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Mission002
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「そうだ、ギルソン。オートマタに名前を付けてやらんとな」
ギルソンを抱え上げたまま、アルバートは告げる。
「名前ですか、父上」
きょとんとした反応をするギルソン。さすがは5歳児、とてつもなく可愛い。
起動が終わって自由に動けるようになったありすは、抱き締めたくて仕方がない。だが、ここはまだ起動したての真っ白の状態なはずなので、必死に我慢している。
「うーん……、そうだなぁ……」
名前は大事なものであるせいか、ギルソンはずいぶんと長く悩んでいた。ようやくその長考が終わると、ギルソンは笑顔をありすへと向ける。その笑顔の破壊力たるや、必死に堪えるありすにクリティカルヒットである。
「アリス! 今日から君の名前はアリスだよ!」
ギルソンは大声でそう告げた。
この名付けにありすはきょとんと一度思考が停止した。だが、すぐに自分の小説で使った名前を思い出す。これも小説の通りだったのだ。
「素敵なお名前、実にありがとうございます。私の名前は本日より『アリス』でございますね。よろしくお願い致します、マイマスター」
狭い箱の中ではあるが、ありす改めアリスは精一杯のカーテシーを取る。だが、狭さゆえに箱の枠に肘が当たってしまう。これは実に大失敗だった。
「はっはっはっはっ! 起動したてのオートマタらしい失敗だな。いいかギルソン、オートマタとは自分で学習していく機械人形だ。こういった失敗をする事もあるから、お前がマスターとして規範を示すんだ、いいな?」
「分かりました、父上!」
アルバートの説明に、ギルソンは元気よく返事をする。さすがに聞き分けがよい子のようだ。
「さて、さすがにまだ箱の中は嫌であろう。外に出るように命じなさい」
「はい、父上」
アルバートはギルソンを床へと下ろす。そして、ギルソンはアリスの前まで歩いて見上げてこう言った。
「アリス、箱から出ておいで」
これでようやく、アリスは狭い箱の中から解放される。アリスは感覚を確かめるように、ゆっくりと数歩前に歩み出て、箱から少し離れた位置で立ち止まった。そして、すぐさまギルソンへと向き直った。
改めて見るギルソンはやはり小さい。自分の腰程度までの高さしかないのだ。これが長身のイケメンになるのだから、人間分からないものである。
アリスから見下ろされて、可愛く疑問符を浮かべて首を傾げるギルソン。あまりの可愛さに悶絶しそうになるアリスだったが、オートマタにそういう感情はないのだからと、ここでも我慢する。いくらオートマタとはいえ、貴族、ましてや王族相手に失礼を働けば余裕で首が(物理的に)飛ぶ。気を付けねばならない。
アリスは落ち着いて、ギルソンに目線を合わせるためにしゃがむ。片膝をつき、ギルソンの真正面に顔を持っていく。
「お待たせしました、マイマスター。マスターの命により、箱より出て参りました」
アリスは目覚めたてのオートマタを演じるために、必死に真顔を維持する。顔が思わずつってしまいそうだが、とにかく国王も居るこの場では我慢し続けるしかない。とにかく早くギルソンと二人にさせて欲しいと、アリスは心の底から願った。
その時だった。
「陛下。ちょっとよろしいでしょうか」
誰かが国王を呼びに来たようだ。その人物との話の中で、国王の表情が少しずつ険しくなっていく。
「ギルソン、悪いがちょっと急用ができた。お前はそのオートマタとしばらく過ごして慣れておきなさい。分からない事があれば、技師を近くに配置しておくから聞くといいぞ」
「分かりました、父上」
ようやくここでギルバートが離脱してくれた。アリスは内心ほっとした。
父親である国王を見送ったギルソンがアリスを見てくる。あまりに凝視してくるので、アリスはつい言葉を掛けてしまう。
「いかがなさいましたか、マイマスター?」
「いや、アリスが本当にオートマタなのか不思議に思えましてね。時々、人間のような動作が見えた気がしますので」
なんという事だろうか。気を付けていたはずが、ギルソンには少し勘付かれてしまっていたようである。
「そうでございましょうか。私たちオートマタは主たる人間の良きパートナーであるように設計されております。人間のような仕草が見えるとするならば、そのせいではないでしょうか」
アリスは必死にごまかしている。そのアリスをギルソンが疑いの目で見てくる。オートマタは汗をかかないので、内心冷や汗だらだらである。
「コホン、マイマスター。そのような事はこれからの関係において些事でございます。私はマスターのために最善を尽くす。それがオートマタというものではないのでしょうか」
頑張って理屈をこねるアリス。こう言うと、ギルソンは理解できないよという顔でアリスをじっと見ていた。まだ子どもには難しかったようである。
「うーん、よく分からないけど、とりあえず分かりました」
うんうんと唸っていたギルソンだったが、考えるのを放棄したようである。とりあえずそれでいいんです、今は。
ここでオートマタについて説明しておこう。
オートマタとは、魔法石という魔力のこもった石を動力として動く、自分で考えて動く事のできる自律人形だ。地球で言うならば、AIを搭載したアンドロイドといったところだろう。状況に応じて様々な事を学び成長していくのである。
ただ、アンドロイドと違うのは、魔力を使う事から魔法という特殊な力を行使できる点だろう。そして、その魔力は無尽蔵とされており、魔法石の交換がなくとも半永久的に動く事ができると言われている。
その魔法石はオートマタの生命線であるので、破壊されれば機能が止まるのはもちろん、傷がつくだけでもその性能に支障が出る事が分かっている。オートマタは主の命令に絶対である一方、その命令を遂行するために命ともいえる魔法石を守り抜く義務が生じているのである。
オートマタとは、常に主のために素材する人形なのだ。
「そうです、マスター。このアリス、マイマスターのために精一杯尽くさせて頂きます。よろしくお願い致します」
カーテシーを取って、ギルソンに誓うアリス。
こうして、不幸な運命に落とされた第五王子を救う、アリスの転生人生が始まったのだった。
ギルソンを抱え上げたまま、アルバートは告げる。
「名前ですか、父上」
きょとんとした反応をするギルソン。さすがは5歳児、とてつもなく可愛い。
起動が終わって自由に動けるようになったありすは、抱き締めたくて仕方がない。だが、ここはまだ起動したての真っ白の状態なはずなので、必死に我慢している。
「うーん……、そうだなぁ……」
名前は大事なものであるせいか、ギルソンはずいぶんと長く悩んでいた。ようやくその長考が終わると、ギルソンは笑顔をありすへと向ける。その笑顔の破壊力たるや、必死に堪えるありすにクリティカルヒットである。
「アリス! 今日から君の名前はアリスだよ!」
ギルソンは大声でそう告げた。
この名付けにありすはきょとんと一度思考が停止した。だが、すぐに自分の小説で使った名前を思い出す。これも小説の通りだったのだ。
「素敵なお名前、実にありがとうございます。私の名前は本日より『アリス』でございますね。よろしくお願い致します、マイマスター」
狭い箱の中ではあるが、ありす改めアリスは精一杯のカーテシーを取る。だが、狭さゆえに箱の枠に肘が当たってしまう。これは実に大失敗だった。
「はっはっはっはっ! 起動したてのオートマタらしい失敗だな。いいかギルソン、オートマタとは自分で学習していく機械人形だ。こういった失敗をする事もあるから、お前がマスターとして規範を示すんだ、いいな?」
「分かりました、父上!」
アルバートの説明に、ギルソンは元気よく返事をする。さすがに聞き分けがよい子のようだ。
「さて、さすがにまだ箱の中は嫌であろう。外に出るように命じなさい」
「はい、父上」
アルバートはギルソンを床へと下ろす。そして、ギルソンはアリスの前まで歩いて見上げてこう言った。
「アリス、箱から出ておいで」
これでようやく、アリスは狭い箱の中から解放される。アリスは感覚を確かめるように、ゆっくりと数歩前に歩み出て、箱から少し離れた位置で立ち止まった。そして、すぐさまギルソンへと向き直った。
改めて見るギルソンはやはり小さい。自分の腰程度までの高さしかないのだ。これが長身のイケメンになるのだから、人間分からないものである。
アリスから見下ろされて、可愛く疑問符を浮かべて首を傾げるギルソン。あまりの可愛さに悶絶しそうになるアリスだったが、オートマタにそういう感情はないのだからと、ここでも我慢する。いくらオートマタとはいえ、貴族、ましてや王族相手に失礼を働けば余裕で首が(物理的に)飛ぶ。気を付けねばならない。
アリスは落ち着いて、ギルソンに目線を合わせるためにしゃがむ。片膝をつき、ギルソンの真正面に顔を持っていく。
「お待たせしました、マイマスター。マスターの命により、箱より出て参りました」
アリスは目覚めたてのオートマタを演じるために、必死に真顔を維持する。顔が思わずつってしまいそうだが、とにかく国王も居るこの場では我慢し続けるしかない。とにかく早くギルソンと二人にさせて欲しいと、アリスは心の底から願った。
その時だった。
「陛下。ちょっとよろしいでしょうか」
誰かが国王を呼びに来たようだ。その人物との話の中で、国王の表情が少しずつ険しくなっていく。
「ギルソン、悪いがちょっと急用ができた。お前はそのオートマタとしばらく過ごして慣れておきなさい。分からない事があれば、技師を近くに配置しておくから聞くといいぞ」
「分かりました、父上」
ようやくここでギルバートが離脱してくれた。アリスは内心ほっとした。
父親である国王を見送ったギルソンがアリスを見てくる。あまりに凝視してくるので、アリスはつい言葉を掛けてしまう。
「いかがなさいましたか、マイマスター?」
「いや、アリスが本当にオートマタなのか不思議に思えましてね。時々、人間のような動作が見えた気がしますので」
なんという事だろうか。気を付けていたはずが、ギルソンには少し勘付かれてしまっていたようである。
「そうでございましょうか。私たちオートマタは主たる人間の良きパートナーであるように設計されております。人間のような仕草が見えるとするならば、そのせいではないでしょうか」
アリスは必死にごまかしている。そのアリスをギルソンが疑いの目で見てくる。オートマタは汗をかかないので、内心冷や汗だらだらである。
「コホン、マイマスター。そのような事はこれからの関係において些事でございます。私はマスターのために最善を尽くす。それがオートマタというものではないのでしょうか」
頑張って理屈をこねるアリス。こう言うと、ギルソンは理解できないよという顔でアリスをじっと見ていた。まだ子どもには難しかったようである。
「うーん、よく分からないけど、とりあえず分かりました」
うんうんと唸っていたギルソンだったが、考えるのを放棄したようである。とりあえずそれでいいんです、今は。
ここでオートマタについて説明しておこう。
オートマタとは、魔法石という魔力のこもった石を動力として動く、自分で考えて動く事のできる自律人形だ。地球で言うならば、AIを搭載したアンドロイドといったところだろう。状況に応じて様々な事を学び成長していくのである。
ただ、アンドロイドと違うのは、魔力を使う事から魔法という特殊な力を行使できる点だろう。そして、その魔力は無尽蔵とされており、魔法石の交換がなくとも半永久的に動く事ができると言われている。
その魔法石はオートマタの生命線であるので、破壊されれば機能が止まるのはもちろん、傷がつくだけでもその性能に支障が出る事が分かっている。オートマタは主の命令に絶対である一方、その命令を遂行するために命ともいえる魔法石を守り抜く義務が生じているのである。
オートマタとは、常に主のために素材する人形なのだ。
「そうです、マスター。このアリス、マイマスターのために精一杯尽くさせて頂きます。よろしくお願い致します」
カーテシーを取って、ギルソンに誓うアリス。
こうして、不幸な運命に落とされた第五王子を救う、アリスの転生人生が始まったのだった。
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