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Mission021
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その出来事から3か月が経過した日の事。
「えっ、私たちを城に招待ですか?」
孤児院で今日も働くマリカが驚いていた。それは騎士爵や孤児にとってはあり得ない話だったからだ。
「後見人の貴族にも話は通してあります。後は皆さんが首を縦に振れば、お招きする事ができますよ。騎士や兵士の訓練を見学したり、それに参加したりする事も可能です。事によっては将来の道筋が広がると思います」
ギルソンが一生懸命事情を説明している。
ところが、子どもたちはとても興味津々にしているのに対して、マリカとアーロンの二人は慎重な姿勢を崩さなかった。そんなうまい話があるはずないと、警戒しているのである。そこへ、アリスが口を挟んだ。
「お二人の警戒は十分理解できます。ですが、マスターの仰られた事は事実でございます。国王陛下並びに騎士団長バリス様、その弟でそこに居られるロドス様もこれを認めてられています。本当にあなた方次第なのです」
アリスはオートマタらしく、無表情で淡々と語った。それでもなお、二人の態度は固いままだった。しかし、それでもさっきよりは少し軟化したように見受けられるのだ。これは何かもう一押しする必要がありそうである。
(さすがはお堅いお二人ですね。ですが、私たちにはこれ以上の手はありません。あるとするなら、それは……)
アリスがそう思ったその時だった。
「今の話本当?!」
「すげーな、お城行けるのかよ」
孤児院の子どもたちが乱入してきたのである。どうやら何人かが聞き耳を立てていたようだ。アリスはそれを察知しており、この動きを期待したのである。
「き、君たち、そんなにお城に行ってみたいのかい?」
アーロンが子どもたちの出現と発言に驚いている。アーロンもマリカも用事を言いつけて子どもたちを遠ざけたと思っていたし、なにより言いつけはきちんと守る子たちだったのでとても意外だったようである。
ところが、実際にこうやって現れた子どもたちは、アーロンのその質問に首を縦に振って答えている。つまり、子どもたちとしてはお城に行きたいという事なのだ。よくよく見てみれば、マリカたちの所へ駆け寄ってきた子たちだけではなく、ドアのところで覗き込む子たちも同じような動作をしていたのだ。これにはアーロンもマリカも折れるしかなく、お城へ騎士や兵士たちを見学しに行く事が決まったのである。
「では、事が決まり次第、城から使いを出します。その時はボクたちも立ち会いますので、楽しみにしていて下さい」
「は、はぁ……」
とんでもない事になって、アーロンからは気の抜けた返事しか聞こえてこなかった。
数日後、再びギルソンとアリスは孤児院を訪れていた。先日約束したお城の見学へ連れていくためである。アーロンとマリカも一緒である。ただ、子どもたちは全員というわけではないので、孤児院の職員数名は居残りだ。職員とはいっても孤児院を手伝っている平民たちである。
子どもたちもこの日のために体はきれいに洗ったし、服もきれいな物を用意してそれを着ている。お城に行くのに、そんな汚れた格好などできるわけがないのである。その子どもたちははしゃぎながら城からやって来た立派な馬車に乗り込んでいる。平民は馬車なんて一生に一度乗れるかどうか分からないのだ。それは当然はしゃいでしまうというものである。アーロンとマリカがなんとか子どもたちをおとなしくさせると、子どもたちを乗せた馬車は城へと向かった。
城に到着すると、子どもたちを乗せた馬車は騎士たちの詰所までやって来た。そこから訓練所まで歩くのだ。
「いいですか。ここからは絶対にはぐれないで下さいね。ここで失礼な行いをすれば、間違いなく命を落とします。私たちにちゃんとついて来て下さい」
アリスがこう言い聞かせると、子どもたちは元気よく返事をしていた。この光景に、アリスは前世で自分の孫たちが集った時の事を思い出していた。その時もこうやってよく言い聞かせていたなと、しみじみ思い出していた。
というわけで、前方をギルソンとアリス、最後方をアーロンとマリカという形で、一行は騎士の訓練場へと向かった。到着した訓練場では、騎士だけではなく兵士たちも訓練を行っており、騎士たちは剣を、兵士たちは槍をイメージした訓練を行っている。怪我をしないように木剣と木の棒で行っている訓練だが、その迫力に子どもたちは歓声を上げていた。
子どもたちの登場に、一部の騎士や兵士たちが驚いていたが、多くはその声に反応する事なく訓練に励んでいた。
「やれやれ、その子どもたちですか、殿下が気にしているという孤児たちは」
「バリス」
騎士団の団長であるバリスが現れた。現役の騎士団長が目の前に現れて、騎士爵家の娘であるマリカは、両手で口を押さえて感動していた。なにせ家はお飾り程度の爵位持ちである下っ端の騎士。騎士団長と相まみえる事などそうそうある事ではないのだから。
「ロドスも殿下の付き合いご苦労だったな。疲れているところを悪いが、私の代わりに部下の面倒を見てやってくれ」
「分かりました、団長」
ロドスはバリスの命令に、敬礼をして従った。すぐさま稽古する騎士たちの所へ走っていき、その稽古を見張った。
「さぁ、今日は殿下からのご厚意だ。気の済むまで騎士たちの訓練を見ていってくれ。お前たち、未来の騎士諸君に騎士たる者の姿をしっかり見せてやるのだぞ」
「はいっ!!」
バリスが声を掛ければ、打ち合いをする騎士たちから返事があった。
その騎士たちの訓練を見る子どもたちは、その激しい打ち合いに怖がるかと思ったが、むしろ目を輝かせて見入っていた。さすがは王国では憧れの職業というだけある。
しばらくの間は、そのまま訓練を見守るギルソンたちであった。
「えっ、私たちを城に招待ですか?」
孤児院で今日も働くマリカが驚いていた。それは騎士爵や孤児にとってはあり得ない話だったからだ。
「後見人の貴族にも話は通してあります。後は皆さんが首を縦に振れば、お招きする事ができますよ。騎士や兵士の訓練を見学したり、それに参加したりする事も可能です。事によっては将来の道筋が広がると思います」
ギルソンが一生懸命事情を説明している。
ところが、子どもたちはとても興味津々にしているのに対して、マリカとアーロンの二人は慎重な姿勢を崩さなかった。そんなうまい話があるはずないと、警戒しているのである。そこへ、アリスが口を挟んだ。
「お二人の警戒は十分理解できます。ですが、マスターの仰られた事は事実でございます。国王陛下並びに騎士団長バリス様、その弟でそこに居られるロドス様もこれを認めてられています。本当にあなた方次第なのです」
アリスはオートマタらしく、無表情で淡々と語った。それでもなお、二人の態度は固いままだった。しかし、それでもさっきよりは少し軟化したように見受けられるのだ。これは何かもう一押しする必要がありそうである。
(さすがはお堅いお二人ですね。ですが、私たちにはこれ以上の手はありません。あるとするなら、それは……)
アリスがそう思ったその時だった。
「今の話本当?!」
「すげーな、お城行けるのかよ」
孤児院の子どもたちが乱入してきたのである。どうやら何人かが聞き耳を立てていたようだ。アリスはそれを察知しており、この動きを期待したのである。
「き、君たち、そんなにお城に行ってみたいのかい?」
アーロンが子どもたちの出現と発言に驚いている。アーロンもマリカも用事を言いつけて子どもたちを遠ざけたと思っていたし、なにより言いつけはきちんと守る子たちだったのでとても意外だったようである。
ところが、実際にこうやって現れた子どもたちは、アーロンのその質問に首を縦に振って答えている。つまり、子どもたちとしてはお城に行きたいという事なのだ。よくよく見てみれば、マリカたちの所へ駆け寄ってきた子たちだけではなく、ドアのところで覗き込む子たちも同じような動作をしていたのだ。これにはアーロンもマリカも折れるしかなく、お城へ騎士や兵士たちを見学しに行く事が決まったのである。
「では、事が決まり次第、城から使いを出します。その時はボクたちも立ち会いますので、楽しみにしていて下さい」
「は、はぁ……」
とんでもない事になって、アーロンからは気の抜けた返事しか聞こえてこなかった。
数日後、再びギルソンとアリスは孤児院を訪れていた。先日約束したお城の見学へ連れていくためである。アーロンとマリカも一緒である。ただ、子どもたちは全員というわけではないので、孤児院の職員数名は居残りだ。職員とはいっても孤児院を手伝っている平民たちである。
子どもたちもこの日のために体はきれいに洗ったし、服もきれいな物を用意してそれを着ている。お城に行くのに、そんな汚れた格好などできるわけがないのである。その子どもたちははしゃぎながら城からやって来た立派な馬車に乗り込んでいる。平民は馬車なんて一生に一度乗れるかどうか分からないのだ。それは当然はしゃいでしまうというものである。アーロンとマリカがなんとか子どもたちをおとなしくさせると、子どもたちを乗せた馬車は城へと向かった。
城に到着すると、子どもたちを乗せた馬車は騎士たちの詰所までやって来た。そこから訓練所まで歩くのだ。
「いいですか。ここからは絶対にはぐれないで下さいね。ここで失礼な行いをすれば、間違いなく命を落とします。私たちにちゃんとついて来て下さい」
アリスがこう言い聞かせると、子どもたちは元気よく返事をしていた。この光景に、アリスは前世で自分の孫たちが集った時の事を思い出していた。その時もこうやってよく言い聞かせていたなと、しみじみ思い出していた。
というわけで、前方をギルソンとアリス、最後方をアーロンとマリカという形で、一行は騎士の訓練場へと向かった。到着した訓練場では、騎士だけではなく兵士たちも訓練を行っており、騎士たちは剣を、兵士たちは槍をイメージした訓練を行っている。怪我をしないように木剣と木の棒で行っている訓練だが、その迫力に子どもたちは歓声を上げていた。
子どもたちの登場に、一部の騎士や兵士たちが驚いていたが、多くはその声に反応する事なく訓練に励んでいた。
「やれやれ、その子どもたちですか、殿下が気にしているという孤児たちは」
「バリス」
騎士団の団長であるバリスが現れた。現役の騎士団長が目の前に現れて、騎士爵家の娘であるマリカは、両手で口を押さえて感動していた。なにせ家はお飾り程度の爵位持ちである下っ端の騎士。騎士団長と相まみえる事などそうそうある事ではないのだから。
「ロドスも殿下の付き合いご苦労だったな。疲れているところを悪いが、私の代わりに部下の面倒を見てやってくれ」
「分かりました、団長」
ロドスはバリスの命令に、敬礼をして従った。すぐさま稽古する騎士たちの所へ走っていき、その稽古を見張った。
「さぁ、今日は殿下からのご厚意だ。気の済むまで騎士たちの訓練を見ていってくれ。お前たち、未来の騎士諸君に騎士たる者の姿をしっかり見せてやるのだぞ」
「はいっ!!」
バリスが声を掛ければ、打ち合いをする騎士たちから返事があった。
その騎士たちの訓練を見る子どもたちは、その激しい打ち合いに怖がるかと思ったが、むしろ目を輝かせて見入っていた。さすがは王国では憧れの職業というだけある。
しばらくの間は、そのまま訓練を見守るギルソンたちであった。
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