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Mission036
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運転役のオートマタが魔石に魔力を込め、ゆっくりと列車が動き始める。そうすると、試乗会に参加した貴族たちからは驚きの声が上がっている。
今日の試乗会は、距離にして二日掛かるツヴァイスの街までだ。時間にすれば2時間もあれば着く。途中ではアインゼの街で30分ほどの停車時間を設けている。
列車はあっという間に王都を駆け抜け、街道の脇の盛土の区間を走っている。飛ぶように流れていく景色に、参加した貴族たちは目を白黒としている。こんなのは馬の遠乗りした時くらいにしか見る事がない景色だが、その時は馬をコントロールしなければならないので、このようにゆっくりと外の景色を眺めながら走るなんて事はなかった。ものすごく新鮮である。
ちなみにこの試乗会では、食堂車で調理も行われている。移動時間は短いとはいえども、列車の中で移動しながら食事が取れるというのは驚きだった。一般市民も数名乗り込んでいて、食堂車で貴族と鉢合わせになった時は、お互いに気まずそうになっていた。やっぱり身分の間の隔たりというのは大きい事がよく分かる。ちなみにだが、列車の中では食事に貴賎の差はない。値段によって異なるものの、同じメニューが振る舞われる。快く思わない貴族も居るが、そもそも値段が違うので平民と貴族が食べられるものが異なってしまうので、さして問題にはならないだろう。
ちなみに貴族客車も平民客車も寝台がちゃんと仕込んである。アリスが前世の北陸で見た列車が参考になっている。平民の方はボックス席の座席と上部に二段ベッドとなっているし、貴族の方は寝台列車の個室を再現している。何かと鉄道にはお世話になっているからこそのこだわりだった。
ちなみにアインゼで停車中に、貴族客車はギルソンとアリスが、平民客車はマリカとジャスミンがそれぞれ説明にあたっていた。
「おお、こうやって二段ベッドになっているのですか」
「はい、上段のベッドの格納庫に上下段の両方の分のシーツが収納されていますので、夜行などで休まれる時はそれをお使い下さい」
「夜行って、夜も走るのかい?」
マリカの説明に、試乗会に参加している平民たちはその事を気にしている。
「そうですね。列車にも設備はあるのですが、お手洗いなどの関係があって、各街で30分ほど停車します。なので、王都から終点のツェンまではどうしても半日以上かかるんです。ですから、王都を朝早くに出たとしても、ツェンに到着するのは真夜中なんですよね。そのために夜行列車としてこのベッドが備え付けてあるんです」
マリカの説明にほぉっと唸っている平民たち。
「現在は編成数の関係で、1日に2本の列車が王都とツェンの間を往復します。そのために列車自体に宿泊設備が整っていますし、各街の駅にも簡易の宿泊所が設けられています。この路線が成功するようであれば、王国内各地にさらに延伸計画がありますね」
どんどんと難しくなっていくマリカの説明に、平民たちは目を回し始めた。さすがに理解させるには難しかったようだ。
「とにかく、運転はオートマタが担当していますので、それこそ不眠不休で動かせるんです。この鉄道計画では主要都市間は鉄道で人や物の移動を行って、そこからは従来の馬車で結ぶという感じにする予定です。この計画には王族のギルソン殿下も関わっていますが、ぜひともみなさんからの忌憚のない意見をよろしくお願い致しますね」
マリカはそう言って、にっこりと説明を締めた。説明が終わると、平民たちは二段ベッドの操作をして、その感じを確認していた。
「マリカ様、アリス先輩から連絡です。そろそろツヴァイスに向けて出発との事です」
「分かりました。こちらも出発して大丈夫だと伝えて下さい」
「畏まりました」
ジャスミンからの連絡を受けて、マリカは平民たちに向かって声を掛ける。
「そろそろ出発されるようですので、席にお座り下さい。立っていても大丈夫ですけれど、動き出す時に少々揺れますので、座っている方が安全ですのでよろしくお願いします」
マリカが呼び掛けると、平民たちはそれに従って席に着いた。
しばらくすると、ツヴァイスに向けて列車が動き出す。線路は再び高架へと登り始め、郊外に出ると盛土の部分を進んでいく。アリスの魔法で盛土も高架も線路もがちがちに固めてあるので、それなりに雨が降ろうが魔物がぶつかろうがびくともしないという強靭な鉄路である。枕木だって木ではなくPCもどきの枕木だ。土を魔法でぎゅっと固めたものなので、もどきなのである。それをいうならレールも金属もどきである。
そうやって徹底的に作り上げた線路は継ぎ目がないので面白いほどに揺れない。熱膨張も熱収縮も起きないレールだからだ。この快適性には貴族たちも平民たちも満足しているようで、これだけでも手応えがばっちりである。全員席に座って、外の景色を物珍しそうに見ている。王都からアインゼまでもそうだったが、外の景色がこれだけのスピードで流れていくなど、誰もが経験した事のないものだから仕方がないのだ。そんなわけだから、移動中は全員に景色を楽しんでもらうために説明はあえて何もしていない。途中で魔物が出る事もあったが、車掌を兼ねるオートマタがあっさりと撃退してしまう。ちなみに回収も忘れない。新鮮な食材だし、放置するといろいろ危険だからである。
車内がまったりしている間に、列車は今回の試乗会の目的地であるツヴァイスに到着したのだった。
今日の試乗会は、距離にして二日掛かるツヴァイスの街までだ。時間にすれば2時間もあれば着く。途中ではアインゼの街で30分ほどの停車時間を設けている。
列車はあっという間に王都を駆け抜け、街道の脇の盛土の区間を走っている。飛ぶように流れていく景色に、参加した貴族たちは目を白黒としている。こんなのは馬の遠乗りした時くらいにしか見る事がない景色だが、その時は馬をコントロールしなければならないので、このようにゆっくりと外の景色を眺めながら走るなんて事はなかった。ものすごく新鮮である。
ちなみにこの試乗会では、食堂車で調理も行われている。移動時間は短いとはいえども、列車の中で移動しながら食事が取れるというのは驚きだった。一般市民も数名乗り込んでいて、食堂車で貴族と鉢合わせになった時は、お互いに気まずそうになっていた。やっぱり身分の間の隔たりというのは大きい事がよく分かる。ちなみにだが、列車の中では食事に貴賎の差はない。値段によって異なるものの、同じメニューが振る舞われる。快く思わない貴族も居るが、そもそも値段が違うので平民と貴族が食べられるものが異なってしまうので、さして問題にはならないだろう。
ちなみに貴族客車も平民客車も寝台がちゃんと仕込んである。アリスが前世の北陸で見た列車が参考になっている。平民の方はボックス席の座席と上部に二段ベッドとなっているし、貴族の方は寝台列車の個室を再現している。何かと鉄道にはお世話になっているからこそのこだわりだった。
ちなみにアインゼで停車中に、貴族客車はギルソンとアリスが、平民客車はマリカとジャスミンがそれぞれ説明にあたっていた。
「おお、こうやって二段ベッドになっているのですか」
「はい、上段のベッドの格納庫に上下段の両方の分のシーツが収納されていますので、夜行などで休まれる時はそれをお使い下さい」
「夜行って、夜も走るのかい?」
マリカの説明に、試乗会に参加している平民たちはその事を気にしている。
「そうですね。列車にも設備はあるのですが、お手洗いなどの関係があって、各街で30分ほど停車します。なので、王都から終点のツェンまではどうしても半日以上かかるんです。ですから、王都を朝早くに出たとしても、ツェンに到着するのは真夜中なんですよね。そのために夜行列車としてこのベッドが備え付けてあるんです」
マリカの説明にほぉっと唸っている平民たち。
「現在は編成数の関係で、1日に2本の列車が王都とツェンの間を往復します。そのために列車自体に宿泊設備が整っていますし、各街の駅にも簡易の宿泊所が設けられています。この路線が成功するようであれば、王国内各地にさらに延伸計画がありますね」
どんどんと難しくなっていくマリカの説明に、平民たちは目を回し始めた。さすがに理解させるには難しかったようだ。
「とにかく、運転はオートマタが担当していますので、それこそ不眠不休で動かせるんです。この鉄道計画では主要都市間は鉄道で人や物の移動を行って、そこからは従来の馬車で結ぶという感じにする予定です。この計画には王族のギルソン殿下も関わっていますが、ぜひともみなさんからの忌憚のない意見をよろしくお願い致しますね」
マリカはそう言って、にっこりと説明を締めた。説明が終わると、平民たちは二段ベッドの操作をして、その感じを確認していた。
「マリカ様、アリス先輩から連絡です。そろそろツヴァイスに向けて出発との事です」
「分かりました。こちらも出発して大丈夫だと伝えて下さい」
「畏まりました」
ジャスミンからの連絡を受けて、マリカは平民たちに向かって声を掛ける。
「そろそろ出発されるようですので、席にお座り下さい。立っていても大丈夫ですけれど、動き出す時に少々揺れますので、座っている方が安全ですのでよろしくお願いします」
マリカが呼び掛けると、平民たちはそれに従って席に着いた。
しばらくすると、ツヴァイスに向けて列車が動き出す。線路は再び高架へと登り始め、郊外に出ると盛土の部分を進んでいく。アリスの魔法で盛土も高架も線路もがちがちに固めてあるので、それなりに雨が降ろうが魔物がぶつかろうがびくともしないという強靭な鉄路である。枕木だって木ではなくPCもどきの枕木だ。土を魔法でぎゅっと固めたものなので、もどきなのである。それをいうならレールも金属もどきである。
そうやって徹底的に作り上げた線路は継ぎ目がないので面白いほどに揺れない。熱膨張も熱収縮も起きないレールだからだ。この快適性には貴族たちも平民たちも満足しているようで、これだけでも手応えがばっちりである。全員席に座って、外の景色を物珍しそうに見ている。王都からアインゼまでもそうだったが、外の景色がこれだけのスピードで流れていくなど、誰もが経験した事のないものだから仕方がないのだ。そんなわけだから、移動中は全員に景色を楽しんでもらうために説明はあえて何もしていない。途中で魔物が出る事もあったが、車掌を兼ねるオートマタがあっさりと撃退してしまう。ちなみに回収も忘れない。新鮮な食材だし、放置するといろいろ危険だからである。
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