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Mission020
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孤児院に出向いてからというもの、ギルソンは度々孤児院に出向こうとアリスに声を掛けていた。しかし、意味もなく行っても仕方ないので、視察という名目で3か月に1回という約束で国王たちにも約束を取り付ける事にした。
一番下の甘えん坊だと思っていたギルソンが民の事を考えるようになったかと国王は感慨深くなったそうだが、他の兄弟たちはあまりいいようには思っていなかったようだ。なにせ貴族の支援があるとはいえ孤児院だ。出自も分からないような者のために時間を割くギルソンを理解できないのだ。往々にして貴族というのはそういう考えが定着しているもので、こういう状況はアリスも懸念はしていた。あちらを立てればこちらが立たず、八方美人とはうまくいかないものである。
(うーん、改善が見られていた王族との関係が、このひとつで崩れちゃうのか。ある種の選民思想って奴かしらね、厄介なものだわ)
さすがにこの状況には、アリスも悩ましいものだった。ヒロインちゃんと拗れないように早くに顔合わせを行ったのが仇になったようなのだ。さらに面倒なのは、ギルソンがマリカに強く興味を抱いた事である。これには年の功なのか、アリスはすぐに気が付いていた。マリカと剣を打ち合った後のギルソンの表情で一発だったのである。
(孤児院に行くというよりは、マリカに会いに行くようなものですものね。ここはひとつ釘を刺しておきたいですが、五男であるギルソン様であるなら、騎士爵の娘でも問題なさそうですものね)
ほとほと、自分が間違った選択肢を取ったのではないかと、少々凹むアリスなのであった。
(まぁ、過ぎた事をぼやいていても仕方ありませんね。ならば次の手を考えるまで)
アリスは前向きに開き直った。
ある日のギルソンの鍛錬中に、ロドスを見つけて声を掛ける。
「ロドス様、少々よろしいでしょうか」
「なんだ、機械人形風情が」
ロドスはイラついているようだった。ギルソンが孤児院に行くたびに同行させられて子守をさせられたのが相当腹に据えかねているようである。だが、アリスとしてはそれはどうでもいい事だった。
「ロドス様から見られて、孤児院の子たちに騎士に抱え上げられそうな子はいらっしゃいましたか?」
「ああ?! あのガキどもの中から騎士を取るつもりか?」
言葉遣いが汚い。アリスは涼しい顔をしているが、周りの事を思えば咎めるべきだろう。
「ロドス様、みなさんがご覧になっています。言葉遣いに気を付けられた方がよろしいかと存じます」
アリスの言葉にロドスは周りを確認する。確かに、驚いた顔をした騎士が数名見受けられる。これには少々ロドスは焦ったようである。
「コホン、ご忠告ありがたく受け取ります」
さっきとは比べ物にならない言葉遣いである。だが、この切り替えの速さはさすがである。
「先程の質問ですが、剣術の型がなっていない者ばかりです。いくらマリカ嬢が教えているとはいっても、あれでは冒険者にはなれども、騎士という観点では無理です。どうしても言うのでしたら、それこそ、今すぐ騎士として召し上げるか、学園に通わせるかという事になると思います」
「ご意見どうもありがとうございます。これならマスターが孤児院に赴かれている事に正当性が出ます。兄弟たちからの批判を黙らせる手となるでしょうね」
アリスはギルソンを見ながら呟いている。その時の表情に、ロドスは悪寒が走った。ただのオートマタのどこにそんな恐怖を抱くというのだろうか。ロドスはその事にも青ざめてしまったのだった。
「私が考える事はマスターの事だけでございます。マスターが幸せになれるというのであるのなら、私はいかなる手段をも考えさせて頂くまでです」
「王家に背くような事であってもか?」
「それは最後の最後の手ですね。現時点では考えたくありませんし、王族の方々にも幸せになって頂くのが、私の考えですから」
ロドスの質問に、アリスは完全な否定はしなかった。あくまでもギルソンに牙を向けるならという条件付きなのだ。
「いいのかな、あいまいだけれどもそんな事を言って」
「……私のマスターはあくまでもギルソン殿下なのです。オートマタがマスターを優先にして何か問題でもおありですか?」
「……いや、そういうものでしたね」
「マスターが仰れば、私はそれに従います。それが私たち、オートマタなんですから」
ロドスにそう言い切ったアリスは、騎士と剣の打ち合いをしているギルソンの所へと歩いていった。その後ろ姿を見ながら、ロドスは「やれやれ、なんて怖いオートマタだ」と思ったのだった。
そのロドスに一人の騎士が近付く。
「ロドス様、あのオートマタどうされますか?」
「まぁ不穏な事は言ってはいましたが、放っておいてもいいでしょう。主人のために尽くすのがオートマタの使命なのですからね。ですが、念のために監視は付けておきましょうか」
あからさまな問題発言と見られたのだろう。秘密裏にアリスに対して監視がつく事になった。
「さすがにすぐに気付かれるでしょうがね」
ロドスはそう言って小さく笑う。そして、
「これくらいの緊張感はあった方がいいでしょう」
ロドスはアリスを見ながらぼそりと呟くのだった。
一番下の甘えん坊だと思っていたギルソンが民の事を考えるようになったかと国王は感慨深くなったそうだが、他の兄弟たちはあまりいいようには思っていなかったようだ。なにせ貴族の支援があるとはいえ孤児院だ。出自も分からないような者のために時間を割くギルソンを理解できないのだ。往々にして貴族というのはそういう考えが定着しているもので、こういう状況はアリスも懸念はしていた。あちらを立てればこちらが立たず、八方美人とはうまくいかないものである。
(うーん、改善が見られていた王族との関係が、このひとつで崩れちゃうのか。ある種の選民思想って奴かしらね、厄介なものだわ)
さすがにこの状況には、アリスも悩ましいものだった。ヒロインちゃんと拗れないように早くに顔合わせを行ったのが仇になったようなのだ。さらに面倒なのは、ギルソンがマリカに強く興味を抱いた事である。これには年の功なのか、アリスはすぐに気が付いていた。マリカと剣を打ち合った後のギルソンの表情で一発だったのである。
(孤児院に行くというよりは、マリカに会いに行くようなものですものね。ここはひとつ釘を刺しておきたいですが、五男であるギルソン様であるなら、騎士爵の娘でも問題なさそうですものね)
ほとほと、自分が間違った選択肢を取ったのではないかと、少々凹むアリスなのであった。
(まぁ、過ぎた事をぼやいていても仕方ありませんね。ならば次の手を考えるまで)
アリスは前向きに開き直った。
ある日のギルソンの鍛錬中に、ロドスを見つけて声を掛ける。
「ロドス様、少々よろしいでしょうか」
「なんだ、機械人形風情が」
ロドスはイラついているようだった。ギルソンが孤児院に行くたびに同行させられて子守をさせられたのが相当腹に据えかねているようである。だが、アリスとしてはそれはどうでもいい事だった。
「ロドス様から見られて、孤児院の子たちに騎士に抱え上げられそうな子はいらっしゃいましたか?」
「ああ?! あのガキどもの中から騎士を取るつもりか?」
言葉遣いが汚い。アリスは涼しい顔をしているが、周りの事を思えば咎めるべきだろう。
「ロドス様、みなさんがご覧になっています。言葉遣いに気を付けられた方がよろしいかと存じます」
アリスの言葉にロドスは周りを確認する。確かに、驚いた顔をした騎士が数名見受けられる。これには少々ロドスは焦ったようである。
「コホン、ご忠告ありがたく受け取ります」
さっきとは比べ物にならない言葉遣いである。だが、この切り替えの速さはさすがである。
「先程の質問ですが、剣術の型がなっていない者ばかりです。いくらマリカ嬢が教えているとはいっても、あれでは冒険者にはなれども、騎士という観点では無理です。どうしても言うのでしたら、それこそ、今すぐ騎士として召し上げるか、学園に通わせるかという事になると思います」
「ご意見どうもありがとうございます。これならマスターが孤児院に赴かれている事に正当性が出ます。兄弟たちからの批判を黙らせる手となるでしょうね」
アリスはギルソンを見ながら呟いている。その時の表情に、ロドスは悪寒が走った。ただのオートマタのどこにそんな恐怖を抱くというのだろうか。ロドスはその事にも青ざめてしまったのだった。
「私が考える事はマスターの事だけでございます。マスターが幸せになれるというのであるのなら、私はいかなる手段をも考えさせて頂くまでです」
「王家に背くような事であってもか?」
「それは最後の最後の手ですね。現時点では考えたくありませんし、王族の方々にも幸せになって頂くのが、私の考えですから」
ロドスの質問に、アリスは完全な否定はしなかった。あくまでもギルソンに牙を向けるならという条件付きなのだ。
「いいのかな、あいまいだけれどもそんな事を言って」
「……私のマスターはあくまでもギルソン殿下なのです。オートマタがマスターを優先にして何か問題でもおありですか?」
「……いや、そういうものでしたね」
「マスターが仰れば、私はそれに従います。それが私たち、オートマタなんですから」
ロドスにそう言い切ったアリスは、騎士と剣の打ち合いをしているギルソンの所へと歩いていった。その後ろ姿を見ながら、ロドスは「やれやれ、なんて怖いオートマタだ」と思ったのだった。
そのロドスに一人の騎士が近付く。
「ロドス様、あのオートマタどうされますか?」
「まぁ不穏な事は言ってはいましたが、放っておいてもいいでしょう。主人のために尽くすのがオートマタの使命なのですからね。ですが、念のために監視は付けておきましょうか」
あからさまな問題発言と見られたのだろう。秘密裏にアリスに対して監視がつく事になった。
「さすがにすぐに気付かれるでしょうがね」
ロドスはそう言って小さく笑う。そして、
「これくらいの緊張感はあった方がいいでしょう」
ロドスはアリスを見ながらぼそりと呟くのだった。
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