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Mission026
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見学を終えたアリスたちは、作業場を出て応接室に移動する。
「分かってもらえたでしょうか? 俺たちがどれだけ丹精込めてオートマタを製作しているのかって事が」
「はい、十分理解できました」
ギースの問い掛けに、アリスが代表して答える。それに伴って、ギルソンとマリカも静かに頷いていた。
「それで、どうしてここに来られたのでしょうか。見学というだけではないのでしょう?」
その様子を見ていたギースが改めて問い掛ける。すると、これにもアリスが代表して答える。
「オートマタを作るためですよ。マスターは第五王子ですから、将来の事を考えますと扱える技術を増やしておくのも手かと思いますし、マリカさんはその中に才能があるのが見えましたのでお勧めしてみたのです」
アリスがこう答えると、ギースは目を丸くして驚いていた。いや、まさか王族からそんな人物が出るとは思ってもみなかったからだ。だからこそ、ギースはアリスの言葉を受けて、ギルソンとマリカに確認を取ってみる。
「このオートマタの言っている事は事実ですかな?」
ギースの表情は半信半疑というより、完全に疑ってかかっている。だが、予想に反して二人は肯定の反応を示していた。本気のようである。
ギースはまったくもって驚きを隠せなかった。この二人の反応に、とにかくため息を吐いたり、首を後ろに反らしたり、受け入れるまでに時間を要していた。
「うーむ、とりあえずそういう気持ちがあるのは分かりました」
ギースは腕を組んで唸っている。正直、この三人を迎え入れるべきなのかどうなのか、すごく頭を悩ませているのである。特にギルソンの扱いには気を遣ってしまう。第五王子とはいえ、曲がりなりにも王族なのだ。
……ギースは悩みに悩んで結論を出す。
「分かりました。でしたら明日から早速お教えする事としましょう」
結局のところ、アリスからの提案を受け入れる事にしたギース。だが、それと同時に条件を付ける。
「お二人の予定というのがありますでしょうから、オートマタの技術を教えるのは、お昼の後から日が暮れるまでとさせて頂きます。うちの職人の仕事との兼ね合いもございますますからな」
時間に制限を設けたのである。正直こうしてもらえるのはありがたい。二人とも没頭してしまえば、一日中でもしてしまいそうだからだ。アリスはこの気遣いに正直ほっとしていた。
「分かりました。それで構いません。それと、教えて頂いている間は、敬語でなくて結構です。王子としてではなく、弟子として扱って下さい」
「え……」
ギルソンがこう発言すると、ギースは一瞬言葉を失っていた。王子をそんなぞんざいに扱っていいものだろうかと、驚きで思考が停止してしまったようである。下手をすれば王族への反逆行為と取られかねない問題だけに、ギースの頭の中は混乱してしまったのだ。
「安心して下さい。私もマスターをお守りすべく同行致しますので、行き過ぎた行為は直ちに止めてみせます」
ギースを落ち着かせるべく、アリスはそのように伝える。アリスはギルソンのオートマタなのだ。オートマタである以上はその主を守る義務というか使命が発生する。だからこそ、アリスはギースに真剣な表情で伝えたのである。
そのアリスの表情と気迫に押され、ギースはやむなく特別扱いをしないという条件を飲んだ。
「分かりましたが、うちの職人たちに理不尽な事はしないで下さいよ。オートマタは需要があるので、職人の一人も欠くわけにはいきませんからな」
「分かりました。こちらからお願いしている以上、その条件を飲みましょう」
こうして、ギルソン側とギース達職人との間で契約が成立した。一応念のため、念書を認めておく。それを、一通はギースたち工房が、また一通はマリカが、残り一通をアリスが保管する事になった。
「それでは、明日から早速お願いします」
「ああ、よろしく頼むぞ。正直王子様っていうのは困ったもんだが、一人でも多くこの技術を身に付けてくれるのはありがたい事だからな」
契約が成立した事で、ギースの口調が早速砕けていた。
さて、この工房でオートマタの技術を学べる事になったギルソンとマリカは、とてもやる気に満ちていた。なにせこのギースの所属する工房は、王都で一番の規模と技術を誇る工房なのだ。つまりは王国の中では最高峰と言っても過言ではない場所なのだ。
こうして、意気揚々として出ていくギルソンたち。それを見送ったギースは、極度の緊張のせいでお腹を押さえながら机に突っ伏していた。ギルソンという王族を相手にした事は、相当に負担となっていたようである。
「工房長、どうされたのですか?」
休憩に出てきた作業員が、ギースの姿を見て驚いていた。
「王族の坊ちゃんを相手にしたんだ。それだけでもう察せるだろう?」
ギースは簡単に答える。それを聞いた作業員は本当に察してしまったようである。
「だが、問題はそれだけじゃねえ。明日からちょくちょくやってくる事になった。何でもオートマタの技術を学びたいらしい」
「ええ、それは……大丈夫なのですか?」
「さぁな。向こうも陛下たちに話したとして、たとえお許しを貰ったとしてもさすがに毎日はなるまい」
ギースは完全に胃痛を起こしており、そこまで話して黙り込んでしまった。
「お、お疲れ様です。工房長はそのままお休み下さい。我々はちゃんと仕事をこなしておりますので、どうぞご安心を」
「……そうか、頼んだぞ」
ギースがそうとだけ答える。作業員は温めたミルクを持ってきてギースの目の前に置くと、そのまま作業へと戻っていった。
「……これからしばらく頭と胃の痛い生活になりそうだ」
ギースは少々憂鬱になりながら、そのミルクをちびちびと飲み干すのだった。
「分かってもらえたでしょうか? 俺たちがどれだけ丹精込めてオートマタを製作しているのかって事が」
「はい、十分理解できました」
ギースの問い掛けに、アリスが代表して答える。それに伴って、ギルソンとマリカも静かに頷いていた。
「それで、どうしてここに来られたのでしょうか。見学というだけではないのでしょう?」
その様子を見ていたギースが改めて問い掛ける。すると、これにもアリスが代表して答える。
「オートマタを作るためですよ。マスターは第五王子ですから、将来の事を考えますと扱える技術を増やしておくのも手かと思いますし、マリカさんはその中に才能があるのが見えましたのでお勧めしてみたのです」
アリスがこう答えると、ギースは目を丸くして驚いていた。いや、まさか王族からそんな人物が出るとは思ってもみなかったからだ。だからこそ、ギースはアリスの言葉を受けて、ギルソンとマリカに確認を取ってみる。
「このオートマタの言っている事は事実ですかな?」
ギースの表情は半信半疑というより、完全に疑ってかかっている。だが、予想に反して二人は肯定の反応を示していた。本気のようである。
ギースはまったくもって驚きを隠せなかった。この二人の反応に、とにかくため息を吐いたり、首を後ろに反らしたり、受け入れるまでに時間を要していた。
「うーむ、とりあえずそういう気持ちがあるのは分かりました」
ギースは腕を組んで唸っている。正直、この三人を迎え入れるべきなのかどうなのか、すごく頭を悩ませているのである。特にギルソンの扱いには気を遣ってしまう。第五王子とはいえ、曲がりなりにも王族なのだ。
……ギースは悩みに悩んで結論を出す。
「分かりました。でしたら明日から早速お教えする事としましょう」
結局のところ、アリスからの提案を受け入れる事にしたギース。だが、それと同時に条件を付ける。
「お二人の予定というのがありますでしょうから、オートマタの技術を教えるのは、お昼の後から日が暮れるまでとさせて頂きます。うちの職人の仕事との兼ね合いもございますますからな」
時間に制限を設けたのである。正直こうしてもらえるのはありがたい。二人とも没頭してしまえば、一日中でもしてしまいそうだからだ。アリスはこの気遣いに正直ほっとしていた。
「分かりました。それで構いません。それと、教えて頂いている間は、敬語でなくて結構です。王子としてではなく、弟子として扱って下さい」
「え……」
ギルソンがこう発言すると、ギースは一瞬言葉を失っていた。王子をそんなぞんざいに扱っていいものだろうかと、驚きで思考が停止してしまったようである。下手をすれば王族への反逆行為と取られかねない問題だけに、ギースの頭の中は混乱してしまったのだ。
「安心して下さい。私もマスターをお守りすべく同行致しますので、行き過ぎた行為は直ちに止めてみせます」
ギースを落ち着かせるべく、アリスはそのように伝える。アリスはギルソンのオートマタなのだ。オートマタである以上はその主を守る義務というか使命が発生する。だからこそ、アリスはギースに真剣な表情で伝えたのである。
そのアリスの表情と気迫に押され、ギースはやむなく特別扱いをしないという条件を飲んだ。
「分かりましたが、うちの職人たちに理不尽な事はしないで下さいよ。オートマタは需要があるので、職人の一人も欠くわけにはいきませんからな」
「分かりました。こちらからお願いしている以上、その条件を飲みましょう」
こうして、ギルソン側とギース達職人との間で契約が成立した。一応念のため、念書を認めておく。それを、一通はギースたち工房が、また一通はマリカが、残り一通をアリスが保管する事になった。
「それでは、明日から早速お願いします」
「ああ、よろしく頼むぞ。正直王子様っていうのは困ったもんだが、一人でも多くこの技術を身に付けてくれるのはありがたい事だからな」
契約が成立した事で、ギースの口調が早速砕けていた。
さて、この工房でオートマタの技術を学べる事になったギルソンとマリカは、とてもやる気に満ちていた。なにせこのギースの所属する工房は、王都で一番の規模と技術を誇る工房なのだ。つまりは王国の中では最高峰と言っても過言ではない場所なのだ。
こうして、意気揚々として出ていくギルソンたち。それを見送ったギースは、極度の緊張のせいでお腹を押さえながら机に突っ伏していた。ギルソンという王族を相手にした事は、相当に負担となっていたようである。
「工房長、どうされたのですか?」
休憩に出てきた作業員が、ギースの姿を見て驚いていた。
「王族の坊ちゃんを相手にしたんだ。それだけでもう察せるだろう?」
ギースは簡単に答える。それを聞いた作業員は本当に察してしまったようである。
「だが、問題はそれだけじゃねえ。明日からちょくちょくやってくる事になった。何でもオートマタの技術を学びたいらしい」
「ええ、それは……大丈夫なのですか?」
「さぁな。向こうも陛下たちに話したとして、たとえお許しを貰ったとしてもさすがに毎日はなるまい」
ギースは完全に胃痛を起こしており、そこまで話して黙り込んでしまった。
「お、お疲れ様です。工房長はそのままお休み下さい。我々はちゃんと仕事をこなしておりますので、どうぞご安心を」
「……そうか、頼んだぞ」
ギースがそうとだけ答える。作業員は温めたミルクを持ってきてギースの目の前に置くと、そのまま作業へと戻っていった。
「……これからしばらく頭と胃の痛い生活になりそうだ」
ギースは少々憂鬱になりながら、そのミルクをちびちびと飲み干すのだった。
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