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Mission023
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孤児院の子どもたちを帰らせた後、騎士団では話し合いが持たれた。というのもマリカを筆頭に、孤児院の子どもたちの剣の腕は同年代と比べると高かったのだ。それは騎士を輩出している家の子どもにこそ劣るが、即戦力になりえそうな感じだったからだ。
「となると、やはり貴族の養子にするのもありかと思われますな」
「うむ、出自はまったく分からぬとはいえ、あの剣の腕は遊ばせておくにはもったいないと思うぞ」
「あの孤児院は出資している貴族が居るという話だったな。その貴族にも話をつけねばなるまい」
「いやはや、出自だけでは能力というのは計り知れんものだな」
騎士たちの議論は長く続いた。その結果、将来的には孤児院から何名か騎士団へ推薦する事となった。最終的には団長であるバリスの判断になるわけだが、そのバリスも目撃していた以上、騎士団への入団はほぼ間違いないだろう。
またマリカという少女についても、一度父親と相談しておく必要があるだろう。すっかり腕を上げたギルソンと同等の剣術が行える以上は、将来的には女性騎士としての道が開けている。場合によっては男性陣と混ざってという事もあるし、王女の護衛という道も十分あり得るのだ。
アリスが農地開拓だの剣の稽古だのといろいろ根回しを行った結果、この時点でかなり小説の展開とは異なっている。少なくとも小説で敵対関係になるマリカとの関係は良好のようだ。とりあえず今の状態ならあとは王族との軋轢さえ解消できれば、国内におけるギルソンの立場から危うさというのは消えるだろう。
そうなれば次は、国外に目を向ける事になる。とはいえ、何がどう絡むか分からないので、アリスは今の時点から国内外の情報を収集している。それを自分の中に残る小説の筋書きと照らし合わせて、危険性のある項目を潰していく事にしたのだ。
その夜、ギルソンは食事の席で早速孤児院の事を突っ込まれていたようである。しかし、今のギルソンに嫌味ったらしい言い回しや直接的な批判は通じなかった。10歳にしてかなり人間ができ上がっているのだ。これぞアリスの教育の賜物というもの。少々スパルタ気味になったが、それを見事に乗り越えてギルソンは上の兄弟に劣らない能力を身に付けていた。
現在学生をしている兄弟からはそう突かれはしないものの、やっぱり第一王子や第二王子ともなると体裁とかを気にするようだ。やたらと孤児院と関わるのはやめるように言ってきているようだ。だが、アリスに鍛えられたギルソンは、まったく考えを変える気はない。
「孤児院の子どもたちといえど、この国の民です。この国の民はボクたちが守るからこそ安心して暮らせるわけですし、ボクたちもまた彼らが居るからこそ暮らしてゆけるのです。実際会って見て思いましたが、彼らは才能を秘めています。孤児というだけで切り捨てるのはいかがかと思います」
ギルソンは言うようになっていた。
「今日連れてきた孤児院の子どもたちは、早速騎士団の目にも止まっていました。何人かいずれ入団する事になると思いますよ」
そして、この言葉で上の兄弟たちを黙らせてしまった。そう、城の中に孤児たちを招き入れたという事実でもって。だが、ギルソンはこれを後悔していない。すべての国民に同じように門戸が開かれているべきだと考えているからだ。そのほとんどはアリスからの影響なのだが、自身も第五王子として爪弾きにされかかっていた事も大きかった。良くも悪くも、アリスとの出会いが彼の大きな転換点だったのだ。
「ふん、そこまで言うのなら結果を出すんだな。お前が目を掛けたというその孤児どもがどこまで頑張れるのか、しっかりと目に見えるように示すんだ」
第一王子アインダードはギルソンに対して、まるで命令するように言い捨てる。
現在20歳のアインダードは、未だに妻が居ない。その焦りもあってか、少々精神が荒れ始めていたのだ。第一王子としていずれは国を継ぐ可能性が高いだけに、その焦り方は尋常ではなかった。
(うーん、これはアインダード様の結婚問題もすぐに解決しなければなりませんね。小説でもずっと独り身でしたから、何かと問題を起こしまくっていましたものね)
だが、子だくさんのファルーダンの王室は、とにかく結婚相手の事に頭を悩ませていた。第一王子だけではない、第二王子や第一王女も伴侶が欲しいところなのだ。だが、調べてみた結果、最近は周辺諸国との関係も怪しさを見せていて、他国から妻を招き入れたり、逆に嫁いでいったりというのがやりにくくなっていたのだ。
(ちょっと国内事情に力を入れ過ぎましたね。こうなるとギルソン様のご入学までに上のお三方の結婚相手を見つけたり、国交改善をしないといけませんね)
夜、ギルソンが寝静まった後、アリスは次の手を考え始めていた。結婚相手となると他国との関係を維持するための政略結婚が多いのだが、国内有力貴族との結婚というのも選択肢としては十分あり得る話である。
今はそれは置いておいて、気になるのは他国との関係悪化だった。現状ではまだ詳しい原因が分からないが、取引が渋り始めたのは間違いなさそうだ。
(元々ファルーダンは農作物を輸入に頼っていましたからね。悪化の原因はおそらくそこでしょうか)
そう、アリスが国内安定のために農地改革を行った事が、他国との関係悪化の原因と推測されたのだ。
(こちらを立てればあちらが立たない……。なんて典型的な展開なのかしら)
というわけで、結婚相手探しを行う上で、まずはこと隣国との関係改善を図る事にしたのだった。
「となると、やはり貴族の養子にするのもありかと思われますな」
「うむ、出自はまったく分からぬとはいえ、あの剣の腕は遊ばせておくにはもったいないと思うぞ」
「あの孤児院は出資している貴族が居るという話だったな。その貴族にも話をつけねばなるまい」
「いやはや、出自だけでは能力というのは計り知れんものだな」
騎士たちの議論は長く続いた。その結果、将来的には孤児院から何名か騎士団へ推薦する事となった。最終的には団長であるバリスの判断になるわけだが、そのバリスも目撃していた以上、騎士団への入団はほぼ間違いないだろう。
またマリカという少女についても、一度父親と相談しておく必要があるだろう。すっかり腕を上げたギルソンと同等の剣術が行える以上は、将来的には女性騎士としての道が開けている。場合によっては男性陣と混ざってという事もあるし、王女の護衛という道も十分あり得るのだ。
アリスが農地開拓だの剣の稽古だのといろいろ根回しを行った結果、この時点でかなり小説の展開とは異なっている。少なくとも小説で敵対関係になるマリカとの関係は良好のようだ。とりあえず今の状態ならあとは王族との軋轢さえ解消できれば、国内におけるギルソンの立場から危うさというのは消えるだろう。
そうなれば次は、国外に目を向ける事になる。とはいえ、何がどう絡むか分からないので、アリスは今の時点から国内外の情報を収集している。それを自分の中に残る小説の筋書きと照らし合わせて、危険性のある項目を潰していく事にしたのだ。
その夜、ギルソンは食事の席で早速孤児院の事を突っ込まれていたようである。しかし、今のギルソンに嫌味ったらしい言い回しや直接的な批判は通じなかった。10歳にしてかなり人間ができ上がっているのだ。これぞアリスの教育の賜物というもの。少々スパルタ気味になったが、それを見事に乗り越えてギルソンは上の兄弟に劣らない能力を身に付けていた。
現在学生をしている兄弟からはそう突かれはしないものの、やっぱり第一王子や第二王子ともなると体裁とかを気にするようだ。やたらと孤児院と関わるのはやめるように言ってきているようだ。だが、アリスに鍛えられたギルソンは、まったく考えを変える気はない。
「孤児院の子どもたちといえど、この国の民です。この国の民はボクたちが守るからこそ安心して暮らせるわけですし、ボクたちもまた彼らが居るからこそ暮らしてゆけるのです。実際会って見て思いましたが、彼らは才能を秘めています。孤児というだけで切り捨てるのはいかがかと思います」
ギルソンは言うようになっていた。
「今日連れてきた孤児院の子どもたちは、早速騎士団の目にも止まっていました。何人かいずれ入団する事になると思いますよ」
そして、この言葉で上の兄弟たちを黙らせてしまった。そう、城の中に孤児たちを招き入れたという事実でもって。だが、ギルソンはこれを後悔していない。すべての国民に同じように門戸が開かれているべきだと考えているからだ。そのほとんどはアリスからの影響なのだが、自身も第五王子として爪弾きにされかかっていた事も大きかった。良くも悪くも、アリスとの出会いが彼の大きな転換点だったのだ。
「ふん、そこまで言うのなら結果を出すんだな。お前が目を掛けたというその孤児どもがどこまで頑張れるのか、しっかりと目に見えるように示すんだ」
第一王子アインダードはギルソンに対して、まるで命令するように言い捨てる。
現在20歳のアインダードは、未だに妻が居ない。その焦りもあってか、少々精神が荒れ始めていたのだ。第一王子としていずれは国を継ぐ可能性が高いだけに、その焦り方は尋常ではなかった。
(うーん、これはアインダード様の結婚問題もすぐに解決しなければなりませんね。小説でもずっと独り身でしたから、何かと問題を起こしまくっていましたものね)
だが、子だくさんのファルーダンの王室は、とにかく結婚相手の事に頭を悩ませていた。第一王子だけではない、第二王子や第一王女も伴侶が欲しいところなのだ。だが、調べてみた結果、最近は周辺諸国との関係も怪しさを見せていて、他国から妻を招き入れたり、逆に嫁いでいったりというのがやりにくくなっていたのだ。
(ちょっと国内事情に力を入れ過ぎましたね。こうなるとギルソン様のご入学までに上のお三方の結婚相手を見つけたり、国交改善をしないといけませんね)
夜、ギルソンが寝静まった後、アリスは次の手を考え始めていた。結婚相手となると他国との関係を維持するための政略結婚が多いのだが、国内有力貴族との結婚というのも選択肢としては十分あり得る話である。
今はそれは置いておいて、気になるのは他国との関係悪化だった。現状ではまだ詳しい原因が分からないが、取引が渋り始めたのは間違いなさそうだ。
(元々ファルーダンは農作物を輸入に頼っていましたからね。悪化の原因はおそらくそこでしょうか)
そう、アリスが国内安定のために農地改革を行った事が、他国との関係悪化の原因と推測されたのだ。
(こちらを立てればあちらが立たない……。なんて典型的な展開なのかしら)
というわけで、結婚相手探しを行う上で、まずはこと隣国との関係改善を図る事にしたのだった。
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