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新章 青色の智姫
第96話 飛んで学園祭
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学園祭に向けて、シアンとプルネは剣術を鍛え、ブランチェスカは何を思ったかマゼンダ商会の手伝いをしていた。
どうやらチェリシアの見せた魔道具に魅せられてしまったらしく、あの後必死に頼み込んでいたようだった。その熱意に押されてチェリシアは了承したものの、その表情は困惑したままだった。
それというのも、チェリシアの作る魔道具は何かと特殊なものも多いからだ。
特に撮影の魔道具の類は光魔法をの素養がないことには厳しいからだ。規格外の光魔法の使い手だからこそ、チェリシアやペシエラは作り出すことができるのである。
シアンが転生する前に作り出したカメラは、貴族たちの間には画期的なものとして広まっている。
最初こそ画家たちは自分たちの仕事を奪われると警戒したものの、テーブルや棚の上に置く小さな額縁サイズのものしか写真は作れなかった。というよりも、チェリシアがペシエラに止められて小さいのだけしか作らなかったのだ。
なので、ペンダントなどに入れる小さなものはカメラ、壁にかけるようなサイズは画家とすみ分けが行われたのだった。
話を戻そう。
マゼンダ商会を手伝うことになったブランチェスカは、魔道具の説明に熱心に聞き入っていた。
あまりにも真剣なブランチェスカの姿に、マゼンダ商会の技術者たちは後継が現れたと大喜びだった。ただ問題があるとすればブランチェスカがクロッツ子爵家の長女という点だろう。
ちらっと妹や弟がいるような話は聞いたので、跡取りは問題はないと思われる。しかし、長女としていいところに嫁がなければならないというのが、貴族の間の暗黙の了解となっている節がある。ブランチェスカはその辺りはどうするつもりなのだろうか。
とはいえ、学園卒業まで五年半あるので、まだ考えなくてもいいかと問題は先延ばしされたのだった。
そうこうしている間に、秋の二の月を迎えて学園祭が始まる。
夏の合宿で怪しい動きがあったがために、警備を少々ばかり厳重になっている。
「久しぶりの学園ですな。この私が駆り出されるとは思ってもみませんでしたぞ」
学園の門を警備するのはオークジェネラルのラルクだ。これでも五児の父親である。同じオーク族から奥さんを迎えて、現在は王都暮らしだそうな。
普段は周辺の警戒に当たっているアックスリザードのアックスも、学園祭の帰還は王都の警戒にあたるために呼び戻された。
それ以外にもメタルゼリーのルゼ、ハイスプライトのライ、元暗殺者のキャノルもこの時ばかりは学園に呼ばれてこっそりと警備にあたっている。
そんな中、武術大会に参戦するシアンとプルネは緊張していた。
城での剣術訓練や学園での講義でたくさんの人の前で剣を振るっていたとはいえ、剣術大会の観客数は桁が違い過ぎる。王国中どころか国外からも観客が集まっていて、サンフレア学園の生徒たちだけの戦いだというのに大盛り上がりなのだ。
それもちゃんとした理由があって、剣術大会の参加者はそれなりに剣の腕に覚えがあったりする。そのため、貴族や商人が護衛のための人材を探しに来ているというわけだった。
控室で待機するシアンとプルネは、何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせている。
パーティーで大勢の前で姿を披露してきシアンも、さすがに今回は緊張してしまうのだ。なんといってもまだまだ腕前の未熟な剣術を主体とした戦いなのだから。
シアンはどちらかといえばロゼリアの方の特徴が強く出ている。なので、前世のこともあって魔法の方が得意なのである。
学園に入るまでに魔法の制御は訓練を重ねてずいぶん出来てはいる。しかし、前世の魔力にロゼリアの魔力が単純加算されたとは思えない強すぎる魔力が、時折暴走する気配を見せている。そのためにまったく油断のならないシアンなのだ。
「おう、本当に二人とも参加するんだな」
「これはクライ様」
クライ・ミドナイトが白い歯をきらりと光らせながら登場する。
「もちろんでございますよ。私の父親はペイル・モスグリネ国王陛下。お父様も立ったというこの武台、私も体験しておきたいというわけでございます」
「なるほどなぁ。まぁ、無理はすんなよ」
「ご心配のほど、ありがたく思います」
毅然とした態度でクライに応対するシアン。その強気の様を見て、クライは突然笑い出す。
「そうかそうか。講義を見ていても腕前を上げているのは確かだしな。その実力、存分に見させてもらうよ」
クライはくるりと振り返る。
「それじゃ、俺はそろそろ試合なんでな。もし当たるんだったら全力でいかせてもらうぜ」
「ふふっ、それは楽しみですね」
シアンは不敵に笑う。背中を見せているにもかかわらず、クライはシアンの表情を読み取ったかのように笑みを浮かべていた。
「当たるとしても三回戦だ。それまで負けるんじゃないぜ」
「クライ様こそね」
シアンの言葉に、背中を向けたまま手を振るクライだった。
シアン・モスグリネとして初めて参加する学園祭。
はてさて、どのようなことが起きるのだろうか。まったく予想ができないのであった。
どうやらチェリシアの見せた魔道具に魅せられてしまったらしく、あの後必死に頼み込んでいたようだった。その熱意に押されてチェリシアは了承したものの、その表情は困惑したままだった。
それというのも、チェリシアの作る魔道具は何かと特殊なものも多いからだ。
特に撮影の魔道具の類は光魔法をの素養がないことには厳しいからだ。規格外の光魔法の使い手だからこそ、チェリシアやペシエラは作り出すことができるのである。
シアンが転生する前に作り出したカメラは、貴族たちの間には画期的なものとして広まっている。
最初こそ画家たちは自分たちの仕事を奪われると警戒したものの、テーブルや棚の上に置く小さな額縁サイズのものしか写真は作れなかった。というよりも、チェリシアがペシエラに止められて小さいのだけしか作らなかったのだ。
なので、ペンダントなどに入れる小さなものはカメラ、壁にかけるようなサイズは画家とすみ分けが行われたのだった。
話を戻そう。
マゼンダ商会を手伝うことになったブランチェスカは、魔道具の説明に熱心に聞き入っていた。
あまりにも真剣なブランチェスカの姿に、マゼンダ商会の技術者たちは後継が現れたと大喜びだった。ただ問題があるとすればブランチェスカがクロッツ子爵家の長女という点だろう。
ちらっと妹や弟がいるような話は聞いたので、跡取りは問題はないと思われる。しかし、長女としていいところに嫁がなければならないというのが、貴族の間の暗黙の了解となっている節がある。ブランチェスカはその辺りはどうするつもりなのだろうか。
とはいえ、学園卒業まで五年半あるので、まだ考えなくてもいいかと問題は先延ばしされたのだった。
そうこうしている間に、秋の二の月を迎えて学園祭が始まる。
夏の合宿で怪しい動きがあったがために、警備を少々ばかり厳重になっている。
「久しぶりの学園ですな。この私が駆り出されるとは思ってもみませんでしたぞ」
学園の門を警備するのはオークジェネラルのラルクだ。これでも五児の父親である。同じオーク族から奥さんを迎えて、現在は王都暮らしだそうな。
普段は周辺の警戒に当たっているアックスリザードのアックスも、学園祭の帰還は王都の警戒にあたるために呼び戻された。
それ以外にもメタルゼリーのルゼ、ハイスプライトのライ、元暗殺者のキャノルもこの時ばかりは学園に呼ばれてこっそりと警備にあたっている。
そんな中、武術大会に参戦するシアンとプルネは緊張していた。
城での剣術訓練や学園での講義でたくさんの人の前で剣を振るっていたとはいえ、剣術大会の観客数は桁が違い過ぎる。王国中どころか国外からも観客が集まっていて、サンフレア学園の生徒たちだけの戦いだというのに大盛り上がりなのだ。
それもちゃんとした理由があって、剣術大会の参加者はそれなりに剣の腕に覚えがあったりする。そのため、貴族や商人が護衛のための人材を探しに来ているというわけだった。
控室で待機するシアンとプルネは、何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせている。
パーティーで大勢の前で姿を披露してきシアンも、さすがに今回は緊張してしまうのだ。なんといってもまだまだ腕前の未熟な剣術を主体とした戦いなのだから。
シアンはどちらかといえばロゼリアの方の特徴が強く出ている。なので、前世のこともあって魔法の方が得意なのである。
学園に入るまでに魔法の制御は訓練を重ねてずいぶん出来てはいる。しかし、前世の魔力にロゼリアの魔力が単純加算されたとは思えない強すぎる魔力が、時折暴走する気配を見せている。そのためにまったく油断のならないシアンなのだ。
「おう、本当に二人とも参加するんだな」
「これはクライ様」
クライ・ミドナイトが白い歯をきらりと光らせながら登場する。
「もちろんでございますよ。私の父親はペイル・モスグリネ国王陛下。お父様も立ったというこの武台、私も体験しておきたいというわけでございます」
「なるほどなぁ。まぁ、無理はすんなよ」
「ご心配のほど、ありがたく思います」
毅然とした態度でクライに応対するシアン。その強気の様を見て、クライは突然笑い出す。
「そうかそうか。講義を見ていても腕前を上げているのは確かだしな。その実力、存分に見させてもらうよ」
クライはくるりと振り返る。
「それじゃ、俺はそろそろ試合なんでな。もし当たるんだったら全力でいかせてもらうぜ」
「ふふっ、それは楽しみですね」
シアンは不敵に笑う。背中を見せているにもかかわらず、クライはシアンの表情を読み取ったかのように笑みを浮かべていた。
「当たるとしても三回戦だ。それまで負けるんじゃないぜ」
「クライ様こそね」
シアンの言葉に、背中を向けたまま手を振るクライだった。
シアン・モスグリネとして初めて参加する学園祭。
はてさて、どのようなことが起きるのだろうか。まったく予想ができないのであった。
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