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Mission016
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平民街はだいぶ賑わっているようだ。アリスが頑張って動いた成果は、着実にその実を結び始めていた。
「へえ、ここが平民街なのですね。初めて来ましたが、ずいぶんと賑わっているのですね」
ギルソンが人の行き交う様子や露店が出ている状況を見て、ずいぶんと興味を持ったようである。
「これでもここまで賑わうようになったのは最近なんですよ。そこのオートマタが好き勝手やった結果がこれというわけなんです」
ロドスがすごく不機嫌な顔をしながら吐き捨てるような言い方をしている。ええ、怒ってもよろしいでしょうか。そんな感じの感情を、アリスは表に出す事なくにこにことしながらギルソンに付き合うように立っている。
(ええ、ロドス様は危険ですね。ギルソン様に近付けてはいけない人物のようです)
アリスは心の内ではロドスを睨みつけていた。それが伝わったのか、ロドスは寒気がしたようで身震いをしていた。ざまあみろというものである。
「ロドスはずいぶんと言ってくれるようですね。アリスが国を思って動いてくれたというのに、それを評価に値しないみたいな言い方をするなんて、それはボクに対しての不敬と取ってもいいのかな?」
10歳となったギルソンは物腰も口調も丁寧で、まっすぐと王族として立派に育ってくれたものである。そんなギルソンにとっても、このロドスの物言いには怒りが湧いたようである。ロドスもさすがにこれだけはっきりとした怒りを向けられて、すぐさま平謝りをしていた。王族に対しての不敬は、(物理的に)首が飛んでしまうのだから当然である。護衛なのである程度の軽口は許されるかも知れないが、怒らせてしまっては元も子もないというものだ。王族に仕えるというのであれば、口の利き方には気を付けるべきである。
といった感じでちょっとしたごたつきはあったものの、ギルソンとアリスは護衛付きで平民街を見て回る。王都の中は治安がいいとはいえ、不届き者が紛れ込んでいる可能性は十分考えられる。街の規模が大きく、人の数も増えてくるとどうしてもすべてを把握する事は不可能なのだ。
こうやって王都の平民街を視察する中、アリスはうまくギルソンをマリカが住んでいる辺りへと誘導していく。マリカの家の近くには孤児院があるのだが、そこは貴族が後見人となっているので貴族街の近くに存在しているそうだ。
(マリカを慕う私兵の中には、孤児院出身者も居たという設定ですからね。この辺はご都合主義と言いますか何と言いますか、実際にもそう遠くない場所にあるんですね)
ありすが書いた小説の通りであるならば、マリカの家と孤児院はご近所であり、気軽に通える距離にある。そこでマリカはよく孤児院に行っては、孤児たちと一緒に剣を振るっていたという設定なのである。ありすの設定通りであるなら、マリカは今の時間は孤児院に居るはずである。
「孤児院とは一体何でしょうか?」
ギルソンは向かう先が気になったので、アリスに問い掛ける。だが、アリスが答える前にロドスが口を挟んできた。
「おい、ギルソン様をそのような場所に向かわせる気なのか? 孤児院などという不浄の場に足を踏み入れさせるなんて、何を考えているのです」
「不浄な空気は私の魔法でどうにでもできます。孤児たちは様々な事情で親とはぐれてしまった者です。もしかしたら、私たちが驚くような人材が眠っているかも知れません。だからこそ向かうのです」
ムカッと来たアリスは、眉を吊り上げてロドスに言い寄る。オートマタとは思えないその勢いに、ロドスは思わず怯んでしまった。
「分かればよろしいのです。いざという時に動かせる人員は多い事に越した事はありません。出自だけで決めつけていると、時に痛い目に遭いますよ」
お節介おばあちゃん炸裂である。ありすとして生きた94年間の月日の積み重ねによる言葉は、ロドスのような若者にはあまりにも重かった。アリスの中身は、酸いも甘いも見てきたありすというおばあちゃんの貫禄勝ちである。
話をしながら平民街を歩いていると、目的地の孤児院が見えてきた。ここまでぶつかってくるような人間は誰も居なかったのはよかった。アリスとロドスが放つ空気が異様過ぎて、誰も近付けなかったのである。怪我の功名といったところだろうか。
さて、話に出てきた孤児院だが、貴族街と平民街を隔てる壁から通り2本分の平民街の位置にある。さすがに貴族街が近いとあって、公衆衛生が行き届いている。ごみも汚物も転がっていない。通りをよく見ると、清掃活動に勤しむオートマタが何体か見えた。なるほど、定期的にオートマタが回っているからきれいなのだ。文句の一つもないとは、おそらく掃除のためだけに魔法石の調整を受けたオートマタなのだろう。命令された仕事だけを淡々とこなすとは、まさしくロボットのような物だった。
それはさておき、アリスたちはようやく孤児院の前に到着した。さすが貴族の援助を受けているだけあって、しっかりとした外観を持っている。小説によくある隙間風の吹くようなボロボロな建物ではなさそうだ。アリスたちは入口の扉に近付き、強くノックする。
「突然のご訪問失礼致します。どなたかいらっしゃいませんでしょうか?」
アリスが声を掛けると、扉の奥から人が走ってくる音がする。そして、扉の位置で音が止むと、
「お待たせしました。どちら様でしょうか」
中から聞こえてきたのは子どもの声だった。少し高いのでおそらく少女の声である。
「お忙しいところ失礼致します。私、第五王子ギルソン殿下のオートマタであるアリスと申します。本日、お忍びでこちらをご訪問させて頂きました」
「えっ? 王子様がいらっしゃるんですか?」
アリスの声に、戸惑った声が聞こえてきた。
「はい。マイマスターであるギルソン殿下もおいででございます。マスターの社会勉強のための訪問でございます」
アリスがこう言うと、扉がゆっくり開く。中から姿を現したのは、ギルソンと同い年くらいの少女だった。その顔に、アリスは見覚えがあった。
……そう、この少女こそ、物語のヒロインであるマリカ・オリハーンである。
「へえ、ここが平民街なのですね。初めて来ましたが、ずいぶんと賑わっているのですね」
ギルソンが人の行き交う様子や露店が出ている状況を見て、ずいぶんと興味を持ったようである。
「これでもここまで賑わうようになったのは最近なんですよ。そこのオートマタが好き勝手やった結果がこれというわけなんです」
ロドスがすごく不機嫌な顔をしながら吐き捨てるような言い方をしている。ええ、怒ってもよろしいでしょうか。そんな感じの感情を、アリスは表に出す事なくにこにことしながらギルソンに付き合うように立っている。
(ええ、ロドス様は危険ですね。ギルソン様に近付けてはいけない人物のようです)
アリスは心の内ではロドスを睨みつけていた。それが伝わったのか、ロドスは寒気がしたようで身震いをしていた。ざまあみろというものである。
「ロドスはずいぶんと言ってくれるようですね。アリスが国を思って動いてくれたというのに、それを評価に値しないみたいな言い方をするなんて、それはボクに対しての不敬と取ってもいいのかな?」
10歳となったギルソンは物腰も口調も丁寧で、まっすぐと王族として立派に育ってくれたものである。そんなギルソンにとっても、このロドスの物言いには怒りが湧いたようである。ロドスもさすがにこれだけはっきりとした怒りを向けられて、すぐさま平謝りをしていた。王族に対しての不敬は、(物理的に)首が飛んでしまうのだから当然である。護衛なのである程度の軽口は許されるかも知れないが、怒らせてしまっては元も子もないというものだ。王族に仕えるというのであれば、口の利き方には気を付けるべきである。
といった感じでちょっとしたごたつきはあったものの、ギルソンとアリスは護衛付きで平民街を見て回る。王都の中は治安がいいとはいえ、不届き者が紛れ込んでいる可能性は十分考えられる。街の規模が大きく、人の数も増えてくるとどうしてもすべてを把握する事は不可能なのだ。
こうやって王都の平民街を視察する中、アリスはうまくギルソンをマリカが住んでいる辺りへと誘導していく。マリカの家の近くには孤児院があるのだが、そこは貴族が後見人となっているので貴族街の近くに存在しているそうだ。
(マリカを慕う私兵の中には、孤児院出身者も居たという設定ですからね。この辺はご都合主義と言いますか何と言いますか、実際にもそう遠くない場所にあるんですね)
ありすが書いた小説の通りであるならば、マリカの家と孤児院はご近所であり、気軽に通える距離にある。そこでマリカはよく孤児院に行っては、孤児たちと一緒に剣を振るっていたという設定なのである。ありすの設定通りであるなら、マリカは今の時間は孤児院に居るはずである。
「孤児院とは一体何でしょうか?」
ギルソンは向かう先が気になったので、アリスに問い掛ける。だが、アリスが答える前にロドスが口を挟んできた。
「おい、ギルソン様をそのような場所に向かわせる気なのか? 孤児院などという不浄の場に足を踏み入れさせるなんて、何を考えているのです」
「不浄な空気は私の魔法でどうにでもできます。孤児たちは様々な事情で親とはぐれてしまった者です。もしかしたら、私たちが驚くような人材が眠っているかも知れません。だからこそ向かうのです」
ムカッと来たアリスは、眉を吊り上げてロドスに言い寄る。オートマタとは思えないその勢いに、ロドスは思わず怯んでしまった。
「分かればよろしいのです。いざという時に動かせる人員は多い事に越した事はありません。出自だけで決めつけていると、時に痛い目に遭いますよ」
お節介おばあちゃん炸裂である。ありすとして生きた94年間の月日の積み重ねによる言葉は、ロドスのような若者にはあまりにも重かった。アリスの中身は、酸いも甘いも見てきたありすというおばあちゃんの貫禄勝ちである。
話をしながら平民街を歩いていると、目的地の孤児院が見えてきた。ここまでぶつかってくるような人間は誰も居なかったのはよかった。アリスとロドスが放つ空気が異様過ぎて、誰も近付けなかったのである。怪我の功名といったところだろうか。
さて、話に出てきた孤児院だが、貴族街と平民街を隔てる壁から通り2本分の平民街の位置にある。さすがに貴族街が近いとあって、公衆衛生が行き届いている。ごみも汚物も転がっていない。通りをよく見ると、清掃活動に勤しむオートマタが何体か見えた。なるほど、定期的にオートマタが回っているからきれいなのだ。文句の一つもないとは、おそらく掃除のためだけに魔法石の調整を受けたオートマタなのだろう。命令された仕事だけを淡々とこなすとは、まさしくロボットのような物だった。
それはさておき、アリスたちはようやく孤児院の前に到着した。さすが貴族の援助を受けているだけあって、しっかりとした外観を持っている。小説によくある隙間風の吹くようなボロボロな建物ではなさそうだ。アリスたちは入口の扉に近付き、強くノックする。
「突然のご訪問失礼致します。どなたかいらっしゃいませんでしょうか?」
アリスが声を掛けると、扉の奥から人が走ってくる音がする。そして、扉の位置で音が止むと、
「お待たせしました。どちら様でしょうか」
中から聞こえてきたのは子どもの声だった。少し高いのでおそらく少女の声である。
「お忙しいところ失礼致します。私、第五王子ギルソン殿下のオートマタであるアリスと申します。本日、お忍びでこちらをご訪問させて頂きました」
「えっ? 王子様がいらっしゃるんですか?」
アリスの声に、戸惑った声が聞こえてきた。
「はい。マイマスターであるギルソン殿下もおいででございます。マスターの社会勉強のための訪問でございます」
アリスがこう言うと、扉がゆっくり開く。中から姿を現したのは、ギルソンと同い年くらいの少女だった。その顔に、アリスは見覚えがあった。
……そう、この少女こそ、物語のヒロインであるマリカ・オリハーンである。
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