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Mission024
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ありすの書いた小説では、隣国などの周辺諸国との関係はまったくもって良好だった。いや、良好に思わされていたと言った方が正解も知れない。
その理由はここまでアリスが行動して解消してきた、国内の食糧事情があった。
ファルーダン国内の自給率は本当に低かった。肉はかろうじて魔物を倒す事で得られていたのだが、こと主食に回す小麦が足りなかったのだ。その多くを他国からの輸入に頼りっぱなしとなり、それによって他国はファルーダンに生命の与奪権を握られていたのだ。米は家畜の飼料になっていたし、本当にファルーダンの食糧事情は酷かったのである。
それでも、鉱工業があれば多少の盛り返しはできた。しかし、ファルーダンは産業に乏しい国だった。よくもまぁ、これで国の経済が回っていたものである。
この産業の乏しいファルーダンがなぜ、こうして無事でいられたのかという答えこそが、今のアリスをはじめとしたオートマタの技術である。ファルーダンはどういうわけか、魔法石の生み出す技術を持っており、それをもってオートマタを生み出す事ができたのだ。この辺の複雑な事情が、のちのギルソンの反乱でマリカが活躍する理由にもなるというものである。他国が食料という生命線を握りつつも、ファルーダンを切れない理由はここにあったのだ。
だが、アリスの手によってファルーダンは食糧事情が改善してしまった。そうなると、周りの国は危機感を持たずにはいられなかったのだ。オートマタを生み出す魔法石のほとんどを握るファルーダンが、余力を持った事で一気に攻め入ってくるのではないかと。アリスとしてはそれは好ましくない状況だ。戦争となれば多くの命が失われてしまう。戦争の悲惨さを経験している身としては、どうしてもそれだけは避けたいのだ。
(はてさて、この摩擦を穏便に済ませるにはどうしたらいいかねぇ)
アリスの行動ひとつで、かなりというか大幅に小説とは情勢が変わってきてしまった。こうなってくると、序盤のマリカ視点のギルソン編が始まる前に他国との戦争が始まってしまいそうだった。そうとなれば、その回避のためにアリスはいろいろ考えざるを得なくなってしまったのだ。
というわけで、マスターであるギルソンを通じて、いろいろと情報収集に勤しんだ。農業改革などで散々迷惑を掛けた重鎮たちに頭を下げたりしながら、周辺国との状況の詳細を集めて回ったのである。もちろん、城に出入りする商人たちからも情報を集めていく。そうすると、とある国の名前が頻繁に上がったのだ。
(マスカード帝国……、第3部で戦う事になる大国だわ。もうこの時点で動きを見せているのね)
アリスはすぐに、その国の詳細を魔法石に記憶させた前世の知識から絞り出す。
マスカード帝国とは、ファルーダンのすぐ南隣にある国だ。肥沃な穀倉地帯を有するなど、ファルーダンの主な食糧の輸入先となっている大国である。ファルーダンに以外にも食糧の輸出を行っている、ある意味この近隣の生命線の多くを担っている国なのだ。それ以外にも服の材料である綿や牧畜業も行っているなど、とにかく食料面では圧倒的な安定感を誇る国なのだ。それを背景とした兵力も十分あるので、ファルーダンなどその気になれば吹き飛ばせる規模なのだ。
ただ、ファルーダンを攻められない理由が、オートマタなのだ。取り付けられた魔法石によって半永久的に動くオートマタは、食事も休憩も排泄も休息も必要ない。つまり、生身の人間ではまともにやり合えない不条理な相手なのである。特に小説のヒロインであるマリカが、オートマタの知識と技術をフル稼働させて防衛特化のオートマタを作り出した事で、マスカード帝国はあえなく蹂躙されてしまったのだ。
(うーん、そうなると、マスカード帝国の利になるようなオートマタを作れば、この戦争の気配は回避できるかしらね)
アリスはとにかく頭をフル稼働させた。その中で思いついたのが、オートマタと前世の知識を結び付けた新たなオートマタである。それを作って帝国などに売り込めば、戦争は回避できるのでないかと考えたのだ。なにせ魔法石はほぼファルーダン産だし、オートマタの技術も随一なのだ。これは外交の上で大きな武器となるはずである。
ただ、食料の売り上げが落ちた上で別の物品を買わされたとなれば、それはそれで新たな火種になりかねない。貿易摩擦はとにかく厄介なのだ。アリスはとにかく慎重に事を練り込んでいった。
そうした中、アリスは別の事も同時に進めていく。それは孤児院を訪ねた際に実行に移された。
「えっ、オートマタを作ってみる、ですか?」
「はい、マリカ様ならきっとできると思います」
そう、小説通りにマリカにオートマタの造詣を叩き込む事にしたのだ。
(本来なら、マリカさんがオートマタの技術を学ぶのは学園に入ってからなのですが、得意であるなら早くから覚えても大丈夫なはずです)
アリスには謎の自信があった。しばらく考えていたマリカだったが、
「そうですね。私は家が貧乏ですので、オートマタが持てていないんですよね。ちょうど興味がありますので、ぜひともお願い致します」
どうやら自分の手で自分のオートマタを作ってみたくなったようである。気持ちよく了承してもらえた。
こうして、アリスの計画はまた一つ動き出したのであった。
その理由はここまでアリスが行動して解消してきた、国内の食糧事情があった。
ファルーダン国内の自給率は本当に低かった。肉はかろうじて魔物を倒す事で得られていたのだが、こと主食に回す小麦が足りなかったのだ。その多くを他国からの輸入に頼りっぱなしとなり、それによって他国はファルーダンに生命の与奪権を握られていたのだ。米は家畜の飼料になっていたし、本当にファルーダンの食糧事情は酷かったのである。
それでも、鉱工業があれば多少の盛り返しはできた。しかし、ファルーダンは産業に乏しい国だった。よくもまぁ、これで国の経済が回っていたものである。
この産業の乏しいファルーダンがなぜ、こうして無事でいられたのかという答えこそが、今のアリスをはじめとしたオートマタの技術である。ファルーダンはどういうわけか、魔法石の生み出す技術を持っており、それをもってオートマタを生み出す事ができたのだ。この辺の複雑な事情が、のちのギルソンの反乱でマリカが活躍する理由にもなるというものである。他国が食料という生命線を握りつつも、ファルーダンを切れない理由はここにあったのだ。
だが、アリスの手によってファルーダンは食糧事情が改善してしまった。そうなると、周りの国は危機感を持たずにはいられなかったのだ。オートマタを生み出す魔法石のほとんどを握るファルーダンが、余力を持った事で一気に攻め入ってくるのではないかと。アリスとしてはそれは好ましくない状況だ。戦争となれば多くの命が失われてしまう。戦争の悲惨さを経験している身としては、どうしてもそれだけは避けたいのだ。
(はてさて、この摩擦を穏便に済ませるにはどうしたらいいかねぇ)
アリスの行動ひとつで、かなりというか大幅に小説とは情勢が変わってきてしまった。こうなってくると、序盤のマリカ視点のギルソン編が始まる前に他国との戦争が始まってしまいそうだった。そうとなれば、その回避のためにアリスはいろいろ考えざるを得なくなってしまったのだ。
というわけで、マスターであるギルソンを通じて、いろいろと情報収集に勤しんだ。農業改革などで散々迷惑を掛けた重鎮たちに頭を下げたりしながら、周辺国との状況の詳細を集めて回ったのである。もちろん、城に出入りする商人たちからも情報を集めていく。そうすると、とある国の名前が頻繁に上がったのだ。
(マスカード帝国……、第3部で戦う事になる大国だわ。もうこの時点で動きを見せているのね)
アリスはすぐに、その国の詳細を魔法石に記憶させた前世の知識から絞り出す。
マスカード帝国とは、ファルーダンのすぐ南隣にある国だ。肥沃な穀倉地帯を有するなど、ファルーダンの主な食糧の輸入先となっている大国である。ファルーダンに以外にも食糧の輸出を行っている、ある意味この近隣の生命線の多くを担っている国なのだ。それ以外にも服の材料である綿や牧畜業も行っているなど、とにかく食料面では圧倒的な安定感を誇る国なのだ。それを背景とした兵力も十分あるので、ファルーダンなどその気になれば吹き飛ばせる規模なのだ。
ただ、ファルーダンを攻められない理由が、オートマタなのだ。取り付けられた魔法石によって半永久的に動くオートマタは、食事も休憩も排泄も休息も必要ない。つまり、生身の人間ではまともにやり合えない不条理な相手なのである。特に小説のヒロインであるマリカが、オートマタの知識と技術をフル稼働させて防衛特化のオートマタを作り出した事で、マスカード帝国はあえなく蹂躙されてしまったのだ。
(うーん、そうなると、マスカード帝国の利になるようなオートマタを作れば、この戦争の気配は回避できるかしらね)
アリスはとにかく頭をフル稼働させた。その中で思いついたのが、オートマタと前世の知識を結び付けた新たなオートマタである。それを作って帝国などに売り込めば、戦争は回避できるのでないかと考えたのだ。なにせ魔法石はほぼファルーダン産だし、オートマタの技術も随一なのだ。これは外交の上で大きな武器となるはずである。
ただ、食料の売り上げが落ちた上で別の物品を買わされたとなれば、それはそれで新たな火種になりかねない。貿易摩擦はとにかく厄介なのだ。アリスはとにかく慎重に事を練り込んでいった。
そうした中、アリスは別の事も同時に進めていく。それは孤児院を訪ねた際に実行に移された。
「えっ、オートマタを作ってみる、ですか?」
「はい、マリカ様ならきっとできると思います」
そう、小説通りにマリカにオートマタの造詣を叩き込む事にしたのだ。
(本来なら、マリカさんがオートマタの技術を学ぶのは学園に入ってからなのですが、得意であるなら早くから覚えても大丈夫なはずです)
アリスには謎の自信があった。しばらく考えていたマリカだったが、
「そうですね。私は家が貧乏ですので、オートマタが持てていないんですよね。ちょうど興味がありますので、ぜひともお願い致します」
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こうして、アリスの計画はまた一つ動き出したのであった。
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