転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
8 / 194

Mission007

しおりを挟む
 財務担当部署から食糧の調達状況を確認すると、国としての状況がおぼろげながら見えてきた。
(うそでしょ……。作付面積が少し狭くないかしら)
 どうやら思いの外、ファルーダンの農業はよろしくない状況のようである。自国がこれでは、食料品の多くは他国からの買い付けという事になってしまう。
 さらには王家は子ども多く、そのためにお金が掛かってしまっていて財務状況はやや傾き始めているようだ。なるほど、自分の性能が少々格落ちになるのも納得がいくというものである。アリスはギルソンの部屋に戻るなり、両手をテーブルについて落ち込んだ。
 しかし、困ったものである。
 アリスの転生前の職業は機械技師と小説家である。農業の知識なんて思ったほど存在しない。疎開していた頃にそこの農家を手伝ったとか、子どもの手伝いで多少の家庭菜園をしたとか、実にそのくらいだった。これでは、こういったお話でよく見かける転生チートが使えない。それがアリスの落ち込みにさらに拍車を掛けた。
 そうしている間に、昼食の時間を迎える。
 昼食の内容は朝の内容に毛が生えたようなものだ。肉やチーズが追加されたくらいである。全体としては本当に質素だ。使用人たちはこれよりも少ない。これでは栄養が足りないので、使用人たちの体が細いのも頷けるというものである。
 農業知識がないとはいえ、今のアリスには魔法石による魔物の知識がある。となれば、魔物を討伐すれば食糧が賄えるのではないか、そう考えたのだ。
 ただ、これにも問題はある。あまりやり過ぎてしまうと、一般の魔物狩りをする人、ハンターたちの仕事を奪いかねない。悩ましい話である。
 食事を終えた後、まだ5歳のギルソンには昼寝の時間があり、寝かしつけた後にアリスは魔法石の知識から近くの魔物の位置を地図と照らし合わせる作業をしていた。
 戦争体験のある身としては、疎開先で野ウサギを捕まるといった経験をしているアリス。その経験を活かせば、ある程度の魔物までならば狩れるのではないかと考えたのだ。
 魔法石の知識と地図と照らし合わせた結果、どうやら王城からそう遠くない位置に小動物系の魔物が生息している事が分かった。繁殖力はあるものの、害の小さい魔物のようなので、狩り過ぎなければ生態系が崩れる事はなさそうだ。
「う……ん……、おはよう、アリス」
「起きられましたか、殿下」
 いろいろと情報をまとめているうちに、ギルソンが昼寝から目を覚ました。眠たそうにまぶたを擦るギルソンを見て、アリスは優しく微笑む。
(そういえば、今の殿下を見ていたら、亡くなる前に世話したひ孫の事を思い出すわね)
 御年94で老衰によって死んだアリスは、3世代下のひ孫もそれなりに居た。玄孫やしゃごも居たかも知れない。記憶にある一番小さかったひ孫の年が、ちょうど今のギルソンくらいの年齢だったのだ。ギルソンの性格的にも、そのひ孫の姿が重なってしまい、ついついアリスの頬が緩んでしまうようだった。オートマタの人工的な皮膚だというのに不思議なものである。
「殿下、目覚ましついでに少々体を動かされますか?」
 アリスは寝起きのギルソンに付き添いながら、進言する。
「どうしたんだい、アリス。そんな事を聞くなんて」
 当然ながら、ギルソンは不思議に思う。
「不思議でしょうか。殿下は第五王子でございます。となると王位を継げる可能は低いですが、少なくとも騎士団に入団する可能性がございます。そうなるとするならば、幼少の折より体を鍛えておいた方がよろしいかと存じます」
 なるほど、アリスの言い分はもっともである。ギルソンは5歳にして聡明でもある。アリスの言い分を即座に理解したようで、
「そうだね。だったら、まずは騎士団の訓練を見に行こうか」
 アリスにこう提案した。
「畏まりました。それでは、お守り致しますゆえ、ご案内願います」
 アリスはそれを了承する。確かに、騎士団がどういう鍛錬をしているのか知っておくのは得策だろう。いくら魔法石や小説の知識を使ったとしても、実物とはかけ離れる事だって考えられるのだから。
 ギルソンと一緒に騎士団の訓練場を訪れたアリス。そこで繰り広げられていたのは実に激しい訓練だった。
 木剣や先を布で覆った長い木の棒を使ってはいるものの、木偶人形を使ったり、模擬戦を行ったりと、実に王国の剣や盾となって戦う騎士団の意気込みが窺える素晴らしいものだった。
「おや、ギルソン殿下。一体どうなさったのですか?」
 ギルソンがいう事に気が付いた一人の男性が近付いてきた。
(確か彼は、反乱を起こした殿下と戦って死んでしまう騎士団長の……、って名前なんでしたっけ?
 肝心なところで度忘れをするアリス。
「うん、ちょっと騎士団の訓練が見たくなって、来てみたんだ」
「ほぉ、それは感心ですな。殿下も大きくなられたら騎士団に入られるでしょうから、そういう事でしたら歓迎ですぞ」
 ギルソンの言葉に、騎士団員はいたく感動してる。
「申し遅れました。私、騎士団の団長を務めるバリス・アンダーソンと申します」
(そうだったわ。バリスよ、バリス。やれやれ、物語が鮮明に思い出せるとはいっても、さすがに退場が早い人物だと意外とあいまいになってしまうものなのね)
 バリスの自己紹介を聞きながら、アリスは心の中で唸っていた。
「時にギルソン殿下、そちらの方はどなたでしょうか?」
「ああ、ボクのオートマタのアリスだよ。ほら、アリス、挨拶を」
 このやり取りにアリスは我に返って、
「初めまして、バリス様。私はギルソン殿下のオートマタであるアリスと申します。以後お見知りおきを」
 両手を前に組んで深く頭を下げた。
「左様ですか。ついにギルソン殿下にもオートマタですか。しかし、大変申し上げにくいですが、少々みすぼらしい感じが致しますな」
 バリスはあごに手を当てて、首を傾げながらアリスを見ている。
「兄上たちのと比べるとそうかも知れないけど、アリスだって負けてないからね」
「ははっ、そうですな。殿下のオートマタは来たばかりですものな」
 バリスは声を上げて笑っていた。
「おい、お前たち。ギルソン殿下がお見えになっている。お前たちの努力の成果をお見せしろ」
「はっ!」
 騎士団の練習に、さらに熱が入る。
 ギルソンはその騎士団の練習を目を輝かせながら眺めていた。
 さすがに夕食の席ではこの事を咎められていたギルソン。だが、将来は絶対かっこいい騎士になるんだとすごく意気込んでいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...