逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第89話 再びプライベートビーチへ

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 シェリア滞在三日目。
 この日は再びプライベートビーチにやって来た。
 まさか再び水着を着ることになるとは思っていなかったシアンは、複雑な表情で浜辺にくつろいでいる。
 人の目は知れているとはいえ、それでもやはり水着の露出は恥ずかしいのである。
「シアン様ーっ!」
 ゆっくり日陰で休んでいようとすると、ダイアから思いきり大声で呼ばれてしまうシアン。
 シアンが上体を起こして波打ち際を見ると、そこではコーラル家の子どもたちが揃いも揃って水を掛け合って遊んでいる。
 みんなが楽しそうに遊んでいる中、一人だけ日陰で休んでいるのがなんとなく恥ずかしくなってくるシアン。隣で一緒に休んでいるペシエラたちを見て、あちこち視線を泳がしている。
「王妃殿下、私も遊んで参ります」
「ええ、気を付けていってらっしゃいな」
 悩んだ挙句、ペシエラに告げて立ち上がるシアン。ペシエラから許しを得て、ダイアたちのところへとゆっくりと歩いていった。
(みんなは若いからなのか、新しいものも自然と受け入れてしまいますね)
 水着を着てはしゃぐダイアやプルネたちを見て、シアンはそんな事を思っている。
 だが、そう思っているシアンだって今は十三歳の少女である。若いとは何なのか。
 逆行経験に加えて、転生の経験まであるだけに、シアンはどことなく古い考えに囚われている節があるようだ。
 逆行経験をしたペシエラも、サファイア湖の捜索をした時に水着に困惑していた。だが、ロゼリアはそうではなかったので、やはりある程度年のいった経験があると抵抗感を持ってしまうようだった。
(この服、水を思ったより吸わない?)
 初めて海の中に入ってみて、シアンは驚いている。
 普通の服なら水をしっかり吸って重くなってしまうことを、シアンは知っているのだ。さすがは水を操るアクアマリン家の元令嬢である。
 とはいえ、水を操るのだから濡れてしまっても水魔法でどうにでもできてしまう。実は、服がびしょぬれになることは、シアンにとっては大した問題ではなかった。
 しかし、濡れてもそれほど影響の小さな服というのは、シアンにとっては初めての体験だった。
「えーい、シアン様!」
 シアンがぼーっとしていると、ダイアから突然水の塊をお見舞いされる。
 急なことだったのでまったく対応ができず、シアンはその一撃をもろに食らってしまった。
「やりましたね、ダイア様」
 左の眉尻がぴくぴくと動くシアン。どうやらイラッと来たようである。
「うふふ、油断しているのが悪いんですよ。今は遊びに来てるんですから」
 可愛く笑うダイアに、シアンは早速お返しをする。
「隙ありですよ」
 ダイアに向けて、両手で水をすくって放り投げるシアン。
「きゃっ」
 可愛い悲鳴とともに、まともに食らってしまうダイアである。
「先程のお返しですよ」
「やりましたね。でも、そうこなくっちゃです」
 仕返しをされても怒らずににこにこと笑っているダイア。さすが反撃を予想していただけあって、その態度には余裕があった。
 結局、気が付いたらプルネまで巻き込んで三人で水遊びである。
 そのきゃっきゃとして遊ぶ様子を、年下の面倒を見ながらライトが笑いながら見守っている。
「まったく、楽しそうですね」
「ねえ、王子様。僕たちも遊ぶ?」
「そうですね。あまり砂浜から離れてはいけませんよ。急に深くなっているかも知れませんからね」
「うん、分かった」
 小さな子どもたちに言い聞かせるライト。すっかりお兄さんの顔になっている。
 将来的にはシルヴァノの跡を継いで国王になるだろうライトだが、一体どのような国王になるのか。その素質の片鱗が見え隠れしているようである。
 そのライトやキャノルたち使用人たちが見守る中、バシャバシャと遊んでいるシアンたち。
 ところが、シアンやペシエラたちがぴくりと何かに反応する。
「ペシエラ、この気配って」
「どうやら、魔物でもいたみたいですね」
 急に不穏な空気が漂い始める。
「みんな、海から上がって!」
 ペシエラは叫ぶと同時に子どもたちの方へと走っていく。足元に小さな空気の層を作って滑るように走るペシエラ。砂の上だと走りにくいための工夫である。
 子どもたちは急いで海から出て砂浜へと退避していく。キャノルたち使用人たちが実にいい動きをしてくれている。
 徐々に地面が揺れ始め、波打ち際が段々と退行していく。
 やがて沖合で海が渦を巻き出す。警戒を強めるペシエラたちだったが、何かを感じたアイリスがゆっくりと発生した渦へと向けて歩いていく。
「アイリス? 戻りなさい!」
 ペシエラが叫ぶが、アイリスは止まらない。
「大丈夫ですよ、ペシエラ。この気配、あなたもそうなんですね」
 アイリスが呼び掛けると、海面から徐々に何かが姿を見せる。
 姿を見せたのは上半身が美しい女性、下半身は獰猛な犬が連なった魔物のようだった。
「スキュラ?!」
 その姿を見たチェリシアが叫ぶ。
「知っていますの? お姉様」
 ペシエラがチェリシアに振り向くが、チェリシアが答えるよりも先に、目の前の魔物が口を開いた。
「幻獣スキュラ、主の気配を感じて馳せ参じました」
 なんと、目の前に現れた魔物は幻獣と名乗ったのである。
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