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Mission032
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ギルソンとアリスが、オートマタの工房へと足を運ぶ。すると、中ではマリカがオートマタの製作に汗を流していた。完成されたオートマタの素体はどれもこれも、熟練の職人顔負けのものであり、マリカのオートマタ職人としての適性の高さが窺える仕上がりだった。実際、小説の中でも短期間にかなりの数のオートマタを作っていたのだ。現実となってもそれは健在だったようである。
「あっ、ギルソン殿下、アリスさん。こんにちは」
アリスたちに気が付いたマリカが挨拶をしてくる。
「やあ、マリカ。今日も頑張っているみたいですね」
「はい、思ったより楽しくて、もうこんなに作っちゃいました。あとは魔法石をはめ込めば動かせますよ」
ギルソンが声を掛ければ、言葉を返してくるマリカ。声の弾み具合でその時の気分が分かってしまう。ものすごく楽しんでいるようだ。
「ですが、起動させたとして、オートマタには主が必要です。一体どなたをマスターになさるおつもりですか?」
アリスが問い掛けると、ギルソンとマリカがまったく同じ人物に視線を向けていた。それは誰かというと、
「わ、私でございますか? 確かに、理論上はオートマタの主人にオートマタをあてる事はできますが、さすがにそれかどうかと思われます」
慌てながらも、アリスは冷静に反論している。だが、それでも二人の視線がアリスから外れる事はなかった。
「この列車計画の発案者はアリスです。ならばアリスがその計画に携わるオートマタを取りまとめるのは、自然な流れではありませんか?」
「うっ、それは……」
ギルソンからの思わぬ提案に、アリスはつい言葉を詰まらせてしまう。この上ない反論を返されてしまったのだ。こう言われてしまえば、オートマタだからなどの言い訳は、まるで子どもっぽいものになってしまう。どうにかして言い訳を考えようとするアリスだったが、ギルソンとマリカが凝視してくるものだから、とうとう反論を諦めた。
「分かりました。では、計画発案者としてしっかり責任を持ちますので、魔法石の部屋へと案内お願いします」
というわけで、アリスは工房の担当者に連れられて、魔法石が保管されている部屋へとやって来た。今できているオートマタは全部で10体。その10体それぞれに合う魔法石を探し出さなければならない。適当に魔法石をはめれば、オートマタは力を発揮する事ができず、最悪破棄という事もあり得るのだ。
(そういえば、ジャスミンが来ていませんでしたね。本来オートマタはマスターと一緒に動くものなのですが、彼女も私と同じような特殊な個体なのでしょうかね)
部屋へ移動している間に、アリスの頭にはそんな事が一瞬過った。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。魔法石の保管された部屋に着いたアリスは、魔法石を一つ一つ手に取って、鉄道運行に携わらせるオートマタに付ける魔法石を一つ一つ鑑定していった。その目は真剣そのものであり、その品定めは思いの外時間が掛かってしまった。
ようやく魔法石を選び、工房に戻ってきたアリス。そこにはギルソンが目を輝かせて待ち構えていた。
「やあ、待ちわびたよアリス。早く、マリカの作ったオートマタを動かしてみて下さい」
我慢できないのか、ギルソンはものすごくアリスを急かしてくる。アリスはちょっと心の中でため息を吐くと、ポケットにしまって出てきた魔法石を一つ取り出して、まず一体めのオートマタへと向き合った。
(ここに完成しているオートマタは六体。鉄道事業を起こすとしては最低限の数ですかね)
アリスは深呼吸をすると、まず最初の一体の額に魔法石をはめ込んだ。そして、自分の記憶を共有させるように、魔力を同調させながらオートマタの起動を試みる。
(さあ、この世界初の鉄道員となるオートマタよ、目覚めなさい!)
集中するアリスの手から、見た事のない光があふれ出る。一瞬で部屋を覆いつくしたかと思うと、次の瞬間にはその光はすっかり収まってしまっていた。一体何が起きたのか、それは誰にも分からなかった。
「おはようございます。マイマスター」
無事に起動が完了する。目が覚めたオートマタは、一般的なオートマタと同じ第一声を発した。
「目覚めはどうかしら。ちなみに私は、同じオートマタでアリスと申します。あなたには私の下で、ファルーダン王国初の鉄道の運行を行って頂きます」
アリスは、目を覚ましたオートマタにそのように言うと、
「畏まりました、マスターアリス。鉄道……、データ参照完了。内容把握致しました」
返事をした後、アリスからコピーされたデータを参照して、あっという間に何をするのか理解してしまったようである。
「今からあなたの同僚を目覚めさせます。しばらくそのまま待機していて下さい」
「承知致しました、マスターアリス」
言いつけ通りにじっと立って待機するオートマタ。残りの五体の起動が完了するまで、本当にそのまま待機していたのだった。
六体すべての起動が終わると、アリスは目覚めさせたオートマタに向けて告げる。
「目覚めたばかりのオートマタたち、私と一緒にファルーダン王国鉄道を必ずや成功させましょう」
「はい、畏まりました、マスターアリス」
オートマタがオートマタを従えるという珍しい光景が、ここに繰り広げられていた。オートマタ工房の職人たちは驚き、ギルソンとマリカは目を輝かせてその光景を見つめているのだった。
「あっ、ギルソン殿下、アリスさん。こんにちは」
アリスたちに気が付いたマリカが挨拶をしてくる。
「やあ、マリカ。今日も頑張っているみたいですね」
「はい、思ったより楽しくて、もうこんなに作っちゃいました。あとは魔法石をはめ込めば動かせますよ」
ギルソンが声を掛ければ、言葉を返してくるマリカ。声の弾み具合でその時の気分が分かってしまう。ものすごく楽しんでいるようだ。
「ですが、起動させたとして、オートマタには主が必要です。一体どなたをマスターになさるおつもりですか?」
アリスが問い掛けると、ギルソンとマリカがまったく同じ人物に視線を向けていた。それは誰かというと、
「わ、私でございますか? 確かに、理論上はオートマタの主人にオートマタをあてる事はできますが、さすがにそれかどうかと思われます」
慌てながらも、アリスは冷静に反論している。だが、それでも二人の視線がアリスから外れる事はなかった。
「この列車計画の発案者はアリスです。ならばアリスがその計画に携わるオートマタを取りまとめるのは、自然な流れではありませんか?」
「うっ、それは……」
ギルソンからの思わぬ提案に、アリスはつい言葉を詰まらせてしまう。この上ない反論を返されてしまったのだ。こう言われてしまえば、オートマタだからなどの言い訳は、まるで子どもっぽいものになってしまう。どうにかして言い訳を考えようとするアリスだったが、ギルソンとマリカが凝視してくるものだから、とうとう反論を諦めた。
「分かりました。では、計画発案者としてしっかり責任を持ちますので、魔法石の部屋へと案内お願いします」
というわけで、アリスは工房の担当者に連れられて、魔法石が保管されている部屋へとやって来た。今できているオートマタは全部で10体。その10体それぞれに合う魔法石を探し出さなければならない。適当に魔法石をはめれば、オートマタは力を発揮する事ができず、最悪破棄という事もあり得るのだ。
(そういえば、ジャスミンが来ていませんでしたね。本来オートマタはマスターと一緒に動くものなのですが、彼女も私と同じような特殊な個体なのでしょうかね)
部屋へ移動している間に、アリスの頭にはそんな事が一瞬過った。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。魔法石の保管された部屋に着いたアリスは、魔法石を一つ一つ手に取って、鉄道運行に携わらせるオートマタに付ける魔法石を一つ一つ鑑定していった。その目は真剣そのものであり、その品定めは思いの外時間が掛かってしまった。
ようやく魔法石を選び、工房に戻ってきたアリス。そこにはギルソンが目を輝かせて待ち構えていた。
「やあ、待ちわびたよアリス。早く、マリカの作ったオートマタを動かしてみて下さい」
我慢できないのか、ギルソンはものすごくアリスを急かしてくる。アリスはちょっと心の中でため息を吐くと、ポケットにしまって出てきた魔法石を一つ取り出して、まず一体めのオートマタへと向き合った。
(ここに完成しているオートマタは六体。鉄道事業を起こすとしては最低限の数ですかね)
アリスは深呼吸をすると、まず最初の一体の額に魔法石をはめ込んだ。そして、自分の記憶を共有させるように、魔力を同調させながらオートマタの起動を試みる。
(さあ、この世界初の鉄道員となるオートマタよ、目覚めなさい!)
集中するアリスの手から、見た事のない光があふれ出る。一瞬で部屋を覆いつくしたかと思うと、次の瞬間にはその光はすっかり収まってしまっていた。一体何が起きたのか、それは誰にも分からなかった。
「おはようございます。マイマスター」
無事に起動が完了する。目が覚めたオートマタは、一般的なオートマタと同じ第一声を発した。
「目覚めはどうかしら。ちなみに私は、同じオートマタでアリスと申します。あなたには私の下で、ファルーダン王国初の鉄道の運行を行って頂きます」
アリスは、目を覚ましたオートマタにそのように言うと、
「畏まりました、マスターアリス。鉄道……、データ参照完了。内容把握致しました」
返事をした後、アリスからコピーされたデータを参照して、あっという間に何をするのか理解してしまったようである。
「今からあなたの同僚を目覚めさせます。しばらくそのまま待機していて下さい」
「承知致しました、マスターアリス」
言いつけ通りにじっと立って待機するオートマタ。残りの五体の起動が完了するまで、本当にそのまま待機していたのだった。
六体すべての起動が終わると、アリスは目覚めさせたオートマタに向けて告げる。
「目覚めたばかりのオートマタたち、私と一緒にファルーダン王国鉄道を必ずや成功させましょう」
「はい、畏まりました、マスターアリス」
オートマタがオートマタを従えるという珍しい光景が、ここに繰り広げられていた。オートマタ工房の職人たちは驚き、ギルソンとマリカは目を輝かせてその光景を見つめているのだった。
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