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Mission025
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さて、マリカを連れ出す事に成功したアリスは、ギルソンを伴って王都のある場所へと出向いた。それは、王都随一のオートマタの工房である。ちなみにアリスを作った工房ではない。アリスは本当にどうしようもない工房で作られた型落ち品で、粗悪な材料で作られたオートマタなのだ。本人のチートのおかげでそう遜色ない動きができるのである。異世界転生チート万歳である。
「ごめん下さいませ。先程先触れを出しましたギルソン殿下の使いの者でございます」
アリスが中に向かってこう呼びかける。すると、
「おう、さっきのオートマタかい。もう連れてきたのか」
中から人が出てきてアリスたちを出迎えた。その人物は40から50といったところの中年男性だった。お腹は出てきているが意外と腕の筋肉はある。
「はい、私はこちらのギルソン殿下のオートマタであるアリスと申します。本日はよろしくお願い致します、ギース殿」
頭を下げて挨拶をするアリスに、ギースはふんと素っ気ない態度を取っている。だが、目の前に王族が居るというのにこの態度はいかがなものなのだろうか。
「お前さんが優秀だったせいで、あのおんぼろ工房に少し需要を取られちまった。それをどういう風の吹き回しで訪ねてきたってんだ」
なるほど、アリスのせいで依頼が減ったのが、アリスへの風当たりがきつい原因のようである。だが、当のアリスは中身が人間なだけにちょっとカチンときただけで、あくまでオートマタとして振る舞おうとしている。
「確かに、私は差し出がましい事をいろいろ致しました。ですが、総合的に判断すると、やはりこちらの工房が一番だと思いますので、こちらの工房を訪ねさせて頂いたのです」
淡々と頭を下げて、事情を説明するアリス。その言葉に、ギースの態度は少し軟化したようである。
「というわけで、本日はこちら、マイマスターのギルソン殿下と、孤児院の手伝いをしております騎士爵家の娘であるマリカをお連れしまして、オートマタの工程を見学させて頂きたく訪問させて頂きました」
「な……、この若造が王子?」
ギルソンを見て、ギースが驚いている。そして、すぐさま跪いてギルソンに言葉を掛ける。
「こ、これは大変失礼を致しました。このギース、何なりと処分をお受け致します」
王族分かるや否や、急に態度が畏まるギース。だが、10歳となったギルソンは動じなかった。
「落ち着いて下さい、ギースさん。ここへはお忍びで来ているようなものです。ボクは第五王子ですからそこまで偉くはありませんし、多少無礼であっても気にしませんよ」
実に大人な対応である。さすが私が救いたいと思った人だと、アリスは心の中で自慢げに思っている。
「どうしてもいうのでしたら、これからしっかりと工房でのオートマタ作りの様子を見させて頂ければ、それで構いませんよ」
優しく言うギルソンではあるが、目はしっかりとギースの方を見据えたままである。その真剣なギルソンの眼差しに、ギースは大の大人ながら根負けしてしまう。それくらいにギルソンは真剣だったのだ。
「……承知致しました。ですが、決して邪魔しないとの約束だけはして頂きたく存じます。オートマタは精密な人形です。ちょっとした気の迷いが、すぐに影響として出てしまいますからね」
「分かりました。約束します」
というわけで、ギースについて、ギルソン、マリカ、アリスの三人は工房の中へと入っていく。
案内された工房の中に入ると、そこには独特な空気というものが漂っている。窓ひとつない空間の中で何十人という人間がちまちまとした作業をしていた。よく見ると壁際には数体のオートマタが立っている。
「あのオートマタたちは何をしているのですか?」
「この中の空気の洗浄ですよ。なにせここは光の差し込まない部屋ですからね。どうしても空気が澱んでしまうんですよ。だから、あのオートマタたちの魔法で部屋の空気を浄化しているんです」
ギルソンの質問に、ギースは淡々と答えた。
ちなみに窓がない理由は、太陽光による劣化を防ぐためのものだ。オートマタの魔法による光では影響はないが、太陽光にさらす事で部品の劣化が起こってしまうらしい。それを防ぐために、窓のない暗い部屋で作業を行っているのだそうだ。
自分の小説では語られなかったオートマタの製作現場。アリスにとってもこの光景は新鮮であった。オートマタの体の部位の一つ一つが、こうやって手作業で生み出されているのである。オートマタの関節は球体関節を使っているので、それは部品の数がとんでもないし、手や足の指もそうなのだから、これだけ薄暗いと1個や2個くらいは無くしてしまいそうだ。
職人たちが真剣に黙々と作業している姿に、ギルソンやマリカも息を飲んで見入っていた。
ちなみにこの工房で行っているのは、なにもオートマタの新規製作だけではない。長く稼働していれば、どうしても壊れてしまう事があるのだ。この工房は、こういった部位破損による修理や交換にも応じているのである。額か胸に付いた魔法石が傷つかない限り、部品の交換で対応が可能というわけなのだ。そういった理由から、この作業はこのように日々行われているのである。
こうして、何の発言もないまま、しばらく作業を見学しているアリスたちなのであった。
「ごめん下さいませ。先程先触れを出しましたギルソン殿下の使いの者でございます」
アリスが中に向かってこう呼びかける。すると、
「おう、さっきのオートマタかい。もう連れてきたのか」
中から人が出てきてアリスたちを出迎えた。その人物は40から50といったところの中年男性だった。お腹は出てきているが意外と腕の筋肉はある。
「はい、私はこちらのギルソン殿下のオートマタであるアリスと申します。本日はよろしくお願い致します、ギース殿」
頭を下げて挨拶をするアリスに、ギースはふんと素っ気ない態度を取っている。だが、目の前に王族が居るというのにこの態度はいかがなものなのだろうか。
「お前さんが優秀だったせいで、あのおんぼろ工房に少し需要を取られちまった。それをどういう風の吹き回しで訪ねてきたってんだ」
なるほど、アリスのせいで依頼が減ったのが、アリスへの風当たりがきつい原因のようである。だが、当のアリスは中身が人間なだけにちょっとカチンときただけで、あくまでオートマタとして振る舞おうとしている。
「確かに、私は差し出がましい事をいろいろ致しました。ですが、総合的に判断すると、やはりこちらの工房が一番だと思いますので、こちらの工房を訪ねさせて頂いたのです」
淡々と頭を下げて、事情を説明するアリス。その言葉に、ギースの態度は少し軟化したようである。
「というわけで、本日はこちら、マイマスターのギルソン殿下と、孤児院の手伝いをしております騎士爵家の娘であるマリカをお連れしまして、オートマタの工程を見学させて頂きたく訪問させて頂きました」
「な……、この若造が王子?」
ギルソンを見て、ギースが驚いている。そして、すぐさま跪いてギルソンに言葉を掛ける。
「こ、これは大変失礼を致しました。このギース、何なりと処分をお受け致します」
王族分かるや否や、急に態度が畏まるギース。だが、10歳となったギルソンは動じなかった。
「落ち着いて下さい、ギースさん。ここへはお忍びで来ているようなものです。ボクは第五王子ですからそこまで偉くはありませんし、多少無礼であっても気にしませんよ」
実に大人な対応である。さすが私が救いたいと思った人だと、アリスは心の中で自慢げに思っている。
「どうしてもいうのでしたら、これからしっかりと工房でのオートマタ作りの様子を見させて頂ければ、それで構いませんよ」
優しく言うギルソンではあるが、目はしっかりとギースの方を見据えたままである。その真剣なギルソンの眼差しに、ギースは大の大人ながら根負けしてしまう。それくらいにギルソンは真剣だったのだ。
「……承知致しました。ですが、決して邪魔しないとの約束だけはして頂きたく存じます。オートマタは精密な人形です。ちょっとした気の迷いが、すぐに影響として出てしまいますからね」
「分かりました。約束します」
というわけで、ギースについて、ギルソン、マリカ、アリスの三人は工房の中へと入っていく。
案内された工房の中に入ると、そこには独特な空気というものが漂っている。窓ひとつない空間の中で何十人という人間がちまちまとした作業をしていた。よく見ると壁際には数体のオートマタが立っている。
「あのオートマタたちは何をしているのですか?」
「この中の空気の洗浄ですよ。なにせここは光の差し込まない部屋ですからね。どうしても空気が澱んでしまうんですよ。だから、あのオートマタたちの魔法で部屋の空気を浄化しているんです」
ギルソンの質問に、ギースは淡々と答えた。
ちなみに窓がない理由は、太陽光による劣化を防ぐためのものだ。オートマタの魔法による光では影響はないが、太陽光にさらす事で部品の劣化が起こってしまうらしい。それを防ぐために、窓のない暗い部屋で作業を行っているのだそうだ。
自分の小説では語られなかったオートマタの製作現場。アリスにとってもこの光景は新鮮であった。オートマタの体の部位の一つ一つが、こうやって手作業で生み出されているのである。オートマタの関節は球体関節を使っているので、それは部品の数がとんでもないし、手や足の指もそうなのだから、これだけ薄暗いと1個や2個くらいは無くしてしまいそうだ。
職人たちが真剣に黙々と作業している姿に、ギルソンやマリカも息を飲んで見入っていた。
ちなみにこの工房で行っているのは、なにもオートマタの新規製作だけではない。長く稼働していれば、どうしても壊れてしまう事があるのだ。この工房は、こういった部位破損による修理や交換にも応じているのである。額か胸に付いた魔法石が傷つかない限り、部品の交換で対応が可能というわけなのだ。そういった理由から、この作業はこのように日々行われているのである。
こうして、何の発言もないまま、しばらく作業を見学しているアリスたちなのであった。
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