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Mission014
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そうこうしているうちに、ギルソンも10歳を迎えた。
先も述べた通り、ここでギルソンの農業視察も終わりを迎え、いよいよ王族としての活動が本格化する。
ただ、学園に入る13歳までは小説では流す程度しか触れていないので、まだまだアリスにとっては未知の領域なのである。学園入学までの間、どうやって過ごしていくかは相変わらず頭を悩ませていた。ここまではファルーダン王国内の安定に注力してきて、それが徐々に実りつつある。家族内の様子もそんなに険悪なムードは感じられない。そうなると次の目的がまったく浮かばなくなってしまったのである。
(さーて、次はどうしたらいいかしらね。やっぱり気になるのはヒロインちゃんかしら)
というわけで、次のアリスの興味は騎士爵家のヒロインちゃんのようである。なにせ自分の機械技師という職業を反映させ、自分の娘の名前を付けたのだから、気にならない方がおかしいというものである。
このファルーダン王国の騎士爵家はそれほど多くない。確か10家ほどである。そのうち、ヒロインが居る家は自分の名字を反映させたオリハーンである。なんて名前を付けているのやら。まあ、作家が自分の身の回りから名前を付けるなんてよくある事である。気にしてはいけないのだ。
しかし、ヒロインちゃんを調べようとしても、ここに来て障壁はたくさんあった。
何といっても、騎士爵は平民に毛が生えたような爵位であるがために、王族とおいそれと会えるような身分ではないという事だ。これが一番の障壁過ぎるのである。となると、ヒロインちゃんを王城へ呼び出すのには、第二王女リリアンの名を使ったとしても厳しいだろう。
この線はまず消えた。
こうなると、お忍びで市井に出て、たまたまを装って会うくらいしか方法はないだろう。騎士爵はおろか、平民の中でもオートマタを持つ持つ者はそこそこ存在している。裕福なところの子どもとそのオートマタというのが自然な設定だろうか。アリスは夜中のギルソンが眠っている時間を利用して、あれこれと作戦を練っている。
それにしても、そんな事をすればギルソンとヒロインちゃんの出会いを早めてしまう事になる。小説の物語を根本から覆す事になってしまうのだ。しかしながら、国内の食糧事情を改善したり、王族の家族関係を繕ったりしてる時点で、もはやアリスからそういう考えは消えてしまっているようだった。ただただ、ギルソンを幸せにするためには、誰も救われるハッピーエンドにするにはどうしたらいいのか。アリスの原動力はそれだけなのである。
というわけで翌日、アリスは思い切って行動に出る。
「突然のご無礼、失礼致します」
「うん? 君はギルソン殿下のオートマタだな。一体何かね?」
アリスはとある人物に接触を試みた。この国の貴族爵のすべてを知る男、人事院のワイズネル侯爵である。すべての貴族爵を知る彼ならば、その家族についても詳しいと見たのだ。
……結果、アリスの見立ては正しかった。騎士爵の中にオリハーン姓があったのである。その家にはちゃんと、ギルソンと同い年になる娘も居た。名前も知っているものであった。
この内容を聞いた時、アリスは心の内でガッツポーズを決めていた。
(これでヒロインちゃんに会いに行けるわ)
ワイズネル侯爵は目の前のオートマタの不思議な行動に、ただただ首を捻るだけであった。
「ありがとうございました、ワイズネル侯爵様」
「あ、ああ……。何かよく分からんが、あまりこういう事は好ましくないから、できればもうやめてくれ」
「存じております。本当に無理を言って申し訳ございませんでした」
そうやって頭を下げるアリスに、ワイズネル侯爵はもう言葉を失ってしまっていた。ただ失った語彙力でアリスを見送る事しかできなかったのだった。
それから数日後。
「いよいよ作戦決行日だわ」
アリスの気合いがとても入っていた。
「……本当にやるんですか? というか、あなたはオートマタですよね? なんでそんなに感情豊かなんですか」
「……細かい事を気にしてはいけません。私はマスターの幸せを考えて動いているのです」
「……、今更だけど、不良品だったのかな、このオートマタ」
「安物を買ってきたのです。多少の不具合なんて起こりえるのですよ」
「それのどこが多少なんだ?」
アリスと漫才を繰り広げているのは、ギルソンの護衛に任命されたバリスの弟であるロドスである。騎士団長としてきびきびとしているバリスとは違って、ちょっと砕けた感じのある性格の軽い男だ。厳格な兄の反動でこうなったらしい。
「しかし、本気なんですかい? 市井に出掛けてみるなんて」
「マスターは将来王家を出る事になる可能性が高いのです。庶民の暮らしを知っていても何の問題もないでしょう。むしろ知らない事で、不要な問題が起きる可能性だってあるのです」
「な、なるほどな……」
アリスの語彙力と勢いに、ロドスはあっさり言いくるめられてしまった。
「お待たせしました。このような格好で大丈夫でしょうか」
「ええ、問題ございません。これならどこかの商家の息子に見えますでしょう」
ギルソンが着替えを終えて出てくると、アリスはすかさず服装の評価をする。
(はあ、やっぱりこのくらいの男の子は可愛いねえ)
すっかり孫を見るおばあちゃんの心境である。
こうして準備が整ったところで、ついにアリスの『ヒロインちゃんの顔を拝みに行こう大作戦』が実行に移されたのであった。
先も述べた通り、ここでギルソンの農業視察も終わりを迎え、いよいよ王族としての活動が本格化する。
ただ、学園に入る13歳までは小説では流す程度しか触れていないので、まだまだアリスにとっては未知の領域なのである。学園入学までの間、どうやって過ごしていくかは相変わらず頭を悩ませていた。ここまではファルーダン王国内の安定に注力してきて、それが徐々に実りつつある。家族内の様子もそんなに険悪なムードは感じられない。そうなると次の目的がまったく浮かばなくなってしまったのである。
(さーて、次はどうしたらいいかしらね。やっぱり気になるのはヒロインちゃんかしら)
というわけで、次のアリスの興味は騎士爵家のヒロインちゃんのようである。なにせ自分の機械技師という職業を反映させ、自分の娘の名前を付けたのだから、気にならない方がおかしいというものである。
このファルーダン王国の騎士爵家はそれほど多くない。確か10家ほどである。そのうち、ヒロインが居る家は自分の名字を反映させたオリハーンである。なんて名前を付けているのやら。まあ、作家が自分の身の回りから名前を付けるなんてよくある事である。気にしてはいけないのだ。
しかし、ヒロインちゃんを調べようとしても、ここに来て障壁はたくさんあった。
何といっても、騎士爵は平民に毛が生えたような爵位であるがために、王族とおいそれと会えるような身分ではないという事だ。これが一番の障壁過ぎるのである。となると、ヒロインちゃんを王城へ呼び出すのには、第二王女リリアンの名を使ったとしても厳しいだろう。
この線はまず消えた。
こうなると、お忍びで市井に出て、たまたまを装って会うくらいしか方法はないだろう。騎士爵はおろか、平民の中でもオートマタを持つ持つ者はそこそこ存在している。裕福なところの子どもとそのオートマタというのが自然な設定だろうか。アリスは夜中のギルソンが眠っている時間を利用して、あれこれと作戦を練っている。
それにしても、そんな事をすればギルソンとヒロインちゃんの出会いを早めてしまう事になる。小説の物語を根本から覆す事になってしまうのだ。しかしながら、国内の食糧事情を改善したり、王族の家族関係を繕ったりしてる時点で、もはやアリスからそういう考えは消えてしまっているようだった。ただただ、ギルソンを幸せにするためには、誰も救われるハッピーエンドにするにはどうしたらいいのか。アリスの原動力はそれだけなのである。
というわけで翌日、アリスは思い切って行動に出る。
「突然のご無礼、失礼致します」
「うん? 君はギルソン殿下のオートマタだな。一体何かね?」
アリスはとある人物に接触を試みた。この国の貴族爵のすべてを知る男、人事院のワイズネル侯爵である。すべての貴族爵を知る彼ならば、その家族についても詳しいと見たのだ。
……結果、アリスの見立ては正しかった。騎士爵の中にオリハーン姓があったのである。その家にはちゃんと、ギルソンと同い年になる娘も居た。名前も知っているものであった。
この内容を聞いた時、アリスは心の内でガッツポーズを決めていた。
(これでヒロインちゃんに会いに行けるわ)
ワイズネル侯爵は目の前のオートマタの不思議な行動に、ただただ首を捻るだけであった。
「ありがとうございました、ワイズネル侯爵様」
「あ、ああ……。何かよく分からんが、あまりこういう事は好ましくないから、できればもうやめてくれ」
「存じております。本当に無理を言って申し訳ございませんでした」
そうやって頭を下げるアリスに、ワイズネル侯爵はもう言葉を失ってしまっていた。ただ失った語彙力でアリスを見送る事しかできなかったのだった。
それから数日後。
「いよいよ作戦決行日だわ」
アリスの気合いがとても入っていた。
「……本当にやるんですか? というか、あなたはオートマタですよね? なんでそんなに感情豊かなんですか」
「……細かい事を気にしてはいけません。私はマスターの幸せを考えて動いているのです」
「……、今更だけど、不良品だったのかな、このオートマタ」
「安物を買ってきたのです。多少の不具合なんて起こりえるのですよ」
「それのどこが多少なんだ?」
アリスと漫才を繰り広げているのは、ギルソンの護衛に任命されたバリスの弟であるロドスである。騎士団長としてきびきびとしているバリスとは違って、ちょっと砕けた感じのある性格の軽い男だ。厳格な兄の反動でこうなったらしい。
「しかし、本気なんですかい? 市井に出掛けてみるなんて」
「マスターは将来王家を出る事になる可能性が高いのです。庶民の暮らしを知っていても何の問題もないでしょう。むしろ知らない事で、不要な問題が起きる可能性だってあるのです」
「な、なるほどな……」
アリスの語彙力と勢いに、ロドスはあっさり言いくるめられてしまった。
「お待たせしました。このような格好で大丈夫でしょうか」
「ええ、問題ございません。これならどこかの商家の息子に見えますでしょう」
ギルソンが着替えを終えて出てくると、アリスはすかさず服装の評価をする。
(はあ、やっぱりこのくらいの男の子は可愛いねえ)
すっかり孫を見るおばあちゃんの心境である。
こうして準備が整ったところで、ついにアリスの『ヒロインちゃんの顔を拝みに行こう大作戦』が実行に移されたのであった。
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