2 / 170
Mission001
しおりを挟む
どのくらい時間が経ったのだろうか。
ありすの意識が少しずつ戻ってくる。
(ん……、ここはどこ?)
目をゆっくりと開けて、場所の確認を行う。
暗い。
しかも、思うように体が動かせない。というか動けない。
更には狭い。
どこに出てきたのかまったく分からない状況に、ありすは不安に駆られる。
声を出そうとしても出ない。
「父上、ボクに贈り物とは何ですか?」
小さな子どもの声が聞こえてくる。
「うむ、この箱の中に入っているものだぞ」
「わあー。すごく大きいですね、父上」
「ギルソン、お前ももう5歳だからな。ついにオートマタを持てるようになったのだぞ」
「本当ですか、父上!」
子どもの名前がギルソンだから、おそらく第五王子だろう。となると、父親は国王という事になる。
このやり取りから、ありすは今自分がどういう状況に居るのかを薄々と把握していく。なにせ自分で書いた小説の世界の事だ。国際情勢などもしっかり頭に入っている。それを一つずつ照らし合わせているのだ。
それにしても、もう30年は前に書いた小説の内容だというのに、よく覚えているものだ。おそらく転生の際に神が何かしら特典として与えてくれたものなのだろう。ありすはそう思う事にした。
やがて、目の前が明るくなっていく。これでありすは、自分がギルソンへの贈り物であるオートマタである事が理解できた。なので、眩しさを利用してしっかりと目を閉じた。起動前のオートマタはただの人形なのだから。
(そう、オートマタは起動しなければ目を閉じているし、動かないし、何も感じない。もうしばらくじっとしていないと……)
ありすはそう思うが、動いたのは目だけであり、体は動かせないし、声だって出せない。それでも目が開くだけでオートマタとしては異常ではあるので、とにかく今は落ち着いて目をつむっている。
「うわあ……。これがボクのオートマタですか、父上」
「うむ。五男とはいえ、私の息子だ。ずいぶんと質素にはなってしまったが、これでも立派な王族のためのオートマタなのだぞ?」
「確かに、兄様たちのものと比べると、少し見劣りするかも知れませんね。ですが、ボクは自分のオートマタが持てた事を嬉しく思います!」
「ははっ、そうか。ギルソンは謙虚だな」
国王はギルソンの頭を撫でている。それに対してギルソンはとても嬉しそうにしている。この状況は小説を書いたありすも知らない事だ。小説はあくまでも10代に入ってからの事しか書いていないからだ。
(ギルソンの幼少時はこんな感じなのね。作者の私ですら知らない事があるだなんて、さすがは現実の世界といったところかしら)
ありすはここでふと違和感を覚える。それは何かといえば、自分の事だった。
94歳の大往生を迎えたありすは、さすがに年寄りによくみられる思考や話し方をしていたのだが、今の自分はどうも機械技師としてバリバリに働いていた頃の自分の感じに近かった。それも、働き始めの20代に近しい感覚である。ありすは心の中で首を傾げた。とはいえ、オートマタの設定としてはそのくらいの年齢を想定したものだったので、それに自分も合う形にされたのだろうと、ありすは勝手に解釈をする事にした。
「さあ、起動してごらん」
「はい、父上」
国王はギルソンを抱え上げる。
オートマタは、魔法石と呼ばれる魔力を持った石を動力として動く人形である。一度起動させてしまえば半永久的に動くという謎の人形であり、魔法という特殊な力を行使できる存在でもある。
そのオートマタの魔法石は、個体によって異なる場所に取り付けられている。多いのは額と胸部。ちなみに男性型と女性型があり、ありすが転生先として選ばれたのは女性型のオートマタである。まあ、小説でもそういう設定だったので当然な話だ。
ちなみに、ありすが転生したオートマタの魔法石の位置は額だ。それ故に、国王はギルソンを抱え上げたのである。
ギルソンが額の魔法石に触れ、軽く押し込む。すると、ありすの体に力がみなぎってくる。そして、意思とは裏腹に、ゆっくりと目を開け始めた。オートマタの機能である以上、意思を持っていても逆らえないようである。
(当然と言えば当然かしら)
そう思いながらも、ありすは瞬きをして、辺りをきょろきょろと見回す。最初に目に入ったのは、当然ながら目の前で目を輝かせる少年ギルソンだった。それから確認できたのは父親である国王アルバート、彼の女性型オートマタであり、部屋はギルソンの私室のようだった。
ちなみにオートマタも鳥の刷り込みのように、最初に見たものを主だと認識する機能がある。なので、この最初の瞬間というものはなかなかに緊張するようである。実際、アルバートは心配のあまりに眉間にしわを寄せていた。その様子を見たありすは、見回していた視線をギルソンに戻し、ゆっくりと口を開いた。
「おはようございます、マイマスター」
自分が書いた小説にも出てきた、オートマタ起動後の最初のセリフである。
(これで、私もこの物語の登場人物となったのね)
ありすは強く自覚した。
だが、ここが小説の中の世界ではなく、元居た世界と同じ、自分で考えて動く人間たちの居る世界だろいう事を忘れてはいけない。ましてや今は自分の認知していない時間の中だ。何気ない判断が今後どう影響するのか分からない。
(ギルソン殿下、必ずやあなたをお救いしてみせますね)
心の中で固く誓うありす。はたして彼女はギルソンを小説とは違った結末へと導く事ができるのか。
……まだ物語は始まったばかりである。
ありすの意識が少しずつ戻ってくる。
(ん……、ここはどこ?)
目をゆっくりと開けて、場所の確認を行う。
暗い。
しかも、思うように体が動かせない。というか動けない。
更には狭い。
どこに出てきたのかまったく分からない状況に、ありすは不安に駆られる。
声を出そうとしても出ない。
「父上、ボクに贈り物とは何ですか?」
小さな子どもの声が聞こえてくる。
「うむ、この箱の中に入っているものだぞ」
「わあー。すごく大きいですね、父上」
「ギルソン、お前ももう5歳だからな。ついにオートマタを持てるようになったのだぞ」
「本当ですか、父上!」
子どもの名前がギルソンだから、おそらく第五王子だろう。となると、父親は国王という事になる。
このやり取りから、ありすは今自分がどういう状況に居るのかを薄々と把握していく。なにせ自分で書いた小説の世界の事だ。国際情勢などもしっかり頭に入っている。それを一つずつ照らし合わせているのだ。
それにしても、もう30年は前に書いた小説の内容だというのに、よく覚えているものだ。おそらく転生の際に神が何かしら特典として与えてくれたものなのだろう。ありすはそう思う事にした。
やがて、目の前が明るくなっていく。これでありすは、自分がギルソンへの贈り物であるオートマタである事が理解できた。なので、眩しさを利用してしっかりと目を閉じた。起動前のオートマタはただの人形なのだから。
(そう、オートマタは起動しなければ目を閉じているし、動かないし、何も感じない。もうしばらくじっとしていないと……)
ありすはそう思うが、動いたのは目だけであり、体は動かせないし、声だって出せない。それでも目が開くだけでオートマタとしては異常ではあるので、とにかく今は落ち着いて目をつむっている。
「うわあ……。これがボクのオートマタですか、父上」
「うむ。五男とはいえ、私の息子だ。ずいぶんと質素にはなってしまったが、これでも立派な王族のためのオートマタなのだぞ?」
「確かに、兄様たちのものと比べると、少し見劣りするかも知れませんね。ですが、ボクは自分のオートマタが持てた事を嬉しく思います!」
「ははっ、そうか。ギルソンは謙虚だな」
国王はギルソンの頭を撫でている。それに対してギルソンはとても嬉しそうにしている。この状況は小説を書いたありすも知らない事だ。小説はあくまでも10代に入ってからの事しか書いていないからだ。
(ギルソンの幼少時はこんな感じなのね。作者の私ですら知らない事があるだなんて、さすがは現実の世界といったところかしら)
ありすはここでふと違和感を覚える。それは何かといえば、自分の事だった。
94歳の大往生を迎えたありすは、さすがに年寄りによくみられる思考や話し方をしていたのだが、今の自分はどうも機械技師としてバリバリに働いていた頃の自分の感じに近かった。それも、働き始めの20代に近しい感覚である。ありすは心の中で首を傾げた。とはいえ、オートマタの設定としてはそのくらいの年齢を想定したものだったので、それに自分も合う形にされたのだろうと、ありすは勝手に解釈をする事にした。
「さあ、起動してごらん」
「はい、父上」
国王はギルソンを抱え上げる。
オートマタは、魔法石と呼ばれる魔力を持った石を動力として動く人形である。一度起動させてしまえば半永久的に動くという謎の人形であり、魔法という特殊な力を行使できる存在でもある。
そのオートマタの魔法石は、個体によって異なる場所に取り付けられている。多いのは額と胸部。ちなみに男性型と女性型があり、ありすが転生先として選ばれたのは女性型のオートマタである。まあ、小説でもそういう設定だったので当然な話だ。
ちなみに、ありすが転生したオートマタの魔法石の位置は額だ。それ故に、国王はギルソンを抱え上げたのである。
ギルソンが額の魔法石に触れ、軽く押し込む。すると、ありすの体に力がみなぎってくる。そして、意思とは裏腹に、ゆっくりと目を開け始めた。オートマタの機能である以上、意思を持っていても逆らえないようである。
(当然と言えば当然かしら)
そう思いながらも、ありすは瞬きをして、辺りをきょろきょろと見回す。最初に目に入ったのは、当然ながら目の前で目を輝かせる少年ギルソンだった。それから確認できたのは父親である国王アルバート、彼の女性型オートマタであり、部屋はギルソンの私室のようだった。
ちなみにオートマタも鳥の刷り込みのように、最初に見たものを主だと認識する機能がある。なので、この最初の瞬間というものはなかなかに緊張するようである。実際、アルバートは心配のあまりに眉間にしわを寄せていた。その様子を見たありすは、見回していた視線をギルソンに戻し、ゆっくりと口を開いた。
「おはようございます、マイマスター」
自分が書いた小説にも出てきた、オートマタ起動後の最初のセリフである。
(これで、私もこの物語の登場人物となったのね)
ありすは強く自覚した。
だが、ここが小説の中の世界ではなく、元居た世界と同じ、自分で考えて動く人間たちの居る世界だろいう事を忘れてはいけない。ましてや今は自分の認知していない時間の中だ。何気ない判断が今後どう影響するのか分からない。
(ギルソン殿下、必ずやあなたをお救いしてみせますね)
心の中で固く誓うありす。はたして彼女はギルソンを小説とは違った結末へと導く事ができるのか。
……まだ物語は始まったばかりである。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる