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Mission035
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さて、鉱山の街ツェンの町長の了承は得られたので、残るは途中駅の選定だ。一応建設にあたって、アリスは町長たちにお伺いを建てておいた。王家が関わっているので建設は構わないものの、駅の設置にはどうにも消極的だった。鉄道というものがどういうものか分からないからだ。そんなわけで、帰りの道は町長と顔を合わせながら一つ一つ説得していく事になった。
しかし、鉄道を通すにあたっては、まだまだ問題は多い。
一つ目は2編成しかないので、1日に1往復が限界である事。せめてもう2編成は欲しいところだ。そうすれば半日に1本走らせる事ができる。これは工房の能力次第なので何とも言えない。
二つ目は、間に挟む客車と貨車の数だ。どれほどの乗客が見込めるか分からないので、用意する車両数が分からないのだ。貨車の方は鉱山から運び出す鉱石を基準に算出する。
三つ目は、料金。駅間における金額を設定しておきたいところだ。馬車より圧倒的に早いので、あまり安くすると馬車があおりを受けて営業できなくなってしまうので、そこそこの高値の予定である。
四つ目は、食事などのサービス。王都からかツェンまで丸1日かかる距離だ。少なくとも2回の食事は必要だし、睡眠スペースも必要かもしれない。その中でも最大の問題は、やはりトイレだろう。どうしても迫りくるトイレの気配には勝てないものなのだ。最悪、客車ひとつを丸ごとトイレにするのも手だろう。それはおいおい詰める事にしようとアリスは考えた。
アリスの思考は再び途中駅の選定に戻る。
駅は各宿場町に設置の予定である。アインゼ、ツヴァイス、トライザ、フィーアス、フンフト、ゼクス、ズィーベ、アッハス、ノーイン、ツェン、それと王都の11の駅を予定している。各宿場町の町長の了承さえ取れれば、駅舎を造ってホームを本格的なものへと作り変える予定である。終点のツェンはすでに了承済みな上に、立派な駅舎が建っている。最終的には鉱山のトロッコと直通させる予定だ。ただ、軌道幅が違うので、そのまま鉄道に直通できない。なので、どのみち積み替えが必要になるが、オートマタが居る以上は大した労力にもならないだろう。
アリスたちは一駅戻っては降りて交渉という手順を踏んでいった。復路の運転はオートマタたちに実践させてみている。さすがはアリスがこのためだけに選んだ魔法石を持つオートマタたち。運転技術は完璧だった。
そして、交渉の方も意外と順調だった。試乗もしてもらった上で断ってきたのは、アインゼとアッハスの2つの街だけだった。馬車と宿にどれだけ影響が出るのかが心配というのがその理由だった。懸念はもっともだが、それでも抵抗は思いの外少なかった。さすが王家主導の事業という事で、断りにくかったのだろう。
ともかく、その2つの街を除いてはホームを正式に建設する。ホームには屋根を付けて雨でも濡れないようにしておいた。
この鉄道の原動力は魔力なので、架線は要らないし、空気を汚す事もない。実に安全クリーンな乗り物である。
あと、鉄道が開業すれば影響を受ける馬車にももちろん配慮はする。鉄道沿線の利用者は減るだろうから、そこから枝葉に分かれる便への振り替え支援と、利益減少分の補填を一部行うとする予定だ。これは城に戻ってから正式に採決して決定となる。
こうして、着実にファルーダン鉄道の開業に向けて準備が整えられていった。
だが、ここに来て大きな問題にぶち当たった。貴族は自前の馬車で移動するという問題だ。これを解決するために、一時的にではあるが貴族の馬車を預かるスペースを各駅に設ける事にした。なので、駅にはしっかりとした馬丁を配置する事になったのだ。また、自分の家の馬車がない場合でも、貴族の眼鏡に適うように訓練された馬としっかりとした造りの馬車を貸し出せるように用意をしておく。貴族の機嫌を損ねるのは何かと問題しかないので、あらゆる対処をしておくようにしたのだ。
トイレに関してもオートマタの魔法によるチートを利用させてもらう。水洗トイレと消臭の魔道具をアリスは頑張って作ったのだ。これで、客車の下にトイレの汚物が溜まっていても臭いは漏れないし、雑菌だって退治できる。とにかく、この世界に存在しない技術をこれでもかと詰め込む事にしたのだ。
思い付きだったとはいえ、ここまで準備が大変なのかと、アリスは少なからず後悔していた。
こうして、提案からというもの、実に半年を要してしまい、ギルソンたちは11歳となっていた。
とても苦労したものの、どうにか実用に向けての試運転を行えるようになった。この間に全部で運転台は四編成分に増え、客車に貨車を連結して適度な重量の重りを魔法で生成して、いざ準備は整った。
この試運転には興味を持った貴族たちも参加しており、途中でレンタル馬車の試乗会にも参加してくれる事になっている。
何にしても、ファルーダン王国の新たな一ページを刻む大事業が、いよいよ稼働するのである。
運転台に立つアリスと担当のオートマタは緊張に包まれていた。
全員が列車に乗り込み、オートマタの魔法で扉が締められる。
「出発進行!」
いよいよ、列車が新たな時代に向けて動き出す時が来たのだった。
しかし、鉄道を通すにあたっては、まだまだ問題は多い。
一つ目は2編成しかないので、1日に1往復が限界である事。せめてもう2編成は欲しいところだ。そうすれば半日に1本走らせる事ができる。これは工房の能力次第なので何とも言えない。
二つ目は、間に挟む客車と貨車の数だ。どれほどの乗客が見込めるか分からないので、用意する車両数が分からないのだ。貨車の方は鉱山から運び出す鉱石を基準に算出する。
三つ目は、料金。駅間における金額を設定しておきたいところだ。馬車より圧倒的に早いので、あまり安くすると馬車があおりを受けて営業できなくなってしまうので、そこそこの高値の予定である。
四つ目は、食事などのサービス。王都からかツェンまで丸1日かかる距離だ。少なくとも2回の食事は必要だし、睡眠スペースも必要かもしれない。その中でも最大の問題は、やはりトイレだろう。どうしても迫りくるトイレの気配には勝てないものなのだ。最悪、客車ひとつを丸ごとトイレにするのも手だろう。それはおいおい詰める事にしようとアリスは考えた。
アリスの思考は再び途中駅の選定に戻る。
駅は各宿場町に設置の予定である。アインゼ、ツヴァイス、トライザ、フィーアス、フンフト、ゼクス、ズィーベ、アッハス、ノーイン、ツェン、それと王都の11の駅を予定している。各宿場町の町長の了承さえ取れれば、駅舎を造ってホームを本格的なものへと作り変える予定である。終点のツェンはすでに了承済みな上に、立派な駅舎が建っている。最終的には鉱山のトロッコと直通させる予定だ。ただ、軌道幅が違うので、そのまま鉄道に直通できない。なので、どのみち積み替えが必要になるが、オートマタが居る以上は大した労力にもならないだろう。
アリスたちは一駅戻っては降りて交渉という手順を踏んでいった。復路の運転はオートマタたちに実践させてみている。さすがはアリスがこのためだけに選んだ魔法石を持つオートマタたち。運転技術は完璧だった。
そして、交渉の方も意外と順調だった。試乗もしてもらった上で断ってきたのは、アインゼとアッハスの2つの街だけだった。馬車と宿にどれだけ影響が出るのかが心配というのがその理由だった。懸念はもっともだが、それでも抵抗は思いの外少なかった。さすが王家主導の事業という事で、断りにくかったのだろう。
ともかく、その2つの街を除いてはホームを正式に建設する。ホームには屋根を付けて雨でも濡れないようにしておいた。
この鉄道の原動力は魔力なので、架線は要らないし、空気を汚す事もない。実に安全クリーンな乗り物である。
あと、鉄道が開業すれば影響を受ける馬車にももちろん配慮はする。鉄道沿線の利用者は減るだろうから、そこから枝葉に分かれる便への振り替え支援と、利益減少分の補填を一部行うとする予定だ。これは城に戻ってから正式に採決して決定となる。
こうして、着実にファルーダン鉄道の開業に向けて準備が整えられていった。
だが、ここに来て大きな問題にぶち当たった。貴族は自前の馬車で移動するという問題だ。これを解決するために、一時的にではあるが貴族の馬車を預かるスペースを各駅に設ける事にした。なので、駅にはしっかりとした馬丁を配置する事になったのだ。また、自分の家の馬車がない場合でも、貴族の眼鏡に適うように訓練された馬としっかりとした造りの馬車を貸し出せるように用意をしておく。貴族の機嫌を損ねるのは何かと問題しかないので、あらゆる対処をしておくようにしたのだ。
トイレに関してもオートマタの魔法によるチートを利用させてもらう。水洗トイレと消臭の魔道具をアリスは頑張って作ったのだ。これで、客車の下にトイレの汚物が溜まっていても臭いは漏れないし、雑菌だって退治できる。とにかく、この世界に存在しない技術をこれでもかと詰め込む事にしたのだ。
思い付きだったとはいえ、ここまで準備が大変なのかと、アリスは少なからず後悔していた。
こうして、提案からというもの、実に半年を要してしまい、ギルソンたちは11歳となっていた。
とても苦労したものの、どうにか実用に向けての試運転を行えるようになった。この間に全部で運転台は四編成分に増え、客車に貨車を連結して適度な重量の重りを魔法で生成して、いざ準備は整った。
この試運転には興味を持った貴族たちも参加しており、途中でレンタル馬車の試乗会にも参加してくれる事になっている。
何にしても、ファルーダン王国の新たな一ページを刻む大事業が、いよいよ稼働するのである。
運転台に立つアリスと担当のオートマタは緊張に包まれていた。
全員が列車に乗り込み、オートマタの魔法で扉が締められる。
「出発進行!」
いよいよ、列車が新たな時代に向けて動き出す時が来たのだった。
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