36 / 173
Mission035
しおりを挟む
さて、鉱山の街ツェンの町長の了承は得られたので、残るは途中駅の選定だ。一応建設にあたって、アリスは町長たちにお伺いを建てておいた。王家が関わっているので建設は構わないものの、駅の設置にはどうにも消極的だった。鉄道というものがどういうものか分からないからだ。そんなわけで、帰りの道は町長と顔を合わせながら一つ一つ説得していく事になった。
しかし、鉄道を通すにあたっては、まだまだ問題は多い。
一つ目は2編成しかないので、1日に1往復が限界である事。せめてもう2編成は欲しいところだ。そうすれば半日に1本走らせる事ができる。これは工房の能力次第なので何とも言えない。
二つ目は、間に挟む客車と貨車の数だ。どれほどの乗客が見込めるか分からないので、用意する車両数が分からないのだ。貨車の方は鉱山から運び出す鉱石を基準に算出する。
三つ目は、料金。駅間における金額を設定しておきたいところだ。馬車より圧倒的に早いので、あまり安くすると馬車があおりを受けて営業できなくなってしまうので、そこそこの高値の予定である。
四つ目は、食事などのサービス。王都からかツェンまで丸1日かかる距離だ。少なくとも2回の食事は必要だし、睡眠スペースも必要かもしれない。その中でも最大の問題は、やはりトイレだろう。どうしても迫りくるトイレの気配には勝てないものなのだ。最悪、客車ひとつを丸ごとトイレにするのも手だろう。それはおいおい詰める事にしようとアリスは考えた。
アリスの思考は再び途中駅の選定に戻る。
駅は各宿場町に設置の予定である。アインゼ、ツヴァイス、トライザ、フィーアス、フンフト、ゼクス、ズィーベ、アッハス、ノーイン、ツェン、それと王都の11の駅を予定している。各宿場町の町長の了承さえ取れれば、駅舎を造ってホームを本格的なものへと作り変える予定である。終点のツェンはすでに了承済みな上に、立派な駅舎が建っている。最終的には鉱山のトロッコと直通させる予定だ。ただ、軌道幅が違うので、そのまま鉄道に直通できない。なので、どのみち積み替えが必要になるが、オートマタが居る以上は大した労力にもならないだろう。
アリスたちは一駅戻っては降りて交渉という手順を踏んでいった。復路の運転はオートマタたちに実践させてみている。さすがはアリスがこのためだけに選んだ魔法石を持つオートマタたち。運転技術は完璧だった。
そして、交渉の方も意外と順調だった。試乗もしてもらった上で断ってきたのは、アインゼとアッハスの2つの街だけだった。馬車と宿にどれだけ影響が出るのかが心配というのがその理由だった。懸念はもっともだが、それでも抵抗は思いの外少なかった。さすが王家主導の事業という事で、断りにくかったのだろう。
ともかく、その2つの街を除いてはホームを正式に建設する。ホームには屋根を付けて雨でも濡れないようにしておいた。
この鉄道の原動力は魔力なので、架線は要らないし、空気を汚す事もない。実に安全クリーンな乗り物である。
あと、鉄道が開業すれば影響を受ける馬車にももちろん配慮はする。鉄道沿線の利用者は減るだろうから、そこから枝葉に分かれる便への振り替え支援と、利益減少分の補填を一部行うとする予定だ。これは城に戻ってから正式に採決して決定となる。
こうして、着実にファルーダン鉄道の開業に向けて準備が整えられていった。
だが、ここに来て大きな問題にぶち当たった。貴族は自前の馬車で移動するという問題だ。これを解決するために、一時的にではあるが貴族の馬車を預かるスペースを各駅に設ける事にした。なので、駅にはしっかりとした馬丁を配置する事になったのだ。また、自分の家の馬車がない場合でも、貴族の眼鏡に適うように訓練された馬としっかりとした造りの馬車を貸し出せるように用意をしておく。貴族の機嫌を損ねるのは何かと問題しかないので、あらゆる対処をしておくようにしたのだ。
トイレに関してもオートマタの魔法によるチートを利用させてもらう。水洗トイレと消臭の魔道具をアリスは頑張って作ったのだ。これで、客車の下にトイレの汚物が溜まっていても臭いは漏れないし、雑菌だって退治できる。とにかく、この世界に存在しない技術をこれでもかと詰め込む事にしたのだ。
思い付きだったとはいえ、ここまで準備が大変なのかと、アリスは少なからず後悔していた。
こうして、提案からというもの、実に半年を要してしまい、ギルソンたちは11歳となっていた。
とても苦労したものの、どうにか実用に向けての試運転を行えるようになった。この間に全部で運転台は四編成分に増え、客車に貨車を連結して適度な重量の重りを魔法で生成して、いざ準備は整った。
この試運転には興味を持った貴族たちも参加しており、途中でレンタル馬車の試乗会にも参加してくれる事になっている。
何にしても、ファルーダン王国の新たな一ページを刻む大事業が、いよいよ稼働するのである。
運転台に立つアリスと担当のオートマタは緊張に包まれていた。
全員が列車に乗り込み、オートマタの魔法で扉が締められる。
「出発進行!」
いよいよ、列車が新たな時代に向けて動き出す時が来たのだった。
しかし、鉄道を通すにあたっては、まだまだ問題は多い。
一つ目は2編成しかないので、1日に1往復が限界である事。せめてもう2編成は欲しいところだ。そうすれば半日に1本走らせる事ができる。これは工房の能力次第なので何とも言えない。
二つ目は、間に挟む客車と貨車の数だ。どれほどの乗客が見込めるか分からないので、用意する車両数が分からないのだ。貨車の方は鉱山から運び出す鉱石を基準に算出する。
三つ目は、料金。駅間における金額を設定しておきたいところだ。馬車より圧倒的に早いので、あまり安くすると馬車があおりを受けて営業できなくなってしまうので、そこそこの高値の予定である。
四つ目は、食事などのサービス。王都からかツェンまで丸1日かかる距離だ。少なくとも2回の食事は必要だし、睡眠スペースも必要かもしれない。その中でも最大の問題は、やはりトイレだろう。どうしても迫りくるトイレの気配には勝てないものなのだ。最悪、客車ひとつを丸ごとトイレにするのも手だろう。それはおいおい詰める事にしようとアリスは考えた。
アリスの思考は再び途中駅の選定に戻る。
駅は各宿場町に設置の予定である。アインゼ、ツヴァイス、トライザ、フィーアス、フンフト、ゼクス、ズィーベ、アッハス、ノーイン、ツェン、それと王都の11の駅を予定している。各宿場町の町長の了承さえ取れれば、駅舎を造ってホームを本格的なものへと作り変える予定である。終点のツェンはすでに了承済みな上に、立派な駅舎が建っている。最終的には鉱山のトロッコと直通させる予定だ。ただ、軌道幅が違うので、そのまま鉄道に直通できない。なので、どのみち積み替えが必要になるが、オートマタが居る以上は大した労力にもならないだろう。
アリスたちは一駅戻っては降りて交渉という手順を踏んでいった。復路の運転はオートマタたちに実践させてみている。さすがはアリスがこのためだけに選んだ魔法石を持つオートマタたち。運転技術は完璧だった。
そして、交渉の方も意外と順調だった。試乗もしてもらった上で断ってきたのは、アインゼとアッハスの2つの街だけだった。馬車と宿にどれだけ影響が出るのかが心配というのがその理由だった。懸念はもっともだが、それでも抵抗は思いの外少なかった。さすが王家主導の事業という事で、断りにくかったのだろう。
ともかく、その2つの街を除いてはホームを正式に建設する。ホームには屋根を付けて雨でも濡れないようにしておいた。
この鉄道の原動力は魔力なので、架線は要らないし、空気を汚す事もない。実に安全クリーンな乗り物である。
あと、鉄道が開業すれば影響を受ける馬車にももちろん配慮はする。鉄道沿線の利用者は減るだろうから、そこから枝葉に分かれる便への振り替え支援と、利益減少分の補填を一部行うとする予定だ。これは城に戻ってから正式に採決して決定となる。
こうして、着実にファルーダン鉄道の開業に向けて準備が整えられていった。
だが、ここに来て大きな問題にぶち当たった。貴族は自前の馬車で移動するという問題だ。これを解決するために、一時的にではあるが貴族の馬車を預かるスペースを各駅に設ける事にした。なので、駅にはしっかりとした馬丁を配置する事になったのだ。また、自分の家の馬車がない場合でも、貴族の眼鏡に適うように訓練された馬としっかりとした造りの馬車を貸し出せるように用意をしておく。貴族の機嫌を損ねるのは何かと問題しかないので、あらゆる対処をしておくようにしたのだ。
トイレに関してもオートマタの魔法によるチートを利用させてもらう。水洗トイレと消臭の魔道具をアリスは頑張って作ったのだ。これで、客車の下にトイレの汚物が溜まっていても臭いは漏れないし、雑菌だって退治できる。とにかく、この世界に存在しない技術をこれでもかと詰め込む事にしたのだ。
思い付きだったとはいえ、ここまで準備が大変なのかと、アリスは少なからず後悔していた。
こうして、提案からというもの、実に半年を要してしまい、ギルソンたちは11歳となっていた。
とても苦労したものの、どうにか実用に向けての試運転を行えるようになった。この間に全部で運転台は四編成分に増え、客車に貨車を連結して適度な重量の重りを魔法で生成して、いざ準備は整った。
この試運転には興味を持った貴族たちも参加しており、途中でレンタル馬車の試乗会にも参加してくれる事になっている。
何にしても、ファルーダン王国の新たな一ページを刻む大事業が、いよいよ稼働するのである。
運転台に立つアリスと担当のオートマタは緊張に包まれていた。
全員が列車に乗り込み、オートマタの魔法で扉が締められる。
「出発進行!」
いよいよ、列車が新たな時代に向けて動き出す時が来たのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる