紙が届いた。参加する旨が書かれていたので、とりあえずは安心するアリスだったが、相手は野心家の帝国であるがためにまったく油断はできない。アリスは気を引き締め直していた。
 ギルソンたち王族のそろう夕食の場で、アリスは失礼ながらにもギルソンを通して発言の場を設けてもらった。
「失礼ながらにも、このアリス、この場で発言させて頂ける事を喜ばしく存じます」
 アリスは定型句的に述べてから発言を開始する。
「帝国の皇族がファルーダンの鉄道の開業式に参加なされる事は、すでに国王陛下たちのお耳にも入っておられるかと存じます」
 まずはこう言えば、国王たちが頷いている事が確認できる。大臣たちの元に届いた手紙の内容は、すぐに国王たちにも伝えられているのである。
「帝国は我が国の隣国ながらに油断ならない相手です。式典には招いておりますが、警戒を怠らない事に越した事がないと思われます」
 アリスは淡々と言葉を続けている。
「今回の鉄道を餌にすれば、うまくいけば帝国を懐柔できるかとは思います。こちらの鉱石やあちらの農産物などが短時間でやり取りできるのですから、十分に魅力があると考えています。そこで、陛下たちのご意見を伺いたく存じます」
 アリスはこう言い切ると、再び壁の方へと下がった。
 実はこの時点で、アリスが常に放っている感知魔法が怪しい人影を捉えていたのである。おそらくは帝国の間者だろうと考えられる。
(帝国はすでにこちらに対してかなり警戒を強めていますね。ですが、来週に迫った鉄道の開業を邪魔されるわけにはいきませんよ)
 アリスは常に、鉄道で働くオートマタとマリカのオートマタであるジャスミンとは意思疎通を取っている。オートマタの起動にあたって魔法石を選んだのはすべてアリスであり、その事によってこういう事が可能になっているのである。
『アリス姉様。ジャスミンです』
 その最中にジャスミンから通信が入る。
『どうしたのです、ジャスミン』
『王都内をうろつく怪しい人物を捕捉しました。いかが致しましょうか』
 ジャスミンの感知魔法が怪しい人物を見つけたようである。少し考えたアリスだったが、
『しばらく泳がせておきなさい。怪しい行動を見せたら、鉄道の駅に居るオートマタに伝えて対処します』
『了解しました』
 ジャスミンからの通信を切ると、アリスは食堂の中へと意識を戻す。目の前では王族たちの真剣な話し合いが行われていたが、やはり総じて帝国への警戒が感じられるものとなっているようだった。
 帝国は相変わらず武力をちらつかせているわけだが、オートマタという圧倒的な戦力を前にその態度貫いているのでなかなか大したものである。となれば、その実力差というものを現実に見せつけて黙らせるのが一番早い。アリスが鉄道の開業日に帝国の人間を招くのは、それが狙いだからである。王国に住む者として、帝国というのはなかなかに野蛮で毛嫌いしたくなるものだが、いつまでも狂犬を放置しておくのも得策ではないのだ。
 で、結局この夕食の席での話は、あくまでも隣国の付き合いとして招待してもてなす方針を再確認した。だが、その上での対応は、すべてギルソンとアリスに丸投げされたのである。
 ……原作とは違う状況ではあるが、ギルソンは王家からは少し距離を置かれるようになってしまったようだ。まぁ、大体その原因は、隣に立つオートマタのせいである。
 というわけで、帝国への対応をすべて任されてしまったギルソンとアリスは、城での歓迎会や式典での対応などのすべてを取り仕切る事となった。一応、城の兵士や使用人たちもそこそこ自由にする事できるようである。相手も一国の重要人物なのだから、そこで王家がまったく関わらないというのは問題だからである。
 さて、そんな状況の中、いよいよファルーダン鉄道の開業の日を迎える事になったのだった。
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