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Mission013
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リリアンから学園の話を聞いたギルソンは、かなり強い興味を示したようだった。今ならちょうど第三王子も通っている。なのでギルソンは、スーリガンのところへも学園の話を聞きに行こうとしていた。
「マイマスター、急な訪問はやめた方がよろしいかと思います。せめて事前に申し入れをしておいた方がよろしいかと」
アリスは暴走気味に行動するギルソンを制止した。いくら血のつながった兄弟とはいえども、最低限の礼節は持っておくべきものである。アリスはそう考えたからこそ、ギルソンの暴走を止めたのである。
「分かりました……」
ギルソンはしょぼくれていたが、9歳の男の子のしょぼくれ顔は何とも護りたくなる衝動に駆られてしまう。アリスには別にそんな気はないが、子どもに孫、さらにひ孫まで居たらそんな気持ちも生まれてしまうというものだ。アリスはしょぼくれたギルソンを撫でてあやしていた。
それにしても、ギルソンがここまで学園に興味を示したのは、アリスとしては予想外である。農業などを通じて庶民生活に触れさせた結果なのだろうか、アリスは表立ってはオートマタをして平然と振る舞いながらも、その内では頭を抱えていた。
(ギルソンが、結局学園生活に進んじゃうのか……。でも、生活面では破綻してないから、性格も歪む事なく人当たりのいい感じだし、問題ないかしらね?)
無駄にアリスは悶々としている。
「ねえ、スーリガン兄さんに話を聞きたいだけど、アリス、調整してくれない?」
9歳ながらに物を頼んでくるギルソンの瞳が潤んでいる。まるで哀れな子犬のようなその瞳に、アリスは正直心苦しくなった。
「畏まりました。オートマタ同士であれば以心伝心のような魔法が使えますので、スーリガン様のオートマタとまずは連絡を取ってみます」
というわけで、スーリガンのオートマタと連絡を取ると、秒で返事があった。
「スーリガン様とお会いできるようです。すぐに向かわれますか?」
「もちろん!」
アリスが尋ねれば、元気よく即答だった。その早さに、アリスは笑顔でありながら顔を引きつらせていた。
「スーリガン様、アリスです。先程の連絡通りにギルソン様をお連れ致しました」
「うん、入りなさい」
部屋の扉をノックして中に挨拶をするアリス。すると、スーリガンから入室の許可が出た。
「それでは失礼致します」
扉を開けて中に入るギルソンとアリス。部屋の中にはギルソンの4つ上の兄である第三王子スーリガンが椅子に座り、その隣にはオートマタ・ブロンセが立っていた。
「どうしたんだい、ギルソン。私に聞きたい事があるなんて。普段から兄弟の中でもあまり交流がないのに、どういった風の吹き回しなんだい?」
肩脚を組んだ状態は非常に姿勢が悪いと言わざるを得ないが、言い回しからしてもスーリガンはギルソンを突き放すような物言いをしている。だが、部屋に招き入れた事を考えると、それほど邪険にはしていないようである。正直判断に困る。
「はい、本日はスーリガン兄さんに学園の話をお聞きしたくて伺った次第です。ボクもいずれ学園に通う事になるでしょうから、参考にしたいのです」
「ほおほお、それは実に殊勝な心掛けだな。話によればリリアン姉さんからもいろいろ聞いているみたいだが、間違いないかな?」
ギルソンから聞かれたスーリガンは、一応の確認を取る。
「はい、間違いないです。ですが、リリアン姉さんは女性の方ですから、やはり同じ男性目線のお話を聞きたいと思いまして、それで今回伺ったのです」
「なるほど、確かに性別が違えばいろいろと違ってくるからな。いいだろう。ギルソンが何を目指しているかは分からないが、可愛い弟の頼みだ。参考程度に聞いてくれ」
スーリガンは熱心な弟のために、学園での話を始めた。その話を、やはりギルソンは目を輝かせて熱心に聞いているようだった。そのあまりの熱心さに、ブロンゼに止められるまでスーリガンもついつい話し込んでしまったようだった。
「すまない、つい熱くなってしまったようだ。私も第三王子とだけあって、いずれは国を支える一人になるのだからな。兄上たちやお前のように体を動かすのがあまり得意ではないから、頭脳面から支えられないかと頑張っている」
「そうなんですね。スーリガン兄さんも考えていらっしゃるなんて、ボクも負けていられませんね!」
ギルソンは両手を握りしめて鼻息を荒くしている。スーリガンの話を聞いて、俄然やる気が出たようだ。
「お前のそういう素直なところは羨ましいな」
そのギルソンの様子を見て、スーリガンは思わず笑っていた。
「スーリガン様、本日はわざわざありがとうございました」
アリスはスーリガンに頭を下げる。
「また聞きたい事があったら今日みたいに頼む。学園のあれこれで忙しいから、時間が取れるとは限らないからね」
「はい、スーリガン様。承知致しました」
ギルソンとアリスはお礼を言って、スーリガンの部屋を後にした。
「はぁ~、あのギルソンにオートマタが来てから、ずいぶんとあちこち雰囲気が変わったな」
「そうでございますね、マスター」
「ギルソン自体にやる気が溢れてるのも気になるけれど、一番警戒するのはあのオートマタだ。今のままなら兄上のどちらかが王位継承だろうが、もしかしたらもしかするかも知れない」
ブロンゼの淹れた紅茶を飲みながら、スーリガンはギルソンに何かを感じたようである。
「私はこのまま文官を目指すけれど、あいつ次第では誰を指示するかは決めかねるな」
「左様でございますか」
「どうなるにせよ、これは将来が楽しみだな」
紅茶を飲み干しておかわりを要求するスーリガン。その高笑いはしばらくの間、部屋に響き渡るのだった。
「マイマスター、急な訪問はやめた方がよろしいかと思います。せめて事前に申し入れをしておいた方がよろしいかと」
アリスは暴走気味に行動するギルソンを制止した。いくら血のつながった兄弟とはいえども、最低限の礼節は持っておくべきものである。アリスはそう考えたからこそ、ギルソンの暴走を止めたのである。
「分かりました……」
ギルソンはしょぼくれていたが、9歳の男の子のしょぼくれ顔は何とも護りたくなる衝動に駆られてしまう。アリスには別にそんな気はないが、子どもに孫、さらにひ孫まで居たらそんな気持ちも生まれてしまうというものだ。アリスはしょぼくれたギルソンを撫でてあやしていた。
それにしても、ギルソンがここまで学園に興味を示したのは、アリスとしては予想外である。農業などを通じて庶民生活に触れさせた結果なのだろうか、アリスは表立ってはオートマタをして平然と振る舞いながらも、その内では頭を抱えていた。
(ギルソンが、結局学園生活に進んじゃうのか……。でも、生活面では破綻してないから、性格も歪む事なく人当たりのいい感じだし、問題ないかしらね?)
無駄にアリスは悶々としている。
「ねえ、スーリガン兄さんに話を聞きたいだけど、アリス、調整してくれない?」
9歳ながらに物を頼んでくるギルソンの瞳が潤んでいる。まるで哀れな子犬のようなその瞳に、アリスは正直心苦しくなった。
「畏まりました。オートマタ同士であれば以心伝心のような魔法が使えますので、スーリガン様のオートマタとまずは連絡を取ってみます」
というわけで、スーリガンのオートマタと連絡を取ると、秒で返事があった。
「スーリガン様とお会いできるようです。すぐに向かわれますか?」
「もちろん!」
アリスが尋ねれば、元気よく即答だった。その早さに、アリスは笑顔でありながら顔を引きつらせていた。
「スーリガン様、アリスです。先程の連絡通りにギルソン様をお連れ致しました」
「うん、入りなさい」
部屋の扉をノックして中に挨拶をするアリス。すると、スーリガンから入室の許可が出た。
「それでは失礼致します」
扉を開けて中に入るギルソンとアリス。部屋の中にはギルソンの4つ上の兄である第三王子スーリガンが椅子に座り、その隣にはオートマタ・ブロンセが立っていた。
「どうしたんだい、ギルソン。私に聞きたい事があるなんて。普段から兄弟の中でもあまり交流がないのに、どういった風の吹き回しなんだい?」
肩脚を組んだ状態は非常に姿勢が悪いと言わざるを得ないが、言い回しからしてもスーリガンはギルソンを突き放すような物言いをしている。だが、部屋に招き入れた事を考えると、それほど邪険にはしていないようである。正直判断に困る。
「はい、本日はスーリガン兄さんに学園の話をお聞きしたくて伺った次第です。ボクもいずれ学園に通う事になるでしょうから、参考にしたいのです」
「ほおほお、それは実に殊勝な心掛けだな。話によればリリアン姉さんからもいろいろ聞いているみたいだが、間違いないかな?」
ギルソンから聞かれたスーリガンは、一応の確認を取る。
「はい、間違いないです。ですが、リリアン姉さんは女性の方ですから、やはり同じ男性目線のお話を聞きたいと思いまして、それで今回伺ったのです」
「なるほど、確かに性別が違えばいろいろと違ってくるからな。いいだろう。ギルソンが何を目指しているかは分からないが、可愛い弟の頼みだ。参考程度に聞いてくれ」
スーリガンは熱心な弟のために、学園での話を始めた。その話を、やはりギルソンは目を輝かせて熱心に聞いているようだった。そのあまりの熱心さに、ブロンゼに止められるまでスーリガンもついつい話し込んでしまったようだった。
「すまない、つい熱くなってしまったようだ。私も第三王子とだけあって、いずれは国を支える一人になるのだからな。兄上たちやお前のように体を動かすのがあまり得意ではないから、頭脳面から支えられないかと頑張っている」
「そうなんですね。スーリガン兄さんも考えていらっしゃるなんて、ボクも負けていられませんね!」
ギルソンは両手を握りしめて鼻息を荒くしている。スーリガンの話を聞いて、俄然やる気が出たようだ。
「お前のそういう素直なところは羨ましいな」
そのギルソンの様子を見て、スーリガンは思わず笑っていた。
「スーリガン様、本日はわざわざありがとうございました」
アリスはスーリガンに頭を下げる。
「また聞きたい事があったら今日みたいに頼む。学園のあれこれで忙しいから、時間が取れるとは限らないからね」
「はい、スーリガン様。承知致しました」
ギルソンとアリスはお礼を言って、スーリガンの部屋を後にした。
「はぁ~、あのギルソンにオートマタが来てから、ずいぶんとあちこち雰囲気が変わったな」
「そうでございますね、マスター」
「ギルソン自体にやる気が溢れてるのも気になるけれど、一番警戒するのはあのオートマタだ。今のままなら兄上のどちらかが王位継承だろうが、もしかしたらもしかするかも知れない」
ブロンゼの淹れた紅茶を飲みながら、スーリガンはギルソンに何かを感じたようである。
「私はこのまま文官を目指すけれど、あいつ次第では誰を指示するかは決めかねるな」
「左様でございますか」
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