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Mission018
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庭ではすでにマリカが子どもたちと剣を打ち合っていた。子どもたちがでたらめに振るう剣を難なく躱したりいなしたりしている。
(なるほど、子どもたちは剣の扱い方がなっていませんし、このでたらめな振るい方を相手にするという事は、実際の戦闘を意識したものと言えます。相手は騎士だけとは限りませんからね)
子どもが三人くらい一斉にマリカに剣を振るっているのだが、まあまったく当たらないものである。ある程度躱し続けたところで、マリカは子どもたちの頭を持っている木剣で軽くポンポンと叩いた。
「はい、これで終了ですね」
「マリカねーちゃん強すぎるーっ!」
マリカが優しくにっこりと告げると、子どもたちがぶーぶーと文句を言っていた。攻撃が当たらないんじゃ子どもたちからしたら確かに面白くないものなのだ。だが、文句を言われながらでもマリカはにこにこと微笑んでいた。
「悔しいと思うのなら、もっと練習しなきゃダメですね。もしみんなが将来騎士を目指すというのであれば、日々の鍛錬がまずは重要ですから」
マリカは子どもたちにそう言い聞かせていた。さすがは騎士爵の家の娘といったところだろう。自身も将来は王国の騎士を目指しているのだから、これは当然の考えだと思われる。
「へえ、ずいぶんと楽しそうですね」
そこへギルソンがとことこと歩み寄っていく。
「ギルソン殿下、どうしてこちらへ?!」
「いや、子どもたちの声と木剣がぶつかり合う音が聞こえましたので、つい気になってしまいましてね」
はにかむようにマリカの質問に答えるギルソン。
(ふぅ、若いギルソン様の笑顔は実に素晴らしいわ)
アリスが心の中で悶えていた。すっかり若いお姉さん気分である。この人、確か94歳で大往生したんですよね?
ギルソンの登場に焦るマリカであったが、孤児院の子どもたちは現れたギルソンが王子とは知らないのでわらわらと集まってくる。
「お兄ちゃん誰?」
「服がきれいだーっ」
子どもたちはギルソンに興味津々のようだ。それに対してギルソンは嫌な顔もしないで冷静に対処している。むしろ焦っているのはマリカやロドスの方である。
「こらっ、お前ら。ギルソン様に触れるな」
どかどかとギルソンの前に歩み出て、子どもたちを払いのけるロドス。その形相に子どもたちは怖がりながら下がっていった。
「わーん、あのおじさん怖いーっ!」
子どもたちは泣いてしまった。
「ロドス、さすがに泣かせるのはやり過ぎではないですか?」
「俺は殿下に近付かないように追い払っただけです」
「でも、泣いているのは現実です。もう少しやりようがあったのではないのですか?」
子どもたちは確かに泣いているし、ギルソンにまでこう言われてしまえば、ロドスはもう言い返す事も言い訳をする事もできなかった。
「すみませんでした」
渋々謝罪をするロドス。さすがに泣く子どもには勝てないようである。
「ところで、君はマリカといったかな」
「はい、そうでございます」
ギルソンが話し掛ければ、騎士として敬礼をするマリカ。優しく話し掛けているというのに、ギルソンからの圧はそれくらいに強かった。
「せっかくだから、ボクとちょっと打ち合ってもらえないかな」
「えっ、殿下とですか?!」
ギルソンの申し出に、マリカは驚いている。
「ボクも王族の一人として、将来の有望な人材が居たら、直に確認してみたいのですよ」
ギルソンの目は本気である。これでは断れるような流れにはできなかった。
「……畏まりました。不肖マリカ・オリハーン、殿下のお相手を務めさせて頂きます」
マリカはやむなく、ギルソンの剣の相手を務める事になってしまったのだった。ロドスはギルソンを止めようとするが、アリスがそれを阻止する。
「ロドス様、こちらの子どもたちに本物の騎士としての力をお見せしてみてはいかがでしょうか。そうすれば先程の子どもたちの反応も少しは改められると思いますよ」
「このオートマタ、何を言っているのです!」
ロドスはアリスに対して怒るが、それと同時に子どもたちから輝くような目を向けられている事に気が付く。騎士という単語を聞いた事で、子どもたちの認識が上書きされたのである。このファルーダンの騎士団は、国民の憧れなのだから仕方がない。さすがに孤児院の子どもたちから視線を一斉に浴びては、ロドスもその異様さにドン引きをしていた。
「ちょっと待ちなさい。いくら騎士は一対多数の訓練をするとはいっても、この数はさすがに厳しいのですよ!」
「ファイト! でございます、ロドス様」
アリスはそう言って、ギルソンとロドスに木剣を手渡す。どこに持っていたのだか、このオートマタ、準備がよすぎるのである。
「お前、最初からこのつもりだったな?!」
「はて、何の事でございましょうか」
ロドスが叫ぶが、アリスはとぼけている。まるで人間のように振舞うオートマタにイライラするロドスであったが、
「さあさあ、ロドス様。よそ見している暇はございませんよ」
アリスの声に振る向くと、すでに子どもたちが木剣を振るってロドスに襲い掛かってきていた。
「不意打ちかよっ?!」
慌てながらも対処するロドスは、さすがは団長の弟である。だが、丁寧を心掛けていた言葉遣いが砕けてきているあたり、相当に焦っている事が分かる。アリスは後方に下がって、ギルソンの方を見守る事にした。
(はてさて、出版した書籍とは違うタイミングでのギルソンとヒロインちゃんの剣の打ち合いですけれど、どの様になりますかね)
アリスは二人が向き合う様をドキドキしながら眺めていた。
(なるほど、子どもたちは剣の扱い方がなっていませんし、このでたらめな振るい方を相手にするという事は、実際の戦闘を意識したものと言えます。相手は騎士だけとは限りませんからね)
子どもが三人くらい一斉にマリカに剣を振るっているのだが、まあまったく当たらないものである。ある程度躱し続けたところで、マリカは子どもたちの頭を持っている木剣で軽くポンポンと叩いた。
「はい、これで終了ですね」
「マリカねーちゃん強すぎるーっ!」
マリカが優しくにっこりと告げると、子どもたちがぶーぶーと文句を言っていた。攻撃が当たらないんじゃ子どもたちからしたら確かに面白くないものなのだ。だが、文句を言われながらでもマリカはにこにこと微笑んでいた。
「悔しいと思うのなら、もっと練習しなきゃダメですね。もしみんなが将来騎士を目指すというのであれば、日々の鍛錬がまずは重要ですから」
マリカは子どもたちにそう言い聞かせていた。さすがは騎士爵の家の娘といったところだろう。自身も将来は王国の騎士を目指しているのだから、これは当然の考えだと思われる。
「へえ、ずいぶんと楽しそうですね」
そこへギルソンがとことこと歩み寄っていく。
「ギルソン殿下、どうしてこちらへ?!」
「いや、子どもたちの声と木剣がぶつかり合う音が聞こえましたので、つい気になってしまいましてね」
はにかむようにマリカの質問に答えるギルソン。
(ふぅ、若いギルソン様の笑顔は実に素晴らしいわ)
アリスが心の中で悶えていた。すっかり若いお姉さん気分である。この人、確か94歳で大往生したんですよね?
ギルソンの登場に焦るマリカであったが、孤児院の子どもたちは現れたギルソンが王子とは知らないのでわらわらと集まってくる。
「お兄ちゃん誰?」
「服がきれいだーっ」
子どもたちはギルソンに興味津々のようだ。それに対してギルソンは嫌な顔もしないで冷静に対処している。むしろ焦っているのはマリカやロドスの方である。
「こらっ、お前ら。ギルソン様に触れるな」
どかどかとギルソンの前に歩み出て、子どもたちを払いのけるロドス。その形相に子どもたちは怖がりながら下がっていった。
「わーん、あのおじさん怖いーっ!」
子どもたちは泣いてしまった。
「ロドス、さすがに泣かせるのはやり過ぎではないですか?」
「俺は殿下に近付かないように追い払っただけです」
「でも、泣いているのは現実です。もう少しやりようがあったのではないのですか?」
子どもたちは確かに泣いているし、ギルソンにまでこう言われてしまえば、ロドスはもう言い返す事も言い訳をする事もできなかった。
「すみませんでした」
渋々謝罪をするロドス。さすがに泣く子どもには勝てないようである。
「ところで、君はマリカといったかな」
「はい、そうでございます」
ギルソンが話し掛ければ、騎士として敬礼をするマリカ。優しく話し掛けているというのに、ギルソンからの圧はそれくらいに強かった。
「せっかくだから、ボクとちょっと打ち合ってもらえないかな」
「えっ、殿下とですか?!」
ギルソンの申し出に、マリカは驚いている。
「ボクも王族の一人として、将来の有望な人材が居たら、直に確認してみたいのですよ」
ギルソンの目は本気である。これでは断れるような流れにはできなかった。
「……畏まりました。不肖マリカ・オリハーン、殿下のお相手を務めさせて頂きます」
マリカはやむなく、ギルソンの剣の相手を務める事になってしまったのだった。ロドスはギルソンを止めようとするが、アリスがそれを阻止する。
「ロドス様、こちらの子どもたちに本物の騎士としての力をお見せしてみてはいかがでしょうか。そうすれば先程の子どもたちの反応も少しは改められると思いますよ」
「このオートマタ、何を言っているのです!」
ロドスはアリスに対して怒るが、それと同時に子どもたちから輝くような目を向けられている事に気が付く。騎士という単語を聞いた事で、子どもたちの認識が上書きされたのである。このファルーダンの騎士団は、国民の憧れなのだから仕方がない。さすがに孤児院の子どもたちから視線を一斉に浴びては、ロドスもその異様さにドン引きをしていた。
「ちょっと待ちなさい。いくら騎士は一対多数の訓練をするとはいっても、この数はさすがに厳しいのですよ!」
「ファイト! でございます、ロドス様」
アリスはそう言って、ギルソンとロドスに木剣を手渡す。どこに持っていたのだか、このオートマタ、準備がよすぎるのである。
「お前、最初からこのつもりだったな?!」
「はて、何の事でございましょうか」
ロドスが叫ぶが、アリスはとぼけている。まるで人間のように振舞うオートマタにイライラするロドスであったが、
「さあさあ、ロドス様。よそ見している暇はございませんよ」
アリスの声に振る向くと、すでに子どもたちが木剣を振るってロドスに襲い掛かってきていた。
「不意打ちかよっ?!」
慌てながらも対処するロドスは、さすがは団長の弟である。だが、丁寧を心掛けていた言葉遣いが砕けてきているあたり、相当に焦っている事が分かる。アリスは後方に下がって、ギルソンの方を見守る事にした。
(はてさて、出版した書籍とは違うタイミングでのギルソンとヒロインちゃんの剣の打ち合いですけれど、どの様になりますかね)
アリスは二人が向き合う様をドキドキしながら眺めていた。
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