転生オートマタ

未羊

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Mission019

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 ギルソンとマリカが向かい合って木剣を構える。さすがアリスが指導してきたギルソンも、家が騎士爵を持ち自身も騎士を志すマリカも、剣の構えがしっかりとできている。だが、お互いに基本的な事ができているからこそ、攻めるタイミングを見計らっての睨み合いが続いていた。じりじりと円を描くようにお互いに動いており、いかにやりづらいかというのがひしひしと伝わってくる。
(おやまぁ、思ったより二人の実力が均衡しているのかねぇ。こうもお互いに手を出さないとは、実力を推し量りかねているのは間違いなさそうだけど)
 頬に手を当てて困ったように見守るアリス。しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。さて、どちらが先にしびれを切らすのだろうか。
「くっそーっ、このガキどもちょこまかとっ!!」
 その向こうでは、ロドスが子どもたちにいいように遊ばれているようである。完全に言葉が崩れている。だが、今のアリスにとってそんな事はどうもいいのだ。ギルソンとマリカの実力にこそ、アリスの興味はあるのである。
 ギルソンとマリカは、数歩と剣一本分の距離、おおよそ5mと少々の距離を取ったまま、じりじりと反時計回りにタイミングを見計らいながら動いている。本当にじれったくなるくらい牽制し合っているのだ。これではいつまでも動くようには思えなかった。そこで、アリスはひとつ手を打つ事にした。
「そういえばそろそろお昼でございますね。このままではお二人ともお昼は抜きという事になりかねませんね」
 そう、お昼ご飯をネタに、二人を揺すりにかけたのである。さすがにこれにはギルソンもマリカも動揺が隠せなかった。何と言っても、オートマタであるアリスが、主人であるギルソンまでも揺すりにかかったのだから、それは驚くというものである。
「ご飯抜きはさすがにきついわね」
「まったくそうですね」
 じりじりと睨み合いながら、言葉を交わすギルソンとマリカ。だが、まだ牽制状態が続いている。
「互いに様子を見合うのもいい加減に飽きましたね。そろそろ動きましょうか」
「そうでございますね。ではっ!」
 ついに二人が動く。ぐるぐると周り行動が同時に止まったかと思うと、互いに向かって飛び掛かる。さすがに5mと近い距離だったので、大きく踏み込んだたったの一歩でお互いの木剣がぶつかり合った。その時に響き渡った音が木剣のそれとは思えないほど、実に激しいぶつかり合いだった。
 それからというもの、さっきまでとは打って変わって激しい剣の打ち合いになる。10歳くらいであれば、男女差がそう大きく出ない年齢だ。しかも、二人してよく普段から剣の練習をしている。それがゆえに、目の前で行われる剣の打ち合いは、とても子どもとは思えないくらいに激しいものだった。
(なるほど、物語上のご都合展開という事で片付けようとしていましたが、あのマリカの活躍は普段の努力の裏付けあっての事だったのですね。作者ながらに甘く見ていましたね、反省ですね)
 アリスはそう思いながら、二人の打ち合いを見ている。その激しさには、子どもたちの相手をしていたロドスも釘付けになるほどである。もう子どものレベルを超えているのかも知れない。
 どれくらい経っただろうか、二人の間に疲労が見え始める。肩が激しく上下しているくらいには息が上がっている。流れる汗もすごい量だ。
(すごい、これが騎士爵の家の子どもなのですか)
(王子だと思って甘く見ていたわ。これはお父さんよりも強いかも知れないわ)
 お互いがその強さに驚愕している。
(次の一撃で決める!)
 そう思った二人は、疲れた体に鞭打って剣を構える。そして、
「はぁっ!!」
 お互いに踏み出そうとしたその瞬間だった。
「はい、それまでです。さすがに練習という範疇を越えています、ギルソン様、マリカさん」
 アリスが防御魔法を使って二人の剣を受け止めた。さすがはオートマタの魔法、子ども二人の剣ごときではぴくりともしなかった。
「あ、アリス……」
「はい、マイマスター。どうか剣をお収め下さい」
 驚くギルソンに優しく微笑みかけると、握っていた木剣をゆっくりと下ろしてアリスに手渡した。
「マリカさんも、剣を収めて下さい。それと、けしかけるような事を申しまして誠に申し訳ございませんでした」
 アリスの謝罪に、マリカもゆっくりと剣を下ろした。そして、二人して臨戦態勢を解いた事を確認すると、
洗浄クリーン
 アリスは魔法を使って、二人の汗を拭った。一瞬で引いた汗に、ギルソンとマリカはとても驚いていた。普通ならこれだけ動いた後は、すぐさまに水浴びをするというのが普通だからだ。
「これが……、オートマタだけが持つ魔法の力なのね。すごい……」
 マリカはとても感動している。貧乏騎士爵の家にはオートマタが居ないのだから、仕方のない反応である。
 落ち着いた後はマリカは子どもたちを連れて孤児院の中へ入っていく。その様子を見送りながら、ギルソンとアリスは、騎士であるロドスを見る。
「騎士の目から見て、この孤児院の子どもたちやマリカはどう思いますか?」
 ギルソンから言葉を投げ掛けられたロドスは、始めこそ黙っていたがしばらく目が泳いだ後に、大きく息を吐いてギルソンと向かい合った。
「子どもたちですが、はっきり言って剣筋はでたらめです。ただやみくもに振り回しているだけで、とても騎士としては通用するレベルではないですね。ただ、連携は取れていたと思います」
 孤児院の子どもたちについてはそう評価を下していた。現役騎士からの評価は厳しいようである。
「マリカという少女ですが、さすが騎士爵を持つ家の子とあって、しっかりとした目と剣の腕を持っています。普段、あれだけの鍛錬を積まれているギルソン殿下と互角に渡り合えるのですから、女性という点を踏まえても一線級の活躍はできると思われます」
 マリカに関しては、とても高い評価をしていた。現役騎士からこう言われるのであれば、マリカは入団後に即戦力になりうるだろう。これは今後の期待がとても大きい事である。
 それはさておき、この後は昼食を孤児院で一緒に食べながら、アーロンからいろいろと話を聞いたのであった。
 何にしてもこの孤児院訪問は、とても有意義な時間となったようである。ヒロインちゃんがハイスペックだった事に、アリスはとても安心したのであった。
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