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新章 青色の智姫
第98話 シアン対フューシャ
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フューシャは剣を構えている。
「本来ならば私も妹同様に双剣なのですが、武術大会では双剣は認められておりませんのでね。仕方ありませんよね」
頬に手を当てながら、残念そうに話すフューシャ。
ところが、その表情をよく見ると、口元が笑っている。
それに気が付いた瞬間、シアンの背筋に寒気が走る。
(フューシャ・コーラル……。表向きはただの伯爵令嬢ですが、かなりの残虐性を秘めていそうですね。さすがはパープリアの血と厄災の暗龍との間に生まれた子ですね)
思わず息を飲むシアン。プルネにはそれほど感じたことはないというのに、フューシャに対してはかなり強い警戒感を抱いてしまう。
その理由が、先程の表情なのだ。
それでも怯んではいられない。なぜなら、そのフューシャはこれから戦う相手なのだから。
「始め!」
武台で向かい合ったシアンとフューシャ。
開始の合図とともに動いたのはフューシャだった。
「武術大会は魔法もありですからね。シアン王女殿下、その力、存分に見せて下さいな」
(速い……)
あっという間に距離を詰めて剣を振り下ろす。
模擬剣は男女関係なく同じものを渡されるので、腕力が劣りやすい女性では振り上げるのも苦労しやすい。
それだというのに、フューシャは難なく剣を振り上げてシアンを攻撃してきた。
「エアロシールド」
とっさに風の魔法を発動させて、フューシャの剣筋を逸らす。
シアンの行動を見て、フューシャが不気味に微笑む。
「さすがといったところでございましょうか。ですが、それがいつまで続けられますかね」
普段は青いフューシャの目が、赤みを帯びて紫色に染まっていく。
目の前の不思議な現象に、思わずシアンは顔を青ざめさせる。
実際に目の色が変わるというのは、そうそうありえない現象だからだ。それなのに、フューシャの目の色の赤みがじわじわと増していく。どういうことなのだろうか。
「どうしてそのような表情をされるのですか。一方的になってしまっては、面白くないじゃないですか。本気でぶつかってきて下さいよ」
一度顔に手を当てたフューシャが、手を大きく振り払ってシアンに対して目を見開く。
改めて剣を握り直すと、シアンへの攻撃を再開する。
両手で持って振り下ろしからの返し、払いなど、息をつかせぬように攻撃を連続で放ってくる。
シアンも剣で止めたり、無詠唱で魔法を発動したりして、どうに防いでいる。しかし、さっきよりも明らかに力の増したフューシャの攻撃に、徐々に押され始めていた。
「なんて、重い攻撃ですか。その細腕から繰り出されているとは思えませんよ」
「見た目での判断は、よろしくないかと存じますよ、王女殿下」
シアンがギリギリで防いでいるというのに、フューシャの手はまったく止まることはなかった。それどころか、攻撃は激しさを増している。
「シャドウエッジ」
「くっ!」
合宿でプルネの見せた魔法が突如として放たれる。さすがはプルネの姉、同じ魔法を攻撃しながら放ってきていた。
「アースシールド」
とっさに土の盾を出して、防ぐシアン。影の実体化なので、実態と堅さのあるものでしか止められないのだ。水や風では貫通してしまう。
剣を打ち合いながらも、小技のように繰り出される魔法の応酬に、観客たちは盛り上がっている。
ただ、戦っている本人たちはそれどころじゃない。
狂ったように笑うフューシャの攻撃を、シアンが必死にしのいでいる状態だ。
(そういえば、場外もありましたっけかね、この武術大会)
必死に耐えながらも勝つ算段を模索するシアン。
そう、この武術大会は円形の武台(武術大会の舞台)の上で行われており、相手を気絶させる、降参する、審判が止める、場外に落ちるのいずれかで勝敗が決する。
実力差で勝てない場合でも、相手をうまく誘導すればこの場外勝ちに持ち込めるのだ。
純粋な武術での勝敗ではないものの、戦術としては十分ありというわけだ。
シアンがこう考えたのは、今のフューシャが自分しか見ていないと感じたからだ。なので、うまく誘導してやれば場外勝ちを誘えるかもしれないというわけだ。
これを行うには、先に自分が場外に落ちる危険性を覚悟しなければならないので、決死の作戦ともいえるものだった。
シアンはフューシャの猛攻をしのぎながら、あえてじりじりと後退していく。
「そのまま倒れれば楽ですのに、粘りますね」
「私とて、ペイル・モスグリネの娘として簡単に倒れるわけにはまいりませんからね」
「そうですか。見上げた根性でございます。ですが、これで終わりです!」
フューシャがノックダウン狙いの大振りの動作を見せる。
(今です!)
シアンは受ける構えを取りながら、同時に魔法を発動させる。自分の体を横へ飛ばす風魔法。それと、フューシャの足元に滑らせるための水魔法を。あと、武台の裾に落ちても大丈夫なように風のクッションも発動させる。
狙いは的中。
「えっ、あ、あら?」
踏ん張った足元が不意に滑り、フューシャはそのまま前方へと倒れていく。そして、そのまま武台の外へと落下してしまったのだった。
「場外。勝者、シアン・モスグリネ!」
一か八かの賭けは、シアンに軍配が上がったのだった。
「本来ならば私も妹同様に双剣なのですが、武術大会では双剣は認められておりませんのでね。仕方ありませんよね」
頬に手を当てながら、残念そうに話すフューシャ。
ところが、その表情をよく見ると、口元が笑っている。
それに気が付いた瞬間、シアンの背筋に寒気が走る。
(フューシャ・コーラル……。表向きはただの伯爵令嬢ですが、かなりの残虐性を秘めていそうですね。さすがはパープリアの血と厄災の暗龍との間に生まれた子ですね)
思わず息を飲むシアン。プルネにはそれほど感じたことはないというのに、フューシャに対してはかなり強い警戒感を抱いてしまう。
その理由が、先程の表情なのだ。
それでも怯んではいられない。なぜなら、そのフューシャはこれから戦う相手なのだから。
「始め!」
武台で向かい合ったシアンとフューシャ。
開始の合図とともに動いたのはフューシャだった。
「武術大会は魔法もありですからね。シアン王女殿下、その力、存分に見せて下さいな」
(速い……)
あっという間に距離を詰めて剣を振り下ろす。
模擬剣は男女関係なく同じものを渡されるので、腕力が劣りやすい女性では振り上げるのも苦労しやすい。
それだというのに、フューシャは難なく剣を振り上げてシアンを攻撃してきた。
「エアロシールド」
とっさに風の魔法を発動させて、フューシャの剣筋を逸らす。
シアンの行動を見て、フューシャが不気味に微笑む。
「さすがといったところでございましょうか。ですが、それがいつまで続けられますかね」
普段は青いフューシャの目が、赤みを帯びて紫色に染まっていく。
目の前の不思議な現象に、思わずシアンは顔を青ざめさせる。
実際に目の色が変わるというのは、そうそうありえない現象だからだ。それなのに、フューシャの目の色の赤みがじわじわと増していく。どういうことなのだろうか。
「どうしてそのような表情をされるのですか。一方的になってしまっては、面白くないじゃないですか。本気でぶつかってきて下さいよ」
一度顔に手を当てたフューシャが、手を大きく振り払ってシアンに対して目を見開く。
改めて剣を握り直すと、シアンへの攻撃を再開する。
両手で持って振り下ろしからの返し、払いなど、息をつかせぬように攻撃を連続で放ってくる。
シアンも剣で止めたり、無詠唱で魔法を発動したりして、どうに防いでいる。しかし、さっきよりも明らかに力の増したフューシャの攻撃に、徐々に押され始めていた。
「なんて、重い攻撃ですか。その細腕から繰り出されているとは思えませんよ」
「見た目での判断は、よろしくないかと存じますよ、王女殿下」
シアンがギリギリで防いでいるというのに、フューシャの手はまったく止まることはなかった。それどころか、攻撃は激しさを増している。
「シャドウエッジ」
「くっ!」
合宿でプルネの見せた魔法が突如として放たれる。さすがはプルネの姉、同じ魔法を攻撃しながら放ってきていた。
「アースシールド」
とっさに土の盾を出して、防ぐシアン。影の実体化なので、実態と堅さのあるものでしか止められないのだ。水や風では貫通してしまう。
剣を打ち合いながらも、小技のように繰り出される魔法の応酬に、観客たちは盛り上がっている。
ただ、戦っている本人たちはそれどころじゃない。
狂ったように笑うフューシャの攻撃を、シアンが必死にしのいでいる状態だ。
(そういえば、場外もありましたっけかね、この武術大会)
必死に耐えながらも勝つ算段を模索するシアン。
そう、この武術大会は円形の武台(武術大会の舞台)の上で行われており、相手を気絶させる、降参する、審判が止める、場外に落ちるのいずれかで勝敗が決する。
実力差で勝てない場合でも、相手をうまく誘導すればこの場外勝ちに持ち込めるのだ。
純粋な武術での勝敗ではないものの、戦術としては十分ありというわけだ。
シアンがこう考えたのは、今のフューシャが自分しか見ていないと感じたからだ。なので、うまく誘導してやれば場外勝ちを誘えるかもしれないというわけだ。
これを行うには、先に自分が場外に落ちる危険性を覚悟しなければならないので、決死の作戦ともいえるものだった。
シアンはフューシャの猛攻をしのぎながら、あえてじりじりと後退していく。
「そのまま倒れれば楽ですのに、粘りますね」
「私とて、ペイル・モスグリネの娘として簡単に倒れるわけにはまいりませんからね」
「そうですか。見上げた根性でございます。ですが、これで終わりです!」
フューシャがノックダウン狙いの大振りの動作を見せる。
(今です!)
シアンは受ける構えを取りながら、同時に魔法を発動させる。自分の体を横へ飛ばす風魔法。それと、フューシャの足元に滑らせるための水魔法を。あと、武台の裾に落ちても大丈夫なように風のクッションも発動させる。
狙いは的中。
「えっ、あ、あら?」
踏ん張った足元が不意に滑り、フューシャはそのまま前方へと倒れていく。そして、そのまま武台の外へと落下してしまったのだった。
「場外。勝者、シアン・モスグリネ!」
一か八かの賭けは、シアンに軍配が上がったのだった。
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