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Mission034
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真夜中の間は速度を落として、鉱山の街までゆっくりと進んでいった。そして、その鉱山の街にたどり着いた時には、空が白み始めていた。
アリスがしっかり路盤を整備しておかげで、列車の揺れは小さく、ギルソンたちはよく眠っていた。
運転に集中するアリスの様子を六体のオートマタは瞬きもせずに眺めている。そして、アリスがブレーキをかけて、ついに鉄道の終点、鉱山の街に到着したのだった。
キキーッという金属が擦れ合う音が響き渡り、列車はゆっくりと駅に到着する。他の駅は暫定的な場所なのでホームだけだったのに対して、この鉱山の街には王都に引けを取らない立派な駅舎ができ上がっていた。
列車のわずかな揺れで、ギルソンが目を覚ます。
「マイマスター、目を覚まされましたか」
停車を確認して運転を終えたアリスは、すぐさまギルソンに寄り添った。
「うん、アリス。ここは?」
「鉱山の街の駅でございますよ、マイマスター」
眠たい目を擦っていたギルソンは、アリスの返答を聞いて一気にベッドから飛び降りる。そして、外に広がる景色に驚いていた。そう、そこは間違いなく鉱山の街ツェンだった。
「すごい、たった1日でここまで来ちゃったんだ。すごいよ、アリス!」
一気に目が覚めたギルソンがとてもはしゃいでいる。王子とはいえ、やはり10歳の子どもなのである。
このギルソンの騒ぐ声に、他の面々も起き出してくる。
「なっ! ここは鉱山の街ではないか。もう着いたのか!」
重役である男性が騒いでいた。その騒がしさで、ベッドで最後まで寝ていたマリカも、ようやく起きてきた。
高地にあるために少しもやがかかったような鉱山の街ツェン。その景色は幻想的であり、ギルソンたちは息を飲んで眺めていた。
「こほん、目が覚めたところ悪いですが、朝が早いので顔を洗って食事にしましょう。あなたたち、頼みますよ」
「はい、マスターアリス」
六体のオートマタはてきぱきと後続の列車に載せられていた食材や調理器具を取り出す。こうして、オートマタたちの魔法もあって、アリスが水を出してギルソンたちの顔を洗っている間に、あっという間に朝食ができ上がったのである。
「うーん、これならジャスミンも連れてきたかったですね。孤児院の手伝いのために置いて来ちゃって、ちょっと可哀想かな」
マリカは自分のオートマタであるジャスミンを置いてきた事をちょっと後悔していた。とはいえ、自分が居ない間の孤児院の手伝いをさぼるわけにはいかず、ジャスミンに任せてきたのである。
「正式に開通すれば、いつでも来られますから、その時に連れてこられたらよいのではないでしょうか」
「はい、そうさせて頂きます」
アリスが提案すると、マリカはあっさりとそれを受け入れていた。
食事を終わらせると、六体のオートマタには留守番を頼んで、アリスたちは鉱山の街の町長へと挨拶に向かった。オートマタたちには怪しいのが居たら捕らえて駅舎に縛り付けておくように言っておいたので、とりあえず列車が奪われる事はないだろう。まぁ、そもそもオートマタの魔法じゃないと動かないし、アリスの魔法で車輪止めが効いているから大人数人がかりでも動く事はない。うん、一応大丈夫だろう。ちなみに、オートマタたちにも停車中は無駄に動かないように前後を魔法でロックする事は説明してある。これだけの鉄の塊が暴走したら大惨事になるから、絶対に忘れてはいけないと強く言っておいた。
さて、アリスたちはツェンの町長の家にやって来た。朝早い時間だったけれども、扉をノックすれば町長が顔を出してきた。
「やい、一体誰だ。こんな早い時間から!」
怒鳴ってきた町長だったが、目の前の人物を見て顔を青ざめさせていた。
「ぎ、ぎ、ぎ、ギルソン殿下?! こ、こんな早朝から何の御用でしょうか」
めちゃくちゃ動揺している。無理もない、こんな朝早くから王族がやって来る事などありえないのだから。
「うん、町長に見てもらいたいものがあって、やって来ました。ちょっと来て頂けますか?」
「そ、それはもちろん」
もう引け腰で言葉に勢いがない。王族の命令を断る事もできるわけがなく、町長はおとなしくギルソンたちに付いてきた。
駅までやって来た町長は、そこに止まっていた巨大な物体を見て腰を抜かしていた。
「な、なんだこれはっ!」
「これが鉄道の列車ですね。アリスから先日説明を受けられているはずですが?」
ギルソンは町長に確認を取るように話し掛ける。
「い、いや、確かに聞いてはいましたが、こ、こんなものとは、思いもしませんでしたよ」
驚きすぎて、少々呂律が怪しい町長。
「これはすごいですよ。王都からここまでたったの1日で着いてしまいましたからね。駅に着いてからでないと、先触れなどまったく何の役にも立ちません」
ギルソンは列車をペタペタと触りながら、町長に説明している。
「本当はこの間に人を乗せる客車、荷物を載せる貨車を挟む事になります。今まで馬車で10数日も掛かっていた運搬が、たったの1~2日で済んでしまうのです。これは革命になります」
アリスが説明を加える。
「今回、ギルソン殿下のオートマタの説明によれば、王都からこのツェンまでの主要な街をつなぐように鉄道を設置したとの事だ。現在、客車と貨車は製造中なので、営業が始まるにはまだ幾ばくかの日数が掛かる」
重役も現状を町長に話している。そうした上で、町長に迫る重役。
「どうだろうか。この鉄道について、貴殿の意見を聞きたい。分からないというのなら、実際に乗ってみてもらってもいいのだぞ」
ずずいっと迫る重役に、町長はもはや思考の余地はないと判断した。断っても無理にでも進められてしまう、そういう考えに至ったのだ。
「分かりました。賛成はしますが、とりあえず乗せて頂いてもよろしいでしょうか」
町長は諦めたように賛成の弁を述べたが、鉄道に試乗させてもらう事は忘れなかった。そして、隣の駅までの往復を体験した町長は、諦めの賛成から、前向きな賛成へと変わっていったのであった。
アリスがしっかり路盤を整備しておかげで、列車の揺れは小さく、ギルソンたちはよく眠っていた。
運転に集中するアリスの様子を六体のオートマタは瞬きもせずに眺めている。そして、アリスがブレーキをかけて、ついに鉄道の終点、鉱山の街に到着したのだった。
キキーッという金属が擦れ合う音が響き渡り、列車はゆっくりと駅に到着する。他の駅は暫定的な場所なのでホームだけだったのに対して、この鉱山の街には王都に引けを取らない立派な駅舎ができ上がっていた。
列車のわずかな揺れで、ギルソンが目を覚ます。
「マイマスター、目を覚まされましたか」
停車を確認して運転を終えたアリスは、すぐさまギルソンに寄り添った。
「うん、アリス。ここは?」
「鉱山の街の駅でございますよ、マイマスター」
眠たい目を擦っていたギルソンは、アリスの返答を聞いて一気にベッドから飛び降りる。そして、外に広がる景色に驚いていた。そう、そこは間違いなく鉱山の街ツェンだった。
「すごい、たった1日でここまで来ちゃったんだ。すごいよ、アリス!」
一気に目が覚めたギルソンがとてもはしゃいでいる。王子とはいえ、やはり10歳の子どもなのである。
このギルソンの騒ぐ声に、他の面々も起き出してくる。
「なっ! ここは鉱山の街ではないか。もう着いたのか!」
重役である男性が騒いでいた。その騒がしさで、ベッドで最後まで寝ていたマリカも、ようやく起きてきた。
高地にあるために少しもやがかかったような鉱山の街ツェン。その景色は幻想的であり、ギルソンたちは息を飲んで眺めていた。
「こほん、目が覚めたところ悪いですが、朝が早いので顔を洗って食事にしましょう。あなたたち、頼みますよ」
「はい、マスターアリス」
六体のオートマタはてきぱきと後続の列車に載せられていた食材や調理器具を取り出す。こうして、オートマタたちの魔法もあって、アリスが水を出してギルソンたちの顔を洗っている間に、あっという間に朝食ができ上がったのである。
「うーん、これならジャスミンも連れてきたかったですね。孤児院の手伝いのために置いて来ちゃって、ちょっと可哀想かな」
マリカは自分のオートマタであるジャスミンを置いてきた事をちょっと後悔していた。とはいえ、自分が居ない間の孤児院の手伝いをさぼるわけにはいかず、ジャスミンに任せてきたのである。
「正式に開通すれば、いつでも来られますから、その時に連れてこられたらよいのではないでしょうか」
「はい、そうさせて頂きます」
アリスが提案すると、マリカはあっさりとそれを受け入れていた。
食事を終わらせると、六体のオートマタには留守番を頼んで、アリスたちは鉱山の街の町長へと挨拶に向かった。オートマタたちには怪しいのが居たら捕らえて駅舎に縛り付けておくように言っておいたので、とりあえず列車が奪われる事はないだろう。まぁ、そもそもオートマタの魔法じゃないと動かないし、アリスの魔法で車輪止めが効いているから大人数人がかりでも動く事はない。うん、一応大丈夫だろう。ちなみに、オートマタたちにも停車中は無駄に動かないように前後を魔法でロックする事は説明してある。これだけの鉄の塊が暴走したら大惨事になるから、絶対に忘れてはいけないと強く言っておいた。
さて、アリスたちはツェンの町長の家にやって来た。朝早い時間だったけれども、扉をノックすれば町長が顔を出してきた。
「やい、一体誰だ。こんな早い時間から!」
怒鳴ってきた町長だったが、目の前の人物を見て顔を青ざめさせていた。
「ぎ、ぎ、ぎ、ギルソン殿下?! こ、こんな早朝から何の御用でしょうか」
めちゃくちゃ動揺している。無理もない、こんな朝早くから王族がやって来る事などありえないのだから。
「うん、町長に見てもらいたいものがあって、やって来ました。ちょっと来て頂けますか?」
「そ、それはもちろん」
もう引け腰で言葉に勢いがない。王族の命令を断る事もできるわけがなく、町長はおとなしくギルソンたちに付いてきた。
駅までやって来た町長は、そこに止まっていた巨大な物体を見て腰を抜かしていた。
「な、なんだこれはっ!」
「これが鉄道の列車ですね。アリスから先日説明を受けられているはずですが?」
ギルソンは町長に確認を取るように話し掛ける。
「い、いや、確かに聞いてはいましたが、こ、こんなものとは、思いもしませんでしたよ」
驚きすぎて、少々呂律が怪しい町長。
「これはすごいですよ。王都からここまでたったの1日で着いてしまいましたからね。駅に着いてからでないと、先触れなどまったく何の役にも立ちません」
ギルソンは列車をペタペタと触りながら、町長に説明している。
「本当はこの間に人を乗せる客車、荷物を載せる貨車を挟む事になります。今まで馬車で10数日も掛かっていた運搬が、たったの1~2日で済んでしまうのです。これは革命になります」
アリスが説明を加える。
「今回、ギルソン殿下のオートマタの説明によれば、王都からこのツェンまでの主要な街をつなぐように鉄道を設置したとの事だ。現在、客車と貨車は製造中なので、営業が始まるにはまだ幾ばくかの日数が掛かる」
重役も現状を町長に話している。そうした上で、町長に迫る重役。
「どうだろうか。この鉄道について、貴殿の意見を聞きたい。分からないというのなら、実際に乗ってみてもらってもいいのだぞ」
ずずいっと迫る重役に、町長はもはや思考の余地はないと判断した。断っても無理にでも進められてしまう、そういう考えに至ったのだ。
「分かりました。賛成はしますが、とりあえず乗せて頂いてもよろしいでしょうか」
町長は諦めたように賛成の弁を述べたが、鉄道に試乗させてもらう事は忘れなかった。そして、隣の駅までの往復を体験した町長は、諦めの賛成から、前向きな賛成へと変わっていったのであった。
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