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Mission033
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アリスは起動した六体のオートマタたちに、機関車の操作方法や鉄道の業務の云々を教えていく。さすがはオートマタなのか、この辺は従順に聞き入れている。
鉄道の運行は最初は二編成だけである。なにせ一編成造るだけでももの凄い労力なのだし、勝手も分からない。旅客用と貨物用の車両も作らなければならないので、そりゃもう大変なのである。
当面は完成した一編成を使って、王都と鉱山の街との間の試運転だ。アリスが頑張って整備した複線を使っての訓練である。
「これが鉄道ですか。なんとも不思議なものですね」
六体のオートマタは不思議そうに車内の設備を見ている。
「基本的に行動は二体一組で行動ですね。一人が機関車を操作して運転を行い、もう一人が周りの確認です。線路の状態がおかしければすぐに魔法で対処して下さい」
「分かりました、マスターアリス」
実に頼もしい返事をするオートマタたち。
「まず列車は二編成ですので、二人余りますが、その二人は終端駅にて列車のメンテナンスや転轍機の操作をお願いします。伝達魔法が使えるのなら助かるのですが、そういうのはどうでしょうかね」
「伝達魔法?」
アリスが行った聞き慣れない単語に、オートマタたちは首を傾げている。
「伝達魔法というか、離れた相手に言葉を伝える魔法ですね。オートマタによってはそういった事が可能だと思いますが?」
「なんとなく分かりました。それは普段から意思疎通をしていれば、自然と身に付くかと思います。過去にも同じ場所で働いていた者同士が、言葉なしに意思疎通をできるようになったような事があるようです」
オートマタの一人がそんな事を言っていた。どこから仕入れた知識なのかは分からないが、そういう事は実際にあったようだ。それを聞いたアリスは少し安心したようである。
というわけで、アリスは機関車の運転を実際に見せる。この試運転にはギルソンやマリカの他、数名の城の重役も集まっていた。燃料のスペースが要らないので構造上は小さくて済むのだが、安定性を重視しているので機関車単両でもかなり大きめなのだ。そのおかげでこうやって多くの人を乗せられるのである。ちなみに今は客車がないので、二両の機関車がそのまま連なっている。
「それでは、記念すべき試運転を始めますよ」
アリスはそう言って機関車の操作パネルとなる水晶球に手をかざした。
魔力を込められた水晶球が光ると、ガシャンガシャンと金属が動き出す音が聞こえ始める。
「すごい、動き始めた……」
ギルソンがそう言葉を漏らす。
そう、機関車が少しずつ前進を始めたのである。アリスは少しずつ込める魔力を強くしていく。すると、少しずつ列車の速度が速くなっていく。動き始めた巨大な鉄の塊に、王都の人たちが興味津々に列車を眺めている。
列車はすぐさま高架へと登り、王都の街並みを見るように進んでいく。レンガと土魔法を駆使して作られた頑丈な眼鏡橋を進んでいく列車。ギルソンたちはその列車から見える景色を満喫しているようである。一方でオートマタたちはアリスの魔法の加減を熱心に見ている。自分たちもこの操作を行う事になるのだから、それはもう真剣だった。
この時のアリスは周りに感知魔法を使いながら列車を運行していた。レールの歪みや障害物の察知など、とにかく列車の運行には気を遣う。たった1mmの誤差でも大事故につながりかねないのだ。この魔法の使用は、オートマタの間にも共有されている。アリスが選んだ魔法石は、こういう魔力共有に優れた石ばかりなのである。
しばらく進んでいくと、列車の速度が少しずつ落ち始めた。これにはギルソンたちも驚いていた。何か異常でもあったのだろうか。
「そろそろ街ですので、停車しているんですよ。ここにも駅を設ける予定ですのでね」
不思議そうな顔をしていたギルソンたちに説明するアリス。その言葉に納得するギルソンたちだった。
「むぅ、この街はツヴァイスか。馬車なら2日はかかる距離だぞ。そんなに時間が経っておらんのに、もう着いたというのか」
ついて来た重役の一人がその早さに驚いていたのだ。2日間という事は距離にして100km前後といったところか。鉄道なら本気を出せば1時間もかからない距離である。だが、今回は試運転とあって、アリスも本気は出していない。機関車の性能を確かめるためというのもあって必殺徐行も行いながらの移動だったので、まぁ3時間ちょっとといったところだ。それでも十分早い。
(この分なら10日以上かかる鉱山の街まででも、1日かからずに到着できるわね。この速度なら揺れも大した事ないけれど、それは客車を連結して、もう一度確認してからになるかしら。あと、設備は食堂車とお手洗いかしらね。この辺りの扱いは難しいところだわ。それなら一駅当たりの停車時間を延ばせばどうにかなるかしら)
食事休憩をしたところで、お手洗いの確認をする。今のところは大丈夫のようなので、アリスは再び列車を走らせ始めた。
途中にある街に寄りながら進み、停車4駅目で日が暮れ始めた。鉱山の街までの駅数は、残り3つである。さて、どうしたものか悩み始めた。
「マイマスター。このまま夜も走らせますか?」
アリスはギルソンに尋ねる。するとギルソンは、
「構いませんよ。それでこそ、運転にオートマタを使う意味が出てくるのですよね?」
それを了承した。すると重役たちも、
「我々も構わない。この鉄道とオートマタの有用性さえ示せれば、それでいい」
と賛同してきた。というわけで、アリスはオートマタに操作を教えつつ、夜の間も列車を走らせる事になった。
「マイマスター、そこの壁を触ってみて下さい」
アリスが指し示した壁を見るギルソン。すると、そこには謎のくぼみがあった。
「それを手前に引くとベッドになります。布団は後ろの機関車に載せてきていますので、次の停車駅で準備して下さい」
「はい、分かりました」
なんとまぁ、用意周到過ぎるオートマタである。
そんなわけで、機関車の試運転は夜通し行われ、夜が明ける頃には目的地である鉱山の街に到着したのであった。
鉄道の運行は最初は二編成だけである。なにせ一編成造るだけでももの凄い労力なのだし、勝手も分からない。旅客用と貨物用の車両も作らなければならないので、そりゃもう大変なのである。
当面は完成した一編成を使って、王都と鉱山の街との間の試運転だ。アリスが頑張って整備した複線を使っての訓練である。
「これが鉄道ですか。なんとも不思議なものですね」
六体のオートマタは不思議そうに車内の設備を見ている。
「基本的に行動は二体一組で行動ですね。一人が機関車を操作して運転を行い、もう一人が周りの確認です。線路の状態がおかしければすぐに魔法で対処して下さい」
「分かりました、マスターアリス」
実に頼もしい返事をするオートマタたち。
「まず列車は二編成ですので、二人余りますが、その二人は終端駅にて列車のメンテナンスや転轍機の操作をお願いします。伝達魔法が使えるのなら助かるのですが、そういうのはどうでしょうかね」
「伝達魔法?」
アリスが行った聞き慣れない単語に、オートマタたちは首を傾げている。
「伝達魔法というか、離れた相手に言葉を伝える魔法ですね。オートマタによってはそういった事が可能だと思いますが?」
「なんとなく分かりました。それは普段から意思疎通をしていれば、自然と身に付くかと思います。過去にも同じ場所で働いていた者同士が、言葉なしに意思疎通をできるようになったような事があるようです」
オートマタの一人がそんな事を言っていた。どこから仕入れた知識なのかは分からないが、そういう事は実際にあったようだ。それを聞いたアリスは少し安心したようである。
というわけで、アリスは機関車の運転を実際に見せる。この試運転にはギルソンやマリカの他、数名の城の重役も集まっていた。燃料のスペースが要らないので構造上は小さくて済むのだが、安定性を重視しているので機関車単両でもかなり大きめなのだ。そのおかげでこうやって多くの人を乗せられるのである。ちなみに今は客車がないので、二両の機関車がそのまま連なっている。
「それでは、記念すべき試運転を始めますよ」
アリスはそう言って機関車の操作パネルとなる水晶球に手をかざした。
魔力を込められた水晶球が光ると、ガシャンガシャンと金属が動き出す音が聞こえ始める。
「すごい、動き始めた……」
ギルソンがそう言葉を漏らす。
そう、機関車が少しずつ前進を始めたのである。アリスは少しずつ込める魔力を強くしていく。すると、少しずつ列車の速度が速くなっていく。動き始めた巨大な鉄の塊に、王都の人たちが興味津々に列車を眺めている。
列車はすぐさま高架へと登り、王都の街並みを見るように進んでいく。レンガと土魔法を駆使して作られた頑丈な眼鏡橋を進んでいく列車。ギルソンたちはその列車から見える景色を満喫しているようである。一方でオートマタたちはアリスの魔法の加減を熱心に見ている。自分たちもこの操作を行う事になるのだから、それはもう真剣だった。
この時のアリスは周りに感知魔法を使いながら列車を運行していた。レールの歪みや障害物の察知など、とにかく列車の運行には気を遣う。たった1mmの誤差でも大事故につながりかねないのだ。この魔法の使用は、オートマタの間にも共有されている。アリスが選んだ魔法石は、こういう魔力共有に優れた石ばかりなのである。
しばらく進んでいくと、列車の速度が少しずつ落ち始めた。これにはギルソンたちも驚いていた。何か異常でもあったのだろうか。
「そろそろ街ですので、停車しているんですよ。ここにも駅を設ける予定ですのでね」
不思議そうな顔をしていたギルソンたちに説明するアリス。その言葉に納得するギルソンたちだった。
「むぅ、この街はツヴァイスか。馬車なら2日はかかる距離だぞ。そんなに時間が経っておらんのに、もう着いたというのか」
ついて来た重役の一人がその早さに驚いていたのだ。2日間という事は距離にして100km前後といったところか。鉄道なら本気を出せば1時間もかからない距離である。だが、今回は試運転とあって、アリスも本気は出していない。機関車の性能を確かめるためというのもあって必殺徐行も行いながらの移動だったので、まぁ3時間ちょっとといったところだ。それでも十分早い。
(この分なら10日以上かかる鉱山の街まででも、1日かからずに到着できるわね。この速度なら揺れも大した事ないけれど、それは客車を連結して、もう一度確認してからになるかしら。あと、設備は食堂車とお手洗いかしらね。この辺りの扱いは難しいところだわ。それなら一駅当たりの停車時間を延ばせばどうにかなるかしら)
食事休憩をしたところで、お手洗いの確認をする。今のところは大丈夫のようなので、アリスは再び列車を走らせ始めた。
途中にある街に寄りながら進み、停車4駅目で日が暮れ始めた。鉱山の街までの駅数は、残り3つである。さて、どうしたものか悩み始めた。
「マイマスター。このまま夜も走らせますか?」
アリスはギルソンに尋ねる。するとギルソンは、
「構いませんよ。それでこそ、運転にオートマタを使う意味が出てくるのですよね?」
それを了承した。すると重役たちも、
「我々も構わない。この鉄道とオートマタの有用性さえ示せれば、それでいい」
と賛同してきた。というわけで、アリスはオートマタに操作を教えつつ、夜の間も列車を走らせる事になった。
「マイマスター、そこの壁を触ってみて下さい」
アリスが指し示した壁を見るギルソン。すると、そこには謎のくぼみがあった。
「それを手前に引くとベッドになります。布団は後ろの機関車に載せてきていますので、次の停車駅で準備して下さい」
「はい、分かりました」
なんとまぁ、用意周到過ぎるオートマタである。
そんなわけで、機関車の試運転は夜通し行われ、夜が明ける頃には目的地である鉱山の街に到着したのであった。
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