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Mission017
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孤児院に出向いたギルソンとアリスを出迎えたのは、ありすの代表作である『機械仕掛けの魔法と運命の王子』のヒロイン、マリカ・オリハーンだった。その顔は確かにありすの娘の茉莉花とよく似ているし、頭にはちゃんとジャスミンの髪飾りが付いている。何度確認してみても、それは確かにヒロインちゃんである。
(まあまあ、本当に娘の小さい頃にそっくりだわ。髪と瞳の色はさすがに違うけど、それ以外はイラストの人が描いた通りね)
アリスは感動のあまり、まじまじとマリカを見ている。
「あの、どうかされましたか?」
あまりにもアリスが棒立ちをしているので、マリカが心配そうに覗き込んできた。だが、その瞳の奥には未知のオートマタに対する興味の色が見え隠れしていた。
(はっ、いけないいけない。今日は視察でした)
マリカの声に、アリスは我に返る。今の自分はオートマタなのだ、冷静でなければならないのだ。アリスはすんとした無表情に戻る。
「失礼致しました。お忙しいところ申し訳ないのですが、責任者の方とお話をさせて頂きたく思います。お呼び頂くか、許可の確認をお願い致します」
アリスは落ち着いて用件を話した。第五王子とはいえ王族が来ているのだから断る事はないだろうし、責任者は確実に玄関まで出迎えに来るはずである。アリスは責任者の人物像を確かめるためにあえてへりくだった上で二択を与えたのである。それに対してマリカは少し考えていた。
「分かりました。少々お待ち下さい」
顔を上げたマリカはそう言って、孤児院の中へと走っていった。今の間は一体何だったのだろうか。
しばらく待つと、マリカが孤児院の院長らしき男性を連れて戻ってきた。見た目から40代くらいと思われる。なにせ苦労の後と見られる白髪が毛髪の半分を占めているのに対して、顔の張りはまだ若かったからだ。
「お待たせしました。私は当孤児院の院長を務めていますアーロンと申します。今日はギルソン殿下がおいでと伺いまして、大変驚いています」
アーロンは弱々しく喋っている。王族が来たとなればそれはもう大慌てなのは仕方がない話だ。孤児院ともなれば、王族からは最も遠い位置づけの存在なのだから。
「出迎えご苦労様です。ボクがギルソン・ファルーダン第五王子です。急な訪問になった事は詫びさせてもらいます」
ギルソンの言葉に、アーロンは驚いた。王族がまさかの謝罪である。
このギルソンの謝罪行動にはロドスも驚いていたが、これはひとえにアリスの教育の賜物である。王族は偉いとはいっても横柄な立ち振る舞いは控えるべきだと。謝罪をするのも時には必要で、いわゆる飴と鞭の飴の部分である。アリスは自分の人生経験を踏まえた上で、ギルソンに人としての在り方を教え込んでいたのだ。
「殿下のお話の相手は私が務めさせて頂きますので、マリカ、君はいつもの通りに子どもたちと遊んできなさい」
「はい、院長先生」
アーロンの言いつけに、マリカは元気よく返事をする。そして、カーテシーをすると中へと歩いていった。
「子どもたちは今は二階で遊んでいますので、足音が響くかも知れませんが、私の部屋でお話をお伺い致します」
「分かりました」
アーロンがくるりと振り返って、ギルソンたちを院長室に案内する。孤児院の外に居ても子どもたちの声を聞こえていたが、中に入るとより一層響いてくる。それと、バタバタという床を走り回る音と床が軋む音も大きく響いている。
(ああ、子どもは元気なのが一番だね)
気分はすっかりおばあちゃんに戻っているアリスである。
「アリス? なんだか楽しそうだね」
「えっ、そうでございますでしょうか」
「うん、顔が楽しそうにしていたからね」
アリスはオートマタの無表情を通していたつもりだが、ギルソンには見抜かれてしまっていたようだ。表情にまで出ていたとなると、さすがにこれは言い繕えない。ロドスの方をちらりと見れば、すごく怪訝な表情を向けられていた。
(うーん、この手とかを見ればオートマタなのは分かるはずなのに、下手に感情が出ているせいでとても疑われているわね)
アリスはいずれロドス対策が必要になると確信した。
とはいえ、今はそれに構っている時ではない。ギルソンとヒロインちゃんの友好イベントをどうやって発生させようかと、アリスは画策していた。
アリスが何か良からぬ事を考えてるうちに、アーロンとの話が終わってしまう。この孤児院は貴族からの支援を受けて経営されているわけだが、どうやら後ろ盾はまともな貴族のようだ。改善点を伝えればちゃんと対応はしてくれるし、子どもたちの寝床や食事もちゃんとしたものが与えられている。巣立つ時もちゃんと仕事にありつけるようにしてくれているので、本当にいい貴族のようだ。
ちょうど話が終わる頃、部屋の外が騒がしくなる。ギルソンも気になっているようで、
「院長先生、あの音は一体何でしょうか?」
「ああ、あれですか。マリカさんが子どもたちに剣を教えているのです。マリカさんは騎士爵の家の子なので剣を振るいたいのでしょうね。家では訓練させてくれないらしいので、こうやって子どもたち相手に訓練を積んでいるのです」
質問をすればアーロンからはそう答えが返ってきた。これにギルソンが更なる反応する。
「それはいいですね。このロドスは城の騎士団の一員です。よければ見せてもらっていいでしょうか」
「え、ええ。それはもちろんよろしいですが……」
アーロンは驚きのあまり、言葉がうまく出なかった。
「よし、庭に出ましょうか」
「はい、マイマスター」
ギルソンはアリスを連れて庭へと出ていく。それにロドスとアーロンが慌ててついて行った。
……運命の歯車がまた一つ動き出した瞬間だった。
(まあまあ、本当に娘の小さい頃にそっくりだわ。髪と瞳の色はさすがに違うけど、それ以外はイラストの人が描いた通りね)
アリスは感動のあまり、まじまじとマリカを見ている。
「あの、どうかされましたか?」
あまりにもアリスが棒立ちをしているので、マリカが心配そうに覗き込んできた。だが、その瞳の奥には未知のオートマタに対する興味の色が見え隠れしていた。
(はっ、いけないいけない。今日は視察でした)
マリカの声に、アリスは我に返る。今の自分はオートマタなのだ、冷静でなければならないのだ。アリスはすんとした無表情に戻る。
「失礼致しました。お忙しいところ申し訳ないのですが、責任者の方とお話をさせて頂きたく思います。お呼び頂くか、許可の確認をお願い致します」
アリスは落ち着いて用件を話した。第五王子とはいえ王族が来ているのだから断る事はないだろうし、責任者は確実に玄関まで出迎えに来るはずである。アリスは責任者の人物像を確かめるためにあえてへりくだった上で二択を与えたのである。それに対してマリカは少し考えていた。
「分かりました。少々お待ち下さい」
顔を上げたマリカはそう言って、孤児院の中へと走っていった。今の間は一体何だったのだろうか。
しばらく待つと、マリカが孤児院の院長らしき男性を連れて戻ってきた。見た目から40代くらいと思われる。なにせ苦労の後と見られる白髪が毛髪の半分を占めているのに対して、顔の張りはまだ若かったからだ。
「お待たせしました。私は当孤児院の院長を務めていますアーロンと申します。今日はギルソン殿下がおいでと伺いまして、大変驚いています」
アーロンは弱々しく喋っている。王族が来たとなればそれはもう大慌てなのは仕方がない話だ。孤児院ともなれば、王族からは最も遠い位置づけの存在なのだから。
「出迎えご苦労様です。ボクがギルソン・ファルーダン第五王子です。急な訪問になった事は詫びさせてもらいます」
ギルソンの言葉に、アーロンは驚いた。王族がまさかの謝罪である。
このギルソンの謝罪行動にはロドスも驚いていたが、これはひとえにアリスの教育の賜物である。王族は偉いとはいっても横柄な立ち振る舞いは控えるべきだと。謝罪をするのも時には必要で、いわゆる飴と鞭の飴の部分である。アリスは自分の人生経験を踏まえた上で、ギルソンに人としての在り方を教え込んでいたのだ。
「殿下のお話の相手は私が務めさせて頂きますので、マリカ、君はいつもの通りに子どもたちと遊んできなさい」
「はい、院長先生」
アーロンの言いつけに、マリカは元気よく返事をする。そして、カーテシーをすると中へと歩いていった。
「子どもたちは今は二階で遊んでいますので、足音が響くかも知れませんが、私の部屋でお話をお伺い致します」
「分かりました」
アーロンがくるりと振り返って、ギルソンたちを院長室に案内する。孤児院の外に居ても子どもたちの声を聞こえていたが、中に入るとより一層響いてくる。それと、バタバタという床を走り回る音と床が軋む音も大きく響いている。
(ああ、子どもは元気なのが一番だね)
気分はすっかりおばあちゃんに戻っているアリスである。
「アリス? なんだか楽しそうだね」
「えっ、そうでございますでしょうか」
「うん、顔が楽しそうにしていたからね」
アリスはオートマタの無表情を通していたつもりだが、ギルソンには見抜かれてしまっていたようだ。表情にまで出ていたとなると、さすがにこれは言い繕えない。ロドスの方をちらりと見れば、すごく怪訝な表情を向けられていた。
(うーん、この手とかを見ればオートマタなのは分かるはずなのに、下手に感情が出ているせいでとても疑われているわね)
アリスはいずれロドス対策が必要になると確信した。
とはいえ、今はそれに構っている時ではない。ギルソンとヒロインちゃんの友好イベントをどうやって発生させようかと、アリスは画策していた。
アリスが何か良からぬ事を考えてるうちに、アーロンとの話が終わってしまう。この孤児院は貴族からの支援を受けて経営されているわけだが、どうやら後ろ盾はまともな貴族のようだ。改善点を伝えればちゃんと対応はしてくれるし、子どもたちの寝床や食事もちゃんとしたものが与えられている。巣立つ時もちゃんと仕事にありつけるようにしてくれているので、本当にいい貴族のようだ。
ちょうど話が終わる頃、部屋の外が騒がしくなる。ギルソンも気になっているようで、
「院長先生、あの音は一体何でしょうか?」
「ああ、あれですか。マリカさんが子どもたちに剣を教えているのです。マリカさんは騎士爵の家の子なので剣を振るいたいのでしょうね。家では訓練させてくれないらしいので、こうやって子どもたち相手に訓練を積んでいるのです」
質問をすればアーロンからはそう答えが返ってきた。これにギルソンが更なる反応する。
「それはいいですね。このロドスは城の騎士団の一員です。よければ見せてもらっていいでしょうか」
「え、ええ。それはもちろんよろしいですが……」
アーロンは驚きのあまり、言葉がうまく出なかった。
「よし、庭に出ましょうか」
「はい、マイマスター」
ギルソンはアリスを連れて庭へと出ていく。それにロドスとアーロンが慌ててついて行った。
……運命の歯車がまた一つ動き出した瞬間だった。
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