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新章 青色の智姫
第95話 身を守るもの
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王城内でペシエラの指導を受けたシアン。その後、数日間の筋肉痛に悩まされていた。
「あいたたた……、慣れないことはするものではありませんね」
「大丈夫ですか、シアン様」
学園の中で歩くのすら苦労していると、ブランチェスカとプルネの二人から心配されてしまう。
それにしても、プルネもほぼ同じ内容を受けているというのに、なかなかにピンピンとしているものである。これが日頃の鍛え方の違いというものなのだろうか。
「本気で武術大会にお出になられるのですか、シアン様」
「もちろんですよ。モスグリネの王族として、その腕前を披露する義務があります」
筋肉痛が痛いだろうに、シアンは我慢しながら笑顔を作っている。その引きつった表情が、なおさら二人を心配させていた。
しかし、シアンはそうは言うものの、立場は王女である。王女であるのなら、無理に剣術を身につけて武術大会に出なくてもいいのではないかと、ブランチェスカとプルネは考えている。
実際、シアンはここまで剣術を習ったことはない。弟のモーフは習っていたので、王族だから教えないというわけではない。
となれば、女性だから教えないというのが正解だろう。
シアンからしてみても、前世でも魔法を得意とする一族の人間だったので、それさえあれば十分と思っていた。
だが、ロゼリアの専属侍女として働いている間に、暗殺者に殺されかかった事もあった。何らかの武術を身につけておいても損はないと密かに考えていたのだ。
モスグリネにいる間は、魔法の制御に集中していたし、両親の目もあった。たとえ目を盗んで訓練したとしても、両親の耳にその情報は届いただろう。
だが、今はアイヴォリー王国のサンフレア学園にいる。学園であればやりたい事を学んで構わないし、なにより夏合宿の件が響いている。
本来の自分の魔法を放てばやりすぎてしまう可能性はあるし、かといって抑えすぎてしまえば危機に陥らないとは限らない。なら、魔法に頼らない方法も身につけていく方がいいのである。
王族貴族ともなれば命を狙われる危険性もあり得るし、その際に魔封じをされる可能性だってある。手数は多い方がいいのだ。
いろいろと考えながらも、この日も無事に学園の講義が終わった。
さて、帰ろうかと校門にやって来ると、そこにはマゼンダ家の馬車が止まっていた。
「あら、王家の馬車がないですね」
「ふふん、今日は私が用事があったので、ペシエラに言って止めてもらったわ」
シアンが首を傾げていると、門の陰からチェリシアが飛び出してきた。
「マゼンダ侯爵夫人……、なんでこんなところにいるのですか」
呆れた顔をするシアン。
「まぁまぁ、細かいことは気にしない。プルネとそっちの子も一緒にどうかしらね。マゼンダ商会にご案内するわ」
胸を張ってドヤ顔を決めるチェリシア。シアンたちは戸惑いながらも、チェリシアに付きあうことにした。
そうしてやって来たマゼンダ商会。
シアンたちはチェリシアの私室へと案内される。
「いやぁ、来てくれてありがとうね。ペシエラから依頼されていたものができたから、シアンちゃんに直接渡そうとお招きしたのよ」
にこにこと笑っているチェリシアである。
一人だけよく知らないブランチェスカは震えているし、シアンとプルネは苦笑いである。
とはいえども、せっかく招かれたので話だけは聞くことにするシアン。断りを入れた上で室内のソファーに腰を掛けた。
「それで、ペシエラ王妃殿下から、どのようなことを頼まれたのでしょうか」
真面目な顔をしてチェリシアに視線を向ける。その姿を見て、チェリシアは口角を上げている。
「ちょっとね。合宿でいろいろあったらしいから、ちょっとした魔道具を用意していたのよ。これはプルネのお母様、アイリスに渡していたものと同じものよ」
どこからともなく箱に収められた丸っこい宝石のようなものを出してくるチェリシア。そういえばチェリシアは収納魔法を持っていたのだ。
「空間収納?」
驚くプルネに、チェリシアは笑顔のままこくりと頷く。
「私とペシエラは使えるのよ。子どもたちにも遺伝していれば使えるはず。まあ、それよりもこれの使い方を教えるわよ」
チェリシアは取り出した宝石の扱い方の説明を始める。
魔力を通せば、丸一日分の周囲の状況を記録できるという魔道具らしい。意識を失っていても、視覚と聴覚を共有して、代わりに周りの情報を集めてくれるそうだ。
「アイリスたちに使った時よりもさらに精度が上がっているわよ。まるっと一日分しか記録できないのは変えられなかったけどね。ただ、作ってからすぐ作動していたあの頃と違って、これは任意のタイミングで発動できるの。身の危険を感じたら迷わず使ってちょうだい」
箱をすっとシアンたちへと近付けるチェリシア。
「私もすっかりこっちの世界の人間。王族の大変さというのは嫌というほど見てきたわ。だから、私の持てる知識と技術で、あなたたちを守るからね」
「チェリシア様……」
チェリシアの引き締まった表情に、思わず飲まれてしまいそうになる。
「なくなったらいつでも言いに来て。この程度なら安いものだからね」
「はい、ありがとうございます」
シアンは、チェリシアからの贈り物を大事そうに抱えるのだった。
「あいたたた……、慣れないことはするものではありませんね」
「大丈夫ですか、シアン様」
学園の中で歩くのすら苦労していると、ブランチェスカとプルネの二人から心配されてしまう。
それにしても、プルネもほぼ同じ内容を受けているというのに、なかなかにピンピンとしているものである。これが日頃の鍛え方の違いというものなのだろうか。
「本気で武術大会にお出になられるのですか、シアン様」
「もちろんですよ。モスグリネの王族として、その腕前を披露する義務があります」
筋肉痛が痛いだろうに、シアンは我慢しながら笑顔を作っている。その引きつった表情が、なおさら二人を心配させていた。
しかし、シアンはそうは言うものの、立場は王女である。王女であるのなら、無理に剣術を身につけて武術大会に出なくてもいいのではないかと、ブランチェスカとプルネは考えている。
実際、シアンはここまで剣術を習ったことはない。弟のモーフは習っていたので、王族だから教えないというわけではない。
となれば、女性だから教えないというのが正解だろう。
シアンからしてみても、前世でも魔法を得意とする一族の人間だったので、それさえあれば十分と思っていた。
だが、ロゼリアの専属侍女として働いている間に、暗殺者に殺されかかった事もあった。何らかの武術を身につけておいても損はないと密かに考えていたのだ。
モスグリネにいる間は、魔法の制御に集中していたし、両親の目もあった。たとえ目を盗んで訓練したとしても、両親の耳にその情報は届いただろう。
だが、今はアイヴォリー王国のサンフレア学園にいる。学園であればやりたい事を学んで構わないし、なにより夏合宿の件が響いている。
本来の自分の魔法を放てばやりすぎてしまう可能性はあるし、かといって抑えすぎてしまえば危機に陥らないとは限らない。なら、魔法に頼らない方法も身につけていく方がいいのである。
王族貴族ともなれば命を狙われる危険性もあり得るし、その際に魔封じをされる可能性だってある。手数は多い方がいいのだ。
いろいろと考えながらも、この日も無事に学園の講義が終わった。
さて、帰ろうかと校門にやって来ると、そこにはマゼンダ家の馬車が止まっていた。
「あら、王家の馬車がないですね」
「ふふん、今日は私が用事があったので、ペシエラに言って止めてもらったわ」
シアンが首を傾げていると、門の陰からチェリシアが飛び出してきた。
「マゼンダ侯爵夫人……、なんでこんなところにいるのですか」
呆れた顔をするシアン。
「まぁまぁ、細かいことは気にしない。プルネとそっちの子も一緒にどうかしらね。マゼンダ商会にご案内するわ」
胸を張ってドヤ顔を決めるチェリシア。シアンたちは戸惑いながらも、チェリシアに付きあうことにした。
そうしてやって来たマゼンダ商会。
シアンたちはチェリシアの私室へと案内される。
「いやぁ、来てくれてありがとうね。ペシエラから依頼されていたものができたから、シアンちゃんに直接渡そうとお招きしたのよ」
にこにこと笑っているチェリシアである。
一人だけよく知らないブランチェスカは震えているし、シアンとプルネは苦笑いである。
とはいえども、せっかく招かれたので話だけは聞くことにするシアン。断りを入れた上で室内のソファーに腰を掛けた。
「それで、ペシエラ王妃殿下から、どのようなことを頼まれたのでしょうか」
真面目な顔をしてチェリシアに視線を向ける。その姿を見て、チェリシアは口角を上げている。
「ちょっとね。合宿でいろいろあったらしいから、ちょっとした魔道具を用意していたのよ。これはプルネのお母様、アイリスに渡していたものと同じものよ」
どこからともなく箱に収められた丸っこい宝石のようなものを出してくるチェリシア。そういえばチェリシアは収納魔法を持っていたのだ。
「空間収納?」
驚くプルネに、チェリシアは笑顔のままこくりと頷く。
「私とペシエラは使えるのよ。子どもたちにも遺伝していれば使えるはず。まあ、それよりもこれの使い方を教えるわよ」
チェリシアは取り出した宝石の扱い方の説明を始める。
魔力を通せば、丸一日分の周囲の状況を記録できるという魔道具らしい。意識を失っていても、視覚と聴覚を共有して、代わりに周りの情報を集めてくれるそうだ。
「アイリスたちに使った時よりもさらに精度が上がっているわよ。まるっと一日分しか記録できないのは変えられなかったけどね。ただ、作ってからすぐ作動していたあの頃と違って、これは任意のタイミングで発動できるの。身の危険を感じたら迷わず使ってちょうだい」
箱をすっとシアンたちへと近付けるチェリシア。
「私もすっかりこっちの世界の人間。王族の大変さというのは嫌というほど見てきたわ。だから、私の持てる知識と技術で、あなたたちを守るからね」
「チェリシア様……」
チェリシアの引き締まった表情に、思わず飲まれてしまいそうになる。
「なくなったらいつでも言いに来て。この程度なら安いものだからね」
「はい、ありがとうございます」
シアンは、チェリシアからの贈り物を大事そうに抱えるのだった。
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